greenz people限定『生きる、を耕す本』が完成!今入会すると「いかしあうデザインカード」もプレゼント!→

greenz people ロゴ

手応え、現場取材、感性の養い方。どうすればいい?「作文の教室」受講生の悩みを松沢美月さんと考える

「グリーンズの学校」の人気クラス「作文の教室」。greenz.jp 副編集長のスズキコウタがディレクションをつとめ、さまざまな地域・分野のライター、エディター、時にはフォトグラファーが講師をしています。

これまで11期のゼミ、多数の1DAYクラスを展開。この秋からは3年ぶりに現場=オフラインでの開催や、外部団体・施設とのコラボレーションも始まりました。

今回レポートするのは、その「作文の教室」第11期の一環で開催された「オフィスアワー」の様子です。受講生からいただいた、書き手としてのスキルや在り方についての質問に、greenz.jpライターの松沢美月さんと考えました。

ライターだけでなく、編集者、プロジェクトマネージャーとしても活動する美月さん。ご自身や所属する会社で取り組む、編集力をつける習慣をいろいろ教えてくれました。

松沢美月(まつざわ・みづき)

松沢美月(まつざわ・みづき)

1995年生まれ。2015年8月から1年間ノルウェー・トロムソに留学。北欧のサステナビリティへの関心の高さ、豊かな暮らしぶりに衝撃を受けたのがきっかけで、「greenz.jp」と出会う。ライターインターンを経て、ライターへ。 新卒で約2年SIer企業に勤め、現在はブランディングデザインの会社のプロジェクトマネージャー。プロジェクトの進行管理を主としつつ、オウンドメディアの企画やインタビュー、編集、ライティング業務を担当。 最近は思い切って東京の外にお引越し。郊外と都心を行き来しながら、働き方、暮らし方、生き方について日々もやもやと考えています。

書き手・編集者の私たちを前進させるもの

コウタ 美月さんは、グリーンズのライターインターンになる前から文章を書くことには携わっていたんですか?

美月さん いや、あれが初体験でした。

ノルウェー北部にあるトロムソという場所に留学していたときに、日本の文化や社会との違いを目の当たりにしたことが、グリーンズを知るきっかけになったんです。当時、ノルウェーの人びとを見ていると、日本人の私たちよりもサステナブルで豊かに暮らしているように感じました。モノやお店といった物質的なリソースが限られているなかで、お金を払って得る楽しさや幸福感とは違う軸を大切にする価値観があるように思えて。

それに衝撃を受けて、「日本にも豊かに暮らすために活動している人や組織はないのか?」と思って調べていたらグリーンズに出会ったんですね。

コウタ なるほど、光栄ですね。

美月さん 「この媒体に関わったら、日本で起きている面白いことをより知れそうだな」という直感がありました。

コウタ 僕も、美月さん同様に、最初はグリーンズのライターインターンでした。10年も前の話ですけど・・・。

同期が4人ぐらい。その切磋琢磨は、よりライターとして編集者として成長していくには、インプットもプレッシャーもいい感じだったと思うんです。「あいつよりいい記事を書きたい」とか「あいつよりPV稼ぎたい」とかね。

そういう協力もするし、クリエイティブなライバル関係にもなるようなことは、いまだとnoteなどでつくりやすそうですね。

コウタ インターンを卒業後は、greenz.jpライターになりましたけれど、他の媒体でもライター活動はしたんですか?

美月さん あまりないですね。

コウタ むしろ編集者としての活躍が多そうですよね。

美月さん 会社で渋谷にある施設のオウンドメディア企画や運営を請け負っていて。外からは見えにくい、施設の中で活動している人びとをひらいていく媒体なんですが、その編集を担当しています。その仕事で、たまにライターさんが見つからないときがあって、そういったときに自分が書くことはあります。

そういえば、最近、そのメディアで水野淳美さん(通称:あっちゃん)(※)に記事を書いてもらうことがありました。

(※)「作文の教室」を2015年から断続的にアシストしてきた、greenz.jpライターで第二編集部のメンバー。この収録現場にも参加している。

コウタ おお、そうなんですね。

あっちゃんはフリーランスとして、いろいろな機会でライターをしていることがありますよね。ちょっとここで少しだけ登場してもらえますか?

美月さん ぜひ! greenz.jpでコウタさんに編集されてきたときと、私たちに編集されたときで、何か仕事の進め方やフィードバックの内容に違いってありましたか?

