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電力自給率700%!? 自然エネルギー大国、デンマーク・ロラン島に暮らすニールセン北村朋子さんが語る、持続可能な未来のつくり方

高い目標を掲げ、持続可能な社会をめざしている北欧・デンマーク。中でも、住民が関わってつくった風車が林立するロラン島は、環境先進地域として世界中から注目を集めています。この島在住のジャーナリストであるニールセン北村朋子さんは、デンマークと日本の架け橋として活躍されてきました。

今回は北村さんに、かつて停滞していたロラン島がグリーンな取り組みにより蘇った経緯や、日本で持続可能な取り組みにつながるカギは何かについてお聞きしました。

ニールセン北村朋子さん(ニールセン・きたむらともこさん)
2001年よりデンマーク、ロラン島在住。ジャーナリスト、コンサルタント、コーディネーター。デンマーク・インターナショナル・プレスセンター・メディア代表メンバー。2012年デンマーク・ジャーナリスト協会Kreds2賞受賞。 関心領域は持続可能な社会づくり、気候変動適応、再生可能エネルギー、農業、食、教育。著書に『ロラン島のエコ・チャレンジ〜デンマーク発、自然エネルギー100%の島』。神奈川県茅ヶ崎市出身。

デンマークが自然エネルギー大国になったわけ

世界的に見てデンマークは、自然エネルギーへの取り組みが早かったと思います。どのようなきっかけで始まったのでしょうか?

いまでこそデンマークは、自然エネルギー先進地域とされていますが、かつては他国の石油への依存度が高く、エネルギー自給率が1%程度だったときもあります。転換のきっかけとなったのは、1973年のオイルショック。このまま石油が値上がりを続けたら、経済が立ち行かなくなるという危機感から、エネルギー自給をしようという流れが生まれました。

当初、国は原子力発電を利用する案を出しましたが、国民的な議論がまきおこり、1985年には政府が原発を採用しないことに決めました。そこで、風況の良いデンマークの特徴を活かして、風力発電を広めていこうとシフトしたんです。

現在では、年間の消費電力量の45%程度を風力発電だけでまかなっています。国の目標では、2020年までに50%以上をまかなうとしているのですが、その数値は軽くクリアするだろうとされています。そういったことに国民の関心もすごく高いですね。

世界が注目する、風力発電の島

そんなデンマークの中でも、なぜ特にロラン島が持続可能な地域として注目されているのでしょうか?ロラン島がどんなところかという説明を合わせてお聞きします。

私が暮らしているロラン島は、デンマークの首都、コペンハーゲンから南西150キロの位置にある、ハート型の島です。人口はおよそ6万5千人、平坦な地形の多いデンマークでも特に平らな土地なので、「パンケーキの島」とも呼ばれます。昔から農業と牧畜は盛んでした。また、30年前までは大規模な造船所があり、島の繁栄を支えていました。しかし、1987年に閉鎖が決定されると雇用も減り、ロラン島の活気も失われていきました。

そんな中、農家の人たちが率先して自分の土地に小規模な風車を設置していきます。ロラン島は、デンマークの中でも特に風車に適した風が吹きます。当時ロラン島に初めて風車を導入した農家さんに話を聞いたのですが、「風が吹くだけでエネルギーができるなんて素晴らしい」と感じ、風車の工場に見学に行ったそうです。

オイルショックの頃は、日曜日に車の運転を禁止する法律ができたり、シャワーでお湯を使えなくなったりと困ることが多く、それをなんとかしたいと考えたようです。しかも自分でできることがあると知って、やりがいを感じたんですね。

当初はこのように個人の農家が小さな風車を建てる、という所からでしたが、その後、国として自然エネルギーを普及させる方針が決まると、風車に適したロラン島に風力発電が広まっていくことになります。ロラン島は、風況だけではなく、土地が広く、農地が使える農家さんがいっぱいいるという条件も適していました。

電力自給率700%!?

風車によってロラン島の経済も立て直したということでしょうか?

そのとおりです。風車に関しては個人レベル、自治体レベル、国家レベルと様々な取り組みがありますが、現在は、造船所の跡地に世界最大級の風車のブレード(羽根)の工場ができるなど、自然エネルギー事業によって雇用も生み出しています。それから、「ウィンド・アカデミー」という風車のメンテナンス事業者を養成する学校も運営しています。

風車は世界中に建っていますが、メンテナンス要員が足りていないし、その教育を行っているところも多くはありません。風車はメンテナンスによって寿命がぜんぜん違ってくるので、腕の良い技術者が大勢必要となっています。

早くから風車に取り組んできたロラン島だからこそできる学校の運営によって、世界中から受講生を受け入れています。そのような取り組みもあって、現在ロラン市の発電における自然エネルギー比率は、最新のデータでは700%にものぼっています。

またロラン島では、バイオマスの活用も盛んです。やはり農家が生み出したワラやウッドチップ、芝の種収穫後の茎などを燃やしたり、家畜の糞尿をバイオガスにしてそれを燃料にして地域の暖房に使っています。ワラは農地が広くてかなりの量がとれます。これをワラの取引市場に売れるようになったことで、農家の副収入が増えました。

デンマークでは、発電など熱が発生する場所では、必ず熱も利用しなければならないと定められています。日本は発電しても熱を利用していない設備が多く、熱は捨ててしまっている一方で、新たに冷暖房のためにガスや石油を輸入するのはとてももったいない。もっと熱利用をちゃんとやるべきだと思います。また、そうして得た熱をムダにしないためにも、住宅や建物の断熱もとても重要です。

震災の被害を受けた東北との交流事業

ロラン市は、東日本大震災で被害を受けた宮城県東松島市と交流を続けているようですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?

