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中山間地域の高校が、台湾の学生を迎え入れる理由とは?「訪日教育旅行」に取り組む和気町で見た、国際交流とインバウンド観光のいい関係。

人口1.4万人。岡山駅から電車で30分、備前市の北側に位置する和気町は、山と川に囲まれた中山間エリア。教育を軸にしたまちづくりや、ドローンによる買い物弱者支援など、行政の攻めた政策が注目されており、greenz.jpでも過去に何度かご紹介してきました。

そんな和気町が、新たに取り組むのが、今回ご紹介する訪日教育旅行です。

訪日教育旅行とは、海外の学校に通う生徒が教員とともに学校教育の一環として行う旅行のこと。安全性が高く、教育素材も豊富な日本は訪問先として人気で、2015年度には延べ4,000校を超える小学校・中学校・高等学校で交流が行われ、訪日教育旅行生は65,000名を突破しました。(出典: 文部科学省「平成27年度高等学校等における国際交流等の状況について」

和気町はどのような目的で、訪日教育旅行を受け入れているのでしょうか?
1月中旬、台湾から訪れた留学生の受け入れに密着し、プログラムを体験してきました。

台湾の留学生とスポーツや料理で交流

和気駅から徒歩5分ほどのところにある、和気閑谷高校。

1月にも関わらず春のような暖かさを感じられるある日、姉妹校協定を結んでいる台湾の國立屏東女子高級中學(こくりつぴんどんじょしこうきゅうちゅうがく)から約30名の留学生が和気閑谷高校(わけしずたにこうこう)を訪れました。
今回の訪日教育旅行プログラムは、約半日。スポーツや料理、歴史的施設の見学を通して異文化理解や国際交流の機会を設けています。

まずは体育館に全校生徒約340名が集まって、留学生をお出迎え。生徒代表者がステージに立ち、お互いの高校紹介をして理解を深めます。

中国語で挨拶をする生徒たち。

留学生からは踊りのプレゼントもありました。近くにいる生徒や職員と手を取り合って、一気に心の距離を縮めます。

台湾の民謡に合わせた踊りのほか、日本の人気歌手のダンスも披露してくれました。

体育館での催しのあとは、和気閑谷高校の生徒と留学生が一人ずつペアになり、スポーツ・料理・着付の3つのコースに別れて日本文化を体験してもらいました。

スポーツ交流では、剣道部に所属する生徒の指導のもと、剣道を体験しました。

調理室では、お昼ご飯に食べるだし巻き卵、おにぎり、豚汁をつくりました。言葉が通じなくても、「次はこれを切ろう」「これはおにぎりって言うよ」とボディランゲージを駆使して、会話していました。

プロの着付け師に着物を着せてもらい、校内を散策。「かわいい」って日本語・中国語でなんていうの? と言葉を教え合う姿も見られました。

お昼ご飯を食べたあとはバスに乗って、和気閑谷高校の源流となった「特別史跡旧閑谷学校」へ。和気閑谷高校の生徒の案内のもと、閑谷学校を巡ります。

江戸時代前期に岡山藩主池田光政によって創建された閑谷学校は、現存する世界最古の庶民のための公立学校。閑谷学校では中国の学者・孔子を祖とする儒学を教えていたことから、台湾の留学生も関心を示していました。

自然の中に建てられた閑谷学校。講堂は、国宝に指定されています。

半日のプログラムを終える頃にはすっかり仲良くなった生徒たち。好きなアイドルや流行っているものについて話す姿も見られました。

教育×観光でインバウンド需要を狙う

和気閑谷高校の生徒にとっても留学生にとっても、楽しい学びある時間となった半日。そもそも和気町と和気閑谷高校が、訪日教育旅行を受け入れるに至ったのか。その背景にはどのような考えがあったのでしょうか?

まずお話を聞いたのは、和気町役場の山根健吾さんです。

和気町役場の山根さん。和気町生まれ、和気町育ち。

山根さん 和気町は自慢できる豊かな自然環境があり、温泉施設やサイクリングロードがあります。しかし、どれも他の市町村にもあるので、それだけではインバウンド旅行客を呼び込むのは難しい。もともと教育を軸にしたまちづくりに取り組んでいましたので、観光を掛け合わせて認知を広めていこうと考えました。

岡山と台湾は直行便があることから、台湾からの旅行客は、中国・韓国に次いで多くの割合を占めます。(出典: 日本政策投資銀行「2018岡山のインバウンド観光動向」
そこで訪日教育旅行の受け入れに向けて、和気町は2016年と2017年にモニターツアーを実施。台湾の学校関係者やメディア関係者に向けて、和気町の企業訪問、お茶や着付けなどの日本文化の体験できるプログラムを実施しました。

モニターツアーには國立屏東女子高級中學の先生が参加していたこともあり、訪日教育旅行の訪問先として和気町が選ばれました。1度目は2018年2月に実施、そして今回が2度目となります。

國立屏東女子高級中學から友好の印に送られた記念品。

もともと和気町から和気閑谷高校へ地域おこし協力隊を派遣し、総合的な探究の時間「閑谷學」を実施しています。そのため町役場と高校との関係性は深く、訪日教育旅行の受け入れ相談をした時もスムーズにことは運んだそうです。

山根さん 1度目は和気町が主体となり、受け入れ体制を整えてきました。しかし今回は和気閑谷高校が中心となり準備を進めてくれました。回数を重ねることで、高校側もコネクションができて、現場のコーディネートをお任せできるようになってきています。だからこそ、和気町としての役割や関わり方を、今一度考えていかないとなと思います。

