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自然に寄り沿った暮らしを提唱する岡山県西粟倉村。森も、人の暮らしも丁寧に積み重ねる、ニシアワーな時間を体験できる「源流の森ツアー」レポート

DSC_0558校門

岡山県の英田郡西粟倉村。人の暮らしが森から離れ長年放置されてきた森林を、手入れして甦らせようという会社があります。その名も『株式会社 森の学校』。

以前こちらの記事でもご紹介しましたが、今回は実際に現地へ出向く機会を得て、さらに広がりつつある彼らの活動を取材してきました。林業の再生だけでなく、森や生態系にまで配慮した自然に寄り沿った暮らしを提唱する彼らの活動と、「源流の森ツアー」(!)という素敵な企画に惹かれて出かけてきましたのでレポートします。

森を守りたい村人の想いを、西粟倉に流れる時間“ニシアワー”として広める

株式会社森の学校は、西粟倉村役場とアーツ千代田3331に入る㈱トビムシの共同出資による第3セクター。通常第3セクターというと地元の企業と作るのが一般的ですが、森の学校はヨソから入った企業が村の信頼を経て、民間主導で森の再生に向けて活動しています。村の側にもしっかりとビジョンと覚悟がなければできない取り組みです。

西粟倉村は、岡山、姫路、鳥取3駅のちょうど真ん中辺りにある人口1600人の小さな集落。


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森林率97%のこの村で、森の学校が目指しているのは、1000人近くいる山主一人一人に対して、「私たちに森を任せてください!」と交渉して許可を取り、まとまった範囲の森林を束ねて時間をかけて手入れをし、そこで取れた間伐材や材木をビジネスにしていこうというもの。

気の遠くなるような作業ですが、村は山主との交渉や予算面でサポートし、森の学校側はファンドで集めた資金で森の間伐を進める機械を導入したり、木材を使ったプロダクトの開発・販売を行っています。

こう書くとひとつのビジネスの形にしか見えないかもしれませんが、ユニークなのが2005年に村が産業振興を進める上で掲げたコンセプト「心産業(しんさんぎょう)の創出」。心と心を通い合わせることで満足してもらえる村でないといけないという基本の考え方です。そしてさらに、2008年に村が掲げたのが「百年の森構想」

村ぐるみで100年間かけてゆっくり森を育ていこうというものですが、森だけでなく人の暮らしも“じっくりと丁寧に積み重ねていく”ことを、西粟倉時間「ニシアワー」として提唱しています。
例えば、時間とともに熟成する無垢の木材を丁寧に使い味わいを深めること。規格化された商品やサービスを大量消費する暮らしがあたり前の社会だからこそ、“心を大切にする産業”を目指しています。

「森は必ず返してくれる」という、長年森と共に暮らしてきた村人の森を廃れさせたくない思いが込められているのです。

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森の学校がきっかけで、移住者も増えつつある地域

今回私が参加したのは、「共有の森ファンド」の出資者を対象に行われた源流の森ツアー。
まずは森の学校のオフィスである、廃校校舎の中を案内していただきました。「森の学校」の設立がきっかけで、木工デザイナーや職人など移住してくる人もいるのだそう。その方々の作品や商品も展示・販売されています。

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入口には、彼らが最近プロダクト化した木のフロアをつくるための「無垢床タイル」。床に敷くだけで木のぬくもりを感じられるフローリングが手に入るというもので値段も1枚800円とお手頃です。

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そして驚いたのは、体育館のど真ん中にどーんとそびえ建っていたモデルハウス。
森の学校では、自分で家を建てたいお客様のために、建築家と大工さんの間に入って家づくりをサポートするサービスも提供しています。

最近できたばかりというニシアワー製造所も見学させていただきました。ワリバシを作るワリバシカンパニーの第1工場です。中には木を製材する人、ワリバシの形に加工する人、など約20人ほどの人が働いていて、雇用の増加に貢献しています。

ワリバシ

地域商社、森の学校の役割

学校を見て周った後は、イベントディレクターの坂田さんから森の現状について詳しい説明を受けました。

西粟倉にある森林のうち85%は人口林、私有地が80%を占めます。私有地には入り組んだ細かい境界線があり、約950人の山主たちが持ち主なのです。そんな山主さんたちが、個々に森の手入れをするのは難しいので、私たちがまとめて手入れをし、得た収益を山主に返すモデルを作っています。一軒一軒の山主さんと交渉を行い、すでに許可をもらえているのは、全私有地の3分の1ほど。これから10年間かけて残りの山主さんとの交渉や、間伐を進めていきます。

森の学校がやろうとしていることを整理すると、大きく4つあります。

1.親会社トビムシが主体で行う「共有の森ファンド」による資金調達
2.共有の森の手入れのサポート。資金をつかって仕入れた機械での大規模な間伐
3.間伐材や地元の木材を使ったプロダクトの開発・販売
4.森のことを学ぶ場や機会の提供

ファンドで出資者から募った資金で→機械の仕入れ、森林組合に新しく人を雇用→森の管理・間伐→材木を使ったビジネス(ワリバシをつくる工場)→人をさらに雇用→さらに間伐を進めてプロダクトを量産

といった流れで広げていこうとしています。

間伐が行き届いた明るい森の中に群生するミツマタの木。手入れされている森だという証でもあります。

間伐が行き届いた明るい森の中に群生するミツマタの木。手入れされている森だという証でもあります。

夜は再びオフィスに戻りシカやイノシシの鍋をご馳走になり、近くのモデルハウスへ。
木の香りに満ちた家はデザインも素敵で、限られたスペースに多くのプライベート空間を確保してありました。

「森の学校」提供

「森の学校」提供

生態系全体の豊かさを取り戻す地域づくり。今は、木のビジネスを成功させることが皆の信頼と幸せにつながると信じている

「森の学校」代表の牧さんは、以前、国からこの地へ地域再生マネージャーとして派遣された企業、アミタ株式会社の経済持続研究所の設立時にこの仕事を引き受け、その後はトビムシとして独立して関わってきました。さらにもう一歩、より現地に近い立場で土地に根付いたモデルづくりをしたいと、この地に移住してきた方。

ここの村で取り組んだ形がうまくいけば、きっと他の地域のモデルになると思っています。今ではいろんな地域が、環境保全型の農業や林業に取り組み始めていて、地域再生への動きも多い。けれど、生態系全体の豊かさを取り戻す地域づくりを目指しているところはまだほとんどないと思います。村との協力関係はある程度構築できつつある。今はとにかく、消費者であるお客さんに受け入れられるものをつくることが一番の使命だと思ってやっています。ビジネスとして成功しなければ、雇用も増えないし村の信頼を失うことにもなる。

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翌日は、まだ雪の残る原生林を2時間ほどかけて散策。雪は思ったより深かったけれど、川の生まれる場所や、真っ白な雪の広がりを楽しめるツアーでした。

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林業を再生するだけでなく、村ぐるみで昔ながらの心の通った地域づくり、生態系全体を守っていこうという壮大な試み。若い人々も沢山集まっており、新しいことが起き始めている息吹を感じました。

ニシアワー、西粟倉のことを知る

西粟倉でつくられた家具がほしい