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津波被害の大地を、人の営みにあふれる場所に。石巻市雄勝町で子どもたちとまちの未来をつくるモリウミアスがいま、リジェネラティブ農業に取り組む理由

この記事は「公益社団法人MORIUMIUS」との共同企画で制作しています。

人口減少が続く日本。2009年をピークに13年連続で減少が続いており、2021年度の統計で人口増となった自治体はわずか11.3%(総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2022年1月1日現在)より)。地方創生戦略として人口増を目指すのは、非常に厳しい状況であることは明白です。

では、人口の減少を前提に、過疎地域の小さなまちを持続可能な形で未来へとつないでいく方法はあるのでしょうか。

この記事の舞台は、日本の典型的な過疎地域である上、東日本大震災の津波被害を受け、まちの約8割を失ってしまった宮城県石巻市雄勝町。震災前、約4,400人だった人口は2023年5月現在1,000人を下回り、少子高齢化も続いています。

「農業」「子ども」「リジェネラティブ」をキーワードに、多くの人とともにまちを未来へとつないでいく。小さなまちで始まっている、大きな冒険を追いました。

2株の花から始まった雄勝町と大地の物語

記事のはじめに、まずは今回ご紹介するモリウミアスの取り組みの背景として、震災後にこのまちで起こった花と大地の物語をお伝えします。

太平洋を望む美しいリアス式海岸と四季を通して豊富な海の幸で訪れる人を魅了する、宮城県石巻市雄勝町。2011年3月11日、東日本大震災の津波により、小中学校や商店が立ち並ぶまちの中心部の約8割を失いました。

その約3ヶ月後の6月、何もかもを失ってしまったこのまちに、2株の花を植えた人がいました。

徳水さんが植えたのは、ホウズキとナデシコ。たった2株の花から雄勝の大地の物語は始まりました(2011年8月徳水さん撮影)

雄勝町で生まれ育った徳水利枝(とくみず・りえ)さん。花を植えたその場所は、まちの中心部への玄関口。被災して亡くなった徳水さんのお母様の自宅があった場所でした。

徳水さん たまたま買ってきた花を植えただけ。私が最初にやったのはそれだけで、それが何かにつながるなんて考えていませんでした。

雄勝町で被災した徳水さんは、当時、石巻駅近くのみなし仮設住宅に避難していました。激しい揺れで凸凹になってしまった道を運転し雄勝町までやってきた徳水さんは、花を植えることで「被災した人が、失ったものや失った人とつながる場をつくりたい」という想いを抱いていたと言います。

徳水利枝さん

津波被害の大地に花と緑を。その小さな想いが、たくさんの人の心を動かしていきます。

全国から訪れるボランティアの方々が徳水さんを手伝うようになり、2012年には「花と緑の力で3.11プロジェクトみやぎ委員会(代表:鎌田秀夫さん)」の支援により、徳水さんの夫・徳水博志さんとともに「雄勝花物語実行委員会」を設立。

「被災地だからこんなもんでいい、じゃダメだ」という鎌田さんの力強い言葉とともに、大型トラック60台ほどの土が運び込まれ、花が育つための栄養分豊富な土もつくられて…。徳水さんの実家のあった土地は、いつしか一面花で覆われる美しいガーデンへと育っていきました。

2013年10月には「雄勝ローズファクトリーガーデン(以下、ローズガーデン)」として開園式を開催。それまでにこの場所に関わったのべ7,000人ものボランティアの方々の想いを携えて、花と緑の力で多くの人がつながる場所として歩み始めました。

子どもたちとともに、未来を見据えて

一方、徳水さんが花を植えたまちの中心部から車で20分ほどの距離にある雄勝町の高台にも、震災直後から大勢のボランティアが集結していました。築93年の廃校をリノベーションし、子どもが生きる力を育む複合体験施設として蘇らせる挑戦です。

建物の中に流れ込んだ土砂を掻き出すことからはじめ、著名建築家も関わりながらボランティア約5,000人の手で校舎を再生し、2015年7月「MORIUMIUS(モリウミアス)」がオープン。

森で、海で、雄大な自然に抱かれて、多様な生き物たちに触れて。

「サステナビリティ」というコンセプトを軸に、自然との共生の中で子どもたちが自ら生きる力を学び取る7泊8日の夏のプログラム(※1)を中心に、春から初夏、秋から初冬にかけては週末のショートプログラムも展開し、都心を中心に全国から子どもたちが訪れるようになりました。