山根さんは、「生徒にとって国際感覚が身につき、視野が広がることは素晴らしいこと」と考える一方で、町としては受け入れのその先の動きをつくり出していく必要があると感じています。

山根さん 訪日教育旅行の受け入れは、教育と観光を結びつけインバウンドを取り込むためにはじめました。生徒が台湾に帰国した後、「和気っていいところだよ」と家族や友人に伝えて、今度は家族旅行できてもらえるような動きをつくっていくことが今後の課題です。

和気町には鉄道廃線敷を利用し、備前市から美咲町まで通ずる全長32.4kmのサイクリングロード「片鉄ロマン街道」が縦断しています。台湾には世界的な自転車メーカーがあることから、サイクリングが観光体験の一つとして起爆剤になるのではないかと考えているそうです。

山根さん 「片鉄ロマン街道」は初級・中級者向けのコース。川沿いを走り、春には桜並木がとても美しいです。今、地域おこし協力隊とともにインバウンド向けのサイクリングプランをつくっていますので、より和気町の魅力を知ってもらう機会になるのではないかと期待しています。

論語を共通言語にした国際交流

訪日教育旅行を機に認知を広め、インバウンド旅行客を増やそうとする和気町。そのような期待を背負いながら、和気閑谷高校ではどのような思いでプログラムを実施しているのでしょうか。和気閑谷高校・校長の香山真一さんにお伺いしました。

香山校長

香山校長 和気町は英語特区を導入し、小・中学校の教育課程で英語の時間を増やすとともに「町営の無料英語公営塾」を開いて、子どもたちの英語力の向上並びに英語を通じた意思疎通意欲を拡充しようとしています。英語学習のニーズが高まっているのに、地元にある和気閑谷高校が対応していないのはよくないのではないか、と。

はじめは英語を母国語とする国との交流することも検討したそうですが、検討を重ねた上、アジアの国々と交流を深めることに決めたそうです。

香山校長 本校は閑谷学校を源流としています。そのため、東アジアで共通の価値観となっている儒学、とくに論語を共通言語として話をしていきたいと思いました。論語をベースにツールとして英語を使いながらモノの見方や考え方、生き方に触れ合うことができれば豊かな国際交流のモデルになるのではないかと考えたのです。

校長室の前の廊下には、孔子の子孫から贈られたという言葉が飾られていました。

1999年より友好交流協定を結び交流のあった中国の2校に加え、2017年2月に韓国の昌原龍湖(チャンウォンヨンホ)高校と沃川(オクチョン)高校、そして2017年5月には台湾の屏東女子高級中學と和気閑谷高校は姉妹校協定を結びました。

香山校長 韓国と台湾とはお互いに行き来する関係ができています。交流を通して子どもたちが自分を表現すること、言語の壁を乗り越えて思いが伝わる、思いを受け取る体験ができて、未来志向の考え方が芽生えつつあると実感しています。

今回の受け入れプログラムは、生徒会を中心に生徒と職員で考えたそう。スポーツや料理などのアクティビティを通じて日本文化に触れてもらうプログラムづくりや、英語でのプレゼンテーションを通して、授業で得た知識を活用する機会に発展していると教育的な意義も感じているそうです。

香山校長 政治的に対立する国との関係も、子どもたちの目線からすれば全く異なります。両国の架け橋になっていきたいという思いを、本校の生徒も留学生も持っている。上滑りの国際交流ではなく、考え方も生き方にも関わるような国際交流になりつつあると思います。

また生徒だけではなく、教員にも変化が生まれているのだとか。生徒が楽しそうに、少ない英単語を活用して生き生きと留学生と関わる姿を見ることで、学力だけでは測れない生徒の可能性を実感しているようです。

生徒が行き交うことで道は太く、長くなる

とはいえ、まだまだスタートしたばかりのプログラム。道のりは長いと香山校長は続けます。

香山校長 和気町は人口1.4万人の小さな町で、今後も人口減少は進んでいくでしょう。日本国内の都心からの関係人口を拡充するだけではなく、海外との関係人口を増やして、多様なモノの考え方、生き方に生徒が触れられるようにできるようにしていきたいです。

将来は論語に出てくる「恕(じょ)」、思いやりの心を、本校の生徒と留学生同士でどういう風に生活に生かしているかなど哲学的な対話ができるように発展していくといいですね。

そのためにも半日のプログラム期間を、少しずつ長くしていきたいと考えています。

香山校長 私の好きな作家に魯迅がいます。彼は短編小説『故郷』の中で、「其实地上本没有路,走的人多了,也便成了路(地上に道は初めからあるのではなく、多くの人が歩くから、それが路となるのだ)」と書き、希望もそのように実現したいと述べているんですね。

和気閑谷高校と東アジアの国々との交流はまだまだ細い道ですが、半日の交流が1日になり、2週間の留学になり、ゆくゆくは1年となりと、太く長い道ができていけないかなと思っています。

生徒と留学生がSNSでつながりプログラム終了後も連絡を取り合ったり、「台湾に留学したい」と目標を持ったりする生徒も現れ、国際交流の芽は小さく芽吹きはじめています。

2018年2月と2020年1月に渡って、和気閑谷高校を訪れた國立屏東女子高級中学の生徒たち。2020年秋にはいよいよ、和気閑谷高校の生徒が台湾を訪問します。

行き交うことで道は長く、太くなる。
その言葉の通り、これから和気閑谷高校と東アジアの国々との関係性を深まっていくのでしょう。そしてそのさらに先に、和気町が描く旅行先としての和気町の存在感も高まりをみせていくことでしょう。

(写真: 水本光)

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