【新着記事】お金をもらいながら労働している場合なのか? 社会人2年目の私がサティシュ・クマールの言葉に感じること。

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最期まで誰かの役に立てる人生に。企業と高齢者施設が立ち上げた「sitte」は、認知症の人たちが働き社会とつながる価値を教えてくれる。

目を引くおしゃれなデザイン。
滑らかで美しい木目。
ふわっと漂う木の香り。

初めてカッティングボードを見た時、月並みですが「なんて素敵なんだろう」と思わず手に取ってしまいました。

(画像提供:mumokuteki)

そのプロダクトが高齢者施設と連携してつくられたものだと知ったのは、近くにいたスタッフさんにお話を伺ってから。

企業と高齢者施設が手をつなぐことで、デイサービスに通う高齢者の仕事が生まれ、企業も理念やブランドコンセプトにあったプロダクトを展開する。そんな素敵なプロジェクト「sitte」を2018年に始めたのが、社会福祉法人京都福祉サービス協会が運営する「高齢者施設 西院 京都市西院老人デイサービスセンター」(以下、「西院デイサービス」)と、株式会社ヒューマンフォーラム(以下、ヒューマンフォーラム)が運営するライフスタイルショップ「mumokuteki」です。

連携のきっかけや高齢者がはたらくことの価値について、「西院デイサービス」の田端重樹(たばた・しげき)さん、そして、「mumokuteki」スタッフの吉村佳小里(よしむら・かおり)さんにお伺いしました。

田端重樹(たばた・しげき)<写真右>
社会福祉法人京都福祉サービス協会 高齢者高齢者施設 西院(京都市西院老人デイサービスセンター)広報・渉外・ボランティア担当。作業療法士。
吉村佳小里(よしむら・かおり)<写真左>
株式会社ヒューマンフォーラム。mumokuteki事業部 バイヤー。

企業と高齢者施設が連携する「sitte」プロジェクトとは

「sitte」の商品は、現在のところまな板とカッティングボードの木製品2種類。

(画像提供:mumokuteki)

「mumokuteki」がブランドコンセプトや商品企画、製造、流通、販売までの全体管理を担当し、「西院デイサービス」に通う高齢者が製造工程の一部を担っています。

製品が出来上がる前の一連の流れ。「sitte」の名称には、プロダクトを通じて、より豊かな人と社会と人生の在り方を「知って」ほしいという思いが込められています

使用する木材は、京都市の最北端、京北にある「もくざい屋さん 茶谷」でmumokutekiのスタッフが毎回目利きをして直接仕入れ。それを材木職人さんが商品サイズに合わせて加工したものを「西院デイサービス」が受け取り、ヤスリがけやオイル仕上げなどの最終仕上げを行います。

田端さんによる厳しいチェックを潜り抜け、商品が完成したら、京都市内の中心部にあるmumokutekiへ。最後にmumokutekiのスタッフが商品パッケージを施し、店頭に並びます。

木の種類やサイズにもよりますが、販売価格は8000円〜1万5000円ほど。京都府産の木材を中心にときには海外の木材も使用します。ヒノキ、銀杏など用途に合わせて選んでいます。(画像提供:mumokuteki)

mumokutekiは、「いきるをつくる」をコンセプトに、ファッションアイテム、無添加やオーガニック食品、ヴィンテージ古着、アンティーク家具などを販売し、若い女性を中心に人気を博しているショップ。カフェやセレクトショップ、風格ある老舗店、レトロな建物などが立ち並ぶエリアにあります。

一方「西院デイサービス」は、高齢者のデイサービス事業を行う施設です。利用者は1日35名で、軽度から重度までの認知症の方々も利用されています。mumokutekiがある街中から西方向、公共機関と徒歩で約25分のエリアにあります。

