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穴を見つけて、埋める。地域に暮らしながら、地域の魅力をカタチにして、売り出す仕事「シマネプロモーション」三浦大紀さん

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自分が暮らす地域のいいモノや魅力、もっと知ってもらいたい。でも、それをビジネスとして成り立たせるのは、難しそう… こんなイメージを持つ人は、多いのではないでしょうか。

いえいえ、そんなことはありません。真正面から挑んでいる会社があります。それが、島根県浜田市の「シマネプロモーション」です。

ローカルのスーパーマーケットのブランド化を後押ししたり、地元の逸品を引き出物として詰め合わせるサービスを開発したりと、“島根をプロモーションすること”を仕事にしています。シマネプロモーションを立ち上げた三浦大紀さんに、込めた想いやビジネス化のヒントをうかがいました。
 
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シマネプロモーションの3人。左から、売豆紀拓さん、三浦大紀さん、中村真理さん。

三浦大紀(みうら・ひろき)
島根県浜田市出身。早稲田大卒業後、国会議員秘書、国際NGO職員などを経て、江津市ビジネスプランコンテストを機に東京からUターン。地元NPOで店舗誘致や起業支援などを担当後、株式会社シマネプロモーションを設立。まちづくりや地域・企業の魅力化事業に取り組む。

ないなら、つくればいい

学生時代から国際問題への関心が深く、元首相の故・橋本龍太郎さんの秘書を務めた後、貧困問題に取り組む国際NGOの職員として働いていた三浦さん。NGOでの契約更新が迫っていた2011年3月、東日本大震災が起こり、NGOは東北の支援活動に軸足を移すことになりました。

三浦さんは、確かに課題が山積している東北の支援は大切だと感じる一方で、震災前から調べ始めていた自分のふるさと・島根そのものに関心がどんどん向いていくのを感じたといいます。

見れば見るほど、課題や魅力って見えてきますよね。その課題を解決するために、地域で求められている「役割」がたくさんあることにも気付きました。そこにビジネスの種があります。つまり、足りない穴を見つけて埋める、という発想です。

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島根をあらためて見つめなおして感じたのは、地域をプロモーションする人がいないということでした。いいものがないわけではない。むしろ、たくさんあるのに、知られていない、伝わっていないという課題でした。

三浦さん自身はそれまでプロモーションや企画といった職業に携わったことはありませんでしたが「ないなら、つくればいい」とUターンを決意します。

生まれ育った島根県浜田市の隣にある江津市が開催したビジネスプランコンテスト「Go-con2011」に、シマネプロモーションの構想を持って応募。全国から23件が寄せられた中、課題解決プロデューサー部門の大賞を受賞しました。

これがきっかけとなり、まずはコンテストを運営しているNPO法人「てごねっと石見」のスタッフとして、地域に関係する事業の企画や運営に携わる傍ら、自らのプランも実践的にチャレンジしていきます。

てごねっと石見の活動では、伝説のコミュニティバーが誕生しました。JR江津駅前の商店街にある空き店舗をリノベーションした「52(ごうつ)バー」です。数字の「52」と江津という地名をかけています。
 
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52バーの店内(52バー提供)

今このまちに必要とされているものは何だろう、って考えていたんです。そうしたら、飲みに行く場所が少ない、もっと気楽に立ち寄って一杯飲んだり、おしゃべりができたりする空間がほしい、という声があって。商店街のコミュニケーションの助けにもなればいいなと思ったんです。

この52バー、特徴的だったのは、営業時間を午後6時から9時までに限定していたことです。52バーで軽く飲んだ後、二次会は近くの他の店に行く流れをつくることが狙い。さらに、店員役は、商店会の若手や三浦さんが日中の仕事を終え、交代で務めていたので、そこへの心配りもありました。

自分さえよければいいって考えでは、地域では生きていけないと思うんですよね。時間を限定することで、最初の1、2杯を楽しんでもらって「ハイ、次に行ってね」と言いやすくなります。それに、やる側も体力が必要。背負わせすぎるとつぶれてしまいます。

同エリアに新しく2つのバーができたことで、52バーは役割を変えていこうと今は営業していませんが、お洒落な空間と個性的な店員たちに引き寄せられるように若者が集い、新しいつながりとチャレンジがどんどん生まれていきました。

