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今、国産材でDIYをする意味ってなんだろう。『杉でつくる家具』編者・大沼勇樹さんと70年前から続く「日本のDIY文化」について話してきました!

まちと森がいかしあう関係が成立した地域社会を目指し、竹中工務店、Deep Japan Labとグリーンズの共同で運営している「キノマチ会議」。2020年は国産材を使い、自分の手で木のある暮らしをつくっていくことの魅力を探るコラム「暮らしからはじめるキノマチ」を連載しています。

第5回目となる今回は、連載ナビゲーターの「つみき設計施工社」の河野直さん、『杉でつくる家具』の編者「グループモノ・モノ」のメンバーである「gyutto design」の大沼勇樹さんの対談をお届けします。

そもそもDIYのはじまりはどこなのか? という問いから出発し、ものづくりを愛する二人の話はどんどんヒートアップ。

70年前に出版された『アイディアを生かした家庭の工作』と、その現代版として復刻された『杉でつくる家具』の二冊を眺めながら、過去から今に通じる日本のDIY文化を探っていきます。

大沼勇樹(おおぬま・ゆうき)
つくることを使い手と一緒に楽しむ木工デザイナー。gyutto design代表。一般ユーザーに道具のおもしろさと工作の楽しさを伝える活動を続けている。書籍『杉でつくる家具』では作品製作・工程解説・撮影を担当。

日本のDIYの歴史は、3人の工業デザイナーからはじまった

『アイディアを生かした家庭の工作』について書かれたコラム

日本の工業デザインの歴史を振り返るとき、語らずにはいられないデザイングループがあります。戦後の日本で数々の名品を生み出した、「KAK(カック)デザイングループ」です。

彼らが1953年に出版した一冊の本『アイディアを生かした家庭の工作』は、大量生産の工業デザインとは真逆と言える、工作を広めようとする本でした。

およそ70年前に出版されたこの本には、手に入れやすい材料と少ない予算で暮らしが楽しくなるようなアイデアにあふれたDIYアイテムが50点以上掲載されています。

工業デザインを生業にしていた彼らは、なぜDIYに目を向けたのか。まずは、彼らの考え方やユニークさ、後世に残る彼らの言葉の数々について語っていただきました。

河野さん 『アイディアを生かした家庭の工作』に載っているものって、今見ても少しも廃れていないというか、むしろ新しく感じますよね。このビールのサービストレイなんて、アイデアがおもしろいし、ほしくなります。

『アイディアを生かした家庭の工作』に掲載されていた、ビールのサービストレイ

著者であるKAKデザイングループの3人はどんなメンバーだったのでしょう?

大沼さん KAKデザイングループは、秋岡芳夫さん、河潤之助さん、金子至さんの3人で構成されています。彼らはインダストリアルデザイナーとして、カメラや光学機器、オートバイなどの大量生産品のデザインをしていました。その一方で、3人とも木工に精通した技術者でもあるという点はとてもユニークですね。

KAKデザイングループがデザインした工業製品

大沼さん 3人ともそれぞれの得意分野があり、デザイン、構造、素材などお互いの知見をいかした工業デザインを行っていました。

中でもリーダー的存在だった秋岡さんは、童話を書いたり絵本の挿絵を描いたりと、工業デザイナーとはまったく違う一面を持っていました。

河野さん 彼らが『アイディアを生かした家庭の工作』を出版した1953年頃、日本は高度経済成長へと突入するタイミングで、工業化の流れの真っ只中ですよね。

そんな中で工作に注目したのは、大量消費を促す流れに、どこかで違和感を覚えていたからなのでしょうか。

大沼さん そうだと思います。とくに秋岡さんは昔から、こんな風に言っています。

「自分のほしい物を自分でよく考え 自分でつくり 要すれば自分の道具をよく工夫し 心をこめてつかって見て 気に入らぬところを又よく考えて直し 納得の行くまでつくり直し それを愛用する … それが人間の物づくりの原型!」

大量生産品のデザインをしている中で、多くの人を単なる消費者にしてしまっているのではないかという危機感があったのでしょう。

河野さん 彼の中に、工業的なスピードで流れる時間と、人間が豊かに生きられるスピードの時間という2つの時間の流れがあって、どちらも彼の活動を形づくっていたのかもしれませんね。だからこそ、『アイディアを生かした家庭の工作』に載っている作品は多様でモダンなのに、本質は捉えていて廃れない。

