グリーンズでは読者の皆様にご寄付をお願いしています。

greenz people ロゴ

幸せのドーナツ化現象から「いかしあうつながり」へ [いかしあうつながりコラム 2]

こんにちは、編集長の鈴木菜央です。

「いかしあうつながり」について考えるコラム、今日は3本目です。今回は、2本目で書いたソーシャルデザイン4つの危機感のうち、「幸せのドーナツ化現象」を僕がどう解決していったか、そしてその結果見えてきたことについて書こうと思います。

2本目のコラムで、2010年ごろから、僕は自分の生き方、仕事の仕方にずいぶんと悩んだ末、もしかしたら課題解決の方法自体に問題があったのかもしれないと思うようになった、と書きました。

greenz.jpを良いメディアに育てたい、greenz.jpを通じて少しでも社会をいいところにしたいという思いで活動に邁進してきましたが、結果、ぜんそくが悪化し、ぎっくり腰で立てなくなり、パートナーとの関係も最悪になりました。まさに、「幸せのドーナツ化現象」です。

このままいっても、幸せになれそうもない……行き詰まりを感じていた僕は、仕事を含めた生き方を全体的に考え直すことに決めました。

そのころにソーヤー海くんを通じて改めて出会ったのが、パーマカルチャーという考え方です。パーマカルチャーとは、永続(パーマネント)する文化(カルチャー)をつくりだす考え方であり、デザインの方法論です。

「改めて」と書きましたが、はじめてパーマカルチャーという考え方を知ったのは、大学を出た最初の年、1999年ごろでした。ところがそこから10年以上、いつか実践したいと思いながらパーマカルチャーを「諦めて」いました。とにかく仕事、子育てで精一杯。その状況はいすみに移住(2010年)してからもあまり変わりませんでした。

でも、2013年ごろにソーヤー海くんと出会い、パーマカルチャーの考え方に触れた経験が、暮らしを大きくシフトチェンジするきっかけとなったのです。(ちなみに、ソーヤー海くんとの対話は7月16日ごろ記事になる予定です)

本当の君は、どんなふうに暮らし、生きていきたいのか?

まずはじめに取り組んだことは、自分の心に問いかけることでした。

本当の君は、どんなふうに暮らし、生きていきたいのか?

時間をかけて考えた結果返ってきたのは、

自分も家族も社会活動も、地球も大切にしたい。すべてを大切にできる生き方がしたい

という答えでした。

そのような生き方を実現するには、すべてをつなげてデザインしていく必要がある、と考えました。家族と過ごす時間、体と心の健康、地域とのつながり、自分の趣味、家族が食べていくためのお金を稼ぐこと、グリーンズを通じて良い社会をつくっていくことを、重ね合わせて、ひとつの行動から多様な収穫が得られるようにしていこうと決めたのです。

それらの要素をつなげていけば、最も大切な資源である「時間」に余裕ができてくるのではないか? 時間ができれば、自分の健康や、子供の成長など、長期的なことにエネルギーと時間を注げるようになるのではないか? というわけです。

妄想からはじめよ

そうです。妄想です。ありとあらゆるやりたいことを妄想しつつ、メモ帳に書き出していきました。

畑で少しでも自給したい、小屋を建てたい、オフグリッド発電したい、小さな家に住みたい、モノを仲間たちでシェアする暮らしがしたい、ぎっくり腰やぜん息を治していける余裕のある暮らしがしたい、子どもとできるだけ時間を過ごしたい、夫婦で会話をするきっかけがほしい、趣味の時間がほしい、体力づくりをする余裕がほしい、DIYをたくさん楽しみたい、パーマカルチャーを学びたい、災害が来たときにも安心な暮らしがしたい、このプロセスでの学びを、多くの人と共有したい、とにかく楽に生きたい…etc。

パーマカルチャーの原則のひとつである「小さく集約したシステムで最大限の収穫を得よう」を参考にしながら、持っている時間、お金と相談しながら、それぞれがどれくらいのエネルギー、お金、時間が必要か、そしてどんなふうに僕(と家族)のニーズを満たしてくれそうか、吟味しました。その中でも、かけるエネルギー、お金、時間に対して、得られるリターンが大きく、複数のニーズをみたしてくれそうなことがらを、優先的にやっていくことにしました。

自由にできる土地での小さな暮らし

どうしても外せなかったのは、自由にできる土地と、小さな暮らしを手に入れることでした。

それまではそれなりの庭がある150平米の大きな借家に住んでいましたが、これを期に150万円の手頃な土地を購入しました。小さな家は、たまたま友人が住んでいたトレーラーハウスを売りに出すとのことで、中古物件を4年の自動車用ローンを組んで購入しました。(貯金もなかったので、ほんとうにあの手この手でなんとかしました)

