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障害のある人が主役になれるまちと仕事をつくる方法。「三休」が続けてきたのは、地域の人たちを“共犯者”にしていくこと。

同志社大学がほど近い、JR学研都市線・大住駅を降りて人通りが少ない道を歩いて行くと、頻繁に人が出入りする建物が目につきます。開け放たれたドアから中に入ると、「こんにちは!」とまるで親しい友人に声をかけるように出迎えてくれた方がいました。三休合同会社(以下、三休)世古口敦嗣(せこぐち・あつし)さんです。

室内をぐるりと見渡すと、学生や主婦、年配の方たちが、色とりどりのお茶を楽しんでいます。これは、三休が運営する就労継続支援B型事業所にて栽培されたハーブを使った自家製のハーブティー。「今はローゼルがおすすめですよ」と世古口さんは教えてくれました。

ローゼルのハーブティー(画像提供:三休)

現在三休には、約25名のメンバー(三休では利用者をこのように呼ぶ)が通い、3つの畑で野菜やハーブの栽培、加工品の製造と販売、カフェ運営をしています。

福祉事業所が営むカフェでありながら、代わるがわる色々な人が出入りする不思議な三休。全体的になんとなく漂うポジティブな雰囲気に心地よさを感じながら、世古口さんの話を聴き始めました。

世古口敦嗣(せこぐち・あつし)
農業を中心とした、障害のある人が働く拠点「三休」施設長。2019年4月京都府京田辺市にオープンした同施設では、約25名のメンバーと様々な野菜やハーブを収穫・加工・販売。自家製ハーブティー等を提供するカフェも併設。福祉にとどまらない音楽イベント「BYE MY BARRIER」や福祉を対話する文化をつくる「Dialogue FUKUSHI」等、地域とのつながりを大切にさまざまなプロジェクト企画・運営も行なう。

「まちづくり」と「仕事づくり」、二人の強みが合わさって生まれた

三休は、福祉業界で長く働いてきた世古口さんと、チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」を運営する西田太一(にしだ・たいち)さんの二人が立ち上げた会社です。

世古口さんは、障害者が暮らしやすいまちにしていくことを目指すNPO法人で9年間働いた後、社会福祉法人に転職。他にも、複数の組織に携わりながら福祉に関わってきました。

世古口さん 福祉に興味を持ったのは「まち」との接点があること。福祉を切り口に暮らしやまちをより良くしていくところに仕事の面白さを感じてきました。

世古口敦嗣さん。飲食店への就職を父親に反対されたことから、福祉の仕事をすることになった

数年前、世古口さんは障害のある人の就労支援事業を関西で立ち上げようとしましたが、寸前のところで頓挫。一方で、2013年に京都で「JAMMIN」を立ち上げた西田さんは、そこでダウン症の女の子に出会ったのを機に、障害のある人がやりがいをもって働ける場をつくりたいと考えるようになっていました。

世古口さん 西田さんとはNPO時代に会っていて。2017年に公開されたJAMMINのブログで「障害のある人が働く場をつくりたい」と語られていたんですね。偶然それを読んで、「興味あります」と連絡をしました。障害領域の就労支援に携わりたくて、サービス管理責任者の資格取得の真っ最中でした。2018年春だったかな、二人で飲みに行って、地域にひらけた福祉事業所をつくろうと決まりました。

左:西田さん、右:世古口さん(画像提供:三休)

福祉を切り口にしたまちづくりに関わってきた世古口さんと、仕事づくりをしてきた西田さん。お互いの強みが合わさって、2019年「障害のある人の仕事をつくる」ことに重点をおいた三休が産声を上げます。

障害のある人が“主役”になれる仕事をつくる

事業所を開くのは、西田さんの地元であり「JAMMIN」の本社がある京都府京田辺市に決まりました。

カフェでは「JAMMIN」がNGO/NPOと毎週「1週間限定」でコラボして販売する、オリジナルデザインのTシャツも販売

オープン前から現在に至るまで、三休が大切にしてきたスタンスがあります。それは、地域の人を「共犯者」として巻き込みながら一緒につくること。

世古口さん 福祉は福祉事業所だけがやることではなく、地域でやるものですから。

2018年春から、二人は毎月1回「オープンミーティング」と題して誰もが参加できる場をひらき、意見を集めていきます。

世古口さん ここに障害のある人が働く場をつくることをお伝えし、どんな場になればいいかをみなさんと考えていきました。地域のボランティア団体や近隣の大学生、地主さん、農家さん、まちづくりに関心のある人など、毎回30〜40人が集まってくれました。半分が地域の人、半分が大阪などからわざわざ来てくれる外の人で、おもしろい場でしたね。

