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その電気、どこから来てる?生活に欠かせない「電気」はありたい未来に近づく手段。

Energi [Energy]

あなたが毎日使っている炊飯器、コンロ、照明、パソコン、冷房、車…そのエネルギーは何でつくられて、どこからきているか。また、どうして料金がその金額で設定されているのかを知っているだろうか? あなたは、自分の使っているエネルギーを、自分の手で選び取れているだろうか。

私がデンマーク、特にロラン島にやってきて一番驚いたことの一つは、風車がたくさん立っていること。もうひとつは、秋になると畑に、ハイジのベッドを大きくしたようなワラの四角い塊が山ほど置かれていること。これは何をするもので、誰のものなのか、なぜこんなにたくさんあるのか? 次々に疑問が湧いてきたので地元の人に聞いてみると、返ってきた答えは、

これは電力をつくるための風力発電機。我が家で持っているマイ風車だよ。

あのワラの塊は、麦を収穫した後のもので、あれも電気や熱をつくる原料になるんだよ。

マイ風車…? ワラ…? これで電力をつくるって…!?
電気って、電力会社がつくるものじゃないの?
しかも、風やワラで電気や熱がつくれるの!?!?

これが、私の率直な感想だった。

2000年当時、日本で風力発電機を見かけることはまずなかったし、電気を誰がどうやってつくっているか、そのあとどのようにコンセントまで電気がきているのかなんて、それまで考えもしなかった。

そして、ロラン島では農家の人たちが風車で発電したり、ワラを売って熱エネルギーの生産に役立てることで、二酸化炭素の排出量の削減だけでなく、農家の副収入を増やすという大きな役割を果たしているということも、まったく知らなかったことだ。

ワラの塊が置かれた農家の風景。彼らのマイ風車と共に

デンマークにおけるエネルギーの歴史

Energi(読み方:エナギ)はデンマークにいるととてもよく耳にする、目にする言葉だ。そもそもエネルギーとは、運動エネルギーなどの力学的エネルギー、電気などの電磁気エネルギー、光・放射線などの電磁波エネルギー、熱エネルギー、化学エネルギー、核エネルギーなどの総称である。デンマークの日常会話でよく使うのは、運動エネルギーや電気や熱のエネルギー、輸送エネルギーなどである。

デンマークの、いわゆる「エネルギー政策」に話を絞ろう。エネルギー利用に変化が起こったのは産業革命以降のこと。自国での燃料生産はできなかったものの、英国から石炭の輸入が開始されると、1800年には年間10万バレルの輸入だったのが、1870年には450万バレルに膨れ上がっていた。一方で、木材は第二次世界大戦後まで調理用燃料として使われ続け、デンマークの森林の用途は、ほぼ燃料の生産に限られていた。

デンマークでの最初の石炭の利用目的は都市ガスの生産で、できたガスはガス燈に使われ、残ったコークス(石炭でできた固形燃料)は家庭用のストーブの燃料として利用された。

デンマークで発電所がつくられ始めたのは1890年代で、これも輸入石炭が燃料であった。調理用レンジの燃料が木材からガスに変わったのは1900年頃で、その後1960年にはIHクッキングヒーターが主流になっていく。

デンマークは、地域熱供給のシステムが進んでいることでも知られているが、国内初のコジェネレーション(熱電併給)施設ができたのは1903年で、発電により出た排熱を地域の建物に供給していた。その後本格的なコジェネレーションシステムの拡大が起こったのは1950年後半以降で、その頃は整備された住宅地の一戸建てに家族で住む人が増え、住宅地にはまず電気が通って暖房は灯油ボイラーを使っていた。

しかし、その後の50年の間に、デンマークのエネルギー事情を大きく変える3つの出来事が起こった。オイルショック北海油田の開発、そして、気候変動である。

オイルショックや油田開発がもらたしたもの

1970年代に起こった2度のオイルショック当時、デンマークのエネルギー資源は中東の石油に95%以上を依存していた。1973年の第一次オイルショック時には、原油価格が一日で4倍にも跳ね上がり、デンマークでは一時、温水シャワーを浴びることができなくなったり、日曜日の車の運転を控えなければならないほど石油が逼迫して、電気代も暖房代も跳ね上がった。

1979年にイラン革命の影響で第二次オイルショックが起きたときは、中東の石油に頼らない、エネルギー自給が政治の重要なテーマとなった。石炭とコークスの使用が再び増え、暖房は天然ガスや排熱を利用した地域暖房が急増。同時に、国は原子力発電でのエネルギー自給も計画したが、国民の間で反対運動が広く巻き起こった。1980年代になると、北海油田の開発によって天然ガスが利用できるようになり、国土のほとんどにガスグリッドが整備された。

