「あわくら温泉 元湯」がOPEN! 人口1600人の村・西粟倉のエネルギー会社「村楽エナジー」がつくろうとしているのは、地域みんなが幸せになる仕組み

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photo by 片岡杏子

わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

「エネルギーを活用しながら地域課題を解決して、地域がもう一度生きる力を取り戻す」。

そんな試みを行なっているのが岡山県・西粟倉村です。グリーンズでも、西粟倉・森の学校の取り組みを紹介したことがあるソーシャル先進村です。

再生可能エネルギーによって地域を豊かにすることを実現させつつあるのが西粟倉。どのようなつながりから、地域資源のエネルギーを活用するに至ったのでしょう。そこを掘り下げていくことによって、他の地域でも「なるほど、俺たちもできる!」と思えるような、グッドアイデアの輪を広げていきたいと考えています。

そんなわけで「わたしたちエネルギー」の“言い出しっぺ”であるgreenz.jpの鈴木菜央さん(以下、菜央さん)と一緒に、西粟倉村へ行ってきました。地域の資源は、どんなエネルギーを生み、そして、そのエネルギーはどんなつながりを生み、豊かさをもたらしているのでしょうか。

人口1600人の村・西粟倉のエネルギー会社「村楽エナジー」

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岡山県英田郡西粟倉村は、人口1600人、岡山県北の端っこにある村です。地域の過疎高齢化が進む2005年、国策として進められていた市町村合併(平成の大合併)からあえて離脱して、村を維持、自立したむらづくりを目指した希有な村です。

小さな村が必死の模索で導き出した生きる術は“地域資源を生かして循環させること”。

西粟倉村は面積の95%を山林が占めていることから、村の主要産業である林業を軸とした「百年の森林(もり)構想」という、森林管理の合理化を進めて地域資源の価値を高める理念を掲げています。

「百年の森林(もり)構想」の一環として今、村が積極的に取り組んでいるのは地域資源エネルギー。西粟倉村は2013年に「環境モデル都市」に選定され、豊かな森林から切り出される木材を活用する森林バイオマスによる、再生可能エネルギーの自給率100%の地域づくりを目指すことになりました。

西粟倉村は、間伐で山林に切り捨てられる木材の有効活用として化石燃料に代わる熱エネルギー利用を計画します。それが、温泉加熱の「薪ボイラー化」。

今までは、年間約200,000リットルの灯油を使って温泉を温めていました。そのエネルギーを間伐材のバイオマスに変えることによって、約1,000平方メートルの山林に切り捨てられている木材の有効活用ができて、なおかつ二酸化炭素の排出量を493トン削減。さらに石油よりも木材のほうが安いのでランニングコストも下がります。

森林の資源豊かな西粟倉村にとって理にかなったエネルギー活用。西粟倉村では、2014年度から3年間でこれら温泉3施設の加熱ボイラーを薪ボイラーに更新することを目指しています。

西粟倉村の薪ボイラー運用を引き受け、エネルギーを供給しているのが「村楽エナジー株式会社」(以下、村楽エナジー)。岡山県内を中心に、エネルギー政策のコンサルティングを手がけていた井筒耕平さんは2014年西粟倉村へ移住。熱供給会社として、西粟倉村の薪ボイラー事業を担います。
 
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井筒耕平(いづつ・こうへい)
1975年生まれ。村楽エナジー(株)代表取締役。博士(環境学)。岡山県西粟倉村在住。再生可能エネルギーおよび林業に関する実践および調査研究。西粟倉村にて、薪ボイラーのための薪工場の運営、薪/丸太ボイラー導入コーディネートを行い実践的な木質バイオマス利用を進めると同時に、客観的な視点を持った調査研究やSNS発信を行っている。

井筒さん 西粟倉村は早々に薪ボイラー導入を決めていましたが、プレイヤーがいませんでした。僕は、2013年に西粟倉村が薪ボイラーを導入するためのコンサルとして関わっていたこともあって、えいや! と西粟倉村に移住しました。

