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“かわいい!”で選ばれる途上国発ファッションブランド「マザーハウス」 [トム・ソーヤーのペンキ塗り]

www.mother-house.jp

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この記事はフリーペーパー「metro min.(メトロミニッツ)」と井上英之さん、greenz.jpのコラボレーション企画『トム・ソーヤーのペンキ塗り』にて、メトロミニッツ誌面(11月20日発行)にも掲載中のものです。

「アジア最貧国で作られたバッグ」と聞いて、どんなものをイメージしますか?素朴であたたかみはあるけれど、決してオシャレとは言えない、そんなバッグを想像した方もいるでしょう。

でもそれは、ただの先入観に過ぎません。今、発展途上国で作られたバッグや服が、日本やヨーロッパのブランドと同様に百貨店の店頭に並び、オシャレに敏感な人々に選ばれています。実物を手に取って見ると、途上国のイメージがガラリと変わってしまうかもしれません。

途上国の人々の自尊心を育むバッグ作り

マザーハウス」は、発展途上国発のファッションブランド。メイン商品であるバングラデシュ産のバッグは、現在、銀座や新宿・台湾など8つの直営店で販売されており、若い男女を中心に人気を集めています。かっちりとしたビジネスバッグからお出かけ用のハンドバッグまで、そのスタイリッシュで上質なラインナップは全て、現地の素材を使い、現地の工員の手により一つひとつ丁寧に作られているものです。

バングラデシュのジュートを使ったメッセーンジャーバッグ(左)と、グラデーションが美しい牛側のイチョウトート(右)。ネパール産のストール(上)はカシミア100%で肌触り抜群!

バングラデシュのジュートを使ったメッセーンジャーバッグ(左)と、グラデーションが美しい牛側のイチョウトート(右)。ネパール産のストール(上)はカシミア100%で肌触り抜群!

バングラデシュにある「マザーハウス」の自社工場では、現在45人が働いていますが、彼らの給料は、この国の一般的な額の約2倍から。技術の向上に応じて報酬がアップする上、自分たちのアイデアも活かされるため、工員は皆努力を怠らず、中には終業後、自主的にミシンの練習をする方もいるそうです。そこにあるのは、「もっといいものを作りたい」という、これまでの労働環境の中では抱けなかった気持ち。アジア最貧国と言われるバングラデシュで、「マザーハウス」のバッグ作りは人々の自尊心も育んでいるのです。

バングラデシュ工場の人々。いつも笑顔と活気に満ち溢れています。

バングラデシュ工場の人々。いつも笑顔と活気に満ち溢れています。

援助ではなく、彼らが「できる」ことを証明したい

「マザーハウス」が誕生したのは2006年。当時24歳だった代表取締役兼デザイナーの山口絵理子さんが、バングラデシュ発のバッグブランドとして起業しました。山口さんの原点は、大学生の頃に抱いた「本当に支援は必要なところに届いているの?」という素朴な疑問。一時はワシントンの国際機関で開発援助に関する仕事に携わりますが、その疑問はますます強くなり、大学卒業後、「自分の目で見よう」とたった一人でバングラデシュに向かい、2年間現地の大学院に通います。

現地の生活の中で山口さんが感じたのは、寄付や援助が必ずしも求める人々の手に届いていないということ、そして、それでも人々の中には「自分の力で生きていきたい」という強い気持ちがあるということでした。「ただ援助するのではなく、商品で、彼らが「できる」ということを証明したい。そうすれば“フェアトレード”なんてキーワードも必要ないし、バングラデシュのイメージも変わるのではないか」そう考えた山口さんは、現地の素材を使って、現地の人の手で、日本人女性が「かわいい!」と選んでくれるようなバッグを作り、ビジネスを通した支援をしようと心に決めました。

当然のことながら、生産技術の確立から会社設立、販路拡大など、現在に至るまでには想像を絶するほど困難な道のりがありました。でも山口さんの、途上国の人々の力を信じる強い心が不可能を可能にし、今では、通りすがりで店を訪れた人にも選ばれるブランドにまで成長しました。

