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木造は、鉄骨コンクリートの置き換えではない。ヨーロッパで進められている木造都市と、日本が歩んでいく「木のまち」の未来像とは

東京・銀座に、12階の木造建築が完成しました。
木造と鉄骨のハイブリッド建築としては日本で最も高い建物になるそう。

キノマチプロジェクト」では、こうした木造建築を通じて、まちと森がいかしあう社会を目指しています。

2021年10月には「木のまち」をつくる全国の仲間が集まり、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出すイベント「キノマチ大会議」が5日間連続でオンラインにて開催されました。

今回は初日に開催されたカンファレンスの様子をレポートします。テーマは「都市の木造と経済循環」。日本の林業が衰退し、森が荒廃していくなかで、都市では木造建築を増やすことで森との経済循環を生み出そう、と進められています。

すでに都市木造が広まっているヨーロッパから学ぶべく、長年スイスやオーストリアに住み「山に利益を返す建築」を研究される法政大学 デザイン工学部 建築学科の網野禎昭教授に、ヨーロッパでの歴史や現状をお聞きしました。

さらに、中・高層の都市木造に取り組む竹中工務店の小林道和さん島田潤さんもゲストにお招きして、都市木造がもたらす可能性について語りました。

網野禎昭(あみの・よしあき)
法政大学デザイン工学部建築学科教授。スイス連邦工科大学助手、ウィーン工科大学専任教員、オーストリア政府助成・中高層木造プロジェクト委員などを経て2010年から現職。帰国後は川上と川下を結ぶ木造建築をテーマに研究・設計活動を行なう。
島田潤(しまだ・じゅん)
竹中工務店 東京本店 設計部。一級建築士。
小林道和(こばやし・みちかず)
竹中工務店 木造・木質建築推進本部、営業・プロモーショングループ部長。
植原正太郎(司会)
NPOグリーンズ共同代表。

ヨーロッパで都市木造が広まった理由

正太郎 木造建築を通じて、森林と都市の経済循環をつくっていこう、というのが今回のテーマです。竹中工務店では「森林グランドサイクル」と銘打って取り組んでいますよね。

島田さん 都市部の建物を木造・木質化することで木材の需要を高め、日本の林業を活性化し、森を豊かにしていこうという取り組みです。最近では2020年に東京の江東区に「フラッツウッズ木場」という12階建ての木造と鉄筋コンクリート造のハイブリッド構造の集合住宅を設計しました。

また現在は銀座でも、木造の商業施設を建設中です。木造と鉄骨造のハイブリッド構造で、12階建て、60mほどの高さになります。

約250戸ある企業向け賃貸住宅「フラッツウッズ木場」

正太郎 すごいですね。ほかにも日本では木造建築が広まっていますが、長くヨーロッパに住んでいた網野先生から見て、この状況をどんなふうに捉えていますか?

網野さん 日本では鉄骨や鉄筋コンクリートの置き換えとして木造が使われているように思いますが、ヨーロッパでは都市木造に取り組む理由として、将来のエネルギー供給への危機があるようです。

こちらの写真は、16〜17世紀ごろの町並みです。4〜5階建ての木造の建物が、びっしり隙間なく並んでいますよね。

網野さん 面白いことに、当時、ヨーロッパでは森林伐採が進んで木材不足だったんです。木が足りないのに、なぜ大型の木造建築をつくったのか? それは、薪の節約のためだったんじゃないかと考えています。

建物は、多層階にし長屋のように横に長くなればなるほど、外気接触面積が極小化されていきます。そうすることで、熱が逃げる壁を減らすことができ、断熱効果になります。つまり、都市構造そのものに熱負荷の低い形を求めたのが木造都市だったと思うんです。その考え方が、現代の都市木造にも引き継がれているように思います。

正太郎 現代においても、そこまでエネルギーを意識している背景はなんなのでしょう?

網野さん ヨーロッパの多くの国は天然ガスを外国に依存しているので、もしパイプラインを締められたら…という危機感が強いんですよ。そこで自給できるエネルギーは何かっていうと、バイオマスしかない。

でもバイオマスのためだけに木を切って燃やしたら炭素固定にもならないし、再造林の費用が出ないので、木造建築をやることで森に付加価値つけよう。その残りをバイオマスにしよう、と。そうした流れがヨーロッパの木造化のベースにあるんだと思うんですね。

これは2004年にウィーンにできた4階建ての木造の公団住宅で、建物の裏を見ると煙突があります。

網野さん この建物は近隣のゴミの焼却所から地域熱供給を受けているので、本当は煙突は必要ないんですが、ウィーンでは公団住宅に緊急用の暖炉を設置することが義務付けられているんです。