そんな両者は、どのように出会ったのでしょうか。そしてなぜ企業と高齢者施設が連携をするに至ったのでしょうか。

「はたらく」ことで社会とつながり、豊かな日々を歩んでほしい

実は「sitte」を立ち上げる前から、「西院デイサービス」では、利用者が社会とつながる取り組みを積極的に進めてきました。「『前向きに自分らしく生きていく』を応援します」をコンセプトに、様々な日中活動を通じて自立支援につながるサポートをしています。

デイルームでのおやつの時間

デイルームに置かれた「レクリエーションボード」。施設側が午前・午後それぞれ2〜4つのレクリエーションを用意し、1日をどのように過ごすかを利用者自身で選ぶことができます。音楽、料理、手芸、スポーツなど、利用者がかつて得意としていたり昔やっていたりしたことなども含まれていて、日々が豊かになるようにと考えられています

大切にしてきたのは、利用者の個別性と自己選択、自己決定の機会をつくること。認知症になってもできることをしてもらいたいと願ってさまざまな取り組みをしてきましたが、デイサービスの枠組みでできることの限界も感じていたと言います。

田端さん 地域の中にある施設というのを強く意識していました。だから、施設内にとどまらずもっと社会とつながる方法はないのだろうかと模索し始めたんです。

そんな時に知ったのが、施設のなかで「はたらく」活動をする、東京・町田市の「DAYS BLG!」の先行事例でした。はたらくとは、仕事をすること。労働をすること。職業として生計を維持する以外にもさまざまな形があり、施設で高齢者が生き甲斐としてはたらく形があってもいいのではないかと気づいたそうです。

また、田端さんは、高齢者施設での「はたらく」取り組みが、介護業界全体が抱える人材不足の課題にもアプローチできるのではないかと考えました。

田端さん 介護の仕事といえば、三大介護と言われる食事・入浴・排泄がクローズアップされます。しかし、介護ってもっとクリエイティブな仕事やなって思うんです。一人ひとりのニーズに合わせて、やりたいことやなりたい姿を叶える仕事、それが介護。でも実際は人手不足で目の前の仕事に追われてしまい、そこまでできない。介護の仕事の魅力が伝わっていないもどかしさがあり、クリエイティブな側面を発信したいなと思うようになりました。

企業と高齢者施設、互いの思いに共感し合い「sitte」が誕生

利用者の社会参画の機会創出と介護業界の人手不足の解消。それらを実現するための一手として浮かび上がってきた「はたらく」という手段。しかし、販売という出口まで考えると、手づくり市での販売経験しかない田端さんたちが実現するにはハードルが高いものでした。

そこで田端さんは、職員全員で研修の機会を設け、どうすれば自分たちの思いを発信できるのか、どんな商品をつくりたいのか、誰と連携したいかなどを話し合っていきます。その過程でコンサルタントに加わってもらい、紹介されたのがmumokutekiでした。

吉村さん 木育のために、京北の木を使ったプロダクトをつくれないかと考えているタイミングで、高齢者施設さんと一緒にやってみてはどうかとコンサルタントの方に提案いただきました。高齢者施設のことも、認知症の方のことも何もわからないまま、ただただ西院デイサービスの思いに共感して、ぜひ直接お話を聞いてみたいと思ったんです。

実際に会って話をして、西院デイサービスの思いに感動したという吉村さん。とんとん拍子で話は進み、一緒にプロダクトをつくることが決まりました。

「『あのmumokutekiさんとコラボするの?』と、多くの女性職員がテンション上がっていましたね(笑)」と田端さん。まな板とカッティングボードの提案にも、「おしゃれやん!」とみんな賛成だったそう

田端さん 座ってできる作業で、指先が器用な人が多い高齢者であれば、木を磨くのは向いているかもしれないと考え、木のスプーンやおもちゃをつくろうかと職員のみんなとも話し合っていたんです。

吉村さん 木を使って自社プロダクトをつくるなら、まな板やカッティングボードをつくりたいと思っていました。なぜなら、mumokutekiはご購入いただいたものが長い間ご家庭で大事にされて、商品を通してお客さまと一緒に歩んでいくことを目指しているからです。「西院デイサービス」さんとなら、素敵なものができる予感がしました。