オープンミーティングの様子。「オープンカフェ」「農業」「障害への配慮」などさまざまなテーマについて話し合いをした(画像提供:三休)

世古口さんと西田さんが得意とする、地域づくりと仕事づくりの観点から、「どんなまちに住みたい?」「障害のある人はどんな仕事ができるだろう?」というテーマでも話し合い、「JAMMIN」の持ち味を活かしたアパレル分野での就労支援をすることになりました。

障害のある人が描いたものを食器やカーテンなどのプロダクトのデザインにして販売する方向で事業計画が進んでいましたが、一緒に仕事をする予定だったプロダクトデザイナーが急遽参画できなくなり、計画を変更することに。

世古口さんと西田さんは、仕事を通じて障害のある人にどうなってほしいのかを、改めて考えることになります。

世古口さん 工賃を上げたいとか一般就労につなげたいとかももちろんあります。だけどそれ以上に、僕らは障害のある人が弱者や支援される存在として扱われるのではなく、“主役”になってほしいと気づいたんです。

舞台となる京田辺市は、工業と農業を主産業とするまち。特に農業は、耕作放棄地や担い手の高齢化、担い手不足など様々な課題を抱えています。それらの課題を解決する”主役”になることができたら、障害のある人のイメージが変わるのではないか。地域の中で障害のある人が活躍する未来を描いて、三休は農業の6次産業化を目指す福祉事業所として2019年4月に開所しました。

知識も機械もなにもない中、農業にゼロからチャレンジ

左後ろに見えるのが、京田辺駅。交通の便も良く住宅地が近いことから、人気エリアの農地だ

世古口さんは長く福祉業界で働いていたものの、就労支援の経験はなく、もちろん農業の経験もありません。オープンミーティングで出会った人たちのツテを辿って、事務所からほど近い場所に一反ほどの農地を借り受けると、セイタカアワダチソウが茂った耕作放棄地を鍬で開墾するところから始めました。

自分たちにどの野菜を育てるのが向いているのかわからないため、初年度はとうもろこし、ミント、枝豆、小松菜、菜花など多品目を栽培することに。当時のことを振り返って、「農業というよりも家庭菜園でしたよ」と世古口さんは笑います。

一年目の売上は14万円ほど。その中で、ミントは手作業で摘む必要があるため機械化が難しく、人件費や時間がかかることから高単価で売れることに気づきました。手作業による仕事をつくっていきたい三休にとっては理想的な作物ではないか。そんな希望が見えてきた2年目は、ハーブ類に絞って栽培することに決めます。

無農薬で育てているミント

爽やかな酸味が特徴的なローゼル

三休では地域づくりと仕事づくりをする上で大切にしていることが、2つあります。一つは、作業時間に見合った売上になるか、もう一つがメンバーの仕事を生み出せるかです。

世古口さん 僕たちがやっていることは、ボランティアでもデイサービスでもありません。仕事づくりをするならいかに作業を売上に直結させるかを考える必要があります。しかし、売上を上げるためにメンバーがいる訳ではありません。だから、一人ひとりが目標に向かって歩んでいけるような仕事を僕たち支援者はつくらないといけません。そこは意識しています。

試行錯誤の結果、4年目の今は、4反の畑でハーブ類、万願寺とうがらし、玉ねぎ、ベビーリーフの4種類に絞って栽培しています。出荷先はJAや道の駅が中心で、年間売上は約340万円。売上の約半分を万願寺とうがらしが占めています。

売上はメンバーにも公開し、月1回の「三休会議」で目標に向かってなにをすれば良いか一緒に考えている

なんと今年、万願寺とうがらしは昨年比2.5倍の売上になったそうです。技術が向上して収量が増えたこともありますが、栽培時期をずらして市場で供給量が減る時に出荷することでより高単価で販売できるようになったと、世古口さんは嬉しそうに教えてくれました。

三休の万願寺とうがらし。箱を開けたときに「わあ、綺麗!」と思ってもらうために「どうしたら美しく魅せられるか」を意識し梱包作業しているそう(画像提供:三休)

畑から卸、カフェ、イベントへ広がる活動

農業経験ゼロから始めた野菜づくりも、今では味が評判になり、口コミで卸先が増えています。まだ売上はわずかですが、京都市内の飲食店での取り扱いも増え、食のプロからお褒めの言葉をもらうこともあるそうです。

世古口さん 僕たちのミントを使ったモヒートを飲んだ方が、「美味しいね、どこの?」とお店に聞いてご紹介いただくこともあります。障害のある人がつくっているから買うのではなく、味を認めて声をかけてもらえることは嬉しいです。僕たちも身の引き締まる思いだし、もっと美味しいハーブをお届けしたいと思いますね。