僕たちは、村の資源をバイオマスエネルギーに変えて、エネルギーを地域のために活かす挑戦をしていこうと思っています。

村が描く未来のヴィジョンがはっきりとしているのが西粟倉の特徴です。それは村として、課題をきちんと把握しているからこそ。

村役場は自らのヴィジョンをどんどん具現化していく民間企業を積極的に支援します。逆に民間企業から「こういうことがしたい」というアイデアも、村役場がやりたかったことと合わせて、新しいものをつくる。それが、西粟倉の強さなのです。

エネルギーが地域にもたらすもの

実際に、村楽エナジーが西粟倉村で行なっているエネルギー供給の現場を訪ねます。まずは「百年の森林」から切り出されたC材(間伐材/良い材からA材・B材・C材と上から順に価値がつく)を集めて、温泉を温める薪ボイラーにくべるための「薪」をつくります。
 
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西粟倉村・森林組合の一角にある村楽エナジー薪工場

井筒さん 林業経営を行う西粟倉村から、1トン6,000円でC材を買います。安いようですがそれでも地価の倍近くの値段です。薪ボイラーによってC材の値段があがった。それが木の価値を生むということです。

化石燃料は海外から買わなくてはいけないけれど、木だったら村でまかなうことができる。エネルギーの自給自足です。

しかも間伐材なので、燃やせば燃やすだけ森が整います。そして地域内に林業に関する仕事が増えます。僕はそういうことがやりたかったし、僕の大学の修士論文のテーマでもありました。

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1トン3000〜5000円と、林業市場ではあまり価値のないC材が積まれている

また、「なるべく外にお金を出さないこと」こそが、この地域資源エネルギー事業の本懐だと言う井筒さん。

地元にどれだけのものがもたらされたのか計算をしてみると、年間、「灯油10割使用」で1100万円だったものが、「薪を7割、バックアップ用の灯油3割使用」で700万円にコストダウン。かつ、木材分は山主さんおよび西粟倉村役場の収入になるため外に出て行くお金が減り、内需が増えて地域内で価値が循環するのです。

また雇用の面では、薪工場のスタッフは現在1名と、村内の雇用が増えました。彼らは村楽エナジーのスタッフなのですが、「地域おこし協力隊」でもあるのです。西粟倉村では、村役場が国の事業である地域おこし協力隊制度を利用して村楽エナジーのスタッフを採用。そのため当面3年間は人件費ゼロという、画期的な運用をしています。

井筒さん 地域おこし協力隊は公金が入っているから「稼いじゃだめ」「公(おおやけ)の仕事しかしちゃだめ」ましてや「一企業で働くなんてとんでもない」が一般的な地域おこし協力隊の在り方です。

ですが、西粟倉は、民間企業にどんどん入れて事業を成立させていきます。これは、他の多くの地域ではありえないことです(笑) しかし、それは西粟倉村が支援する企業が、“村の未来”に必要だからです。

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村楽エナジーのエネルギー供給事業は、現在、年間約500トンの薪を製造しながら「遊〜とぴあ黄金泉」の薪ボイラーに朝7時半から夕方までに、1日4回投入するのが主な仕事です。

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井筒さん 来る日も来る日も、購入した丸太をひたすら薪割りします。最近、自分たちでも森に入って林業をはじめました。薪ばっかり割っていたら頭がおかしくなっちゃうから、森のなかで木を切り倒すという、エキサイティングな仕事も入れたほうがいいかなと(笑) もちろん、林業を志す意義は深いです。

それに、森から木を切り出すところからはじめたら、頭の中で森林と人の流れが繋がって、モチベーションが上がるんです。エネルギーを運営する会社として、僕らはその流れを体感しておいたほうがいいかなと。

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菜央さんも薪ボイラーへ投入を体験! なぜか嬉しそう(笑) 一回の投入に薪ボイラー1台につき約100kgの薪を投下する重労働。