北海油田により、デンマークは石油と天然ガスの産出国としてエネルギーを完全自給できるようになった。2004年にはエネルギー生産のうち53%が輸出されるほどの自給率を誇ったが、当初の予測通り、北海油田の産油量は徐々に減り始め、10年後の2014年には再びエネルギーの完全自給は難しくなってゆく。

オイルショック以降、政治の世界では常にエネルギー自給の必要性が大きな議論となり、1987年に開催されたベラジオ会議で地球温暖化を含めた気候変動に関する問題が初めて話し合われたことで、化石燃料に頼らないエネルギー政策、そして再生可能エネルギーへの関心が高まっていった。

主に電力生産で中心を担っているのは風力発電で、2010年には全電力消費量の約20%が風力発電で賄われるまでになった。2012年には当時の政府が、2050年までに電気、熱、輸送などすべての分野で化石燃料から完全に脱却し再生可能エネルギーで賄う、という野心的なエネルギー政策を打ち出した。

その後2015年には全電力消費量の約40%が風力発電で賄われるようになり、2020年現在ではロードマップ通り、全電力消費量の約50%を風力で賄えるまでになっている。気候変動が進む現在は、デンマークにおいても太陽光発電も重要な役割を担うようになってきている。一方、熱供給を担っているのがバイオマスで、最初に触れたワラやウッドチップ、生分解性廃棄物とバイオディーゼルがそれにあたる。

現在でもデンマーク国内と洋上にはたくさんの風力発電機が建設されており、電力の地産地消を実現するために、エネルギーをたくさん使う産業をエネルギー生産地に移転したり、余っているグリーン電力で水を電気分解して水素を取り出し、それを二酸化炭素と結びつけてメタンガスをつくって輸送や熱供給に利用するPower to Gasのシステムや、バイオマスを燃やさずガス化してバイオマスの組成を余すところなく使う仕組み、電気を酢酸ナトリウム三水和物や花崗岩(かこうがん)を使って蓄熱するシステムなどの開発が進んでいる。

2003年からは電力が自由化され、自分の好きな電力会社から電気を買えるという選択肢ができた。40社近くある電力小売企業から、その会社のポリシー(例えば、グリーンエネルギーだけを購入しているか等)や料金、その他のCSRなどを加味して選ぶことができる。

発送電分離で企業の公平性を保つために、発電、送配電、小売のうち2つまでしか兼業できないようになっており、電力グリッドを通して近隣諸国とも電力を融通しあっている関係上、国内外の送電に関しては、国営企業であるEnerginet.dkが非営利企業として一括管理を行っている。

エネルギーは、あくまでもデンマークがありたい国の姿を実現するための手段。されど、地球環境や世界との共存をよりよく続けるために、決して妥協できない大切な政策のひとつであり、市民にとっても大切な選択のひとつなのだ。

デンマークのリアルタイムの電力生産・使用状況については、Energinet.dkの以下のページで知ることができる。
https://en.energinet.dk/

デンマーク・ロラン島。農道の先には風車がおだやかに発電中

– INFORMATION –

2020年10月13日(火)スタート!
ニールセン北村朋子 presents デンマークから学ぶ「いまを生きる手習い塾」

幸せの国・デンマークから学び、自分の心や社会と向き合い、大切にしたい暮らしや人生を考える。コロナウイルス感染症の拡大により、立ち止まることを余儀なくされた私たち。目まぐるしい日々では気づけなかった違和感や見て見ぬフリをしてしまっていた事実ともまっすぐと向き合う時間も増えてきました。

『NEW NORMAL』と呼ばれる新しい生活を考えるこの時代において、わたしはいつ涙するほど感動し、どんな時に心をぐっと動かされ、何を失いたくないのでしょうか。

どのような働き方や暮らし方を実現し、どのように生きていきたいのか。今だからこそ、わたしの心のうちなる想いに出会い、社会の痛みや苦しみに向き合い、改めて心や人生を考えられるのではないでしょうか。

未来に向かって歩き始めるために立ち止まり、呼吸し、整える。意思を持つ仲間たちと「共に立ち止まる学びの場」を提供します。

https://nielsen-folkehojskole.studio.site/

– NEXT ACTION –

朋子さんがお住まいのデンマーク・ロラン島におけるエネルギー自給率については、朋子さんの著書『ロラン島のエコ・チャレンジ デンマーク初100%自然エネルギーの島』と、以前greenzでもご紹介したこちらの記事も合わせて是非ご覧ください。