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バリ島には日本が失った人・自然・神の「いかしあう関係」がありました。濱川明日香さん・知宏さんに聞く、いまある暮らしをつなぎ直すヒント

インドネシア・バリ島。
今年9月にバリ島を初めて訪れたとき、私はその場所を「なつかしい」と感じました。

バリと日本は同じアジアに属する国。住む人の見た目も、食文化も似ています。けれどその他にも、自然や八百万神や村の人々とのつながりを大事にし、自分は”いかされている”という感覚を持ち合わせていることも、バリ人と日本人の共通点かもしれません。

けれど今の日本は、経済とテクノロジーの発展の途中で、”いかされている”という感覚や、人や自然との調和を置き去りにしてきてしまったように思えます。

そう気づかせてくださったのは、バリ島に5年以上家族で暮らす、「一般社団法人Earth Company」の濱川明日香さん・知宏さん。今日お届けするのは、バリ島で古くから伝わる文化と暮らしに身を置くふたりに聞いた、自然や人とのつながりを取り戻すヒントです。

”何をするか”よりも”どうあるか”を大事にする。そんなふたりの姿勢が伺えるお話をご紹介します。

濱川明日香(はまかわ・あすか)
一般社団法人Earth Company代表理事。ボストン大学国際関係学部・経済学部卒。ハワイ大学大学院太平洋島嶼国研究学部にて修士号取得。元外資系コンサルティング会社勤務。2014年ダライ・ラマ14世より「Unsung Heroes of Compassion」賞を受賞。Newsweek誌より「Woman of the future」に選出。
濱川知宏(はまかわ・ともひろ)
一般社団法人Earth Companyマネージング・ディレクター。ハーバード大学人類学部卒。ハーバード大学ケネディ行政大学院公共政策学部にて修士号取得。元東京大学特任助教。国際NGOコペルニク最高戦略責任者。2014年ダライ・ラマ14世より「Unsung Heroes of Compassion」賞を受賞。

目に見えないものにしか、生まれないものがある

社会起業家が集まっていることや、「Green School」や「Hubud」などの未来をリードする事例によって注目を浴びているバリ島。日本では昔からリゾート地としての認知度も高い場所です。

そんなバリ島に、5年前に移住をした濱川さん夫妻。そのきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

明日香さん まず、私たちの事業である社会起業家支援の現場が、アジア中心だったことです。そして、バリに住んでいる外国人が真剣にサステナビリティと向き合って環境や社会にいかに貢献できるかを考えている環境や、バリの人が昔から持っているマインドセットに惹かれたことが1番の理由ですね。

そして、バリ島の多くの人が信仰しているバリ・ヒンドゥーには「Sekala Niskala(スカラ・ニスカラ)」という「目に見えるもの、見えないもの」という意味の言葉があるのですが、バリの人は目に見えないものを大切にしてきた歴史を持っています。

目に見えないものにも価値があるという、当たり前のようで忘れてしまいがちなことを言葉にしているバリの人々。ふたりが現地で暮らす中で「Sekala Niskala(スカラ・ニスカラ)」という言葉を実感するのは、どのようなときなのでしょうか。

明日香さん あまりにも生活に馴染んでいるので改めて考えるのが難しいのですが、家族が大好きなところや、自然を大切にしているところに現れていると思います。

彼らは自然療法をよく知っていて、娘の手足口病や腹痛も、「バナナの皮についている虫を揚げた油を塗るといい」とか、「オオトカゲを揚げた油を塗るといい」とか、自然の力を借りた知恵も多く知っているんですよ(笑)