そんな『アイディアを生かした家庭の工作』は、現代でも珍しいDIYのレシピ本のような一冊だと思うのですが、KAKの3人はどんな思いをこの本に込めたのでしょうか。

大沼さん 彼らは「DIYなんだからしょうがない」と諦めるようなデザインや構造は一切していなくて、むしろ素人に対してもデザインの大事さを一生懸命訴えようとしています。身の回りの材料と道具でも、暮らしが豊かになるアイテムをつくることができると伝えたかったのではないでしょうか。

また、秋岡さんは「作業と工作は似て非なるもの」で、「人間にとって、面白くて止められないのが工作で、面白くないな止めたいなと思うのが作業」なのだと言っていました。

「家庭の工作」という言葉には、ものづくりを楽しんでもらいたいという思いも込められているんだと思います。

『アイディアを生かした家庭の工作』に掲載されていた、おかま運びのためにデザインされた作品と、「ハンパークロス」

「日曜大工」から「DIY」へ。70年前と現代で変わるものと変わらないもの

「暮らしからはじめるキノマチ」連載でも何気なくつかってきた、「DIY」という言葉。いつから日本で使われるようになったのか、また「DIY」と呼ばれる前はどんな風に呼ばれてきたのか、気になるところです。

その歴史を紐解くヒントは、なんとKAKデザイングループにありました。

DIYの歴史をたどると興味深いことが見つかったと語る、河野さん

河野さん DIYと呼ぶようになったのは、ごく最近のことですよね。

調べてみたところ、「DIY」という言葉は戦後のイギリスで生まれたようです。元軍人たちが自分たちの力で故郷を再建していこうと「Do It Yourself.」と呼びかけあっていたのがはじまりなんだとか。

大沼さん おもしろいのが、『アイディアを生かした家庭の工作』が出版されたのは同じ頃の日本なんです。戦後の焼け野原という同じ時代背景の元、それぞれの国で同じような価値観が生まれていたんですね。

そしてKAKデザイングループの3人は、自分の暮らしに必要なものは自分でつくることを「日曜大工」と呼んでいました。

KAKの金子至さんが『サンデー毎日』という雑誌に「日曜大工さん」というコラムを寄稿していたのだそうで、それが「日曜大工」という言葉のはじまりだったのだとか。

同じ頃にNHKでも日曜大工の番組を担当していて、そのころは録画放送でなく生放送だったので、KAKのメンバーがせっせとDIYをしている様子が全国で同時に流れていたんです(笑)

この頃、日曜大工は一種のムーブメントになっていたのではないでしょうか。

河野さん やっぱり、日本には日本のDIY文化が生まれていたんですね。DIYは輸入した文化ではなくて、戦後から続いてきた「日曜大工」がDIYに置き換わったと。

「日曜大工」や「DIY」という概念が生まれて70年ほど経ちますが、変わったものと変わらないものはどんなことでしょうか?

大沼さん 時代背景が大きく変わり、自分でつくることのモチベーションが変わったと思います。戦後で何もなかった頃から比べて、今はあふれるほどにものがある。自分でつくらなくても、買えばなんだって揃えることができます。

昔は必要に駆られて自分でつくるということが多かった一方、今はどちらかというとオリジナル性を求めてDIYをしている人が多いのではないでしょうか。

既製品では出せない自分のオリジナルの色を出すことが、DIYではできますからね。

河野さん 変わらないものを考えてみるとすると、秋岡さんが抱えていた工業化への危機感は、今も同じではないでしょうか。

ものすごいスピードで消費されていく社会のなかで、何か大切なものが失われてしまっているのではないかという危機感です。

混沌とした社会の中で、人々がなんとか自分たちの手で豊かさを取り戻そうという気持ちで生まれたのが日本の「日曜大工」でありイギリスでの「DIY」だったとすると、新型コロナウイルスが流行した中で再びDIYが注目されたのも、わかるような気がします。

復刻された『杉でつくる家具』が教えてくれる、国産の杉の魅力

2019年3月、今回の対談相手である大沼勇樹さん、そして菅村大全さん、笠原嘉人さんのプロジェクトチーム「グループ モノ・モノ」によって『杉でつくる家具』が出版されました。

『杉でつくる家具』は、『アイディアを生かした家庭の工作』から木製家具24作品をピックアップし、道具や構造の解説も含めながら現代の人が取り組みやすいように編集されたDIY本です。

ここからは、なぜ70年のときを経て復刻されたのか、なぜ杉に注目をしたのか、その理由に迫ります。

『杉でつくる家具』

河野さん 『アイディアを生かした家庭の工作』が発行されたのは1953年ですから、およそ70年のときを経ての復刻ですね。

どうして、今このタイミングで復刻したのでしょうか?

