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誰の手にも、社会を変えるインパクトがある。時間やお金よりも貴重な「やりたい」気持ちに向き合って、海洋ゴミ問題に18歳で着手したボイヤン・スラットの生き方

(トップ画像:The Ocean Cleanup提供)

WWF(世界自然保護基金)のレポートによると、わたしたちは1週間に5g、およそクレジットカード1枚分ものプラスチックを食べているそうです。その多くは飲料水や食べ物から体に入るのですが、その原因を探るうえでも、海洋プラスチックゴミを無視することはできません。

タイ・バンコクのチャオプラヤ川(The Ocean Cleanup提供)

海に排出されるプラスチックゴミは毎年約100万トン。多くは海岸に打ち上げられるのですが、一部のプラスチックゴミは亜熱帯海洋循環と呼ばれる海流にのって、5つのゴミベルトに流れ込みます。ゴミベルトは海のど真ん中。所有者がいないこともあり、ずっとほったらかしにされてきました。

プラスチックゴミは 5 つのゴミベルトにたまる。現在、約5兆個のゴミ片が海に漂っている(The Ocean Cleanup提供)

この、誰も手をつけなかった海洋ゴミベルト問題を解決しようと立ち上がったのは、当時18歳の少年でした。

(The Ocean Cleanup提供)

Boyan Slat(以下、ボイヤン)さんは、オランダ出身の現在28歳。18歳の時に「NPO法人オーシャン・クリーンアップ」を設立し、海流を利用した海洋ゴミ回収システムの構想を「TEDx」で発表しました。彼のアイデアは大きな反響を呼び、160ヶ国から約38,000人の寄付者を集め、クラウドファンディングで約220万ドルもの資金調達に成功。

創立11年目を迎える「オーシャン・クリーンアップ」のチームメンバーは現在120人。海洋ゴミベルトのゴミを回収するシステムと、河川から海に流れ込むゴミを回収するシステム、2つの方法で今まで合計800万kg以上のゴミを海から取り除いてきました。次なる目標は、2040年までに海に漂う海洋プラスチックの90%を除去すること。チームはテストと改良を日々重ねています。

2隻の船をゆっくり移動させることで人工海岸線をつくり、魚や海洋動物をできるだけ傷つけることなく海洋ゴミ回収するシステム002「ジェニー」(The Ocean Cleanup提供)

河川に設置された「インターセプター007」。海に流れ込んでしまう前にゴミを回収し、海洋ゴミを減らしている。100%太陽光発電で稼働(The Ocean Cleanup提供)

好きなことに没頭して手を動かし続けてきた少年時代

ボイヤンさんが海洋ゴミと向き合うきっかけとなったのは、16歳のときに家族旅行でいったギリシャの海でした。ダイビングのライセンスを取得するために、テレビ番組で観るような美しい景色を期待しながら海に潜ったボイヤンさん。しかし彼の目にとびこんできたのは、魚の数よりも多いプラスチックゴミでした。この光景に衝撃を受けたボイヤンさんは、「どうしたら海のゴミを減らすことができるのか」と考え始めます。

子どもの頃から工作や実験が大好きだったボイヤンさん。2歳で自分の椅子をつくったり、8歳の時に自宅のキッチンで実験をして家の中を煙でいっぱいにしたり。10歳からは水ロケットに熱中し、スポンサーや大学生200人を集めてギネス記録を狙いました。

家族旅行のあと、ボイヤンさんの頭の中は海洋ゴミのことでいっぱいになり、何週間も寝れなかったそう。高校のサイエンスプロジェクトでこのテーマを選び、海洋ゴミ回収システムの構想を練りました。卒業後、ボイヤンさんは大学に進学して航空宇宙工学を専攻しますが、海洋ゴミ問題に集中するために大学を中退し、「NPO法人オーシャン・クリーンアップ」を設立したのです。

(The Ocean Cleanup提供)

自分の暮らしに未来の視点をプラスする

ボイヤンさんは、ものづくりをしている人たちに向けて、こう語ります。

自分の手に、社会を変えるインパクトがあるんだ、ということをまず知るべきです。自分の技術が、未来にどんな影響を与えるのか、自分はどうあるべきか。とことん考えてください。

「つくりたい」「やりたい」という気持ちは、時間やお金よりも遥かに有限で、貴重な資源です。なので、自分の欲求に素直に従い、それに全力を注いでほしいです。

私は何かすごい技術を持っているわけではありませんが、ボイヤンさんのこのメッセージにヒントを得ました。

医療従事者は人間の体を治療するために、体を直す方法を学ぶだけではなく、医療倫理学や生命倫理学も並行して学びます。

暮らしを整えるとき、手づくりのものをつくるときも同じように、そのノウハウだけ身につけるのではなく、自分なりの倫理的な視点を持つことが大切なのではないでしょうか。

例えば、多様性を大切にする視点、リジェネラティブな視点、誰も孤立させないボーダレス視点など。そうすることで、自分の足元だけではなく、もう少し外側、もう少し先の未来についての視点を暮らしにプラスすることができるのではないでしょうか。

さらに、ボイヤンさんはこう続けます。

今は、私は全力で海洋ゴミの問題に取り組みます。なぜなら、私には成功する責任があると思っているからです。「ほら、みろ。賢い人たちと豊富な資金をもってしても、海のゴミを回収するのは不可能だった」と言われないために。私たちが解決できなかったら、もう、誰もこの問題を解決できないと思うのです。

(The Ocean Cleanup提供)

自分の興味関心に向き合い、手を動かし続けることで魂がやどり、それが使命になる。ボイヤンさんは何も、特別な人にしかできない特別なことを成し遂げているわけではないのです。誰の手にも、社会を変えるインパクトがある。そう、彼は教えてくれています。

2024年の始まり。自分のやりたいことに目を向け、自分はどう未来とつながりたいのか、じっくり考える時間をとってみてはいかがでしょうか。

[Via The Ocean Cleanup, Liv Boeree「Boyan Slat on Solving The Ocean Plastic Problem」

(編集:増村江利子)