\11/12オンライン開催/ネイバーフッドデザインを仕事にする 〜まちを楽しみ、助け合う、「暮らしのコミュニティ」をつくる〜

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グッドサイクルが積み上がった先に、まちのほしい未来がある。住宅都市・奈良県生駒市に見る「脱ベッドタウン化」の兆し。

2011年、奈良県北西部にある生駒市に引っ越してきた吉田田タカシさん(通称ダダさん)は、子どもたちが“つくるを通して生きるを学ぶ”教室「アトリエ e.f.t.」を運営しています。

もともと大阪でアトリエを開いていた吉田田さんが生駒というまちを選んだ理由。それは、「通勤が便利」だったから。当時は、それ以上でも以下でもなく、愛着もなければ、汚れた川も増える空き家も、どうでもよかったそう。

でも、まちへの気持ちは徐々に変わっていきました。

自分の目標を話すと「じゃあ、この人と会えばいいよ」と紹介してくれる人がいました。「会社をつくるなら、いつでもうちの書類一式渡すよ」と言ってくれる人にも出会いました。

駅を歩いていると、「ダダさーん」と手を振ってくれる人がいました。気が付くと、吉田田さんは「アトリエe.f.t.」の生駒校をつくり、「生駒がもっとよくなるには何ができるんだろう」と考えるようになっていました。

生駒では、個人の意志や活動が少しずつつながり、作用し合って、別の誰かが新しい一歩を踏み出すサイクルが動き出しています。

「これはひとつのムーブメントになる」

そんな予感のする雰囲気が、生駒にはあります。

今回は、生駒のまちづくりに学識者の立場で携わる近畿大学教授・久隆浩さん、プロモーションサイト「good cycle ikoma(グッドサイクルいこま)」を制作したデザイナーの坂本大祐さん、生駒市役所の職員である大垣弥生さんの3人の鼎談を通して、このまちで始まっている「脱ベッドタウン化」の兆しをお届けしたいと思います。

坂本大祐(さかもとだいすけ / 左)
クリエイティブディレクター・デザイナー。2006年に大阪から奈良県東吉野村に移住。国・県・村との合同事業であるコワーキング施設「オフィスキャンプ東吉野」を立案し、建築デザイン・運営を受託。施設利用者とともにデザイン事務所を設立し、全国各地の企画に携わる。生駒市のプロモーションサイト「グッドサイクルいこま」やタブロイドも制作。
大垣弥生(おおがきやよい / 中)
生駒市「いこまの魅力創造課」課長補佐。 民間企業の販売推進を10年間担当後、生まれ育った生駒市へ転職。市民PRチーム「いこまち宣伝部」の運営、1日で1万人を集客するアウトドアイベント「IKOMA SUN FESTA」の実施など多様な仕掛けで、都市ブランド力の向上と、まちを推奨し参画する住民の増加に取り組む。
久隆浩(ひさたかひろ / 右)
近畿大学総合社会学部教授。新しい公の創造、住民主体・人に優しいまちづくりのあり方を研究。生駒市の総合計画や都市計画の審議会委員をはじめ、豊中市都市計画審議会会長、川西市都市計画審議会会長など、多数の地域で住民主体のまちづくり活動・市民活動を支援。著書は『都市・まちづくり学入門』『21世紀の都市像』『地方分権時代のまちづくり条例』など。

グッドサイクルが積み上がる先にある未来

1960年代後半からの高度経済成長期、爆発的に増えたサラリーマン階層の受け皿として全国各地に郊外ニュータウンが整備されました。大阪に隣接する人口約12万人のまち・生駒市もそのひとつ。

県外就業率は全国2位(平成27年国勢調査)で、文字通り大阪のベッドタウン。市制施行後の48年で人口は約3倍に増えました。しかし、都心回帰が進む今、働く場や遊び場など昼間の居場所が少ないベッドタウンは、積極的に「暮らしたい」と選ばれるまちではなくなってきています。

そんな中、デザイナーの坂本さんは昨年、生駒市のシティプロモーションサイト「good cycle ikoma」を制作しました。

坂本さんは、担当職員の大垣さんたちと、まちの課題や方向性を何度も話しあいました。そして、生駒で多様な暮らし方を実践している人々へのヒアリングを経て、近い将来「こうなりたい」「こうあるといいよね」という姿をサイトの中につくろうと考えます。

