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「地元学」って何? 結城登美雄さんに聞く、地域づくりと農業のこと

地元学、という言葉を最近耳にしました。
民俗研究家、結城登美雄さんの言葉で、「地元のことをもっと知って、資源を活用する知恵や術を地元の人に学び、生きやすい場をつくろう」という考え方。
結城さんがこれまでに歩いた農村は800以上。自らも農業を始め、村人と言葉を交わしながら、地域づくりの手伝いをしてきました。そんな結城さんに、地元学や農業についてお話を伺う機会があり、とても心に残ったのでご紹介します。

▼村のみんなで出資してつくった商店「なんでもや」

結城さんは、今年65歳。以前は広告の仕事をしていましたが、20年ほど前から農村へ通うようになって、がらりと違う人生を歩みます。
結城さんが歩いてきたのは、ほとんどが東北の小さな村や町。人に会い、話を聞き、連綿と続いてきた農村のあり方を目の当たりにして、多くを学んだと言います。

結城さんの地域づくりは、第三者が一方的に行うものではなく、その土地を生きてきた人々の望む形を、地元民の手によってつくりあげること。

数多ある活動の中でも、宮城県丸森町大張地区の話は印象的です。
村に唯一あった店が不況で閉じてしまい、村の人々は些細な買い物にも何kmも離れた街まで出なければならなくなったのだとか。
結城さんは、村の全戸が出資して商店をつくることを提案。
これは、沖縄のやんばる地方の応用で、農産物の集出荷と、生活雑貨を村人に代わって調達する両方の役割をもつ店です。店で得た利益は地区のために使われます。

宮城県丸森町の商店「なんでもや」

宮城県丸森町の商店「なんでもや」

村の8割近くの家々が出資をしてくれたことで、注文に応じて何でもそろえてくれる店「なんでもや」が誕生しました。

子どもから老人までが集まる交流の場にもなり、あるおじいさんは、年金の出る日にずっと店にいて、来る子どもたち皆にアイスクリームをおごる!という、なんともほほえましいお話もありました。

▼「何もない地元」が、資源の宝庫に

地域づくりのお手伝いの際に、結城さんはまず、地元の人と一緒に、その地域の資源をリストにします。

宮城県丸森町では、山菜やキノコ類まで季節毎に収穫される資源を「資源カレンダー」としてまとめました。このリストをもとに、活用技術をもつ地元の人々と連携して、方法を見出します。

宮城県丸森町の特産品リスト

宮城県丸森町の特産品リスト

行政の行う地域活性化は、収穫量などの規模で資源をはかりがち。そこで見落とされている資源がたくさんあると言います。

▼毎日食べるご飯を「1杯24円」で食べてほしい、という願い。
誰にでも「食べる力」はある!

結城さんが関わった活動の中でも、「鳴子の米プロジェクト」は社会的にも評価され、数々の地域活性のモデルとなっています。宮城県旧鳴子町の、「ここではいいコメはつくれない」と言われてきた土地で、新しい品種のコメをつくり、通常より高い価格で販売することに成功したのです。

このプロジェクトの経緯を話してくれた際、結城さんは力強く言います。

今皆さんが食べているご飯を、茶碗1杯60gとして、1俵(60kg)から1000杯のご飯がとれる。これまでの生産者米価は1俵7000円~1万3000円。1杯13円が農家に入る。原価や人件費やらコストを考えると、むろん赤字です。当時僕は、米1杯を24円に引き上げたい、と言ったのです。1杯24円(1俵2万4000円)で売って、農家の人に18円(1俵1万8000円)を保証する。残りの6円の利益を農業の将来のために使いたいと。

皆さんにとって、1杯24円は高いでしょうか? チョコポッキー4本、ウーロン茶グラス1杯分です

ごはん1杯の値段を、ポッキー4本分にしたい

ごはん1杯の値段を、ポッキー4本分にしたい

鳴子の米は、その後も1俵2万4000円、生産者価格1万8000円を維持しています。
通常のお米より1杯11円高いということは、月916円、年間で11000円高いことになりますが、多くの買い手に支えられています。

鳴子の米に手を合せる人

鳴子の米に手を合せる人

▼農家は私に変わって野菜をつくってくれる人
 
日本の農業の現状は、最近ことに話題になるように、沈みかけた船、といった状況です。1970年に1025万人いた農業従事者が、2009年には2893人にまで減り、全国民中2.4%の人が残りの97.6%を支えているというアンバランスな構造。さらに2.4%の人のうちの大半が高齢者です。

農業の現状を憂える結城さんが可能性を感じるのが、CSA(Community Supported Agriculture)という新しい農業の形。日本でも各地で始まっていますが、アメリカではここ数年の間にぐっと契約数が増えて、全国で1万2549の世帯が契約をしているそう。消費者が農家と直接契約をしてお金を前金で払い、野菜をつくってもらうというしくみです。確実に買ってもらえることが前提なので、農家も安心して作物づくりができ、驚きなのが、天候リスクも消費者が一緒に負うという点。

天気によって収穫できなかった場合にも、お金は返さない。つまり天候でだめになった作物の分も消費者がコスト負担しているというのです。
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農家の人々が自分の変わりに野菜をつくってくれている人、と考えれば納得できる。

結果的に作物がだめになったとしても、農家の人々はそれまでの間手をかけています。場合によっては補助もありますが、これまでリスクを一手に負ってきたのは農家です。私たちは、そんな農家の人々の苦労の上にあぐらをかいて、10円でも安い野菜を求め続けてきたのかもしれません。

▼地元学って?

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結城さんに「地元学」についてもっと詳しく、と聞いてみたところ、こんな答えがかえってきました。

私のいう地元学は、それを知ればすぐに地元に貢献できる、とか何かがわかるという便利な学問でもハウツーでもないのです。村の人たちがよく言う「おらが方」(私たちのところ、土地)のことを、もっと知ろうと言いたいだけ。農業や農村の実情を知らないで、思いこみやイメージでモノを語らないでほしい。過疎だとか、貧しいと言われる村にも、何百年もその村の中で行われてきた営みがあり、連綿と続いてきた豊かな文化がある。そこにまず学ぶ必要があるのではないかということ。それを知らずして、農業政策だ、地域活性化だといっても的外れなものになるばかり、ということです。

生まれ育った地元には愛着があり、都市に住んでいてもできることがあるならしたい、そう思っている人は多いのでは。だからこそ、つい短絡的に「じゃあ私たちに何ができる_?」と結論を急いでしまいがち。まずは地元の壁をたたき、教えを乞い知ることから始まる、と結城さんは言います。

結城さんの主旨とはずれるかもしれないけれど、ここで言う「地元」は、必ずしも農村に限らないのではないか、そんな思いがしました。
都市でこそ、土地の歴史や資源を知り、他者と協力して暮らしやすいコミュニティをつくることが、今求められているのかもしれません。

(写真提供:水野亮平)

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※結城さんのお話は、個別取材と、スクーリングパッドの農業ビジネスデザイン学部の講義内容から得たものをまとめています。