2020年夏にはオフィス内にカフェをオープン。より地域にひらかれた事業所になろうと、自家製ハーブティーやお菓子の提供を始めました。

カウンターに入れるのはメンバーのみ。お客さんは自ずと障害のある人とコミュニケーションをとるきっかけになっている

自家製のホーリーバジルを使ったハーブティーのティーパックも販売。野菜の端境期に、加工品の作業をすることが多い

世古口さん もともとは、メンバーさんの「カフェで働きたい」という一言からオープンしたんです。開けてみたら、大学生や主婦、ご年配の方などさまざまな属性の方が来てくれて、僕たちが目指す農業の6次産業化に必要な場所だと感じています。

そして、三休を語るときに外せないのが、マルシェやイベント。採れたての野菜を持って地域のマルシェに出店したり、カフェでトークライブや目の見えない人の世界を体験する「ブラインドカフェ」や野菜と音楽のライブイベント「THANK YOU TABLE」を開催したりと、福祉に興味の薄い人でも足を運びたくなるような企画を仕掛けています。

美味しい料理と気持ちの良い音を障害や世代を超えて楽しむイベント「THANK YOU TABLE」。年1回、周年パーティとして開催。入場料の「野菜」を持ってふらっと遊びに行ける(画像提供:三休)

ともに三休をつくる「共犯者」を増やす

驚くことに、こうしたイベントはカフェと同様に、世古口さんが旗振り役をしたものではなく、どれも誰かの「やってみたい」を形にしたものなのだとか。

例えば、2019年にスタートした障害のイメージを揺さぶる学びの場「さかさ」は、同志社大学の学生さんの相談から始まったものです。

世古口さん 「障害のある人も同じ世界に暮らしているはずなのに接点がない」との相談から、当事者をゲストに招いてイベントを開催しました。当事者がゲストだと、打ち合わせや準備で自ずと関わることになります。触れ合えば学びや知識になり、障害のある人へのイメージが変わるんじゃないかって。

2019年に開催した第一回目の「さかさ」、100万人に一人の難病PLSと生きる落水洋介さんをお招きした。発起人の学生が卒業したため一時休止していたが、別の学生によって2022年8月に復活(画像提供:三休)

2022年9月からは、福祉の仕事に興味を持ったメンバーのちえさんが「福祉について学びたい」と世古口さんに相談したところから、福祉を知るラジオ風リアルイベント「フクシル」を開始。三休に在籍しながら、福祉に関わる人たちに根掘り葉掘り質問を投げかけ、「福祉はオモロいの?」「福祉はどこに向かう?」と福祉について考えたり、おしゃべりする場をひらいています。

パーソナリティーとゲストがラジオのような会話のキャッチボールを繰り広げながらゲストの福祉観を深掘りする「フクシル」。パーソナリティは、メンバーのちえさん(写真右)が務め、第一回目のゲストには世古口さんが招かれた

最近ではレンタルスペースとしてカフェの貸出しを始めました。「アクセサリーをつくっているけど売り方がわからない」との声を聞けばカフェで販売してみないかと誘い、「カラーセラピーの資格を持っているけど講座の開き方がわからない」と悩みを聞けばイベント開催をサポートして、挑戦を応援。小さなプロジェクトを多発させて、地域の人たちが三休を訪れるきっかけをつくり続けています。

「子どもが無邪気に遊べ、親も交流を深める場をつくりたい」という相談から実現した、地域の子ども向けイベント(画像提供:三休)

また、カフェに訪れた人には必ず声をかけることにしているそう。そこから新しい納品先が決まったり、定期的にスペースをレンタルする人が出てきたり。引きこもりの子どもをもつ親の会のミーティング開催場所になり、潜在的な福祉ニーズを探ることにもつながっています。

こうした動きは全て「共犯者」を増やしたいという思いから。なぜなら、「最強のファンとは三休を一緒につくりあげる人たちだから」と世古口さんは語ります。

世古口さん 肌感覚ですけど、カフェを始めてからコアなファンは増えた気がしますね。障害のある人と関わって、雑談をして、イベントや催しにつなげる流れが生まれています。

メンバーのちえさんと常連のお客さんがなにやら話し込む様子。誰がメンバーで誰がスタッフなのか、時には誰がお客さんなのかもわからない境界の曖昧さが心地よい

思いを引き出し、叶える場をつくるのが支援者の役割

三休にはすでに、自分の生きる道を見つけて巣立っていったメンバーもいます。開所から3年半で11名が退所。うち4名が一般就労に移行し、2名が就労継続支援A型や就労移行支援に進みました。中には、一般就労へ復帰するために三休へ通ううちに世古口さんたちのアグレッシブさに刺激を受け、退所後に起業した人もいるそう。