坂本さん 今の生駒のありのままを伝えるのではなく、「脱ベッドタウン」後の生駒を体現している人を取り上げ、少し先の生駒を見せることが必要だと理解しました。

じゃあ「脱ベッドタウン」とは何かというと、それは、受動的でなく能動的に暮らす人、「買って暮らす」のではなく「つくる暮らし」をしている人たちが増えた状態のこと。

まちは1人ひとりの集合体であり、暮らしをつくる人たちは、まちをつくる人たちです。つくる暮らしをする人たちが増えると、まちは変わる。そのきっかけになるサイトをつくろうと思いました。

坂本さんは「good cycle ikoma」というサイト名を提案。この「グッドサイクル」という冠は、サイトができること以上に重要でした。

坂本さん 僕は、生駒の未来をつくる活動を「グッドサイクル」と定義したつもりです。

チャレンジを応援する、活動の仲間に加わる、自分も目標に向けて一歩を踏み出すといった、「グッドサイクル」がまちのそこかしこで積み上がっていった先に、生駒のほしい未来が待っていると思うんです。このサイトを見て「生駒いいやん!」って思ってくれた人は、間違いなくこれからの生駒のサポーターになる人たちですよ。

まちを動かす仕組みと住民の意識を変える

近代、物はつくるものから買うものになり、生産と消費は分離していきました。しかし、久さんは情報革命によって「生産と消費が再び近づいてきている」と話します。

久さん 近代において、 “働く場所”は都心に、“寝に帰る場所”は郊外へと分かれていきました。それはまさしく、これまでの生駒の発展を支えたサラリーマン階層のライフスタイル。生駒は近代まちづくりの縮図なんですね。

現在、生駒市の市街化区域のうち58%が主に1~2階建ての低層住宅が立ち並ぶ「第一種低層住居専用地域」に指定されています。これは、全国平均の3倍の数字。生産と消費が分離し、建築的な規制や制限も多いニュータウンには、時間の経過と共にいくつかの問題が生まれます。

久さん もともとまちは、その土地に住み着いた人々が自分たちでつくっていくものです。でも、ニュータウンはデベロッパーが開発した「高額な商品」。“つくった”のではなく“買った”という意識があるから、30〜40年経つと不便が生じ、住民は行政に対して要望やクレームを言うようになるんですね。

また、自分たちでつくっていないまちは、自分たちで更新していきづらいという弊害も抱えています。本来、土地や建物は、貸し出したり、建て替えたり、売ったりしてアップデートされていくわけです。しかし、ニュータウンは厳しい規制や制限があって、個人の裁量で自由に更新していけないんです。

一方で、DIY、リノベーション、家庭菜園、SOHOなど、新しい形で生産と消費が再び近づきつつあります。

     

久さん これからのニュータウンは、まちを動かす仕組みと住民の意識を変えていく必要があります。消費するだけじゃなく、自分たちで仕掛ける。そんな社会をどう支えていくまちになるか、考えていかなければなりません。

まちを楽しむ人がまちの個性をつくっていく

生駒のプロモーションを担当している大垣さん。今の部署に配属された当初は、大阪に勤めるサラリーマン世帯の転入促進に取り組んでいました。

ある日、分譲マンションの広告代理店に生駒の魅力を聞かれ、いつも通り「大阪まで20分、自然環境が良くて、子育て教育施策が充実していること」と答えると、思いも寄らない反応が返ってきたそう。

大垣さん 「大阪に住んでいる人に、大阪に近いことをアピールしても仕方ないですよ。それに、些細な行政施策の違いなんて単なる自己満足ですよね」って言われたんです。びっくりしました(笑)

今まで通り、大阪で働く人に選ばれることが生駒の進む道だと信じていたけれど、大型開発の見込みもなく、大阪で働く人は大阪で暮らすことがスタンダードになる中、このままでいいのかなと思うようになったんです。