大沼さん 『アイディアを生かした家庭の工作』が出版されたのは戦後すぐで、日本が焼け野原だった時代。そのとき、森には家を再建するために杉がたくさん植えられました。

しかし杉が使われないまま、鉄筋やコンクリートが海外から入ってきてしまったんです。そのまま杉の森は使われないまま70年経ち、現在手入れの行き届いていない杉の森が問題になっています。

河野さん 戦後に植えた杉が、今になって問題になっているんですね。

大沼さん そして実は、杉は35年〜50年ごろが切り旬ですが、70年が経ち、よく育っているのに、使う先がない。徐々に大規模建築で杉を使う流れが生まれていますが、一般の生活者にはまだまだ目を向けてもらえていないのが現状です。

だから今こそ、『アイディアを生かした家庭の工作』で提案されているような身近な素材と道具をつかったものづくりを一般の生活者に知ってもらい、自分でつくる喜びを感じてもらいたいと思っているんです。

河野さん 70年というタイミングに、杉の成長という理由が隠されていたとは驚きです。

この連載でも何度か杉材を紹介してきたのですが、『杉でつくる家具』は明確に杉を使うことをテーマにしていますね。杉は傷がつきやすいし、和風な雰囲気になりがちなので、実際に家具には使われないことが多いはず。

どうして、杉を使っていこうと提案しているのですか?

大沼さん おっしゃる通り、杉は実際の家具に使う材料としては嫌われ者です。でも、DIYにはぴったりな材料だと思っています。

その理由は、どこでも手に入る、加工がしやすい、そして安いことです。

河野さん 安いのはいいですね。失敗しても気にならないし、いろいろなことに挑戦できます。

しかも杉は軽いので、ホームセンターから手で持って帰ることもできますよね。そういう手軽さは都会でDIYをするなら大きなメリットです。

大沼さん そうですよね。

そして、杉の材としての弱さと和風なイメージも、構造とデザインを工夫することで解決できるんです。

『杉でつくる家具』に掲載されている1つ目の作品。「筋交いが効いた2WAYスツール」

大沼さん たとえばこの「筋交いが効いた2WAYスツール」のように、筋交いを入れることで強度を高めたり、斜めにカットしたデザインで野暮ったさを軽減してモダンな感じにしたり。

こういう工夫をすることで、杉はとても魅力的な材になるんです。

河野さん このデザインや構造ができるのは、KAKデザイングループのすごさですよね。

大沼さん 今回、原著に掲載してある作品を復元するにあたって、彼らの引いた図面を元に実際につくりながらポイントを読み解く作業をしていました。

その作業を通して彼らのデザインや構造への工夫が理解でき、図面を通して彼らと会話をしているような気持ちになりましたね。

技術はみんなのもの。DIY=草野球のレベルをあげて、ものづくり全体をもっとよくしていきたい

河野さん 僕らがやっているDIYは、実は70年前から脈々と続いてきた日本のものづくり文化の延長にあるとわかって、なんだか感慨深いです。

そしてここまで話してきて感じるのは、やっぱりDIYを長く楽しむ秘訣は道具にあるということ。手道具の基本を身体で覚えておくだけで、DIYをしたいと思ったときにパッとできるし、理想のものがつくりやすいと思います。

大沼さん そうですね。例えばノコギリが使えるだけで、天板が高いと感じるテーブルの脚を切って、自分にとって使いやすい高さに調整することもできますし、しっくりこないことに対してアプローチができるようになります。

DIYは、料理などに比べたら少しハードルが高いと思われることがあるとと思うんですが、そこをまず一歩踏み出してもらえたらいいですよね。

河野さん 料理みたいに毎日の生活の中に組み込まれていて、家庭でも地域でもよく見かけるものって、やってみようかなって思いやすいはずで。

きっとものづくりも、一昔前だったら近所のおじさんが木を切っていたりとか、父親が休日に大工仕事していたりとかしていたと思うんです。そういう風景がなくなってしまった今、道具をつかってものづくりをしようと思うには心理的ハードルがあるのではないかと思いますね。