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「またこの薪をボイラーに入れる作業がいいんですよ。チップだと自分の手じゃ入れられないでしょ?」。森の資源を自らの手でエネルギーに交換する作業。それも醍醐味だと井筒さん。

また西粟倉村は、森林整備による熱利用可能な木材が、年間約5,000トンと多いため、将来的に木質バイオマス燃料による公共施設熱供給システムおよび地域暖房システムも検討中。村役場が主導となって地域熱供給をはじめる予定ですが、そうすると、村の公共施設のエネルギーがすべて薪ボイラーになります。

…と、地域熱供給の利便性や有効性についてお話を伺いましたが、「自分たちの地域の薪でお風呂を焚くことって、愉しいし、薪のお風呂は単純に気持ち良いんですよ」と井筒さん。
 
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井筒家のお風呂はなんとイマドキ五右衛門風呂! 「この五右衛門風呂を見て引越しようと思いました」と井筒さん。

毎日、薪をくべて、火を起こしてお風呂を炊いている。自然エネルギーを使うことの気持ち良さをこよなく愛している井筒さんだからこそ、地域を変えるエネルギー事業を行なえるのかもしれません。

村の温泉施設であり、交流拠点であり、小商いの場であり、メディアでもある「あわくら温泉 元湯」

村楽エナジーの、もう1つの事業である「あわくら温泉 元湯」(以下、元湯)についても紹介します。

2011年に廃業して4年間休業していた西粟倉村の公営温泉「元湯」を、村役場が村楽エナジーに業務委託。空き家だった元湯を地元の大工さんと自分たちの手で改修して2015年春に再オープンしました。
 
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元湯は、日帰り温泉とゲストハウスとカフェが楽しめる施設。森の中のお風呂を思わせる佇まいの母屋には、地元のグラフィックデザイナーにデザインしてもらったロゴマークが。ちなみにこのロゴは入浴2年分と “物技交換”したものです。
 
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photo by 片岡杏子

井筒さん 村役場は2015年度に元湯に薪ボイラーを導入することを決めていたんです。営業再開していないのに(笑) 村役場は元湯を継いでくれる人を探していたけど見つからない。「じゃあ、僕らがやります」と手を挙げました。

それは、温泉経営者側の目線で薪ボイラーを見たいと思っていたからです。今まで政策として薪ボイラーを“導入すること”を薦める側だったけれど、“導入される側”の立場になったとき、薪ボイラーのメリット、デメリットが体感できるかなとも思いました。自らがユーザーになることが大事だなって。

村楽エナジーは、子育て真っ最中30代夫婦が、社員4人と運営している会社です。暮らしも仕事も子どもと一緒が当たり前。そんな「大人も子どもも一緒が嬉しい環境づくり」は、こどもバリアフリーな館内施設、授乳室の完備、安心安全素材でつくられた遊び場設置など、元湯にも反映されています。
 
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子供も大人も楽しめるバリアフリーの空間。「お店にお客さまをお迎えする気持ちというよりは、我が家におともだちを招くために、家の中を掃除したり、献立を考えたりしている気持ちと似ています」と、もめさん。
 
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井筒もめさん エネルギー会社が運営する温泉宿というのを意識しすぎると、面白くないなと思っているんです。

「自然エネルギーを活用しています」と言うよりも、「薪でごはんを炊いているから、美味しいですよ」と、お客様との自然な会話の中で「この温泉は、もうすぐ薪ボイラーで温めるんです」など会話の中でエネルギーが話題になればいいかな、と思っていて。

エネルギーは、そこまで表舞台に出なくて良いと思いますが、伝えることで知ってもらい、そこに価値が生まれればいいなと思います。

そんな元湯の居心地の良さは、温泉の気持ち良さや空間だけではありません。地域資源を有効活用して、エネルギーを使うほど地域が良くなっていくという付加価値も、大いに作用しているのです。