結果、電気代、水道代、ガス代が150平米の家の頃より、半分〜1/3程度になりました。荷物も大幅に減ったため、掃除にかかる時間も減り(それでも片付かないですが)、物欲もゴミも減りました。

自由にできる土地に、小屋、デッキをつくることにしました。できるだけこのプロセスを沢山の人と共有したいと思い、小屋はYADOKARI小屋部の部員、友人約100人と、デッキはつみき設計施工社、友人70人と、ともにつくりました。

僕自身が小屋や構造物をつくる技術を学びたかったことと、子どもたちの経験になり、それを多くの人と共有することで、DIY的価値観が広まるならうれしいなと思っていましたが、成果はそれに留まらず、僕のパートナーが手伝いに来てくれた僕の友人たちと直接つながったり、近所にもDIYをやる人が増えたりもしています。後には、普段から自然エネルギーを活用できて、災害時も安心できるように、小屋に100Wの小さなオフグリッドソーラー発電システムを設置しました。

地域と宇宙がつながる庭

最初はなかなかうまくいきませんでしたが、庭にできるだけ食べ物がなる植物を植えることで、食卓がにぎやかに、楽しくなっていきました。

最近では、草刈りをしなくていいように通路にバーク(木の樹皮。近所で無料で無限にもらえる)を敷き詰めたり、毎年植えなくていい多年草、樹木、勝手になる植物を増やしているので、どんどん楽になり、すこしずつ収穫が増えてきています。庭仕事は食べ物を生産するだけじゃなく、家族との会話も増え、僕の体と心が癒やされていきました。

子どもたちが飼いたがっていた、にわとりを飼うことも決めていました。

たまごが手に入れるだけでなく、(僕らも)子どもも学びにもなり、庭の虫を食べてくれる、生ゴミを食べてくれる、フンが庭の肥料になるなど、いいことがたくさんあります。はじめはにわとりの鳴き声を近所に聞かせないように、母屋のすぐ近くに設置していましたが、あるとき通り沿いのほうが、近所の人との会話のきっかけになったり、えさを持ってきてくれることに気が付き、通り沿いに小屋を移しました。

かわいがっていた初代のチャボ二羽が侵入したイタチにやられたときは、近所の人たちがお花をお墓に供えてくれて、死んでからも近所の人達とつなげてくれた、なんていい子たちだったんだろうと家族で泣きました。今ではうさぎも飼っていて、近所の人がにんじんや野菜をもってきてくれます。

仕事の合間に庭に出て、植物、虫たち、動物たちの営みを眺めたり、太陽や風が吹き抜けるのを感じると、自分が時間的にも空間的にも、とてつもない命の循環の一部なんだ、と思わされる瞬間があります。

そして、地域と自分の循環をつくる

妄想をはじめてから数年後、僕の幸せのドーナツ化現象は(だいたい)解消され、だいぶ楽になりました。腰も悪くなくなり、ぜん息も軽く、妻との関係も以前と比べれば(概ね)改善され、今は東京に行くのも週2日間になり、地域のことにもエネルギーをかけられるようになっています。

そこで、生まれた余裕で、仲間同士でありがとうを交換する地域通貨「いすみ発の地域通貨米(まい)」をはじめました。

さまざまな年齢、職業、趣味の人がいることで、さまざまなモノがシェアされ、困りごとが解決しています。また、地域通貨参加者にはどんな人がいるか、どんなスキルや経験を持っていて、何を求めているのかが見えるようになったことで、困ったときは頼もう、と思える安心感があります。何かを始めるときにみんなに声をかけやすくなり、引っ越してきた人がすぐに友人関係を広げることができたりと、いすみが暮らしやすくなったように思います。

個人的にも、地域通貨でにわとりの世話を頼むことができたり、マッサージを受けたりと、かなり恩恵を受けています。みんなのためであり、僕と家族のためでもある、というわけです。(地域通貨については7月19日ごろに記事を公開予定です)

地域通貨と前後して、永続する文化をつくる人になるための実践的学びの場「パーマカルチャーと平和道場」を、ソーヤー海くんはじめ仲間たちと一緒に開くことにもつながりました。今年に入って合計6人の研修生を受け入れたり、さまざまなワークショップ、合宿が随時開催される状況になってきました。道場をつくってきた仲間たちが移住してきて、地域通貨や他の活動にも参加してくれることで、どんどん暮らしが豊かになってきています。

