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「辺境から世界を変える」「セルフケアを大切にする」井上英之さん、大室悦賀さんの考える“ソーシャルビジネスの未来”とは?「ミラツクフォーラム2012」 [イベントレポート]

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

私たちの世界は、将来どのように変化していくと思いますか? 2012年は”ソーシャルデザイン元年”として、全国でたくさんのプロジェクトが自分にとっての「ローカル」に変化を与え続けた一年でした。

greenz.jpでも紹介してきた、ダイアログの場から“未来を創る”NPO「ミラツク」も、震災からの復興やまちづくりなどソーシャルデザインの現場で活躍してきた団体のひとつです。

ミラツク代表・西村勇也さんが考える、未来をつくるためのコミュニティデザインとは?
ダイアログの場から“未来を創る”「ミラツク」[マイプロSHOWCASE]
Nosigner 太刀川英輔さんの考える”デザイン”とは?「ダイアログBar京都」

NPO法人ミラツクは2013年1月から3年目に突入。昨年の12月23日には2年目の総決算を飾る「ミラツクフォーラム2012 ー未来へつなげるー」が開催されました。今日はその様子をお伝えします。

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まずは、話すと来年がハッピーになりそうと感じる人を見つけてチェックイン。ミラツクの理事を務める編集長のYOSHも、初めてお会いした3人の方と楽しそうに対話していました。チェックインの後は、100人以上の参加者がお待ちかねの基調対談です。

“ソーシャル”ビジネスと“ソーシャル”イノベーション

基調対談には2人の大物ゲストが参加!

アメリカから駆けつけてゲスト参加された井上英之さん

アメリカから駆けつけてゲスト参加された井上英之さん

お一人はソーシャルベンチャー・パートナーズ東京の創設者で、現在スタンフォード大学にて客員研究員をされている井上英之さん。井上さんはグリーンズの著書『ソーシャルデザイン』でインタビューさせていただいた方の一人です。今はサンフランシスコで暮らしていて、一時帰国のあいだに東北10都市を見てきた直後でのご登壇でした。

大室悦賀さん(左)は京都からのご参加

大室悦賀さん(左)は京都からのご参加

もうお一人は、「ソーシャル・イノベーション」を研究されている京都産業大学准教授の大室悦賀さん。大室さんは中小企業のソーシャルビジネスをテーマに活動されている方です。

このお二人の大物ゲストに加え、ミラツク代表の西村勇也さんの司会進行のもと基調対談はスタートしました。

起業家精神の根底にあるものは、転んでも立ち上がる力

ゲストお二人の自己紹介から対談がスタート。井上さんも大室さんも、日本におけるソーシャルビジネスの位置づけと、ローカルな場所から生まれる起業家精神についてこのように語ります。

大室さん:私は現場が大好きなのですが、団体の立ち上げに関わるなどして社会起業やソーシャルビジネスという仕組みに関して考えてきました。地方では、そのような力を持って旧態依然としたものを打破しなければ、イノベーションは生まれない。にも関わらず、社会起業家を育てるうえで必要なリソースが地方には足りていないと思っています。

井上さん:起業家にとって大事なのは、インパクトを生み出せているかどうかということだけでなく、自分自身に基づいての行動になっているべきだと思うんです。起業家精神に必要なのはレジリエンス(転んでも立ち上がる力)。たとえば東北で出会った旅館の女将さんは、「私の未来予想図をお話します」といって夢を10個も話してくれた。ここには生きる力がまだまだ残っているんです。

企業・NPO・財団などで活躍されている方々100名以上が参加

企業・NPO・財団などで活躍されている方々100名以上が参加

アメリカで日本の状況を話す機会も多いようで、直に東北で感じたことを伝えるため、東北を回ってきた井上さん。被災地では後追い自殺をする人がまだ生まれており、生死の選択がいつも目の前にある中で、この女将さんが“私にできること”として話されていたのは「生きること」だったことがとても印象的だったそうです。

「世の中はどうやら辺境から変わるらしい」

東北の話を皮切りに、地方を元気にすることの大切さについてトークは展開してゆきます。

大室さん:東北も大変ですが、同じく地方も大変です。一方で東京も元気がない。東京が元気がない原因は、実は地方が元気でないからなんですね。江戸時代は東京は元気な地方文化の結合体だった。だから地方を元気にしなければ、東京は元気にならないと思っています。

井上さん:世の中は辺境から変わるらしい、というのはシリコンバレーでも感じることがある。最近「シリコンバレーは終わった」と頻繁に聞くんですが、それはシリコンバレーにいる人がフォロワーの気持ちになってしまっているからなんです。何かをはじめる場所じゃなくて、「有名な人に会える場所」みたいな。スティーブ・ジョブズは最後までシリコンバレーを田舎だと思い、辺境を変える気持ちで世の中を開拓していった。

地方を元気にすることの重要性について語る大室悦賀さん(左)

地方を元気にすることの重要性について語る大室悦賀さん(左)

辺境は英語に訳すと「Frontier(=開拓地)」。辺境の地では本質的なことだけが必要とされるからこそ、誰も気づかなかったイノベーティブなアイデアが生まれるのかもしれません。

海外企業から見た「日本の良さ」に、国内企業が気付いていない

大室さんとミラツクの西村さんは、京都の中小企業が元気を取り戻すための活動を続けています。その大室さんの2012年のテーマは、「地方で生きている人たちを、世界の市場システムの中でどのように元気にできるか」だったそう。

