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東日本大震災が市民の社会活動に与えた影響って? greenz.jp編集長・鈴木菜央による「ソーシャルデザイン進化論」【第5回】


ミニ太陽光発電システムづくりを通じてエネルギーと向き合う藤野電力(photo:袴田和彦)

9月末についに完成した「ソーシャルデザイン白書2016」。greenz.jpを寄付で支えてくださる「greenz people」にだけお届けしていますが、読者のみなさんにも一部をお見せします!まずは編集長・鈴木菜央が書き下ろした第1章「ソーシャルデザインの歩み」をお楽しみください◎

2011〜2016 コミュニティ、暮らしから、まちづくり

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東日本大震災から1週間後の岩手県上閉伊郡大槌町

2000年以降のソーシャルデザインを振り返るとき、もっとも大きな転換点になったのは2011年3月11日の東日本大震災と、それに続く福島原子力発電所事故ではないかと思います。このとき、greenz.jpの月間読者数が突然、これまでの2倍の月間12万人を超えました。

なぜ突然greenz.jpを読む人が増えたのか?僕は、3.11をきっかけに、2つのことが明白になったからではないかと思っています。ひとつは、自分の暮らしと社会の問題がつながっていることです。特に福島原発事故において明確になったのが、エネルギー問題に無関心だった自分にも、事故の責任がないとは言えないということ。もっと言えば、誰もが被害者で、加害者という状況です。

90年代に環境においてもそのような考え方が広がったと書きましたが、この時に、社会問題についても同様の認識が広がったのは、大きなポイントだったのではないかと思います。もうひとつが、心でつながった人々の中(コミュニティ)で生きることの重要性です。

震災をきっかけに、それがどれだけ貴重であり、今までないがしろにしてきたかを、みんなが思い知らされました。その重要性に気がついたとき、「それはいったいどこにあるのか?」「どうすればもう一度つくり出せるのか?」知りたいと思った人たちから、greenz.jpのタグライン「ほしい未来は、つくろう」(=ほしいコミュニティは、つくろう)というソーシャルデザインのメッセージ、考え方が、震災前と比べて圧倒的に、そして切実に求められたのだと思います。

そして2012年には、僕たちグリーンズも書籍『ソーシャルデザイン』を発刊。大きな反響を呼び、さらに翌年『日本をソーシャルデザインする』も出版しました。

2011年以降の「ソーシャルデザイン」のトレンドはたくさんありすぎて書ききれませんが、いくつか選んでみました。

【コミュニティ】


まちづクリエイティブの事務所を兼ねたMAD City Gallery

上記のような心理もあり、2011年以降、【コミュニティ】に関する「ソーシャルデザイン」は以前からあったものも含め爆発的に増えました。

それは例えば、千葉県松戸市の一角で“クリエイティブな自治区”をつくろうという「MAD City プロジェクト」(2010)、まちをみんなでレジリエント(環境負荷が低くて暮らしやすくて助け合いがあって経済危機や災害に強い)なまちに移行していこうという「トランジションタウン浜松」(2010)、神奈川県相模原市の旧藤野町エリアで330家族500人の間で流通している地域通貨「よろづ屋」(2009)、移り住むためのきっかけと、移住してきた後のコミュニティづくりを手助けする「京都移住計画」(2012)、自分が好きなテーマの部活を立ち上げることでまちづくりに参加する「前橋◯◯部」(2012)などです。

これらがこれまでのまちづくりと大きく違うのは、一人ひとりの創造性を活かす仕組みが内包されていること。自分の得意なこと、おもしろいと思うことの実践が、街の発展につながる仕組みだから、画期的なのであり、今後爆発的に発展しそうな分野です。

また、あらゆる分野の活動が、コミュニティの考え方を取り入れていったのは、2011年以降の大きな特色ではないかと思います。

【コミュニティ子育て】


カフェ併設のまちの保育園 (撮影:Satoshi shigeta(c)Nacasa&Partners Inc.)