(※1) 新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、それまで7泊8日だった夏のプログラムを、2020年は4泊5日、2021年以降は6泊7日に変更して開催しています。

実は震災直後、徳水さんとモリウミアスは、子どもたちの学習支援に一緒に取り組んでいました。そのご縁がつながり、モリウミアスのプログラムに参加した子どもたちもローズガーデンを訪れるように。震災の語り部としても活動している徳水さんを通して、子どもたちはこの地に刻まれた歴史を学び取っていきました。

その後雄勝町に新しい国道をつくる計画が立ち上がり、ローズガーデンは移転を余儀なくされます。最初は「ボランティアの方々とつくってきたものだから退けることはできない」と拒否した徳水さんですが、「未来を見て動こう」という周囲からのアドバイスを受け、考えを変えました。「7,000人の人たちが一緒につくってくれたのだから、その価値を認めて欲しい」と行政に訴えた結果、移転保証費に加え、約50メートル離れた移転後の土地を無償で提供してもらえることに。

こうして1.5倍の面積の新たな土地で「雄勝ローズファクトリーガーデン」が再スタートを切ったのは、2018年3月のこと。同時にガーデン内をバリアフリー化し、子どもからお年寄りまで、より多様な人々が訪れるようになりました。

交流人口を途絶えさせないために、活動の場を。

そんな中、徳水さんにはもう一つの想いが芽生えていました。移転後のローズガーデンから見える景色は、一面に広がる残土置き場。かつてまちの中心部だった場所が、災害危険区域に指定され、人がいなくなったままになっていたのです。

徳水さん 何もない、寂しい土地だったんですね。それまでは、たくさんの人が住んでいて人の営みがあった場所。それが、まったく人の営みがなくなった上に、更地にもならず残土置き場になっているということを、私はどうしても受け入れられなくて。「なんとかならないかな」って思いました。

「なんとかならないかな」と同時に、徳水さんは「なんとかできる」とも思ったと言います。

徳水さん 2011年から、本当にたくさんのボランティアの人たちが来てくれました。その頃には震災直後の泥かきのようなボランティアは必要なくなっていましたが、活動の場があれば来てくれるだろう、雄勝に来てくれるボランティアの人たちの流れ(交流人口)は途絶えないだろうと。逆に言えば、雄勝の交流人口を途絶えさせないためには、活動の場が必要だとも思ったんです。

どうやって場をつくるかというアイデアはなかったんです。私はとにかく、ここが人の営みが感じられる場所にしたいという想いしかなかった。

津波被害の土地を、人の営みが感じられる場所に。

そう考えた徳水さん夫妻は、専門家の支援(※2)を受けながら「みんなで未来を描こう」と、モリウミアスなど雄勝町に関わる事業者や個人にも声をかけ、雄勝町中心部に位置する約5ヘクタールの移転元地(市の公有地)の利活用を住民主体で推進するプロジェクトが始動しました。

その後、復興庁の支援を受けながら石巻市と調整を進めた結果(※3)、2020年には石巻市と連携して38団体が参加する「雄勝ガーデンパーク協議会」(代表は徳水さんの夫・徳水博志さん)を設立し、市民管理の貸農園、果樹園、ラベンダー園、オリーブ畑、ワイン用ブドウ園、憩える雑木林などをつくる事業計画を立案。その全体像がこちらです。

(※2)千葉大学園芸学部の秋田典子研究室から土地利用に関する専門的な支援を受けました。
(※3)2018年には復興庁の支援を受け、まちの中心部を花と緑豊かな場所へと蘇らせる「雄勝ガーデンパーク」の構想が具体性を持って動き始め、石巻市長にも報告。雄勝住民の動きに呼応して、石巻市役所も移転元地の貸付制度の見直しをスタートしました。さらに2019年と2021年にも復興庁の支援を受けた結果、石巻市役所が新たな貸付制度と補助金制度を創設しました。

手前に位置するローズガーデンの奥には、緑豊かな畑が広がり、建物の周りや散策路には、行き交う人の姿も。まさに徳水さんが追い求めた「人の営み」あふれる場所が描かれています。