「腹痛に効く薬草をくしゃくしゃにしてお腹に乗せるといい」と聞いて、実際にやっているそう

明日香さん また、極端な例ですけれど、彼らは儀式や村での役割をとても大事にするので、仕事で宗教行事や村での役割をできないとなれば、仕事をやめる選択をします。

たとえば、結婚式をやるとなったら、600人くらい村の人たちが総動員で準備をしますし、4、5年に一回の合同火葬では、それまでに亡くなって土葬されていた人たちをを掘り起こして、一気に焼くのです。そのためにはやぐらを組んだりするのに1ヶ月半の準備がかかり、その間はベビーシッターさんにも来てもらえなくなります。けれど彼らにとって儀式は神や人とつながることであり、仕事よりも大事なことなのです。

伝統舞踊の様子。バリの子どもたちは小さい頃から伝統舞踊や音楽を学ぶ

楽器のうまいお兄さんに憧れるなど、文化的な面で大人を尊敬しながら成長する子どもが多いのだとか

日本の地域では今でも村での伝統行事へ参加することが大切にされているところもあると思いますが、東京に住む私には、仕事を休む理由になるような行事なんて思い浮かびません。
 

知宏さん 「ニュピの日(静寂の日)」と言われる1日もあります。日本の元旦にあたる1月1日がその日で、空港も閉鎖になりますし、テレビ・ラジオ・電気・ガス、最近ではインターネット回線も切られてしまいます。

すべての経済活動がストップすることになるのですが、当たり前のこととして、反発するバリ人はいません。

明日香さん 少し前までは、ニュピの日を外国人に強要することはありませんでした。けれど最近では、ホテルでも外出しないように言われるようです。

ニュピの日は町中から明かりがなくなり、さらに新月なので星がきれいに見えるのだそう

明日香さん 私は、ここまでして文化を守るからこそ、守られるものがあると思っています。

日本や欧米とバリは真逆のようなもので、日本や欧米は経済発展の過程で多くを削ぎ落としたために守られなかったものがあり、バリは文化を守ってきた代わりに経済発展はあまりしていないんですね。

世界中のすべての国において、守りたかったけれど、経済発展や歴史的な理由から守れなかった文化があるのではないかと思います。

どうしてバリ島は、文化を大事に守っていく道をはじめから選んでいたのでしょう。

明日香さん バリ島は、オランダの植民地だったという歴史があります。しかしその植民地化の記憶は、決して他国のものと同じではありませんでした。

バリ島には、森林や石油や地政学的なメリットなどがあまりなく、いわゆる搾取されるような形の植民地化はされなかったのです。バリの人々が毎日のように行う鮮やかな儀式をみて、オランダは文化を観光資源として発展させることで、利益を得ようと考えたのでした。

明日香さん オランダによって文化の発展を促されたバリ島は、この時「バリ・ルネッサンス」が起こります。観光客が喜ぶよう、元々の衣装より派手になったり、お供えが巨大化したりデフォルメされたようなものもありますね。

こういう背景から、バリ島ではずっと、文化がものすごく大切にされてきたのです。

  
自然とのつながりや、神とのつながりは、目に見えるものではありません。

けれど私たちが「いただきます」というように、バリの人々も暮らしに溶け込むように儀式をしたり、自然とのかかわりを持つ中で、目に見えないものへの感謝を表現しているのではないかと思います。

他を受け入れる”寛容さ”を育む、人・自然・神の調和

文化を敬虔に守っていると聞くと、外から来る人に対して拒絶をしたり、文化が混ざり合えないようなイメージがあります。

しかし、濱川さん夫妻をはじめ、「Green School」の創設者やオーガニックレストランのオーナーなど、バリ島には様々な国から人々が移住し、もともとある文化を大切にしつつも新しい価値を生んでいるように思えるのです。

バリの人たちは、外から移り住む人たちを見てどう思っているのでしょうか。

明日香さん 彼らは、外国人のやっていることに特別感銘を受けるわけでもないし、嫌がることもなく、ただ受け入れているように見えます。

知宏さん バリの人たちがすごいのは、とにかく寛容なところです。バリ島では多くの人がバリ・ヒンドゥー教を信仰していて、彼らは私たちがバリの文化をリスペクトして行事に参加すればするほど、受け入れてくれるのです。