大室さん:実は欧米の経営者は、みんな日本の文化を学びにきているんです。おもてなしの精神などその際たるものですね。日本のよさを海外企業が感じているのに、国内企業がそこに気付いていない。それが悔しいんですよ。海外では営利か非営利か、など完全に分けて考える。しかし日本では、そこの概念が非常に曖昧だったりする。この“曖昧さ”こそ日本らしさだし、欧米の経営者が次のモデルとして注目しているんです。

井上さん:シリコンバレーにはたくさんの禅寺があるんですが、起業家の多くが禅やヨガをしています。シリコンバレーにいると本当にいろんなことが起こってとても忙しいので、だんだん頭の中がめちゃくちゃになっていく。それを整えるために、起業家は自ら時間を取って調律をしているんですね。スタンフォードでも、セルフケアのための瞑想などがビジネスのカリキュラムが新たに設けられてきている。その文脈の中での日本文化というのが欧米で取り入れられているのかなと思います。

ゲスト2人の話を真剣に聞く、READYFOR?の米良はるかさん

ゲスト2人の話を真剣に聞く、READYFOR?の米良はるかさん

テーマは「日本文化の素晴らしさ」に。ここで司会進行の西村さんが問いを示し、ダイアログが始まります。

西村さん:以前、修験道の体験をしたのですが、日本文化の素晴らしさを感じる機会も増えてきました。欧米の方は特に何を学んでいるのでしょう?

岡村さん(ウエダ本社社長):さきほど”曖昧”という言葉がありましたが、京都にはいくつか突出している企業があっても、それらは微妙に領域が重ならず、互いに競争していないんです。微妙な感覚というところで言うと、京都では華道に携わる人が世界で一番多いのですが、池坊の持つ空間の美が海外の人にわかるのか聞いてみると、『いや、あれは日本人にしか分からない』と言うんですね。わからない世界があることをわかった瞬間に、アングロサクソンの人たちはハマるんです。わからないものを敢えてはっきりさせないところが、日本の深みであり、強みになっていると感じますね。

株式会社キュムラス・インスティチュートの岩井秀樹さん。真剣な眼差しです。

株式会社キュムラス・インスティチュートの岩井秀樹さん。真剣な眼差しです。

「私」という存在をつくれたら、それは社会を変える一歩になる

次に井上さんが話を薦めたのが、「ソーシャルビジネスに携わる人たちの最近の傾向」です。

井上さん:この一年で、仕事を変えた方はどれくらいいらっしゃいますか?

参加者の方:(10人ほどが挙手)

井上さん:ここ最近の変化として、多くの方が会社を辞めて活動をはじめていますよね。ただ、同時に頑張りすぎて燃え尽きてしまっている人もいる。それはアメリカでも同様で、特にソーシャルビジネスの分野はそのような人は多いんです。だから、イノベーションだけでなく、同じくらいサステナビリティということを考えることが大事だと思います。

それはセルフケアもそうだし、家族やコミュニティを大切にすることでもあります。社会に関わるときに、自分がハッピーであること、自分から始まっていること、自分に対してリアリティがあるかということ。自分自身の欲望や要望を知っていることで、他人の気持ちもわかるようになる。すると焦点は家族、地域へと広がっていく。

そう考えると、いろんな人が瞑想や禅をやっていることは理解できる。徹夜して一気にインパクトを出そうとするのではなく、時間を味方につけて継続的にイノベーションを生み出すことの方が大事ですよね。どういう状況・状態をデザインしたら、みなさんの中にあるイノベーションを引き起こすエネルギーが無理なく湧いてくるのか。私という存在をしっかりつくることが、社会を変える一歩になると思います。

セルフケアの大切さについて語る井上英之さん(右)

セルフケアの大切さについて語る井上英之さん(右)

およそ一時間の対談はこれで終了し、休憩を挟んでミラツク恒例のマルチステークホルダーダイアログが3回行われました。

マルチステークホルダーダイアログの様子

マルチステークホルダーダイアログの様子

マルチステークホルダーダイアログにはREADYFOR?の米良はるかさんや一般社団法人World in Asiaの加藤徹生さん、Nosignerの太刀川英輔さんら多種多様な方々が24名参加。

計3回のダイアログのテーマは、「Making The Way of ソーシャルイノベーション」・「東北復興とソーシャルビジネス」・「企業とNPOの恊働とCSV(Creating shared value)」の3つで、どの回もとても興味深い対話が行われ、最後はミラツク代表の西村勇也さんの挨拶で、「ミラツクフォーラム2012 ー未来へつなげるー」は締めくくられました。

2012年の終わりに100名以上の参加者に挨拶をするミラツク代表の西村勇也さん

2012年の終わりに100名以上の参加者に挨拶をするミラツク代表の西村勇也さん

100名を超えるソーシャルデザインの担い手が集まった今回のミラツクフォーラムは、ソーシャルデザインの最先端の話題が一堂に会する素晴らしいイベントです。そこで感じるのは、ソーシャルデザインやソーシャルイノベーションといった言葉の解像度があがってきているということ。それと同時に、必要とされている情報も変わってきているということです。

“ソーシャルデザイン”をはじめた人が、マネタイズやマネジメントなど、どうちゃんと続けていけるのか。グリーンズが2013年にフォーカスすべきテーマが少し見えてきた、そんな一日となりました。

(Text:緒方康浩)

[Credit:イヌイコウジ(@resigner)、土肥梨恵子(@RIEKO_D)]