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タイトル、締切、インタビュー。書くことに覚悟を決めたからこそ尽きない悩み。「作文の教室」受講生が福井尚子さんに相談しました!

毎度開催のたびに満員御礼の「グリーンズの学校」人気クラス「作文の教室」。ディレクションをつとめるgreenz.jp 副編集長のスズキコウタを中心に、さまざまな地域・分野のライター、エディター、時にはフォトグラファーが講師をしています。

これまで11期のゼミ、多数の1DAYクラスを展開し、この秋からは3年ぶりに現場=オフラインでの開催をリスタート。さらに「みんなの森 ぎふメディアコスモス」など、外部団体・施設とのコラボレーションも始まることになりました。

今回レポートするのは、その「作文の教室」第11期の一環で開催された「オフィスアワー」という回の様子です。

受講生からいただいた、書き手としてのスキルや在り方についての質問。それをゲストとして参加した、greenz.jpライター・エディターの福井尚子(通称なこさん)と考えました。ライターや編集者を志している方はもちろん、greenz.jpの裏側を知りたい方も、ぜひお楽しみください。

福井尚子(ふくい・なおこ)

福井尚子(ふくい・なおこ)

ライター・編集者。 大学卒業後、会社員を経て、アートマネジメントを学ぶためイギリスの大学院へ留学。大学院留学中の2015年6月からグリーンズへ参加。greenz.jpの記事をきっかけに、2018年5月に神奈川県二宮町へ移住。DIYでリノベーションした団地の部屋で暮らしています。執筆領域は、ローカル、コミュニティ、アート、福祉など。現在一児の子育て中です。

好きすぎることは、むしろ書くことが難しい?

コウタ なこさんも僕も、ライター・編集者という仕事は、グリーンズのライターインターンがきっかけですよね。

なこさん それ以前は経験したことがありませんでしたね。もともと文章を書いたり読むことは好きだったし、中学生の頃から作文教室に通っていたんですけど。

コウタ まさに「作文の教室」ですね(笑)

なこさん その教室で大学生の頃からアシスタントをしていたり。自然と文章に関わる機会が多くはありました。

コウタ ライターインターンを卒業して、直後にgreenz.jp ライターに就任してますよね。最近は武蔵野大学とのプロジェクトでサステナビリティを考えたり、生団連(国民生活産業・消費者団体連合会)とはエネルギーを考えたり、エディターとしての仕事もたくさん担当いただいています。

武蔵野大学との案件では、greenz.jp内の連載「あしたじゃない、ずっとをつくる」とサステナビリティ学科のウェブサイト内コンテンツの編集を古瀬絵里さん、スズキコウタと共同で担当。

生団連との案件では、「わたしたちの暮らしを守るエネルギー」という年間15本の記事と3回のイベントで構成されるプロジェクトに取り組む。こちらは増村江利子さん、スズキコウタとの共同編集。

コウタ 僕には、なこさんはアート畑のイメージがあります。

なこさん ライターインターンをしていた当時に、アートマネジメントをイギリスの大学院で専攻してましたからね。

コウタ アート作品やアーティストへの取材記事も、他媒体では担当することがあると聞きました。

なこさん そうですね、greenz.jpで経験を積んでアートについても書いていきたいと思って、アート系のウェブマガジンに「私、書きたいんですけど」って売り込みに行ったのがきっかけで。

コウタ すごい!

ウェブマガジン「KAMADO」で福井尚子さんが執筆を担当した記事はこちら!
・歴史の積層とトライ&エラーの過程を描く 現代アーティスト 熊倉涼子
・アートは同質化しやすい企業に多様性をもたらす 松本大

(※)ちなみになこさんが売り込みに行ったのは、KAMADOの前身となったウェブマガジン「PLART」。当時担当した執筆記事のひとつに、山口周さんへのインタビューがあるそう。

なこさん そのときは、greenz.jpで書いているということで信用してもらって。ブログをやっているということもいいけれど、ウェブマガジンで執筆経験が豊富にあるというのは信用度が増すんだと思います。