他の地域や国だと、お祭りに外の人を誘ったとしても、本当の真ん中の部分には壁が設けられていて外の人間は入れないことが多い。けれどバリの人々は、どこまでも受け入れてくれるのです。

それは、彼らに確固たる自信があるからなのではないかと思っています。自分たちの文化を失うことはないという気持ちがあるのかもしれません。これは、前段にお話ししたオランダによる植民地化の方法が搾取的じゃなかったという理由があるのかもしれませんね。

確固たる自信に裏打ちされた、外の人を受け入れることができる寛容さが、バリの人たちにはある。その寛容さは植民地化の記憶だけでなく、自然や人や神とのつながりから育てられているのではないかと、濱川さんは続けます。

知宏さん バリ・ヒンドゥーの教えの中に「Tri Hita Karana(トリ・ヒタ・カラナ)」という「人・自然・神との調和」を意味する言葉があります。

バリの人々には家族があり、村があり、たくさんの儀式や行事があります。その中で、どんな人にでも必ず役割があるのです。

彼らにとっては”責任”なのかもしれませんが、私たちから見ると誰もが社会での役割を誰もが持っていて、存在意義を考える意味も暇もないように見えます。

明日香さん 家族の中にも、彼らの居場所はあります。バリの人たちは本当に家族の仲がいい。20人くらいの家族で一緒に住んでいて、いつも笑いながら話しているのを見かけます。話が尽きないんでしょうね。

経済的には豊かとは言い切れませんが、20人の家族の中で若い世代が働き上の世代を支えるという構造ができあがっていますし、家族との時間を大切にしていると感じます。

濱川家の休日の様子

人と人のつながりは、時に「人間関係」という少しネガティブなイメージを持つ言葉で語られます。けれど私たちが本当に願っているのは、心地よい距離感でお互いに尊敬し合う、人との調和なのかもしれません。

サステナビリティの最先端、バリ島。外国人とバリ人の交差する場所で起きていること

バリの土地や文化、人々が持つ魅力に惹かれ、多くの社会起業家や移住者がやって来ている今。そこでは、それぞれのサステナビリティの形がありながら、共存していく姿も見られます。

バリ出身の青年が運営する、バリの地域の文化・自然資源をマッピングして観光事業を助ける「Five Pillar Foundation」や、濱川さん夫妻の運営する「一般社団法人Earth Company」が2019年9月にオープンさせたホテル「mana earthly paradise」もそのひとつ。

mana earthly paradiseのオープニングセレモニーでの一枚

「次の世代に継げる未来をつくる」という「一般社団法人Earth Company」のビジョンを体現したという「mana earthly paradise」。社会起業家支援をしてきた団体が、どうしてホテルを建設することになったのでしょうか。

明日香さん このホテルを建てたきっかけは、Earth Companyがバリ・ウブドで運営する研修事業の中で様々な社会起業家やソーシャル事業から学びますが、研修参加者が泊まるホテルが、まさに社会問題を加速させているような場所では悲しいと思ったことでした。

私たちはここでビジネスをさせてもらっているので、彼らの環境に悪影響を与えながら利益を出すのはおかしい、その思いが強くなっていました。

そのためサステナビリティの面ではとくにこだわっていて、「mana earthly paradise」で使う水は全て雨水をろ過して使い、電気は太陽光エネルギーでまかなっています。

土のうを使った伝統的な建築工法で建てられたヴィラ

雨水が集まりやすいよう、屋根の素材にも工夫がされています

明日香さん ホテルの「mana kitchen」では、食料廃棄物を極力出さないために「Food Waste Soup」といって、捨てられてしまうような野菜の破片を使ってスープをつくっています。一度生えたらそこから動けない野菜たちは、その場所で一生懸命に生きるためにたくさんの栄養を蓄えています。だから皮まで使ってあげるこのスープには、人間もうれしい栄養がたっぷり詰まっているんです。