こうして2021年度から事業化がスタート。2022年には石巻市によって塩害の土が山土に入れ替えられ、2023年4月、いよいよ土地を借り受けた民間5団体による利用が可能になりました。

山に囲まれ、海を臨み、川も流れる自然豊かな雄勝ガーデンパークの予定地。広さは約5ヘクタール。雄勝花物語、モリウミアスのほか、5団体がそれぞれに土地を借り受け、事業を展開していきます。

徳水さんはモリウミアスの子どもたちをこの場所に案内するとき、こう説明しているといいます。

徳水さん 「人が住んでいた土地が何も無くなってしまって、もしここが仙台みたいに人のたくさんいるところなら大きい会社が建物を建てたりする。でもここは震災後ずっとこのままだったし、誰かが何かをしようとしなければずっとこのままなんです。何かをしようという人が手を挙げることで、初めて行政は動くんです。そこで私たちは手を上げました。モリウミアスも手を上げました。それでここには土が入っているんです」って伝えています。

多分それは嘘ではないと思います。手を挙げれば身銭を切らなくてはならないし、大きなリスクを伴うということはわかっていたのですが、それでも一緒に手を上げてくれたモリウミアスや他団体のみなさんの存在は本当に心強いです。


大きなリスクを引き受けてでも手をあげた徳水さんの根底にあるのは、土地への強い強い想い。言葉を一つひとつ大事に選びながら、徳水さんはこう語ります。

徳水さん …すごく、この土地に申し訳ないと思っていました。

家があって、人の営みがあって、それが全部流されて人が住めなくなって人がいなくなって。生活の再建のために仕方ないとはいえ、大地とか山とか空とか、置いてけぼりにして動けないものが「寂しい」と言っているように聞こえたことがあって。

私には、この土地が嫌だって言わないものは、続くだろうという確信みたいなものがあります。人が来るだろうというのと同時に、花であったり木であったり緑であったり、それをめぐって人が来るのは、この土地が受け入れたがっている、嫌がらないだろうなって。

土地が許す限りは、失敗はないかな、いけるかなって思いました。

モリウミアスの「アス」は、まちの「明日」でもあるから

さて、この雄勝ガーデンパークにおいて全体の三分の一を超える最大面積を借り受けて運営するのが、モリウミアスです。

子どもの体験施設として8年にわたる実績を積み重ねてきた彼らが今、2ヘクタールもの大地で一体何をしようとしているのでしょうか。ここからはモリウミアス代表の油井元太郎(ゆい・げんたろう)さんにお話を聞いていきます。

油井さん リジェネラティブな農業を通じて、生物多様な場をたくさんの人とともに学びながら育んでいこうと一歩を踏み出します。多くの人がこの学び場を一緒につくり・関わり続けることでコミュニティとなり、民間主導の新しいまちづくりのモデルとなればと思い描いています。

「リネジェラティブな農業」とは、有機物が豊かな土壌を古来の方法でつくり、CO2を貯留し、気候変動を抑制することを意識した農法。「人の手で自然をより良くする」ことができると世界中でさまざまな取り組みが始まっています。

2023年4月、竹炭をつくって土壌にすき込む作業が行われました。その後牡蠣殻を使った石灰を土に混ぜ込むなど、自然の力を生かした土づくりが続いています。

この農法を用いて、モリウミアスは土をつくり、葡萄を育て、ワインやジュースへと加工する計画を推進していきます。

モリウミアス立ち上げ当初よりアドバイザーを務めるパーマカルチャーデザイナーの四井真治さん監修のもと、2023年にまずは「緑肥」となる植物を栽培し有機物あふれる土壌をつくる土づくりからスタート。1年後の2024年にはワイン用葡萄の作付けを行い、ワインの醸造も開始する予定です。

子どもの体験施設から農場経営へ。モリウミアスにとって大きな変化のように思えますが、油井さんは自然な流れと捉えている様子。

油井さん リジェネラティブ農業は、これまでの「人間の都合で環境が悪化していく」という流れを、「人によって環境をより良くする、生物多様性が育まれる」という方向に変えていく農法です。

新しいように見えますが、実はそれってモリウミアスでは当たり前にやっていたことなんです。人間が出した生ごみを堆肥にして鶏とか豚の糞とか微生物の力を借りながら堆肥にして、自分たちで野菜や米を育てて、それを子どもたちが収穫して食べる。ここでは本当にいろいろなものが循環しているんです。