何の緊急用かというと、エネルギー危機に陥ったときに木を燃やしましょう、と。そういう仕組みが都市木造の中に組み込まれているんです。すごいですよね。果たして、いま日本でも都市の木造化が話題になっていますけど、本当にこういった問題意識はあるのかっていうと、あまり聞こえてきませんよね。

正太郎 確かに、日本では木造化とエネルギー問題はあまり結びつけられることはないですね。

山側とつながった持続可能な木のまちづくり

網野さん 日本国内に目を向けると、木造建築は本当に山を豊かにしているのか? ということも気にかかっています。

木造建築をたくさんつくるようにしているけれど、ちゃんと林業にお金が返っているのかというと、返ってないんですね。確かにこの10年で国産材の自給率は上がっていますが、林業の人たちの利益はずっと落ち込んだままなんです。

例えば、70年かけて育てた丸太を売っても、利益は1㎥あたり1000円以下という状況です。そこにはいろんな理由があります。日本の林業が高コストだから、ということもあるんだと思います。でも、我々建築の方から言うと、歩留まり(※)の悪い使い方をしている、つまり、木材をちゃんとお金に換えるような使い方が建築の方でできていないことも大きいです。

(※)歩留り:原料や素材の量に対して、実際に得ることができる出来高の割合のこと。

工業製品のように、過度に加工しすぎてしまうと歩留まりが落ちていくんですよね。加工したら残材が出るわけですから、そういったものもうまく使わないと山の利益には結びつきません。

この歩留まりは丸太の仕入れ価格にすごく影響するんです。60%から45%に落ちただけで、1000㎥の丸太からできる製品量は600㎥から450㎥に落ちますよね。製品単価を5万円として考えた場合、売上は3000万円と2250万円になります。必要な粗利が2000万円だとすると、翌月の仕入れに回せるお金は1000万円が250万円になるんです。すごい差ですよね。設計者はそういうことも意識しないといけないな、と思うんです。

網野さん これはスイスにある学校です。中に入ってびっくりしました。木の節(ふし)だらけなんですよ。通常は売れないような材料を、逆手にとってアイコン化したんです。節があるからって売れないと、村の林業は死活問題ですよね。だからこれはすごい着眼点のデザイン開発です。

加工を抑えて山の利益を最大化する。地元の建築家たちが正確に、山や地域の産業の問題を捉えている証拠ですね。日本もかつては山と建築がつながっていましたが、いまは単に鉄骨やRCの置き換えとして木造が使われているような気がしています。

島田さん 様々なケースがあるのですが、12階などの中高層を設計する場合は、建築主さんがデベロッパーであることが多いこともあって、鉄骨造やRC造の提案を別案として木造案を並行して検討することも多いです。

建物としての性能やコストは鉄骨造と比べてどうなの? ということをやはり建築主の皆さんは重要視されていて、実績が多く、建築主さんとしても仕様を理解しやすい鉄骨造やRC造を比較対象にしつつ、木造のメリットを説明しながら提案を進めるることが、皆さんに納得してもらいながら木造の建物を設計する一つの方法になります。

歩留まりについては、日本における木造建物は「木をどれだけ使っているか」ということを木の体積で計算することが評価軸の一つになってしまっている現状があります。体積を使えば使うほど、木造の建物として価値がある、という考え方です。

そのきっかけの一つに、国交省の補助金でサステナブル建築物等先導事業の木造先導型というものがありまして、補助対象部分の床面積当たりの木の体積が選定基準の一つになっています。

つまり、建物の完成状態でどれだけの体積の木を使っているかが一つの指標になっているんですね。一方で、歩留りがいいか悪いかなどを評価するわかりやすい指針はなく、設計者としても問題に感じています。

正太郎 なるほど。国も歩留まりがいい木造建築をちゃんと評価して、そういう建築が補助対象になったら、状況は変わるかもしれないですね。

網野さん ちゃんと川上にお金が落ちるような建物が評価されていくといいですよね。

島田さん いま中高層の木造の設計を初めてやるという設計者はたくさんいるので、そうした人たちにどうやったら山にちゃんとお金が返るような設計ができるのかをできるだけ伝えていきたいと思っています。

2019年に行われた「キノマチ会議リアル版 in和歌山」では、参加者とともに山へ足を運んだ。

正太郎 竹中工務店として何か山側にはたらきかけていることはありますか?