子育てにおいても、みんなで子どもを育てることで、子育てによる孤立、子どもの貧困など、子どもをめぐる問題を解決しようという動きが加速しています。

自然体験活動を基軸にした子育てのあり方として、日本にも広がっていた「森のようちえん」(2005)は近年、共同保育、いわば【コミュニティ子育て】の面を重視した活動に進化してきているそうです。図書館、カフェなども併設され、街ぐるみで子どもを育てる環境をつくる「まちの保育園」(2010)は保育園の新しいあり方として定着しつつありそうです。

子どもの食の貧困や孤食をサポートするために食事を提供する「子ども食堂」(2012)のムーブメントも、広い意味ではここに位置づけられるかもしれません。

【対話まちづくり】


静岡県牧之原市の対話の場

まちづくりも、これまでのトップダウンのまちづくり(ことごく失敗に終わりましたが)から、コミュニティ型、ボトムアップを主体にしたまちづくりがどんどんと進化してきています。

パイオニアは「牧之原市の市民参加防災まちづくりの取り組み」(2007)、地域、日本、世界が抱える社会課題を、市民の創造力で解決することに挑戦する枠組み「issue+design」(2008)でしょうか。

大阪府阪南市の団地を舞台に、自主独立の精神で自ら課題解決に取り組む地域コミュニティ「箱の浦まちづくり協議会」(2012)、「ファシリテーション市政」として注目されている「富山県氷見市の対話型まちづくりの取り組み」(2014)なども興味深い事例です。

【暮らしから】


独立型の自家発電のお家に暮らす佐藤夫妻

一人ひとりの暮らしと社会問題が密接に関わっているという認識が広がり、暮らしを手づくりする動き、暮らしづくりを通して社会をつくる動きが、特に2013年以降に活発化したように思います。

事例でいうと、経済社会や消費社会から降りて豊かに生きる【ダウンシフト】という生き方を実践する髙坂勝さん(書籍『減速して生きる – ダウンシフターズ』の出版は2010)、電気代200円で豊かな暮らしを実践するはらみずほさん(記事掲載2013)、新築の自宅で電力を自給自足しながら【オフグリッド】ライフを広める佐藤隆哉さん・千佳さん(記事掲載2015)などです。

【エネルギー】


あわくら温泉 元湯

2011年以降、大きく盛り上がった動きが、【エネルギー】に関するソーシャルデザイン。これまで巨大システムだったり、ブラックボックスだったりしたエネルギーを、自らつくったり、活用したりする動きです。

個人レベルでエネルギーをつくることはかなり非現実的に思われていましたが、北海道を中心に独立型発電を広める早川寿保さん(2011)、ミニ太陽光発電システムをつくるワークショップを全国に広げた「藤野電力」(2012)によってこの分野は切り開かれました。

また、地域でのエネルギー自給の取り組みをリードしてきたのは「ISEP(環境エネルギー政策研究所)」による「全国ご当地エネルギー協会」(2014)です。西粟倉村の温泉ゲストハウス「あわくら温泉 元湯」(2015)は、地域の温泉に薪ボイラーの導入を進めていますし、前述の「スローコーヒー」は、自家発電でつくった電気で焙煎する「ソーラー焙煎」(2015)に取り組んでいるなど、商売での活用も広がりつつあります。

【DIY】


つみき設計施工社

上記【暮らしから】と密接につながっていますが、震災後、自分の住まい方、暮らし方を取り戻し、自らつくろうという志向が強まっているように思います。

事例は、施主が実現したい暮らしを参加型のリノベーションでつくる「つみき設計施工社」(2010)、設計から工事まで、すべてのプロセスに施主を巻き込んで、自分たちの手で家づくりをする建築家集団「ハンディハウス」(2011)、1,000人以上が登録し、小屋を次々と“コミュニティビルド”でつくっていく「YADOKARI小屋部」(2014)、車輪がついた小さな家(タイニーハウス)をみんなで手づくりする「Simplife」(2014)、自分で家をつくるために必要な建築知識と大工技術を身に付けることができる学校「いえづくり教習所」(2015)などです。

