みなさんは最近、何かの団体に寄付をしましたか?
インターネットの誕生以降、誰でも参加しやすい多種多様なチャリティの取り組みが登場し、チャリティのあり方も変わってきているようです。
特に日本では、2011年の東日本大震災や、2013年の寄付税制改正などで、寄付をする人が年々増加してきています。一方で、日本のNPOやNGOは、まだまだ寄付金を集めるのに苦労しているとも言われています。(内閣府平成25年度の調査による)
そのような現状を解決するために生まれたのが、1週間限定のデザインTシャツで、NPOへの寄付を集める京都のソーシャルウェアブランド「JAMMIN」です。
今回は、その共同創業者である西田太一さんと高橋佳吾さんに、お話を伺いました。
(左)西田太一さん (右)高橋佳吾さん
チャリティの体験を増やすために
「JAMMIN」というブランド名は、同じ場に居合わせた人たちが、即興で音楽を奏でるという意味の「JAM SESSION(ジャム・セッション)」が語源となっています。
その名の通り、NPOやNGOのコンセプトやメッセージをヒアリングし、それを元にアーティストさんがデザインを描き起こしたオリジナルプリントのTシャツを作成し、通販サイト上で1週間限定で販売しています。
2014年のオープンから今までに、「フローレンス」や「カタリバ」、「Homedoor」をはじめ70を超える団体とコラボレーションし300万円以上を寄付しています(2015年8月末時点)。
過去のチャリティ一覧より
日本には、現在約5万ものNPOやNGOがあります。今まで社会問題に興味がなかった人たちに対して、ひとつでも多くのNPOやNGOを紹介したいとの想いから、あえて毎週紹介する団体を変えています。
また、購入者が団体の活動を深く知れるよう、コンテンツ部分もボリュームを持たせ、通販サイトにメディアとしての役割も持たせています。その記事を読んだあと、ネクストアクションとして購入できるという仕組みです。
高橋さん もし買ってもらえなくても、知ってもらえたら良いという気持ちでやっています。インタビューしていると、時にはつらいエピソードもありますが、彼らのビジョンや想いなどを、できるだけポジティブなメッセージに乗せて紹介しています。
サイトにきてくれた人に 自分の人生を賭けて世の中を良くしようとするNGO/NPOの姿を見て、「明日も頑張ろう」「自分も頑張ろう」という勇気を与えられるような内容にすることを特に意識していますね。
チャリティの仕組みは、Tシャツとスウェットの場合700円が、小物類の場合は100円が団体に寄付されるというもの。
全商品が対象で、ほとんどの商品において販売価格の約20%がチャリティにまわります。チャリティをした”しるし”がきちんと手元に残るのが、購入者にとってはうれしいところ。
高橋さん Tシャツの値段は、新しいブランドで且つ通販でも買いやすい値段ということで設定しました。まずはみなさんに、チャリティの体験をしてほしい。そのために限界まで値段を下げています。700円というのは、1日100円毎日チャリティしたという気持ちでいてほしいという思いからです。
また、大震災のときにチャリティの使い道が問題となりましたが、私たちのサイトでは、購入者に安心してもらえるよう、どんなことに使うか、そこに対してどういう考え方を持っているかを、事前にヒアリングして、サイト上に記載しています。
さらに、団体を紹介する取り組みとして、オフィスに併設しているカフェスペースを使い、月に数回NPOやNGOの方をゲストに呼んでトークイベントを行っています。
実際の購入者の中には、オフィスがある京田辺市に住む人も多く、Tシャツのリアルなフィードバックが得られる場にもなっています。
高橋さん イベントでは、団体の活動を知ることができた、団体の人へのイメージが変わったという声もいただいて、すごく嬉しかったです。そういう人を一人でも増やして、楽しくチャリティーを盛り上げて行きたいですね。
一部お店に卸しているところもありますが、通販中心でやっている以上、拾いにくい声もある。購入者の人たちに直接会って、素材やデザインの希望を聞くことで、商品の質の向上に生かしています。
トークイベントの様子
「お前は個人として何ができる?」の一言から一念発起
西田さんと高橋さんは、大学、大学院と6年にわたってまちづくりを学び、その後開発コンサルティング会社に同期入社します。発展途上国のインフラにまつわる仕事に携わっていました。
あるとき、高橋さんは、途上国の人に「お前ら日本人は調査ばっかりしている」「お前は個人として何ができるんだ?」と言われ、目の前の人を救うことができないことや、解決策を知っているのに実行に移せないもどかしさを感じたことがきっかけで、実際に目の前の人を助けられる仕事をしようと一念発起します。
高橋さん 大学院時代にテレビで、好きなヒップホップアーティストが国連の大使になって、途上国で井戸を掘るドキュメンタリーを観たんです。
そのときの様子が本当に楽しそうで、仕事ってこういうもののためにあるということを知り 開発コンサルティング会社へ勤めました。
僕も困っているところがあれば、自分にできることを小さくてもやってあげたい。そういう原点の想いに戻りたい、との考えから起業することを決意しました。
そして2人は、社会人5年目で会社を退社。社会問題に関心がない人をどう巻き込むかということが、これからの時代に重要になってくると考え、2人がもともと好きで、若者たちも身近に感じることができるファッションの分野でのチャリティの仕組みを考えはじめます。
そして、2013年に「合同会社JAMMIN」を立ち上げ、2014年に通販サイトをオープンしました。