小林さん これまで建設会社は、コンクリートや鋼材などでできた建材を購入する際には、製造メーカーに材料発注して、性能と価格のバランスをとりながらコストを抑えて建物を建てる、という流れで工事を行っています。

なので、完成した建材のメーカーとのお付き合いはありましたが、建材の元になる原材料の生産者と直接コミュニケーションをとることはあまりありませんでした。しかし、少しずつですが木の原材料を供給する林業家との交流を広めているところです。

島田さん 現状では設計・発注の後、木造の柱・梁の製品検査などのタイミングに合わせて、現地に行って見学をする、というのが多い状況です。なので知り合いの山主さんに依頼する、というよりは、設計者・監理者としてその部材をつくってくれた生産者の方にあとから会いに行くという状況になることもあります。

そんな中で、私は木造の設計が2つ目であることもあり、生産や製材をしている人の顔がわかっって山や工場を見せていただいているうえで、次の設計でそれをどう生かそうか、と考えているところです。

正直、設計をして、材を発注してから、山主さんに会うというのは、順番が逆なんじゃないかな、とは思っています。

網野さん 僕もプロセスが逆だと思うんですよね。山にある資源とは無関係に、川下で「こういうものをつくりたい」と設計している。つまり、でき上がる建物がまず構想としてあるんですね。それに対して材料を合わせてください、とやるわけですよ。

これは加工業の視点です。結果に対してプロセスをつけていく。ところが農林水産業はなかなかそうはいかなくて、いま山にこういう材料があるからこういう木を使って建てよう、というプロセスも必要だと思うんです。

いま世界中で木材が不足して「ウッドショック」と呼ばれていますけど、それもこのプロセスが逆になっていることが一つ関係していると思います。というのも、いま値上がりしてなかなか手に入らないと言われているのは、だいたい一般の住宅の柱材ですよね。なぜかっていうと、みんな同じ材料、同じ寸法のものを使っていますからね。

原木市場に行くと、柱にするための20センチ前後くらいの丸太は品薄になっているんですけど、30センチを超えるような大径材はそんなに売れていなくて残っているんです。要は川下で断面を決めて、標準化された断面をどんどん使っている。でもそれって、山の状況とあんまり関係なくて、山は、木が太って大径材ばっかりになってきています。

だから、いま山にどんなものがあるのか、どの程度の量があるのか、木造設計者はいつも敏感にアンテナを張っていないといけないなと思います。

小林さん 竹中工務店は10年間で30件ぐらい木造のプロジェクトを取り組んできましたが、それでも木造建築を経験した設計者は全体の中では一部となります。木造プロジェクトの経験やノウハウの共有は進めていても、最初の壁になる目の前の難解な防耐火規制と格闘することになって、網野先生が指摘されるように、山にどんな材料があるのか、どう使うのか、といったところまで余裕を持って設計に取り込める人はまだ少数なのかもしれません。

ただ設計者のなかには山に何回も通ったり、森林組合で勉強させてもらったり、素材とその生産に興味を持つ設計者も増えてきているので、山と木について深く考える設計者が社内で増えてきたなという感触はあります。

「木のまち」への鍵は、地方分散

正太郎 現代のヨーロッパではどんな都市の木造化が進められているのでしょうか?

網野さん 「都市の木造」って聞くと、東京のような大都市に建つ木造をイメージしますが、本当にそんな大都市開発がこれからもずっと続くのでしょうか。一極集中の是正もあるし人口減もあるし、「未来の都市」って何なんだろう? ということから考える必要がある気がするんですね。

オーストリアのザンクトゲロルドにあるマーケット(左)、学校(右上)、町庁舎(右下)。近隣に集まっている。

網野さん ヨーロッパでは大都市ばかりではなくて、中山間都市の開発にいま力を入れ始めているんです。「開発」と言っても、もともとあった居住環境を活かして、ちょっと手を加えて住みやすくしていこう、といったもので、木造で集合住宅や役所、学校をつくったりしています。

自治体の規模も1000人に満たないような地域で、こういった開発によって人口減少を止めています。小さな村なので公共建築も一つで十分で、一つの建物に役所や学校、マーケットなどを全部入れて、ワンストップで全てが終わる。そうすると徒歩による生活圏ができる。

公共建築をつくるにしても、非常にコンパクトなボリュームで設計して、エネルギー負荷を抑えて、そして未来の世代への負担を減らそうと考えられています。

例えばオーストリアのラグガルという村ではバイオマスエネルギーを生産して、それで雇用をつくり、役場の地下にあるボイラーから村々の家に熱を配給しています。

町庁舎の横にあるボイラー

網野さん 日本はなんとなく均質な国のように見えますが、実は山や製材の状況を見ると、各地で全然違うんですよ。日本って本当はいろんな多様性が並立しうる国なんですよね。こうした多様性こそが未来への成長の担保かな、と思っています。だから一極集中ではなく、地方の独自性が生きるようにしないといけない。