コウタ 僕は音楽評論家を目指していたんですが、その頃によく考えていたのは解釈や背景や表現手法やテクノロジーなど、たくさんを熟知して自分の視座で整理できていないと成立しない文筆業だなということでした。芸術畑で執筆を続けるのも、なかなか難易度が高そう・・・

なこさん なんかね、わかります。

でも、アーティストもいろいろな方がいますからね。「分からないので教えてくれませんか?」と質問すれば、フランクに答えてくれる方が多いです。また、現代アートのアーティストは街の人と協働でつくる方もいて、そういう方々は説明をしたり、コミュニケーションを取ることがとても上手ですね。

コウタ 一方で、取材先に心を開いてもらうことに苦労することもあって。「作文の教室」で、受講生からよく相談を受けるんですよね。

なこさん 「あなたは本当に私のアートを理解しているの?」と懐疑心を持たれてしまった経験はありますね。いかに取材先の懐に飛び込むかと考え、インタビューと直接の関係のない、アーティストとしての在り方や別の作品について3〜4時間も話したことはありました。

コウタ 心を開いてもらうのは正解があるというより、その場の咄嗟の判断と直感だな・・・と思います。

ちなみに、これも音楽畑の仕事をしていた頃の経験なんですが、好みの作品と、好みじゃない作品ってあるじゃないですか。僕は好きすぎると辛いし、好みじゃないのも辛くて、という感じなんですが、なこさんはどうですか?

なこさん 作品の好みや、アーティストに共感できるかどうかということはもちろんあります。

ただ好きかどうかより、関心が持てそうかどうかのほうが大事で、関心さえあればインタビューはできると思います。だから相手の作品やプロフィールを検索してみたりして。

そしてこれは、アートだけでなくコミュニティなどを取材するときもそうなんですけれど、取材先に対して100%の共感を持っていなきゃいけないということはないんです。客観的な目線があったほうがいいと思います。

コウタ 100%だとつらいですね。以前、坂本龍一さんの映画について執筆依頼が来て、僕がライター、なこさんに編集をしてもらったんですけれど。

なこさん ありましたね。

コウタ 当時の段階で、僕は坂本さんのことを20年近く追いかけている大ファンで。それゆえに書けることもあっただろうけど、客観視はやっぱりできないですよね(笑) なこさんに、「容赦なく削ってください」ってお願いした気がします。

なこさん ライターの熱意が、読者に伝わる場合もあれば、読みづらくなることもありますよね。

最近、私が書いたいすみ市のオーガニック給食の記事は、私にとってドンズバなテーマだったんです。だから初稿が15000字になってしまい・・・。編集の村崎恭子さんが、その熱を帯びすぎた部分を冷静に判断しながら、短く読みやすくしてくれました。

(※)公開版原稿はおよそ11000字

コウタ あの企画は、編集会議で菜央さんが悩み込んでいて。その頃、小野寺愛さんが給食についての意見を投稿していたんです。それで、僕が無責任に「小野寺愛さんが取材に行く。なこさんが書く。編集校正は村崎さん。オールママチームで、いすみに住んでいない人が取り組む」っていうアイデアを出したら採用になっちゃって(笑)

なこさん あれ、コウタさん企画だったんですね(笑)

コウタ 実は(笑)

僕はみなさんを信頼して最終稿のチェックだけで、おまかせしてすみませんでした。でも理想的なクオリティの記事に仕上がりましたよ!

なこさん 興味関心はドンズバだったし、いい記事になってうれしかったです。「オーガニック」という言葉には抵抗感を持つ方もいるし、考え方が分かれてしまうこともあるけれど、Twitterの反響も好意的なものが多かったと思います。いすみ市の取り組みは、自然環境のために始めたというポイントがあって、それを広げるために給食がありました。そのことについて、私の記事を引用してツイートしてくれる方が多かったんです。

コウタ PVやUUという数値の成果もうれしいけれど、そういう「伝わったんだ」と実感が持てるツイートやコメントを受け取るのもやりがいになりますよね。

なこさん ほんと。なんか、「書いてよかったな」とすごい思いました。

greenz.jp 編集デスクだったころのなこさん。2018年のある日の編集部会議にて。撮影: 廣川慶明

原稿を仕上げるスピード感

受講生 フリーでライター活動をしているんですが、1本の記事に時間がかかりすぎてしまうのが悩みなんです。もっとスピード感を上げたいんですが、コツがあれば教えてほしいです。

コウタ ちなみに、どの部分に特に時間がかかるんですか?