結果、周辺の空き店舗がどんどん埋まり、入居可能な21店舗すべてが飲食店やデザイン事務所に生まれ変わっています。

島根に暮らしているからこそできるサービス

現場で実績を積んだ三浦さんは2014年、てごねっと石見を卒業し、浜田市に拠点を移して、株式会社シマネプロモーションを設立しました。事務所は、築80年の趣のある大きな屋敷をリノベーション。コワーキングスペースも兼ねています。
 
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シマネプロモーションの事務所

事業の中では、民芸運動やお茶といった島根の風土が育んだ工芸品と食品を詰め合わせた引き出物のセット「YUTTE」が好評です。

「YUTTE」のスタートは、シマネプロモーションの社員の一人、売豆紀拓(めづき・たく)さんが、自分の結婚式で島根の品物を詰め合わせて引き出物にしたいと探してもなかったことでした。ここでも「ないなら、つくればいい」の登場です。

お茶文化が根付き、それに合わせてお茶菓子文化が盛んな島根では、お菓子を入れるための貼り箱屋が現役で活躍しています。その仕立ての良い箱を生かして、セレクトした島根の商品を入れると、引き出物にぴったりです。
 
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「YUTTE」の箱

箱がフューチャーされないのはもったいない。箱の中に島根のものが詰まっているとストーリーがあるし、喜んでくれる人がきっといるだろうと。仕事って背景があるし、「YUTTE」で幅広い地域文化を伝えられると思ったから、トライしてみようと思ったんです。

出雲大社がある島根は、縁結びの地とも言われます。そのイメージを取り入れた名前にしたいと、「YUTTE」と命名。サービスとして立ち上げつつ、ゆっくりと形にしていきました。

食品と工芸品の詰め合わせが基本のパターン。食品は、醤油、塩といった調味料やお茶、お菓子など15種類、工芸品は、陶器や木工など10種類程度、シマネプロモーションが実際に使って味わって、味もデザインも妥協なく選んだ島根の逸品ばかりです。

その中から商品を選んでもらった後、製造企業や窯元に足を運んで発注し、それに合った箱も発注します。手間はかかりますが、島根に暮らしているからこそできるサービスだといいます。
 
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YUTTEに入れる島根の器

最初の注文は売豆紀さんの友人でしたが、口コミやインターネットのサイトを通じて少しずつ広がり、今年は9月までで15件の注文がありました。ウェブ上だけでなく、実際に手に取ることができるショールームもオープンしたところ、さらに受注が増え、手応えと可能性を感じています。

シマネプロモーションに入る前は、D&DEPARTMENTをはじめ東京で活躍していた売豆紀さんですが、ずっと島根に帰りたいと思いながら、帰るためには何かしら仕事が必要だと探していました。「YUTTE」を思いついたことで島根に帰ってくることができたのです。
 
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打ち合わせをするシマネプロモーションの3人

できるかできないか、じゃない

三浦さんのように、地域の魅力をPRする仕事がしたいと考えている人はたくさんいるはず。そうした方々へのメッセージを三浦さんにお願いしたところ、「皆さんは、自分のまちのこと、見てますか?」という問いかけが返ってきました。

地域を見つめ、課題を発見して、ないならつくろうと実践してきた結果、現在のシマネプロモーションがあるのですね。

とはいえ、言葉で言うほど、簡単ではないとも思います。実践する上で、気を付けていることがあるのでしょうか。

できるかできないか、じゃない。やるかやらないか、なんです。とりあえずやって、失敗する。小さく失敗したらいいんです。

いきなり大きなイベントをするのではなく、試しに10人くらいでやってみると、反応のよしあしや改善点がわかる。やらなかったら、わからないです。僕も小さくやって、よく失敗しましたね。

確かにこの姿勢は貫かれているように感じます。実際に、何度かトライした結果、現在は一旦ペンディングという判断をしている事業もあるそうです。

プロモーションという言葉は宣伝の意味で使われることもありますが、宣伝だけじゃなく、アウトプットとして形にするようにしています。考えたことを、考えただけで終わらせたくないんです。

三浦さんの問いかけを意識しながら、小さくトライして、失敗もしてみる。そんな一歩ずつの積み重ねが、あなたの地域の魅力をより広く伝えたり、新しいビジネスの芽につながったりするかもしれません。

(Text: 田中輝美)