あっちゃん どうだろう・・・

美月さんと進めた記事は、取材先の方が話した言葉をどのようにいかすか。どう伝わりやすくするかを考えることに重きを置きましたね。

一方で、greenz.jpは取材先の言葉を随所に配置しつつ、社会背景や私が感じたことをストーリーのように仕立てて書くので、結構大変ですね。

コウタ そうか・・・(笑)
手間がかかりますよね。

あっちゃん greenz.jpは編集部だけでなく、同じフリーランス仲間のエディターさんが伴走してくれる。

美月さんとつくったときは、最初から丁寧に企画意図などを説明する時間をもらいながら、一緒につくっていく。どちらがやりやすいとか、やりにくいとかはないんですけど。

美月さん なるほど、よかった。

受講生 ライターであっても、編集者であっても、誰かに叱咤激励されることって大事じゃないですか。褒められると嬉しいし、ダメ出しは辛いけれど自分の苦手な部分が分かる。

美月さんとコウタさんは社員編集者だと思うんですが、私はフリーランスなのでなかなかフィードバックをもらえる機会が少なくて。「あの記事って良かったのかな? いまいちだったのかな?」という感覚がつかめないんです。

コウタ なるほど。でも、僕は同僚からのフィードバックはもちろんあるけれど、それより響くのは読者やクライアントの声で。それは自分で探りに行くものなんで、社員やフリーってそんなに変わるのかな・・・。

ちなみに数字は全然KPIにしていないです。

美月さん それは私もそうですね。私が担当しているのはオウンドメディアなので、クライアントにアクセス数の報告はするんですけれど、評価をしてもらう材料は数字だけではないですよ。たとえば「最低___PVを取りましょう」と先方と目標設定することもない。

コウタ うちもほぼ一緒です。ヒットしているときはうれしくてPVをよく見に行くけど・・・

美月さん どちらかというと、クライアントからは「記事の中にこういう要素や情報を入れるようにしてほしい」というざっくりとした構成についてのオーダーをいただくことが多いです。

コウタ 記事を書き上げたときのライターと編集者のグリップされた感覚。あと、それがどう読者に受け取られたかという感覚。このふたつが僕は何よりも大事かなと思うんですね。

ちなみに数値の評価はあまり重要視されないとのことですけど、そうなるとクライアントからのフィードバックってどういう内容になるんですか? 原稿の内容には厳しかったり?

美月さん 記事確認の段階で大きな変更が発生しないように、計画段階である程度つくりこむし、クライアントに想定の質問事項をまず確認してもらうので、そんなに赤は入らないですね。

コウタ プリプロが大事なんですね。

余談ですが、最近あるクライアントと記事をつくって確認に出したら、細かい文字校正やニュアンスも何もなく「このままお願いします」って言われて。でも、すごく丁寧に読んでくれているんですよ。「純粋に良い記事だし、編集感覚を信頼してまかせたいからグリーンズにお願いしたので、みなさんを信じます」って。

あっちゃん いいクライアントでしたよね。驚きました。

コウタ 指摘や赤字だけでなく、「よかったよ」というコメントって大事だなあと思うんです。僕は原稿チェックをするときに、確認し添削し赤を入れる立場でなく、最初の読者で在るようにしていて、そうすると感想としていい部分も改善点も伝えられる。

美月さん 私が関わる媒体は、ライターに書いてもらったらそのまま終わって、次の取材の機会まであまり接点がないこともあって。そういう声を共有するのは大事ですよね。

そして、いいフィードバックをもらえるように積み重ねていくと、次の仕事を媒体としてもライターとしてもいただけるじゃないですか。

コウタ ですね。推薦いただいて他のクライアントと出会えるときもある。

美月さん 最近、ある先輩ライターさんと話をしたんですけど、彼女は10年ぐらいのキャリアがあるけれど、1回も営業したことないんですって。ずっとご縁と紹介だったそうです。

「この人に頼んでよかった」と思ってもらえる仕事を積み重ねる。その先に、依頼がずっと舞い込んでくるみたいな状況があるんだろうなと思いましたね。

最近では、美月さんがエディターを担当するgreenz.jp記事も公開に。中鶴果林さんによる執筆:荒れ放題の柑橘畑が導いたのは、一生続けていきたい仕事だった。編集業と農家の掛け算で、心地よい生業をつくる「comorebi farm」

現場で取材をするときのコツ

受講生 オンライン取材がメインの時期にライター業を始めたので、実際の現場で話を聞いたり、その場で起きていることを題材にして書くときに、何に目や耳を向けたらいいのか。どんなことを気にして、言葉にしていけばいいのか。悩んでいます。

コウタ なるほど。時代を感じますね(笑)

取材に行った時に、どうその場をとらえるか。相手の話を聞くだけじゃない取材の側面が課題になっているのかな。

受講生 そう、話を聞いて書くだけじゃないというところなんです。

美月さん 現場に行くっていうのは、ものすごい大事ですよ。

コウタ ですね。そして貴重な体験!