メンバーの望む支援ができている背景には、スタッフみなさんの共通認識があります。

世古口さん 僕ら支援者は、メンバーの思いを引き出して、叶える場をつくることしかできないと思っていて。だから「◯◯さんにこうなってほしい」というのは見せたくないんです。見せた瞬間に引いてしまう気がするから。その一方で、個々の思いや強みを引き出すことは強く意識しています。

作業場もカフェも一体となっているので、メンバーが作業する姿が、お客さんの目に自然と映る。ザクザクとハーブを切り刻むたびに、室内にいい香りが漂った

世古口さんの言葉からは、「障害のある◯◯さん」ではなく、目の前にいるたった一人の「◯◯さん」として接することを、スタッフのみなさんが当たり前の姿勢として持っていることが伝わってきます。

そうした姿勢は、通所を始める際の初回のモニタリングにも表れています。

世古口さん 三休では、最初のモニタリングで、雑談も含め数時間かけてメンバーのことを知ってから、支援計画を立てます。とあるメンバーは、当初の目標だった一般就労に戻るために「ウィークポイントを無くした方が良さそうだ」と考え、「体力をつけるために自転車で通ってはどうか」「生活のリズムをつくるため、ほどほどの頑張りで毎日通えるようになろう」と提案しました。

同時に、スタッフ同士の情報共有も徹底し、メンバーの様子を見ながら柔軟に支援方針を変更することもあるそうです。

世古口さん フラットに意見を言い合える環境があるから、成り立っている気がします。スタッフみんなで三休の支援環境をつくっている感覚があるんです。

畑の案内役をしてくれたタケちゃん。誰もが畑仕事を好んでできるわけではないので、農業を軸にしながらも関連するパソコン作業や全体の進行を見守る役割などをメンバーに担ってもらうこともある

この地域にもっと「THANK YOU!!」の輪を広げよう

これまで退所した半分以上が一般就労などへステップアップしたこと、またメンバーがイキイキと過ごしている様子が口コミで広がり、三休は少しずつ地域の信頼を得てきました。地域の水路掃除や草刈りにも参加し、今年度は三休が町内会の役員に選ばれるなど、ますます地域のみなさんとのご縁は深まっています。

時には「ちょっと収穫が遅れているから手伝ってくれへんか」と援農の相談を持ちかけられることもあり、「三休が農業の課題を解決する存在になりたい」と描いた創業時の目標に一歩ずつ近づいている実感があるそうです。

しかし、「もっと6次産業化を極めたい」と世古口さんは熱く語ります。

世古口さん まずは農業の技術を上げて、生産量をアップさせたいです。ものがないと加工も販売もできませんからね。ハーブティーの数も増やして、販売もメンバーの仕事になるまで規模を大きくしたいと考えています。

また、就労継続支援B型事業所の数を増やしたいです。メンバーの特性によって合う仕事・合わない仕事がありますし、事業所を居場所として使う人と就労で使う人が混在している状態です。農業を軸にしながらも農業部門、カフェ部門、加工部門が京田辺市に点在し個性を出していけたら、もっとメンバーの願いも叶えられるし、「共犯者」のみなさんとも遊べることが増えると思います。

福祉は5年、10年で終わるものではなく、30年、50年……と未来永劫続いていくもの。京田辺市がとんちで知られる一休禅師のゆかりのあるまちであることから、三休も「一休さんのように長く地域に根ざし、愛される存在になりたい」と願っています。

世古口さん 三休に来たら面白いな、何か関わってみたいなと思ってもらえるようになりたいですし、地域の人に「障害のある◯◯さん」ではなく一人の「◯◯さん」と呼ばれる関係になれたら、障害のあるなしに関わらず、もっと暮らしやすいまちになるんじゃないかと思っています。そんな未来に向かってできることを、僕たちはやっていくだけです。

お話を聴いているうちに、私も新しいチャレンジを始めたくなったら、三休に来てみようかなという気持ちがむくむくと湧き上がってきました。

もちろん、今自分で何かしたいことがない方もご安心ください。ふらっとカフェに来店してもいいし、三休はイベントを開催したり、野菜やハーブの収穫のお手伝いを募集したりしているので、関わりしろもたっぷりありますよ。ピンときた方はぜひ一歩踏み出し、三休の「共犯者」になりませんか。

(編集:村崎恭子、スズキコウタ)
(取材時撮影:北川由衣)