そして最近僕が熱中しているのが、地域で仲間と助け合いながら仕事をつくって生きていける「ローカル起業」を地域全体で応援するプロジェクト「いすみローカル起業プロジェクト」です。起業したいと思う人が、困難を仲間やまちの人たちとともに解決していき、起業して、まちのみんながそれを支える、というカタチを目指してコミュニティづくりを進めています。2年目の今年は、いすみ市民が、本当のローカル経済の状態を自ら調べて、可視化することにも取り組んでいます。

自分のためでもあり、社会のためでもある

最後に、取り組みを通じて僕が感じた「幸せのドーナツ化現象」から抜け出すコツをまとめてみたいと思います。

まずは、自分の心に本当はどのように生きていきたいのか、どのように暮らしたいと思っているのかを恐れずに問いかけることです。

これは、恐ろしいことかもしれません。自分の本心に正直になるということは、現状を変えなくてはいけないかもしれないから。変えることには、多大なエネルギーと勇気が必要です。しかし、変えられるかどうかは別として、いったんは自分に聞いてみることが大事だと思います。もしこれが難しければ、心を開ける友人に話を聞いてもらうのもよいかも。

次に大事なのは、現状を観察すること。今、満たしたいけれど、満たされていないニーズはなにか? 誰のニーズが満たせていないのか? どこが、一番変えたいところなのか? 性急に変える前に、じっくり観察することが大事です。観察しながら、自分の暮らしの現状の要素がどのように相互関係をもっているか、システム図として書いてみるのもおすすめです。

その上で、やめることをリスト化して、優先順位をつけていく。一つの目的しか果たさない、大幅に時間を取っている、一つの目的は果たすが、他の問題を引き起こしていることがあれば、それはやめるべき事かもしれません。簡単にやめられてリターンが大きいことから順番にやめていくと良いでしょう。

そして、新たにはじめることは、できるだけ小さくはじめましょう。簡単にできること、すぐできること。失敗してもすぐ引き返せます。そして自分と家族、できればつながりがある人のニーズが満たされることがよい。「友達が増える」「学びがある」「子どもの面倒を見てくれる」「支出が減る」など、できるだけ最大限の収穫が得られることを選びましょう。

うまく回り始めたら、視点を追加していきましょう。

ひとつは、生物資源の活用です。植物は勝手に成長してくれるし、犬や猫は勝手に癒やしてくれます。友達すら、生物資源です。「やりたい」という気持ちが資源です。

小屋をDIYすることを100人でやることで、僕としては楽ができたわけです。みんなで楽しい時間を過ごして、一人でつくるより楽だし、参加者から感謝される。一歩間違えるとやりがい搾取ですが、みんながさまざまな利益を得られる状況をつくると、勝手に物事が進むようになります。中心がない組織や動きをつくるとき、これは極めて重要なことだと思います。グリーンズでも、ずっとみんなの「やりたい」を活かした組織づくりを心がけてきました。

それから、多様性も資源ですから、最大限活かしましょう。多様な人が参加するポットラックは多様な料理と多様な人が交わり、とても楽しいものです。地域通貨は多様な人が参加すればするほど、ありがとうの交換が増えます。多様性が高ければ、誰かの弱み、困りごとすら、出会いのきっかけになり、誰かの可能性を開くチャンスになります。

実は、これらはパーマカルチャーの10〜12ある原則の一部です。気になる人は、調べてみてください。

ここまでで、僕は4年にわたってやってきた、ドーナツ化現象の解消に向けた取り組みをギュッと圧縮してお伝えしました。いろいろダイナミックにやってきた印象を受けるかもしれませんが、毎週毎週、毎月毎月、少しずつ暮らしに手を加えていった4年間でした。一気に成果がでることはありませんので、じっくり取り組むことが大事だと思います。

今後の課題

ドーナツ化現象がだいぶ解消されたといいましたが、まだいくつか、課題が残っています。

日常の中で習慣的に体を動かす余裕をつくりたいのですが、まだつくれていません。もうひとつは、地域の活動を広げすぎたことで、ふたたび中心がおろそかになりつつあります。そして地域通貨、ローカル起業プロジェクトなどの地域の活動が、まだまだ誰かが勝手に動く状態にまでなっていません。いろいろと、道半ばです。

それでも、僕の経験が皆様の参考になればうれしいです。

次回のコラムでは、ソーシャルデザインの限界を超えていく「いかしあうつながり」の事例を考えていきます。

お楽しみに。