また、【暮らしから】と【DIY】に重なる領域になるでしょうか、軽トラックの荷台に載せられるモバイルハウスを手づくりして、旅をしながら小さくて自由な暮らしの素晴らしさを伝える手塚純子さん(記事掲載2015)、賃貸の自宅を徹底的にDIYしながら、賃貸でもできる“自分でつくる暮らし”を広める久米まりさん(記事掲載2015)、手づくりのウェディングをみんなでつくる「ハッピーアウトドアウェディング」(2014)、高品質低空飛行生活を試みながら、主にウェブサイトを使った地域共同体づくりを生業にする夫婦ユニット「暮らし方冒険家」(2010)など、個人のライフスタイルからはじまる「ソーシャルデザイン」が発展しつつあります。これらはもちろん、ソーシャルメディアとワークスタイルの進化の恩恵もあるでしょう。

【シェア】


ウェル洋光台

【シェア】は、資源の有限な地球で生きる私たちが幸せになるためにできる基本的なことですが、世界的な流れで【シェア】の「ソーシャルデザイン」が広がりをみせています。

福岡県糸島市でエネルギー、たべもの、仕事(お金)をつくり、持続可能な暮らしをつくるシェアハウス「いとしまシェアハウス」(2013)、“贈り合い”を住人同士が日々行う、神奈川県横浜市の実験的シェアハウス「ウェル洋光台」(2013)、千葉県いすみ市の古民家をリノベーションして地域づくりの入り口になろうとしている「星空の家」(2014)など、社会的テーマをもったシェアハウスは多様に増えてきています。また、社会をつくる起業家のコミュニティでもある「Impact HUB」(東京は2012)など、社会的テーマを持ったコワーキングスペースも増えてきます。

また、宿泊客同士をつなげ、岡山倉敷市の文化につなげる「有鄰庵」(2013)、北九州市で旦過市場の横に立ち、地域の食への入り口を提供する「Tanga Table」(2015)など、地域につながるゲストハウスも大きな流れになっています。全国300か所以上に広がっている、小さな私設の図書館をつくり、広げる仕組み「まちライブラリー」(2008)も【シェア】の進化系として興味深いです。

【インクルーシブ】


恋する豚研究所

多様なバックグラウンドをもつ個人が幸せになるチャンスから外された状態を「ソーシャルデザイン」でカバーして、みんなを社会に含め(【インクルーシブ】)ていこう、必要なら制度を変えていこうという動きも、近年注目度が上がってきている分野ではないでしょうか。

その中でも特筆すべき項目のひとつは、LGBTなどの性的マイノリティの人々をめぐる「ソーシャルデザイン」。“ありのままの自分”を誇り、自分のしたい姿で祝福されることで、“成りたい人”への一歩を踏み出してほしいとの想いから、2011年より毎年開催している「LGBT成人式」(2011)や、いきいきと働ける職場づくりを通じて、性的マイノリティが暮らしやすい社会づくりを目指す「虹色ダイバーシティ」(2013)などが活躍しています。

2015年、アメリカの最高裁が同性婚を認めたり、同年、同性カップルを結婚に相当する関係と認める書類発行制度が東京都渋谷区と世田谷区で始まりましたが、これらの出来事はLGBTコミュニティとアライ(味方)たちの誇るべき成果です。

そして、もうひとつ取り上げたいのが、障がいのある方が社会から排除されている問題をめぐる「ソーシャルデザイン」です。精肉やベーコン、ハムなどを製造・販売し、レストランを併設しながら、実は社会福祉法人が運営する就労継続支援施設でもある「恋する豚研究所」(2012)、障がいのある人たちが一流ショコラティエとして働いている「ニュースタンダードチョコレートキョウト by 久遠」(2015)など。歴史ある分野ですが、イノベーションが起きつつあるようです。

2016年ソーシャルデザインの現在地はどこか?

さて、ここまで「ソーシャルデザイン」が生まれた背景、誕生、広がり、進化と見てきました。いかがでしたでしょうか?