きっかけは震災が起きて3週間後に、東松島市の職員から私に連絡をもらったことでした。被害を受けた東松島が復興した暁には、ロラン島のような持続可能な地域にしたいので協力してほしいと。

その話を私から日本大使館とデンマーク大使館、そしてロラン島が持続可能な取り組みを進めるようになった立役者のひとり、レオ・クリステンセンさんという市議会議員に相談して、プロジェクトを進めることになりました。

当初はデンマークのフレデリク皇太子が義援金などを持って東松島市を訪問したり、東松島市の職員の方を招いて何ができるかというワークショップを実施しました。そして翌2012年には、正式にロラン市と東松島市で震災復興協定を締結。最近では、東松島市民から公募して、デンマーク社会について学び、交流する視察ツアーなども実施しています。

そうしたさまざまな取り組みを元に、東松島市に農業や漁業、エネルギーに関する研究所がつくられました。ロラン島に豊富にある藻をエネルギー源などとして活用できないか、という研究も共同で進めています。自治体同士の交流として現在まで続いてきましたが、現在は市民レベルでの交流という意味でも徐々に深まってきていると思います。

東松島市から市民代表の方が参加した、デンマークの視察ツアー。

交流を通して、お互いがどのようなことを学んでいるのでしょうか?

交流の中でお伝えしてきたことは、デンマークの人々の持続可能なまちづくりのコンセプトです。

まちづくりもエネルギーも、外から何かを持ち込むのではなくて、そこに暮らす人たちが自分たちの持っているもの、つまり地域資源を有効利用するという視点が大切だということです。

ロラン島は風が風車に適していて、バイオマスの資源も豊富だったので主にこの2つに取り組んだことからもわかると思います。この考え方は、持続可能性だけでなくて災害に強いまちづくりをめざすうえでも、重要になるはずです。

もちろん、日本の方から刺激を受けることもあります。デンマークの人たちは、自然災害に直面することが少ないので、日本の人たちが大変な目にあっても冷静に対処して、短い期間で復旧していく姿にとても刺激を受けています。漁業でも、東松島のノリやカキの養殖が盛んですが、デンマークでももっと海洋資源を上手く活かしていくために、養殖などに取り組もうという考えもあります。日本から学べる部分は、たくさんあると思います。

無駄なものはひとつもない

北村さんがロラン島に住み始めた当初、この島の取り組みに触れて驚いたことは何でしょうか?

島に来るまで私は、エネルギーの話はもちろん、ロラン島のこと自体もぜんぜん知りませんでした。たまたまこの島出身のデンマーク人と結婚して、暮らすことになったからです。島に着いたときの最初の印象は、やはり風車です。あちこちに建っている風車を、いったい誰が所有しているんだろうという疑問を持ちました。

聞けば、先ほどの話のようにそのほとんどが地元の農家や、地域の人が出資したものだったので、驚きました。日本にいた時は、エネルギーは国や電力会社がつくるもので、自分たちは関与できないものだと考えていたので、普通の市民がエネルギー設備を所有して、運営しているのが衝撃でしたね。

それから、あちこちの畑に大きな四角いワラの塊が積み上げられていて、これも不思議な光景でした。ワラって、アルプスの少女ハイジのベッドくらいのイメージしか持っていなかったのですが、これがバイオマスエネルギーの原料になっていました。地域暖房の設備に投入しやすいように、共通の四角いサイズに整えてあるんです。

ワラを燃やして暖房エネルギーにした後に残る灰は、また畑に持ち帰って肥料にする。無駄になるものがひとつもないので、合理的なんです。島に来て目についたものが、ぜんぶ持続可能な社会につながっている、ということに驚きの連続でした。

ワラを使って電気と熱を供給するコジェネレーション施設。このワラの塊1個で約500kgの重さがあるのだとか。

自分ごととして社会を学ぶ

デンマーク社会に住んで感じる、持続可能な社会をめざすカギは何だと思われますか?