生駒には、ここ数年でさまざまなコミュニティが生まれていました。ママが立ち上げ運営する月に一度の「いこままマルシェ」、広場いっぱいに電車のおもちゃを自由に走らせる「プラレールひろば」、小学生が日本の伝統文化を英語で学ぶ「Templish(テンプリッシュ)」。自宅を開いた教室や、レンタルスペースのあるお店も増えていました。

大垣さんは「まちの魅力は、地域に想いを寄せる人が能動的につくるもの。魅力をつくる人を1人でも多く増やすことが、生駒らしさをつくるはず」という結論に至ります。

大垣さん 私も生駒生まれ・生駒育ちですが、行政サービスが充実しているだけでは生駒で暮らし続けたいとは思いません。友達がいて、居心地のいいコミュニティがあることがまちへの愛情につながるし、それがあれば、自分たちの手でまちを変えていける可能性を感じることができると思うんです。

生駒市は、人と人、人とまちが出会う場をつくること、まちを語る人や魅力をつくる人を可視化し、仲間になって感化された人自身も一歩を踏み出すようなサイクルをつくること、それを発信することの3つをプロモーションの軸に据えました。

生駒の魅力的な人やモノ・コトを多様な視点で発信する市民PRチーム「いこまち宣伝部」。市公式フェイスブックページ「まんてんいこま」やプロモーションサイト「good cycle ikoma」で発信しています。(写真提供: 生駒市)

年に一度のアウトドアイベント「IKOMA SUN FESTA」。生駒山の森の中で、市内の飲食店やクラフト作家、各種団体が集まり、マルシェやワークショップを開催。市内外から1万人が来場し、生駒の暮らしを体感しています。

12組24人の親子が生駒の日常を撮影した「いこまち親子写真部」。半年間かけて撮り貯めた数千枚の写真からベストショットを選び、ポスター展を開催。作品集「おくりもの」は電子ブックにして公開しています。(写真提供: 生駒市)

暮らしの選択肢を増やすきっかけを提供する「スタイリング・ウィーク」。近しい志や想いを持った人との継続的な交流につながる講座を開催しています。(写真提供: 生駒市)

これらのプロジェクトは、一見バラバラのイベントを開催しているだけに見えるかもしれません。しかし、生駒市は継続して“出会いの場”をつくり、魅力的な掛け算を増やしていくことに徹しています。

大垣さん さまざまな分野において「高齢化で担い手が減ってきている」という声を聞きます。でも、地域課題の解決に向けた活動は、まちに関わる第一歩としてはハードルが高い。「楽しい」「おもしろい」といった感情を優先した場をつくり、まずは自然に地域への想いを育くんでもらえたらと考えています。それが、市民活動や地域での起業の種になるはずです。

大垣さんがそれを実感したのが、市民と行政がチームになって参加した、まちの魅力を伝えるプレゼン大会「シビックパワーバトル」。生駒チームには、マルシェや地域食堂の代表、デザイナー、イラストレーター、高校教師など多彩なメンバーが集まりました。

「シビックパワーバトル 大坂夏の陣」では、最優秀賞である「プロフェッショナル審査員賞」を受賞しました。(写真提供: 生駒市)

大垣さん 普段出会わなかった人たちが、この場で出会い、仲良くなったんです。そしたら、デザイナーをされている方が、学校に行きづらい子どもたちのための文化祭の広報を手伝ったり、メンバー同士がマルシェに出店したり。予期せぬ活動が生まれました。

出会う場があれば、何かが起きる。でも、何が起こるか計画段階では予想できないから、庁内での説明はいつも大変です(笑)

坂本さん 「どうなるかわからないけどやってみよう」って、行政としては一番やりにくいと思うんですよ。でもやっぱり、計画通りできることをやっても、新しいものって手に入らない。ほしいものは「今ここにないもの」なので。結局、わからない状態でも進むことに価値があるんだと思います。

そして話はこれからの生駒へ

久さんは今、40代以下、特にバブルを知らない人々の新しい働き方に可能性を感じています。

久さん 20〜40代には、自営業・自由業の人が増えてきていますよね。明らかに、働き方が変わってきている。事業を起こす人やリモートワークをする人が増えると、昼夜問わず居心地のいいまちが必要になってくるんです。