だから、ものづくりの技術がもっと広まってほしいんです。
いつの間にか、技術ってプロの持つものって思われちゃっているし、プロもそう思っちゃってると思います。

でも、技術はすべての人に開かれているものだと思っています。

草野球のレベルが上がればプロを含めた野球文化全体のレベルが上がるように、DIYでみんなが技術を身につければ建築や林業や森への意識も上がって、もっといいものづくりができるようになっていくと思うんです。

大沼さん たしかに、DIYは草野球ですね(笑)

秋岡芳夫さんが伝えたかった「工作」の楽しさは、ノコギリなどの手道具の技術を身に着けることでより一層味わえるようになります。自分のほしいものを、自由に、楽しくつくることができる豊かさをぜひ知ってもらいたいです。

河野さんのオフィス近くで、最後に一枚。

(対談ここまで)

最後に読者のみなさんへ、河野さんと大沼さんが今回の連載用につくってくださった「杉でつくる小さな家具」の図面と手順の説明書をプレゼントします。

ここまでの連載でお伝えしてきたことを頭の隅に置きながら、楽しくDIYをしてもらえたらうれしいです。

そして、実際にどちらかの家具をつくって「Facebook」「Twitter」「Instagram」のどれかに写真を投稿してくださった先着5名の方に『杉でつくる家具』をプレゼントいたします。「#暮らしからはじめるキノマチ」をつけて、Twitterに投稿してくださいね。(応募締め切り: 2020年10月31日)

河野さんからのDIYチャレンジ課題
「つくりやすくて長く使えるこども椅子」

河野さん この子ども椅子のアイデアは、つみき設計施工社をはじめた頃に道具の使い方を教えてくれていた70歳の大工さんが「こんなのどうよ」って見せてくれたものです。

僕がDIYをはじめた頃につくったもので、この椅子をつくることを通じて道具の使い方を覚えましたね。

そのアイデアを元に、つくりやすく図面をアップデートしました。子どもにも人気な椅子ですよ。

材料・設計図・つくり方はこちらからダウンロードできます。<=

大沼さんからのDIYチャレンジ課題
「きほんのきを押さえた、シンプルな木箱」

大沼さん これは玄関先やリビングに置きたくなるちょっとした飾り棚です。材料は13mm×90mmの杉板だけでつくることができます。ノコギリを使って杉を切る感覚を楽しんでもらえると嬉しいですね。

材料・設計図・つくり方はこちらからダウンロードできます。

つくり方をこちらの動画でもご紹介しています!ぜひ一度見て見てください。

(写真: 荒川慎一)

– INFORMATION –

2024年は先着300名無料!
10/29(火) キノマチ大会議 2024 -流域再生で森とまちをつなげる-


「キノマチ大会議」は、「キノマチプロジェクト」が主催するオンラインカンファレンスです。「木のまち」をつくる全国の仲間をオンラインに集め、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出すイベントです。

5年目となる今年は2024年10月29日(火)に1DAY開催。2つのトークセッション、2つのピッチセッションなど盛りだくさんでお届けします。リアルタイム参加は先着300名に限り無料です。

今年のメインテーマは「流域再生で森とまちをつなげる」。雨が降り、森が潤い、川として流れ、海に注ぎ、また雨となる。人を含めて多くの動植物にとって欠かせない自然の営みが、現代人の近視眼的な振る舞いによって損なわれています。「流域」という単位で私たちの暮らしや経済をとらえ、失われたつながりを再生していくことに、これからの社会のヒントがあります。森とまちをつなげる「流域再生」というあり方を一緒に考えましょう。

イベントの詳細はこちら

暮らしからはじめるキノマチ 連載一覧

第1回 DIYは「生きる力」であり「態度」だ。木と人と、ともに生きる豊かなDIYをはじめよう。
第2回 道具を知ることで、人と木の関係を学ぶ。DIYを長く楽しむための三種の神器の使い方。
第3回 イメージ集めと下調べがDIY成功の秘訣。変化させながら長く使えるものづくりの、5つの準備ステップ
第4回 DIYのための国産材はどこで買える?木材の選び方のコツとオススメのお店
第5回(本記事) 今、国産材でDIYをする意味ってなんだろう。『杉でつくる家具』著者・大沼勇樹さんと70年前から続く「日本のDIY文化」について話してきました!

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