日本ともっとも大きな違いを感じるのは、教育です。デンマークでは、社会がどうやってできているかについて「自分ごととして学べる教育」をしているように思います。

たとえば中学生になると、国家経済について勉強します。税収が何に使われているかとか、デンマークがどんな産業で成り立っているかについて国家経済として学ぶので、農業やエネルギー事業などの重要性も理解できるようになります。

エネルギーについて学ぶ際は、実際にエネルギーの生産現場やリサイクルセンターを訪れて、エネルギーがつくられる様子やゴミのリサイクルについて学びます。そういうことを知って社会に出るかどうかは、ぜんぜん違ってくるはずです。

ワーク・ライフ・バランスについて講演中の北村さん。デンマークでは共働きが多いが、残業はしない、金曜日が半日勤務、休みや休暇をしっかり取って自分の時間や家族、友人との時間を楽しんでいる。さらに隣の国スウェーデンでは、1日6時間労働へとシフトしつつある。働きかたや生きかたも進化させるときにきている。

子どもの頃から社会の仕組みを知っていれば、政治への参加意識も変わってくるでしょうね?

国政選挙の投票率は、常に85%以上です。中学生になると模擬選挙をする学校もあるのですが、日本の方がイメージする「子どもの模擬選挙」とはだいぶ違います。市議会選挙のときには、ロラン市の市議会の制度や勢力分布図、候補者の政策について学び、投票日当日には大人と同じように学校で投票用紙をつくり、投票します。もちろん投票結果には反映されませんが、開票後は大人が選んだ結果と自分たちが選んだ結果がどう違うのかを分析するんです。

各党の人たちも、学校を訪れて政策について討論会を行います。得票にはなりませんが、子どもたちも近い将来有権者になるので、子どもにもわかるように説明するのが重要視されています。また、デンマークは小中学生でも政党に入ることが可能です。そういう取り組みを通して、なぜ選挙が大事なのか、選挙が市の運営とか地域とどう関わっているかを肌で感じていくのです。

そのように自分が暮らす社会について、身近なことを題材に勉強が進んでいくので、社会のことを自分ごととして理解することができるのだと思います。日本では長く受験制度が続いたことで、ものごとの成り立ちを深く考えことよりも、結果だけを覚える事が重視されてきました。その方針は少しずつ変わってきているのかもしれませんが、いずれにしても持続可能な社会をつくることができるかどうかについては、間違いなく教育がカギを握っています。

みんながほしい暮らしを、選択できる社会

北村さんがつくりたい社会、ほしい未来とはどんなものでしょうか?

みんながほしい暮らしを、選択できる社会がいいなと思います。「共生社会」と言い換えてもいいですね。限られた人だけが特別なのではなくて、それぞれみんなが自分の得意なものを持っている。それをうまく還元できて、活かせるような社会になれば良いと思うんです。

それは人間だけではなくて、人々が暮らしている街についても同じです。デンマークに暮らしていいなと感じるのは、やはり地域にもともとある資源を活かしたまちづくりができていることです。世界中そうですけど、都市部は人口が集中して、コンクリートだらけ。そういう無機質な環境は、もともと人間が心地よく過ごせる場所ではないように思います。

日本では地方が都市の真似をしてコンクリートを広げて、どこにでもチェーン店やコンビニエンスストアをつくっていますが、どこも同じになったら面白くないじゃないですか?コンビニがない町があってもいい。それぞれの地域を活かしたまちづくりができたら、それを誇りに思って楽しく暮らせるようになるんじゃないでしょうか。

ロラン島には、ファーストフードチェーンがありません。実は10年ほど前に、自治体がファーストフードチェーンを誘致する計画が、立ち上がったことがあるんです。でも住民が反対して撤退しました。私がその話を聞いた時に大切だなと感じたのは、最終的にどのような選択を取るかということよりも、そういう情報が事前に公開され、市民に広く共有されるという点です。それによって、この地域にファーストフードチェーンが必要なのかどうか、みんなが考えたり議論することができる。日本にいた時は、たいてい知らない間にできていたり決まっていたりするので、この差は大きいかなと思います。

どういう社会をつくりたいかを具体的に描く

いまのお話は、エネルギーの分野にも関連していますね?

おっしゃる通りです。

エネルギーというのは社会をつくるインフラの手段でしかありません。その設備をつくるに当って、「どういう社会をつくりたいのか」をはっきりさせないといけない。

デンマークでは、その議論を重ねた上で明確な目標値とロードマップが決められます。それにより、研究者や産業界はいつまでにどういう技術が開発されているべきかといったことがわかるので、将来の計画が立てやすくなります。たとえ政権が変わっても、その政策は守られるので、大きな投資もしやすくなる。

日本ではビジョンや数値目標を決めずに、「美しい国をつくる」などといった抽象的な概念を広めています。それでは研究者や産業界は、動きようがありません。政権が変わると白紙になったりするので、大きな投資も生まれにくくなる。まずは、自分たちがどういう社会をつくりたいのか議論して、方向性を決めることが大事なのではないでしょうか。

どうもありがとうございました。北村さんのお話では、デンマークについてよく話題になる「再エネ比率何%」といった表面的な話だけではわからない、その背景にあるものがたいへんよくわかりました。

日本でも単に設備などを真似すれば良いというわけではなく、その考え方と経験から学び、積み上げていく必要がありそうですね。北村さんのデンマークと日本の架け橋としての活動を、これからも期待したいと思います。

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