ホテルのガーデンで採れた野菜も使われている「mana Kitchen」の食事

明日香さん 「mana Market」では、バリに昔からあったサステナビリティの知恵と私たちのビジネス感覚を融合させたものを販売していて、地域社会にお金が落ちるものを優先して扱っています。

たとえば、家族経営で引き継がれながらつくり続けられている、バリ島の植物を使ったオーガニック石鹸やスキンケア商品。

毎週日曜日には、野菜や果物などがあるFarmers Marketも開かれています

知宏さん バリの人々が大切にしている精神「Tri Hita Karana(トリ・ヒタ・カラナ)」も、私たちのホテルにデザインとして落とし込まれています。

ヴィラをつなぐ小道が、上から見ると人・自然・神の調和を表す三つ葉のクローバーに見えるようになっているのです。

運よく、今年9月にバリを訪れた際に「mana earthly paradise」に宿泊することができました。

心地よく過ごすことができたのはもちろん地域の資源を汚すことなく、外から来た私でさえもその地域との調和を感じられたことを、今でも覚えています。

自然に身につけてきた、”いかされている”という感覚をもう一度

「”この地球は、先祖から継承したのではなく、私たちの子どもたち、子孫から、借りているのである”」

バリに家族で移住をし、3人のお子さんを育てている濱川さん夫妻。日本とバリの暮らしをどちらも体験して、思うことはあるのでしょうか。

明日香さん バリと日本は共通点もあるし、真逆の側面もありますが、どちらがいい・悪いはないと思います。ただ私が感じるのは、日本に暮らす人は今ある固定観念を気にしすぎて自分たちで上限をつくってしまっているのではないかということ。

改めて固定観念を捨てて考えてみたら、今まで無理だと思ってきたけど実は可能なこともたくさんあると思います。

知宏さん 日本に対する疑問を挙げようとしたらキリがないけれども、すごくいいなと思うこともあります。

それは、”いかされている”という言葉。海外では訳すことのできないこの感覚を、日本の人は自然と持っていますよね。その”いかされている”という感覚を見つめ直すことに、ヒントがあるのではないかと思っています。

家族、地域、文化、神様とのつながりから遠く離れて、東京で暮らしている私。
せわしない日々の中で、いつの間にか大切なものとのつながりが薄れてしまっていて、つなぎ直すには丁寧な手作業と時間がかかりそうに思えます。

でもだからこそ、私たちの根底にある”いかされている”という感覚と感謝の思いを、あらためて表現していくことに意味があるのではないでしょうか。

自分自身や家族と接する時間、自然と触れ合う時間が、私たちに大切なことを思い出させてくれるかもしれません。

– INFORMATION –

これからの社会・暮らしを体感する
いかしあうつながりスタディツアー in バリ(2020年2月)

突然ですが、グリーンズはバリでスタディツアーをします!「楽しく幸せに生きたい」。それってどうしたらできるのでしょう。自分だけよくても、周りがよくなきゃ、なんだか後ろめたい。地球の資源も足りなくなり、日本の人口も経済も今後伸びていかない中で、どうしたら自分も周りも気持ちよく暮らせるのでしょうか。その学びと探求の旅を、Earth Companyさんとのコラボレーション企画でバリにて開催します。
http://school.greenz.jp/class/ikatsunatour-bali/

これからの社会・暮らしを体感する
いかしあうつながりスタディツアー in バリ(2020年7月見込み)

次回のツアーは2020年の7月中旬を予定しています。今回締切りでご参加できなかった方、日程があわなかった方、次回ご一緒できたらとても嬉しいです。 募集開始時に連絡をご希望の方は、以下のフォームにご入力の上、ご送信をお願い致します。https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfS2naRLNe8UeL0uQx0FFSOmdwBi3JLqd1nJYjgdPe9tVZJzA/viewform?usp=send_form