村楽エナジーの屋台骨である地域資源エネルギーを「気持ちよい温泉」というかたちで広報するという役割を担っているのも元湯です。
 
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元湯は「西粟倉・森の学校」のワリバシ、「木工房ようび」オリジナルの風呂桶&椅子、「ablabo.」のフレッシュオイル、「酒うらら」の日本酒などを扱い、西粟倉村で挑戦しているベンチャー企業の“いいもの”を発信しています。
 
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元湯のごはんは薪で炊きます。小難しいエネルギーの話を長々と語るよりも、薪で炊いたおいしいご飯を食べたら一発で自然エネルギーの良さが伝わります。

自然エネルギーの周りには「面白いこと」が集まる?

バイタリティ溢れる女将が切り盛りする元湯は、山奥の村とは思えないほどバラエティに富んだイベントが行なわれています。
 
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元湯が小さな村にもたらすものは、温泉だけでありません。元湯では、ヨガ教室が不定期で開催。ヨガのあとに温泉で一汗流す、なんてオツなことも。また月に一度、足つぼマッサージができる日もあります。
 
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そして、「類は友を呼ぶ」。西粟倉村は、昔から起業家を多く受け入れている村ですが、「田舎で新しいことをしよう!」という挑戦者たちが自然と元湯に集まります。

くだらない話をして酒を酌み交わしているうちに、アイデアが生まれて新しい事業に繋がる。そんなクリエイティブな生態系が、この元湯という自然エネルギーを活用する場所から生まれているのです。

エネルギーは、ひとが活用するから “エネルギー”になる。

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菜央さん いやぁ、いろいろ観せてもらいましたが、村楽エナジー、本当に面白いですね。普通のベンチャーとはまったく違った考え方で運営されていて、こんなベンチャーの在り方があるなんて!って目からうろこでした。

サステナビリティや、地域熱活用といったマクロな視点と温泉宿経営で小商いをしたり、「出張床屋さん」のような困り事解決まで、ミクロな視点、両方があるし、環境、地域と風土、ご近所、人々、いろんなことを資源として活かして、それらをつなげていこうとしている。そうした新しい考え方で、地域の仕事をつくっていく人は、どうしたら増えていくんでしょうね。

井筒さん 薪ボイラーってみんながマネしやすいから、僕はやろうと思ったんです。

木質チップやバイオマス発電は、規模が大き過ぎるし必要な資本も大きい。木質チップをつくろうと思ったら、機械を買うだけで1000万円以上掛かる。

大学の研究なら、課題がたくさんあるから取り組みがいがあるけれど、民間がそれやるのは大変だから、この小さな規模であるならば、薪かなと。マネができる、というところに価値があるんです。

菜央さん そうですね! そういう考え方で地域のビジネスを回していく人が増えていってほしいですね。greenz.jpでも、できることを、一緒にやっていきたいと思いました。

自然エネルギーに真正面から取り組んでいくことによって、地域がどんどん元気になっていく様子が今、西粟倉村という小さな村で見て取れました。菜央さんは取材を振り返って、こう語ります。

菜央さん 西粟倉の取り組みを取材させてもらって、エネルギーは手段に過ぎないこと、ミクロには、どうやって地域の一人ひとりが幸せになるか? そしてマクロには、どうしたら地域が持続可能になっていくか?ということを考えて、暮らしをベースにビジネスとして小さな実験を繰り返していくことが、とても重要だと感じましたね。

森を活かす、木材を活かすことによって、地域全体の燃料代を削減し、地域に循環するお金を増やすこと。

自然エネルギーの気持ちよさを一人ひとりが実感できる場所である「元湯」に、地元の人も遠くの人も集い、つながること。

地域資源をエネルギーとして活用し、循環させて、地域みんなが幸せになる仕組みが西粟倉にはつくられつつあるのです。

あなたの地域では、どんな取り組みをしていきたいですか?