取材対象者がどういうところで活動しているか。その拠点の匂いだったり、 空気感を自分の体の中に入れておく。それが直接文字にならなくても、なにか最終的なアウトプットに醸し出されますよね。

受講生 録音を切ったあとに、取材先の緊張が解けて、ふと話してくれることが記事の肝になるというのは、「作文の教室」で別の講師の方に教わりました!

コウタ ありましたね。

そういえば僕が大事にしているのは、集合時間より、どんなに遅くとも10〜15分前、できれば30分前には着いておくことですね。以前、僕の当時のアシスタントが集合時間ぴったりに現地周辺に到着したときは、お説教タイム(笑)

美月さん (笑)

コウタ ギリギリの行動という遅刻リスクもあるんですけど、取材本番スタート前の下見やシミュレーションの時間を現地で持てない。それは致命的なんです。

どんな地域に、どんなビルの中にあるのかを観察したり。同席するフォトグラファーやアシスタントと軽い打ち合わせをしたり。もし先方がOKなら、予定時刻より少し前に入らせてもらって、その拠点にどんな表情をした何に取り組んでいるスタッフがいるのかを見たり。

ソーシャルディスタンスの配慮も必要な昨今、僕は屋外やオープンエアな空間でポートレイトを撮影できる場所を見つけておくことも大事にしていますね。これは品川駅周辺での取材前、撮影用の場所探しをしていたときの様子(コウタ)

美月さん フォトグラファーさんの存在は結構大きいなと思っていて。

例えば記事のトップに置くメインカットをどうするか。編集者である私たちのイメージやディレクションを伝えますけど、その通りのものをただ出してくれるだけじゃなくて、何か汲み取ってアイデアや撮影したものを提案してくれる。そういう関係性がつくれるといいですよね。

信頼感というか、場の温度感を把握しあう状況をつくっておくのは、取材するとき結構大事だなと思いますね。

コウタ うんうん、まさに。

美月さん 少し話がそれるかもしれないですけれど、会社として何かをつくるときに大事にしているふたつの視点があって。それは俯瞰と、友だちのような視点なんです。

引いて俯瞰して、インターネットや書籍の情報、データなどを頼りにして、こねくり回す・考える。

それだけじゃなくて、友達のような近い目線で現場にいる色々な人の話を聞く。特にデザインや編集の仕事は対象を俯瞰する作業が多いですが、それだけだと頭でっかちなアウトプットになったり、一番届けたい相手にそれを受け取ってもらえなかったりする。だから、後者も一緒にやらないといけないという考え方をしています。

コウタ 冷静に俯瞰して客観視に努めるだけじゃ、独自性ある価値にはつながらないですもんね。だから近い距離感で得たものが強みになる。でも近い情報だけだと主観的になりそう。

受講生 友達のような近い目線は、取材やフィールドワークに行くということですか?

美月さん 実際に現場に足を運んで、どんな空気がまちに流れているのかを感じ取ります。その場に行くっていうのは、ライターや編集者としてだけじゃなくて、ブランディングの仕事でもよくします。

コウタ 取材は話を聞きに行くことだけじゃない、ということを痛感しますね。

美月さん その取材先やクライアントの拠点の周りに、どんな人が歩いていて、どんな場所が近隣にあるのか。周辺を下見して写真を撮って・・・ということはしますね。記事以外のイベントやディレクションの仕事をするときも大事な時間かも。

コウタ たしかに僕らも協働するパートナー企業や自治体の拠点を訪問したり、コミュニティや地域の仕事だったらまちを歩いてキーパーソンに話を聞くとかしますね。

美月さん 私の上司は、近場の居酒屋さんに入って、隣の席の人がどんな会話をしているか聞いたり、場合によっては入っていったりするみたいです。酒にはいいヒントがあると聞きますね。

コウタ 酒!