どんなことを感じましたか?ぜひ、建設的意見、忌憚なき感想、愛のあるツッコミ、事実関係の訂正etcをお待ちしています。(https://www.facebook.com/suzukinaoもしくはnao@greenz.jp)これは鈴木菜央の個人的視点による、事件的な文章です。本章がみんなにとって、議論の出発点になればうれしいです。最後に、これからミームになりそうな考え方、あり方を書き出してみました。多少僕の願望も含まれている気がしますが、ご容赦ください。

地域に資するゲストハウスの広がり
地方移住のサポートの仕組み
地域での起業の招待と集積の試み
対話型の地域づくりの加速
トランジションタウンの広がり
リノベーションまちづくりのさらなる一般化
公共の場所がどんどん公開、共有されていく動き
公共の概念のアップデート
部分的または完全オフグリッドな暮らし
まちの果樹を活かした食べられるまちづくり
貧困問題に対応するためのコミュニティガーデンの活用
教育を通じた寛容な社会づくり
エディブル教育
ギフトエコノミーの探求
個人のソーシャルデザインをつなげるオープンソース型の活動の広がり
非営利メディアを活用した活動瞑想、マインドフルネス、NVC(非暴力コミュニケーション)など、ソーシャルデザインに関わる人の心エネルギー自給と地方自治の融合
地域通貨を活用した地域経済づくり
オーガニック、フェアトレードのコミュニティ化あらゆる活動の、持続可能性、レジリエンスの議論との融合人間関係のデザインを含むアーバンパーマカルチャー
ITを活用したインクルーシブ社会を目指す動きの拡大ポスト資本主義社会を見据えた新たな経済の仕組みづくり
まちづくりとメイカームーブメントの融合
フラットな組織形態の模索
協同組合の思想の広がり
発酵から学ぶこと

流れでみるソーシャルデザインの歴史

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鈴木菜央(すずき・なお)
greenz.jp編集長/NPOグリーンズ代表理事
76年バンコク生まれ東京育ち。2002年より3年間「月刊ソトコト」にて編集。独立後06年ウェブマガジン「greenz.jp」創刊。07年よりグッドアイデアな人々が集まるイベント「green drinks Tokyo」を主催。メディアとコミュニティを通して持続可能でわくわくする社会に変えていくことが目標。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』

第1章「ソーシャルデザイン進化論」のコラム連載はこちら

【第1回】「ソーシャルデザインってなんだろう?」(11/14公開)
【第2回】「ソーシャルデザインはどこから生まれた?」(11/15公開)
【第3回】「ソーシャルデザインはいつ多様化した?」(11/16公開)
【第4回】「greenz.jpが生まれたのはどんな時代?」(11/17公開)
【第5回】「東日本大震災をきっかけに、何が生まれた?」(11/18公開)

この記事でご紹介している「ソーシャルデザイン進化論」ほか、ソーシャルデザインの過去・現在・未来を1冊にまとめた『ソーシャルデザイン白書2016』は、People’s Booksチームが、これまでの以上の苦難を乗り越えて手がけた本です。「気になる、読んでみたい!」という方は、これを機に「greenz people」に参加してくださると嬉しいです。そして、本を手に取りながら、一緒にソーシャルデザインについて考えませんか?

『ソーシャルデザイン白書2016』の目次

■第1章 ソーシャルデザインの歩み
ソーシャルデザイン進化論 by 鈴木菜央(greenz.jp編集長)
■第2章 ソーシャルデザインの現在地
暮らし×ソーシャルデザイン by 増村江利子(greenzシニアエディター/シニアライター)
選択×ソーシャルデザイン by 赤司研介(greenzシニアライター)
未来へ残す言葉×ソーシャルデザイン by 磯木淳寛(greenzシニアライター)
自分らしさ×ソーシャルデザイン by 池田美砂子(greenzシニアエディター/シニアライター)
スタディ×ソーシャルデザイン by 兼松佳宏(greenzシニアエディター/シニアライター)
移住×ソーシャルデザイン by 平川友紀(greenzシニアライター)
パーマカルチャー×ソーシャルデザイン by 鈴木菜央(greenz.jp編集長)

■第3章 ソーシャルデザイン 未来への仮説
対談:暮らしの未来[わたなべあきひこ×徳永青樹×増村江利子] by 石村研二(greenzシニアライター)
対談:言葉の未来[島田潤一郎×磯木淳寛] by 新井作文店(greenzシニアライター)
対談:スタディの未来[中原淳×兼松佳宏] by 兼松佳宏(greenzシニアエディター/シニアライター)
対談:日本の未来[鎌田華乃子×鈴木菜央] by 村山幸(greenzシニアライター)


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