すべては循環の暮らしの一部であって、今回の取り組みも、その規模が大きくなったのだと捉えています。

モリウミアスフィールドにも、施設からの生活排水を自然の力で浄化し、農業用水として再利用する水田があり、子どもたちと田植えをして収穫まで行なっています。

そもそも「森と海と明日へ」という意味を込めて名付けられた「モリウミアス」の「明日」は、「子どもの明日」であり「まちの明日」でもあります。でも油井さんはこれまで、「まち」に対して貢献できていないもどかしさを感じていたのだとか。

油井さん 「みんなで子どもたちとまちの明日を作ろう」というのが、モリウミアスのビジョンです。住民に寄り添うだけではどんどん衰退していってしまう過疎地域なので、僕らが外とのつながりをつくり、まちの未来につなげていこうと8年間やってきました。

ただ、モリウミアスに泊まれる人は限られていますし、コロナもあったり震災から時間が経つとやはり人は来なくなってしまいます。もうちょっと何かできないかというもどかしさを感じていました。

そんな中で始まった「雄勝ガーデンパーク構想」。徳水さんからモリウミアスに、真っ先に声がかかったとき、「乗り出さない手はない。これまで培ってきた発想と経験を活かせる」と、強く可能性を感じたと言います。

さらに、「農業」というもののまちへのインパクトについて、油井さんはこう語ります。

油井さん 体験農園のようなかたちでみんなでこの場を育んでいくということを考えると、市内や県内の人もたくさん来るでしょうし、関係人口という意味では、宿泊業や体験プログラム中心の「モリウミアス」よりもインパクトを出せますよね。

今回は特に規模が大きいので収穫量も多く、商品が生まれると経済活動につながり、従業員も雇えます。加工して商品化すれば全国に届けられる。ここに来られない人にも商品を通じて雄勝のことや我々のことを知ってもらえますし、一緒に盛り上げていく仲間が増えるイメージが湧いています。

現在モリウミアスが販売しているナチュラルワイン。無濾過かつ無補糖で、亜硫酸塩などの添加は一切使用せずに作られています。雄勝産の葡萄でつくるワインは一体どんな味わいに?

油井さんの語る「体験農園」は、ぶどう狩りのように断片的な体験を提供するものではありません。かつて5,000人の人々とともに老朽化した廃校を再生したように、無機質な山土の入った大地を有機物あふれる豊かな土壌へと蘇らせ、柵をつくり、苗木を植え、剪定し、ワイヤーを取り付けるところまで、すべてのプロセスを多くの人々と共有していきます。

油井さん なるべく僕らがやらず(笑)、多くの人に来てもらって一緒にやるというスタンスでつくり続けていくという意味では、農業って大きいですよね。自然が相手であり、人が毎年関わり自然を育むことが前提としてあるのも大きいです。作物を一緒に育てることなら、子どもから高齢の方、障害のある方まで一緒にやりやすい。

何より自然に触れることで人はイキイキしますし、また来たくなるということにつながっていくのかなと。徳水さんが雄勝ローズファクトリーガーデンで11年間積み重ねられているように、関係人口を増やす上で、農園ほど人を巻き込みやすい場はないんじゃないでしょうか。

多くの人とともに歩み出す、農業を通じたまちづくりへの第一歩。油井さんの目にはどんなまちの未来が見えているのでしょうか。

油井さん これがどうまちづくりになるかは、ちょっとまだわからないです。でも、プロセスに人を巻き込んでいくことで未来は開けていくのではないかと、可能性は感じるので、まずは目の前のことを一生懸命やるだけですね。

まちづくりのゴールを定めてそこに向けて飛んでいこうとするのではなく、目の前にいる人たちと一緒に手を動かしながら、気がついたら雄勝のまちの未来が今よりもより良くなっているんじゃないか。そんな仮説の元でやっているんです。


確かなものは見えなくても、ただ目の前の人とともに。これまでの経験の積み重ねから来る確信にも似た仮説がいま、大冒険へと踏み出す油井さんの背中を押し続けています。

子どもがいなくても、農業未経験者でも、現地に行けなくても。

2023年5月現在、モリウミアスはこのプロジェクトをたくさんの人とともに実現しようと、クラウドファンディングを実施中。すでに100人を超える人々が支援に名乗りをあげています。