正太郎 でも都市側が地域を平準化して見てしまったり、同じような材料を発注したりしているから、その体制が生かされていないっていうことですね。

網野さん そうです。地方ごとにつくる建物やつくり方とか、あるいは契約のやり方とかも違うんですよね。

例えば福井県には、大きな製材工場がないんですよ。どうやって建物を建てているかというと、小さな工務店がいくつかありまして、彼らが製材しているんです。場合によると山で伐採までして。あるいは伐採をしないまでも、原木市場に行ってかなりの大径材を買ってくるんですよ。それを自分の工務店で、建物に合わせてちゃんと木取りしていくんです。

つまり素材生産から建物づくりまで一気通貫でやっている。びっくりしました。だからウッドショックのようなグローバリゼーションの荒波にも右往左往しないんですよ。独自のサプライチェーンですから。

正太郎 それはすごいですね。竹中工務店もそういうサプライチェーンを自社でつくる予定はありますか?

小林さん いま北海道で工事が進む自社ビル物件で、北海道FMセンターというプロジェクトがあります。北海道で育った木を、北海道の製材所で加工可能な材料と寸法を前提に設計するというプロジェクトとなります。

一方で、木を使うことを目的化してしまって、建物内に住まわれる方が我慢したり、ちょっと窮屈な思いをしては本末転倒になるので、オフィスとしての空間を適切に確保するため、例えば、柱と梁を重ね合わせて使うなど地元の材料を使いつつ構造性能を高めるといった工夫をしています。

この取り組みが施工すれば、当然のことながら北海道の中でも広めていきたいと思っていますし、ほかの地域にも広めていければいいなと思っています。

未来の人たちを想像したまちづくり

正太郎 最後に、「木のまちづくり」への思いを聞かせていただけますか。

網野さん これまで建築の話をしてきましたが、そもそも「木材活用」って、目的は木造建築をつくることでもないし、木材をたくさん売買するというビジネスだけではないんですよね。森林はみんなの宝ですから、関係者が利益を出せばいいということだけではないんです。

50年先ぐらいの人たちが、自分がつくった建物にどんな気持ちで住むのかなとか、僕らの子どもたちや孫たちがどういう世界を生きるのか、ということをイメージしないと、未来のまちはつくれません。

『星の王子さま』の作者でもあるサン・テグジュペリの言葉なんですけど、いま僕たちが生きている環境って、未来の人たちからの借り物なんですよね。いつもそんな視点で山や建物を見たり、職人さんたちと付き合ったりしています。

正太郎 どういうまちにしていきたいのかを本当に川上から川下までみんなでちゃんとビジョンを描けるような、そういう対話の場を持てるといいですね。

そのためには、山側も都市側もお互いに歩み寄っていく努力が必要だと思いました。

(トークセッションここまで)

ヨーロッパで都市木造が広まっている背景には、エネルギーへの危機感が強いこと。
その地域にある木材を効率よく使い、地域内で経済を循環すること。
大都市への一極集中から、地方分散型の都市開発。
未来に生きる人たちをイメージしたまちづくり…。

網野さんからは「木のまち」へのヒントをたくさん教えていただきましたが、最後にこんな言葉も残していました。
「我々は手段が完璧で、目的が支離滅裂な時代を生きている(アルベルト・アインシュタイン)」

何のための木造なのか。
何のために「木のまち」をつくるのか。

「キノマチプロジェクト」では木造や木のまちづくりの魅力を広めてきましたが、今一度、原点を見つめ直すことも大事だなと思いました。

– INFORMATION –

2022年は先着300名無料!10/26(水)開催
キノマチ大会議 2022 ~まちと森がいかしあう社会を考えるオンラインカンファレンス

「キノマチ大会議」は、「キノマチプロジェクト」が主催するオンラインカンファレンスです。「木のまち」をつくる全国の仲間をオンラインに集め、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出すイベントです。

3年目となる今年は2022年10月26日(水)に1DAY開催。基調講演、3つのトークセッション、2つのピッチタイムなど盛りだくさんでお届けします。リアルタイム参加は先着300名に限り無料です。メインテーマは「まちと森がいかしあう社会をつくる」。建築、まちづくり、林業、デザイン、メディアなど様々な分野の人が、領域を超えてこのテーマについて考える場になります。

全国から仲間が集う「キノマチ大会議」で、お会いできることを楽しみにしています!

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