Jason Fineという音楽ジャーナリストは、ドライブなんですって。インタビュー嫌いなミュージシャンの話を聞き出すために車に乗って、時にカーステレオで音楽を聴きながら聞き出していく。引き出し方、つかまえ方はたくさんあるでしょうね。


Jason Fineが、大物ミュージシャンBrian Wilsonを取材している様子。これは映画での1シーンだが、雑誌の取材の際も、特定の場を決めずに相手が話しやすい場でのインタビューをするそう(コウタ)

まちにあふれる言葉のコレクターになる

美月さん 最近私の会社では、仕事やプライベートで行った場所、メディア等で見つけて気になった「言葉」をシェアする仕組みがはじまりました。

コウタ 雑談とインプットが結びついたような仕組みですね。

美月さん そもそも私の勤める会社は、まちやそこで起きていることに興味を持つ人が多いんです。休日にみんないろいろなところに行っていて、面白い場所や景色、気になったデザインなどを写真に撮って社内でシェアをする文化がなんとなくあって。

外出する目的は、ご飯に行くでも、何かイベントに参加しに行くでもいい。そして仕事で関わりのある場所かどうかも、どうでもいい。自分が気になった・目に飛び込んできたものが何だったのかを共有するということなんです。

そして、その新しい形が生まれたんです。

コウタ お、気になります。

美月さん もっと言葉に紐付いたものなんです。何でもいいんですけど、気になった誰かの言葉を3つ持ってきて、それをみんなで共有するっていう試み。

コウタ 自分の言葉ですか? それとも社内の同僚なのか、目に耳に飛び込んできたものなら何でもいい?

美月さん 何でもいいんです。読んだウェブ記事のコメントでも、まちで見かけた変なレストランの看板でも、面白いキャッチコピーでも。とにかく何か気になった言葉を3つ持ち寄って、なぜそれが自分にビビッと来たのかを話すんです。

仕事で一時期よく通っていた神田にある、界隈では有名なお店。「良心的なお店」とは一体何なのか、中に入ってみたいけどちょっと怖い、という気持ちを掻き立ててくるネーミング。(美月さん)

これは光が丘にある団地内を散歩していた時に見つけた看板。タイトルづけの妙を感じるのはもちろん、これはいつ誰がどんな思いでつくったのだろうと考えさせられる。(美月さん)

どこで撮影したかは忘れてしまったが、こんなのズルい!と思って撮った1枚。これも一体誰がどんなことを考えて決めた社名なのか、気にならずにはいられない。(美月さん)

美月さん そのコミュニケーションを毎週の定例会議の中で、15分間ぐらいやってます。言葉を信じにくい時代に、自分たちは言葉をどうつくるのか。考えを深めながらかたちをつくっていく必要があるよね、という社長の考えで始まった取り組みです。

コウタ なるほど。電車の中吊りで面白いコピーを見つけたら、とりあえず写真を撮って、社内ツールに投稿! 定例会議で収穫を共有して意図を話す。「あのときに見かけた言葉」がヒントになって、ちゃんと蓄積されますね。

美月さん 自分のセンサーだけでなく、同じプロジェクトに取り組むメンバーの関心も見えるし、その言葉がなぜ面白いのかという分析が始まるんですよ。

コウタ インプットの幅が広がりますよね。タイトルに悩んでいる人は、やってみるとよさそう!

(対談ここまで)

– INFORMATION –

この秋冬、「作文の教室」が、日本あちこちへ出没します! 詳細は各日程をクリックしてご確認ください。

・10月22日(土)東京都千代田区「グリーンズの学校」開催1DAYクラス
10月23日(日)スタート、令和4年度Forest Styleナビゲーター養成講座オンライン
11月19日、20日 令和4年度Forest Styleナビゲーター現地講座(山梨県都留市での一泊二日スタディツアー型)
11月6日(日)〜2月4日(土)岐阜県岐阜市「ぎふメディアコスモス」開催ゼミクラス(全6回、受付終了)

(※1)一部お問い合わせ窓口が、NPOグリーンズでなく主催団体であるものもあります。
(※2)2023年初頭以降に日本各地で「作文の教室」開催をサポート、コラボレーションしていただける企業・団体を募集中です。E-mail: sakubun [at] greenz.jp

(Text: スズキコウタ、阿部哲也、安國真理子)
(編集・企画: greenz challengers community)
(編集協力: 松沢美月、廣畑七絵)