支援募集は5月31日(水)午後11:00まで

支援に対するリターンの中には、現地に足を運んで土づくりに参加するものや、自宅でコンポストを用いて堆肥をつくり雄勝に送り届けるものなど、参加型のものが多数用意されています。ここにも、モリウミアスに一貫して流れる「多くの人と一緒に」というスタンスが明確に表れています。

自宅に届いたコンポストバッグで堆肥をつくり、現地に送り届けることで土づくりに参加するというリターンも。LFC社と提携で実現

子どもがいなくても、農業未経験者でも、現地に行けなくても、このプロジェクトには関わりしろがたくさんあります。

震災から12年。今後、被災地のみならず全国の過疎地域のまちづくりのモデルになるかもしれないこのプロジェクトに、あなたも参加してみませんか?

「可能性を秘めている」「大事でしかない」
それぞれの子どもへの眼差しを携えて

記事の最後に、モリウミアスの根底にある「子どもたちとともに」という視点について、改めて聞きました。

クラウドファンディングのタイトルにも、「こどもと町の未来をつくる」というフレーズがある通り、油井さんはこのプロジェクトにおいても子どもと一緒に取り組むことを見据えているようです。どんなビジョンを描いているのでしょうか。

油井さん 子どもとまちづくりというのは、実はとても難しいことです。何をやったらまちづくりなのかという定義がまず難しいですし、今の子どもたちは都市化や子どもに与えられる機会が少なくなったこともあり、まちに関わるチャンスに恵まれていません。

でも、僕らが今やろうとしている「農業を通じてたくさんの人を巻き込んでまちの未来を少しでも明るくしよう」というプロセスに子どもが加わって、「人が自然をより良くできるんだ」という体験を得ること自体がすごく貴重だと思います。

さらに、その価値は体験では終わらないと油井さんは続けます。

油井さん 夏休みや週末のプログラムに参加する子どもたちが農業に関わることで、ここでできた作物や商品になったものを持ち帰って家族と食べることもできます。また、子どもたちのアイデアを僕らが形にすることもできますし、漁村留学生(※4)は、年間を通して関わる機会が多いので、我々が考えられないようなアイデアや行動を実践する可能性は極めて高いと思います。

(※4)「モリウミアス漁村留学」は、子どもが1年以上の長期に渡って自然の循環とともにある暮らしを営み、地元の公立小中学校に通うプログラム。2023年度は3人の子どもたちが参加しています。

それが何なのかはわからないですし、過度に期待したり、無理に導いたりすることもないんですが、場があって、私たちが住民の皆さんと一緒に推進していくうねりは必然にあるわけです。それは決して、大人が用意した教育プログラムでそこに参加して終わりという話ではありません。むしろ本当に雄勝のまちの一端をその子たちが担っていくようになる可能性を秘めているとも思います。

それ以外にも、地元の公立小中学校の子どもたちが一緒に活動することや、将来的には子どもたちが自発的に葡萄ジューススタンドを始める、チーズをつくりたいというアイデアを形にするといったことが積み重なり、一つの「村」のようになっていくようなイメージも浮かぶと油井さんは言います。

でもそれもあくまで、子どもたち次第。プログラムを用意してあげるのではなく、子どもたちの力を信じ、主体性に委ねるあり方は、モリウミアスがこれまでも一貫して大事にしてきたこと。子どもたちが思わぬ方向に導いてくれることを、油井さんは楽しみにしているようです。

一方の徳水さんは、子どもに対してまったく違う眼差しを持っています。

徳水さん 私にとって子どもは、ただただ可愛くて大事です。期待とかではなく、無条件で大事。

昔からそのように思っていたかと聞くと、徳水さんは「いえいえ、塾の生徒(徳水さんはもともと学習塾を経営されていました)や自分の子供たちには、ひどかったですよ。懺悔の日々です」と笑います。

徳水さん やっぱりいなくなってから感じることは大きいですよね。震災で子どもがいない地域になってしまって、もう子どもなんて大事にされるための存在でしかないと思って。とにかくいるだけで大事。ただいるだけで地域のおばあちゃんたちを幸せにするなんて、本当にすごい存在だと思う。