高橋さん 寄付白書などにも書かれていますが、やっぱり寄付を行う若者は未だに少ないのが現状。未開拓なゾーンだからこそ、やりがいがあるなと思っています。
また、若者が社会貢献に対して興味があっても、どうして良いかわからない人が多いのではないかと思うんです。そのような人が、チャリティに触れることができる仕組みになっていけたら。
西田さん ギャルみたいな若者たちがチャリティに関心を持てば、面白いムーブメントが起きるんじゃないかなと思うんですよね。若者が集まってワイワイするのも良いけど、社会問題を解決することが面白い! そんなのあったんだ! っていう楽しさや、普段感じていない違う楽しみや面白いことに気づいて欲しいですね。
「JAMMIN」のTシャツやウェブサイトは、若い人でも親しみやすいデザインになっています。そのおかげもあり、NPOやNGOが今までリーチできなかった人たちにアプローチできると2人は話します。
実際、購入者の中には、Tシャツを買ったことをきっかけにNPOやNGOを知った、社会貢献に興味を持ったという方も少なくないそうです。
西田さん かっこいいものはすでに世の中にたくさんあるから、僕らはストーリーを持っているものをつくっていきたい。それは、NPOさんNGOさんのストーリーであり、買い物で社会貢献できるというストーリー。
チャリティTシャツは、買っても普段着られずに部屋着になってしまうという声もけっこう聞きます。一見チャリティかわからないようなものをつくって、チャリティ業界のイメージをもっと良いものにしていきたいです。
デザイナーの日高さんは、宗教や文化による言葉のニュアンスの違い配慮したデザインを心掛けているそう。
「MADE IN JAPAN」「MADE IN KANSAI」へのこだわり
「JAMMIN」のTシャツは、昨今ファッション業界が抱える社会問題にも考慮したものになっています。
例えば、不当労働の上に成り立っているブランドよりも、誰がつくっているかわかるブランドにしたい。余計につくって無駄な在庫を処分してしまうブランドよりも、必要な分だけつくるブランドにしたい。そういった理由で、工場は身近なところにお願いしているそうです。
高橋さん みなさんのノウハウをお借りできる点も、国内工場でやることのメリットだと感じています。
例えば、今お願いしているニットの業者さんが私の地元の名古屋なので、地元に帰る際は遊びにいきます。そこでファッション業界の最近の動向を教えてもらったり、つくり方を勉強させていただいているんです。
アパレル経験がまったくなかった2人にとって、実際のものづくりを始めた当初は、さまざまな苦労がありました。
それでも、「JAMMIN」のブランドコンセプトを説明して回ったところ、2人の熱意と、自分たちのものづくりが日本や世界の困った人たちのために使われることに賛同してくれる業者さんが現れ、小ロットでも実現できたのだそうです。
高橋さん Tシャツのプリントに関しても、右も左もわからなかったので、近くの会社さんに「修行させてください!」と言って修行に行かせていただきました。
縫製や素材など、どうやったら自分たちの理想に近づけるかわからないところは、業者さんたちがこうしたら良いんじゃないと提案してくれるんですね。本当にみなさんの貢献の賜物でブランドが成り立っています。
綿100%にこだわり、昔ながらの低速編み機でじっくりていねいに糸が織られている。
何度となく染め具合を確認します。
高橋さんが営業、西田さんがオフィスにいてプリントや梱包をしています。1枚ずつていねいにプリントし、乾かします。
性別関係なく選べるよう、サイズはあえてSMLの展開にしています。
チャリティを”ライフスタイルの一部”へ。
今までのチャリティは、年に数回やる、気づいた人がやる、というのがほとんどでした。JAMMINが提案するのは、チャリティが日々の生活を彩るイベントとなること。
買ったものを見るたびに、NPOやNGOのエピソードを思い出したり、他の人と共有する楽しさは、お金を寄付しただけでは味わえない体験です。
高橋さん 買ってくれた人が「自分のチャリティで社会がこんなに良くなったんだ!」という、”変化している感覚”をもっと体験してもらえるようになれば、これ以上にうれしいことはないですね。
そして今後は、もっとチャリティーとしてのインパクトを大きくしていきたいです。例えば、1週間のチャリティで学校が建ちました! 井戸が掘れました! というイメージです。
そのためにも、事業をより拡大させることに挑戦していきます。JAMMINをNPOで始めず、民間企業として経営している理由もここにあります。
売上が10倍になれば、チャリティ額も10倍になります。寄付のインパクトが大きくなれば、チャリティ業界全体がもっと盛り上がる。そうやって文化になっていけば良いなと思います。
西田さん 目指すのは、「チャリティは何か楽しい」という人が増えること。
「JAMMIN」で買い物をすることが楽しいとか、友人にプレゼントしたときに、どんなTシャツか説明して喜んでもらって楽しいとか、そういった体験をしてもらえたらうれしいなと思いますね。
「JAMMIN」で新しい体験をプレゼントしていけたら最高です。
その先にいる人のことを思って買い物をすると、なんだか心が温かくなる気がします。そうやって愛を持って行動する人が増えれば、もっと社会は温かいものになるのではないかな、と思います。
チャリティに対して抵抗感がある人も、ちょっとお気に入りのTシャツを探す感覚で、JAMMINのサイトを覗いてみてはいかがでしょうか。
(Text: 松尾沙織)