バングラデシュに続き、ネパールでも生産を開始。働く人々は日々技術を高め、高品質のストールを生み出しています。

バングラデシュに続き、ネパールでも生産を開始。働く人々は日々技術を高め、高品質のストールを生み出しています。

「ビジネスとして…」ストーリーを押し付けない姿勢

山口さんによると、現在「マザーハウス」の製品を購入する方のうち、約半数が商品の背景を知らないそうです。「押し付けるのは良くないし、聞かれたら答えるくらいのスタンスで接客しています。ストーリーで選んでくださるお客様の数には限りがあるし、ビジネスとしては数字を残さなくてはならないので、今のバランスはちょうどいいと思っています」と、山口さん。現在「マザーハウス」は、ヨーロッパ出店を目指して準備を進めていますが、競争の激しいファッション業界の中で成長を続けている背景には、決して人々の善意に頼り過ぎることのない、企業としての優れたバランス感覚が存在しているのです。

台東区にあるマザーハウス本店には、新作が出るたびに、わざわざ遠方から足を運ぶお客さんも。

台東区にあるマザーハウス本店には、新作が出るたびに、わざわざ遠方から足を運ぶお客さんも。

「SOCIAL POINT CARD」で学校設立へ

ビジネスで途上国の人々の支援を行う一方で、「マザーハウス」は社会貢献活動にも力を入れています。2007年からはポイントを貯めるとその一部が社会貢献活動に使われる「SOCIAL POINT CARD」を導入し、商品を購入することで私たちもその支援に参加できるようになりました。現在取り組んでいるのは、バングラデシュでストリートチルドレンの自立支援を目的に建設される学校の設立支援。設立・運用費用の一部をこの仕組みから拠出し、山口さん自身も派遣授業を行う予定です。

「学校で子どもたちに、ものづくりや絵を描くことの楽しさを伝えたい」と語る山口さんは、小さい頃から大好きだった絵画を心から愛する、普通の日本人女性の顔。社名の由来であるマザー・テレサのように、強さとやさしさを兼ね備えた山口さんが率いる「マザーハウス」は、これからも私たちに驚きを与え続けてくれるでしょう。

いのさんのここがポイント!

あらためて、Why(なぜ?)のあるビジネスを。
いつまでも、魂のこもったまま、仕事しよう。

著作やTV番組などで山口さんをご存知の方も多いと思います。
彼女の姿から感じることは、「すごい!」「すてき!」ということにとどまらない、これからのビジネスのあり方、何よりも、けっしてスーパーマンではなく、挑戦する等身大の姿なんだとおもいます。

ワシントンで感じた「現場と離れたところで、予算が決まっている」違和感。それならば、現場に行って、確かめる。小さな事務所、何もかも手作りのところから始まった挑戦。

日本のお客にも、バングラデシュで働く人たちにも、嘘がない。こんなもんでしょ、というところで止めていない。きちんと話し、コミュニケートし、そこからまた進化を続ける。

「途上国の人ってこんなもの」という固定概念をこわしていく。今、当たり前にしていることを疑って、その向こうにある可能性に基づいて新しいものをつくっていくパワー。これって、本当はどんなビジネスも生まれたときには持っているものですよね。

顧客の固定概念も、途上国で働く人たちが自分たちに対して持っている固定概念もこわしていく。両方の現場と対話し、それを目に見えるバックや高い品質におとしていくことによって。だから、マザーハウスにとっては、商品は最高の自己表現となっています。

よい仕事をしよう。そこに、生きる哲学や魂をこめて。
試行錯誤しながら、進化を続けるその姿に多くを学びますね!

バッグのラインナップや、マザーハウスの誕生ストーリーをチェック!オンラインでも購入できます。


編集長YOSHより

この連載「トム・ソーヤーのペンキ塗り」は、日本のあらゆるソーシャルイノベーションの中心で活躍し、たくさんの社会起業家を応援してきた井上英之さんと、日常の中の”Quality Time”をテーマに都内52駅で配布されているフリーペーパー「metro min.(メトロミニッツ)」とのコラボレーション企画です!

やる側も楽しく、社会も良くなり、ビジネスにだってなり得てしまう。そんな三方良しの「トム・ソーヤーのペンキ塗り」的FUN!が満載のソーシャル・デザインプロジェクトを紹介しています。東京の方はぜひ見つけたらお手にとってみてください。

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