大事にされたという感覚は、きっと子どもたちの中に根付いていくのでは? そう問いかけた私に、徳水さんは娘さんの話を聞かせてくださいました。

徳水さん 私の娘は震災前には話もしなかったおばあちゃんたちに、本当に大事にしてもらって。そうするとやっぱり、何かになるんですよね。自分の大学のボランティアサークルに入って学生さんたちをどんどん連れてきてくれるんです。

娘を見ていたら、とにかく大事にされたことが一つのエネルギーになっているんだろうな、それがとっても大きいんだなと思いました。

油井さんによると、モリウミアスの子どもたちの中には徳水さんや、このまちに住む方々を慕って毎年通ってくる子どもたちが多数いるのだとか。

「子どもが大事」という感覚は、雄勝で生きる人々が共通して持ち合わせており、それが子どもたちを再びこの地に呼び寄せているのでしょう。それがいつしか子どもたちの中でまちへの想いに変わり、油井さんの描くような「村」さえもかたちづくっていくのかもしれません。

土地の力を信じ、子どもの力を信じて。

雑草も生えない無機質な土地を舞台にしたモリウミアス、そして雄勝町の大冒険は、決して一筋縄にはいかないことも多いでしょう。でも子どもも含めた多くの人々の営みによって少しずつかたちづくられ、またそこに新たな人が加わり、生き物のように変化し蠢き続けていくのだろうと思います。

私がそんな未来を信じられるのは、徳水さんのこの言葉を聞いたから。記事の最後に、みなさんにも贈ります。

徳水さん 私は常にこの景色を見ていて、「このまちはまだまだだ」ということがわかっていますが、ボランティアに来てくださる方々は、それぞれの場所で震災前と同じ生活をしていますよね。その中に身を置きながらも、この景色を思い浮かべてまだ何かしなきゃと思って来てくださる。その想像力には本当にもう脱帽ですし、敬服するし、ありがたいなと思います。

と同時に、根拠はないんですけど、ここには土地の力があるんじゃないかと思います。この景色を見ていいなと思うのは私だけじゃなくて、放っておけないし、自分たちで何か関わりたいって思わせる魅力をこの土地は持っていて、そう思わされた人たちによって、この場所が続いていくんじゃなかなと。

私はそこを信頼したいですね。

「ガーデンをやっている中で、人が育てたいと思う・思わないに関わらず育つものは育つと植物の方から言われるような気がする。ここを訪れた人は、土地と対話しながらここを作っていくということを続けていきたくなるんじゃないか」と徳水さん。日々土地との対話を続けてきた徳水さんだからこそ語ることができる言葉です。

2株の花から始まった雄勝の大地をめぐる物語はいま、大きく動き出そうとしています。

土地の発する声に耳を傾け、土地の力を信じる人。
関係人口をつくり続け、子どもの力を信じる人。
まちの人々とともに汗を流し、遠方からでも足繁く通う人々。

彼らの隣には当たり前のように子どもたちの姿があり、彼らの背中を見て当たり前のようにともに手を動かし、ともにまちの未来を描いていく。

それぞれがそれぞれに主体的に関わっていくそんなあり方こそが、雄勝町の「子どもとともに」あるまちづくり。

今回の取材を通して、ここを訪れる子どもたちの中に根付いた確かなものが、まちを未来へとつなげていくイメージが見えた気がしました。

あなたも一緒に、その第一歩を踏み出しませんか?

たくましく優しい雄勝の大地で多くの人々と体を動かすことで生まれる「人は自然をより良くできる」という実感が、あなたを思わぬ未来へと導いてくれるかもしれません。

[partnered with 公益社団法人MORIUMIUS]

(写真:山田真優美)
(編集:増村江利子)

– INFORMATION –

8/5(土)-8/6(日)リジェネラティブツーリズム in MORIUMIUS FARM


2023年8月5日〜8月6日の1泊2日で「リジェネラティブツーリズム in MORIUMIUS FARM」を開催します。「MORIUMIUS」での体験宿泊に加えて、「MORIUMIUS FARM」の土壌再生のために緑肥のソルガムの種まきワークショップを行います。
困難な状況を乗り越えて再生していく雄勝の町、そしてモリウミアス。グリーンズとしても少しでも力になれればと思い、今回のツアーを企画することになりました。リジェネラティブな暮らしや農業のあり方を現地で学ばせてもらいながら、未来のために一緒に種を蒔きましょう!

詳細はこちら