受講生 インタビューを終えたあとですね。取材先と話した内容を、自分の中に馴染ませてから書くタイプで、取りかかるのに時間がかかってしまいます。

なこさん 自分の中に馴染ませてから書くっていうのが素敵ですね。

以前、グリーンズのライターさんが集まったときに先輩の増村江利子さんが教えてくれたのは、取材翌日の予定を1日あけておいて、その日に文字起こしをしきること。取材をしたときの熱量が残っているうちに進めておくんです。

コウタ なるほど。たしかに1週間後に文字起こしをすると、「どうだったっけ?」と思い出すことに時間がかかってしまうかも。

なこさん もちろん、時間を置いて書くことで見えてくるものもあるんで、その良さもありますけどね。でも、取材後すぐにガッとやっちゃったほうが、そのときの熱量そのままに書けますよ。

コウタ ちなみに、greenz.jpでなこさんにお願いする記事は5000〜7000字ぐらいのボリュームですが、取材日から書き終えるまで、どれぐらいの時間がかかってます?

なこさん うーん、ものによりますよね。3〜4日ぐらいかな・・・

コウタ 例外を除けば、greenz.jpは取材日から2週間後を目安に、編集部に初稿を提出としてますね。

受講生 そうなんですね。ちなみにスピード感が上がらないので、依頼を断ることってありますか? この時期にいくつかの原稿が重なると厳しいな、とか。

なこさん ペース配分はするようにしてますね。 「ちょっとこの時期、忙しいんでごめんなさい」とか、「もう少し締め切りが長ければ書けますが、どうですか?」という提案をしたり。

でも、提案いただくテーマに強い興味関心があると、少し無理をするときもありますね。

受講生 なるほど。私は断る勇気もあるなと思うんです。不安というか、「今後声がかからないんじゃないか」とか。

なこさん 断るのって悩みますよね。依頼をもらえるようになるってうれしいんですけど。

コウタ めちゃくちゃ気持ち、わかります。前職でフリーだった頃は、「断ったら次はない」というプレッシャーで、無理をしていたし。あと、仕事が減ったトラウマもありますね。

なこさん ライターに限らず、フリーランスだと「この仕事を受けたら、次につながるんじゃないか」と考えることもあるから・・・ 依頼する側の声を、コウタさんに聞いてみては?

コウタ 一度断られたから、次は声をかけるのをやめようっていうのは、あまり無いですけれどね、僕は。断わられるときの文面で、「また声をかけてくださいね」と書いてみたらいいんじゃないかな。

受講生 ちなみに、どんな理由で断わられることが多いですか?

コウタ いろいろですよね。一番は忙しさだと思いますが、取材先やテーマに対する興味関心・知識があまりないだとか。

ちなみに依頼をされる側としては、「これ、コウタさんじゃなきゃ!」っていうメッセージがあると、ついつい答えてしまいがちです(笑)

なこさん 分かりますね。それは断るのが難しいですね、確かに。

コウタ だから、編集者としては口説き文句といいますか、絶対にお願いしたいライターさんやフォトグラファーさんへの依頼の仕方は大事なんです。それは、元編集長の兼松佳宏にいろいろと指導を受けましたよ。

受講生 ライターさんから原稿料が見合わないという理由で、コウタさんが断わられることはありますか?

コウタ ありますね。予算が潤沢じゃない案件もありますから。

受講生 なこさんは原稿料を理由に断ることはありますか?

なこさん 記事をつくるのに必要な時間やコストを考えると、この原稿料では難しいなと思うことはありますけどね。

受講生 この金額以下だと難しいというボーダーラインは持っておいたほうがいいんでしょうね。

なこさん でも、時に原稿料は安いけれど、これは引き受けたいなと思うこともあるんです。取材をして書くことで得るものはお金だけじゃないですから。そこで知り学ぶことや、つながる人がいます。そして、これを世の中に届けることに意義があるなと思うことも。

引き受けて後悔したこともありましたけど。

コウタ 僕もあります(笑)

なこさん 意義を感じたから受けたけれど、自分の生活をこの原稿は侵食してくるぞ・・・と感じたことがありました。

コウタ できない・つらいことを断る勇気ですね。

撮影: 廣川慶明

タイトルって、どう考えたらいい?