おしゃれなレストランでランチを食べたいとか、夜は仲間で集まってお酒を飲みたいとか。自宅で子どもを見ながら働くことができれば、通勤時間がなくなり、保育園もいらなくなるかもしれない。職場にいる時間が減れば、地域に友達がほしくなる。働き方が変われば、まちも変わらざるを得ないんですね。

だから生駒が、今の生駒を凍結型で守っていくのではなく「脱ベッドタウン」「脱サラリーマン都市」という発想を掲げていることは、まちの未来にとってとても重要なことなんです。市民が多様なライフスタイルを受け入れ、考える意識付けや動機付けを行政がサポートすることも必要でしょう。

自営業や自由業を選ぶ人たちは、地域の食材や手づくりのプロダクトなど、近しい関係の中でつくられた物やサービスを尊ぶ傾向にあり、その先では経済そのものが小さいサイクルになると坂本さんは指摘します。

坂本さん 小さな経済の割合が増えていくことで、大きな経済の流れに媚びなくても意思決定できるまちが増えていった方が、日本全体としても多様性を保てるようになるだろうし、おもしろくなると思うんですよね。

僕もいろんな自治体さんとお仕事をさせていただいていますが、生駒は、住民の方たちのおもしろい動きが、内発的に、自然に湧き上がって、それぞれが重なりあっているように感じます。すごいポテンシャルだと思うし、だからこそ生駒には新しい地域の在りようを体現してほしいですね。

大垣さん まちの方から「行政サービスを受けているだけでは、まちへの愛は生まれない。まちへの愛情は、自分が当事者になって初めて育まれるものです」と言われたことがあります。能動的に関わって得られる喜びって、持続するんですよね。今の生駒には、応援しあえる関係性や、能動性を存分に発揮できる環境があるんじゃないかと思います。

久さん まちが活性化するんじゃないんですよね。まず人が活性化する。そして、元気な人たちがまちを元気にしていく。人が元気にならないのに、まちだけが勝手に元気になるわけじゃない。

大垣さん だからこそ、人の意志と意志が出会うきっかけをつくりたいです。

久さん ネットワークの時代というのは、行政の計画やマーケットの力で物事を大きく動かすのではなく、小さなアクションをつなぎ合わせて、共感によって大きくしていく時代です。

そのひとつひとつが起こっていなかったら、そもそもつなぎようもないわけですから、まずは1人、もう1人と小さな変化を起こす賛同者を増やし、その人たち同士をつないでいった先に、大きなムーブメントが起きてくるのだと思います。

総務省が平成30年に発表した「自治体戦略2040構想研究会」の第二次報告には、人口減少と高齢化時代の自治体は、新しい公共私相互間の協力関係を構築するプラットフォーム・ビルダーに転換することが求められる」と記されています。

久さん これからはみんなでやる、みんなでつくる。自分でできなければ誰かを紹介したりして、できる環境を整える。それをするのが、これからの行政の役割じゃないかと思いますね。

坂本さん 「このまちが好き」という地域への圧倒的な愛情を育みながら、つくり、仕掛ける人をどう増やしていくか。そして、官民が垣根を超え、いかにそんなまちを支えていけるかですね。

久さん 知恵と労力を持ち寄り、小さなアクションを拡げていくことで、市民がまちを変えるんです。生駒はアイデアを持った人がつながってきているし、行政も未来志向型なので、きっと成熟させたまちを次世代につなぐことができると思いますよ。

(鼎談ここまで)

特に高度経済成長以降、人々の多くは経済的な豊かさが幸福度につながると信じて暮らしてきました。しかし、その先に生まれた物質的で持続可能性に乏しい豊かさは、どうやら私たちを本当の意味では幸せにしてくれない。そう気づいた人たちは、社会関係資本の質を高める方向へ、生き方のシフトを始めています。

自ら暮らしをつくる人、その人と人との関係性が、これからのまちをつくる時代です。あなたの一歩は、きっと次の誰かの一歩につながっています。ぜひその一歩目を、踏み出してみてください。

greenz.jpでは、これから生駒というまちに広がる「グッドサイクル」を、連載でお届けしていきます。次回の記事もぜひお楽しみに。

(インタビュー写真: 稲垣明依)
(プロジェクト写真提供: 生駒市)