コウタ タイトルは、グリーンズで働く中で丸原孝紀さんと鈴木菜央に、特に鍛えられましたね・・・。体系だって教えてくれたのは丸原さん、ダメ出しをくれるのは菜央さん、ですね。

受講生 そういう先輩がいるのはうらやましいです。でも、フリーランスだと、そうして教えてくれたりフィードバックをもらう機会があまりなくて。

なこさんの記事は、ストーリーがイメージしやすいタイトルだなと感じるのですが、つける際に何か心がけてること、工夫していることを聞いてみたいです。

コウタ ストーリーがイメージしやすいって、まさにフィードバック。そう読んでくれる方がいるのは励みになりますね。

へえ、なるほど、そう読んでくれる読者がいるのが羨ましい。

なこさん 嬉しいですね。

なこさん でも、タイトルは今でもすごい迷います。

さっきも紹介した、いすみ市のオーガニック給食の記事は、エディターに村崎恭子さんがついて伴走してくれたんですが、お互いに4-5個の候補を出しても、なかなか決まらなくて。とても悩みに悩んでつけたんです。

コウタ 僕もタイトルは毎回一番悩みますよ。苦手意識があるぐらい。

僕が決定したタイトルを菜央さんが見かけて、彼のアイデアでまるごと書き換えるというのは結構あります。greenz.jpの編集長・エディターさんとは何人も密に仕事をしてきたけれど、菜央さんは特に厳しい。その部分は今も辛辣な指摘を受けるので、勉強が足りないなと・・・

なこさん そうなんですね。いすみ市の記事は結局、私と村崎さんがふたりとも「この言葉にぐっと来たよね」というものを持ってきたんですよね。

これに決まる前は、もうちょっと「環境重視の農業を回すには?」というようなものだったんですけれど、なんだろう、なんか違うねということになって。

コウタ ちょっと説明的になっちゃったのかな。タイトルって、記事の中身を短く説明するものじゃなくて、記事を読みに来てもらうウリ文句だと、諸先輩方に僕はよく指摘をされるんですよ。

なこさん いちばん面白い、その取材テーマで面白いと思ったところを切り取れるといいんでしょうね。それが菜央さんは上手だなって思います。原稿を納品するときにタイトルはつけるんですが、「いすみローカル起業プロジェクト」の連載では、プロジェクトの発起人でもあった菜央さんの提案で変わることもありました。

コウタ 切り取る〜見つけて、どれを拡大していくかも大事だけれど、掲載する媒体に合わせた言葉のトーンの在庫を持っておくというか、ボキャブラリーというか、引き出しをもっておけるといいんでしょうね。

(対談ここまで)

– INFORMATION –

この秋冬、「作文の教室」が、日本あちこちへ出没します! 詳細は各日程をクリックしてご確認ください。

・10月22日(土)東京都千代田区「グリーンズの学校」開催1DAYクラス
11月6日(日)〜2月4日(土)岐阜県岐阜市「ぎふメディアコスモス」開催ゼミクラス(全6回)
・近日発表 全3回のオンラインゼミ(森林サービス産業、「森林サービス産業推進地域」を拠点として活動する方が主対象)
・近日発表 1泊2日のスタディツアー(森林サービス産業、「森林サービス産業推進地域」を拠点として活動する方が主対象。関東地方での計画)

(※1)一部お問い合わせ窓口が、NPOグリーンズでなく主催団体であるものもあります。
(※2)2023年初頭以降に日本各地で「作文の教室」開催をサポート、コラボレーションしていただける企業・団体を募集中です。E-mail: sakubun [at] greenz.jp

(Text: スズキコウタ、阿部哲也、安國真理子)
(編集・企画: greenz challengers community)
(編集協力: 福井尚子、廣畑七絵)