週に1時間の「はたらく」を積み重ねた先に

「西院デイサービス」では、sitteのための「はたらく」時間として、毎週月曜日の14時から15時の1時間を設けています。取材に訪れたのはちょうど月曜日。ときにスタッフと談笑しながら、利用者6名が職人のような手つきで、まな板やカッティングボードを磨いていました。

田端さん 参加は強制ではありませんが、メンバーは固定にしています。お誘いする段階で、「毎週この時間はお仕事ですけど、参加しますか?」と確認をとっているんです。だから「今日だけしたいです」と単発的な参加の仕方は基本的なしにしています。

その発言を象徴するように、作業スペースに入ると利用者はまず出勤簿に押印をします。これは仕事であることを意識してもらうため。2018年に「sitte」がスタートした時からはたらく人の出勤簿は何枚にもなり、はたらくことへの意欲が感じられます。

利用者自らが出勤した日付を書き、出席のハンコを押します

出勤簿への記入が終わったら、お揃いのエプロンを身につけ田端さんから作業の説明を受け、各々が担当するまな板やカッティングボードのヤスリかけやオイル仕上げをしていきます。田端さんを中心に職員やボランティアスタッフ数名が、作業をサポートします。

田端さん ここには軽度から重度までの認知症の方もいます。作業が難しすぎると特定の人しかできなくなってしまう。なるべく多くの方に参加してもらえるよう、木を磨きあげてオイルで仕上げる工程に絞りました。

「ここもうちょっと磨いてもらえますか?」「いい感じですね!」と、作業をそばで見守りながら、声かけをしていく田端さん。利用者も都度、「これでいい?」と確認を仰ぎます。

吉村さん プロジェクト開始時と今では、製品のクオリティが全く違います。平面の凹凸がなくなって、真っ直ぐになっているのが目に見えてわかりますね。それも田端さんと幾度となく細かく確認し合い、基準を設けてきたからこそ。長く参加されている方は、求められるクオリティに追いつこうとすることで、技術が身についていっているようです。

凸凹がなく、なめらかな表面になるまで磨き上げます。お二人の関わりからは、最初から100点満点を目指さずに、利用者の特性や技術の成熟度を見ながら、少しずつできることを増やしていくプロセスを双方が理解すること、また企業と高齢者施設がきめ細やかなコミュニケーションを取り合うことの大切さに気付かされます

本人も家族もゆるやかに変化していく

作業に必要な声かけに加え、田端さんは折に触れて、商品のその先についても意識的に伝えています。

田端さん どういうお店で販売しているのか、どんな人が使ってくれているのかもなるべくフィードバックするようにしています。取材をしてもらったら、紙に印刷してご家族にもお渡ししていますね。

2018年にプロジェクトが立ち上がったばかりの頃は、デイサービスで「はたらく」とはどういうことか、利用者自身も家族もよくわからない中でのスタートでした。しかし、小さなコミュニケーションの積み重ねによって、変化が生まれているのだとか。

田端さん 外部から評価されることで、家族の方が「おばあちゃん、こんなすごいことしてたんや!」と驚く方も増えてきています。

吉村さん お子さんやお孫さん世代にはmumokutekiを知ってくださっている方が多く、店頭に商品を見に来られることもあります。「おばあちゃん、ヤバ!」「嘘でしょ?」といったコメントが聞こえてくることも(笑)世代関係なく、デイサービスのイメージや高齢者に向ける眼差しが変わってきているようです。

コロナ禍前は、数ヶ月から半年に一度、利用者と一緒にmumokutekiの店頭を見に行く機会もつくっていたといいます。

田端さん 初めの頃、利用者は1000円くらいのまな板だろうと思っていて。でも店に行ってみるといいお値段で売られている。それを見て、「来週からちゃんと頑張るわ」と責任感を持つ方もいましたし、モチベーションが上がる方もいました。90代の利用者の方は、「遺影は作業で身につけているエプロン姿で撮りたい」とまで言ってくれて。固い言葉で言うと、利用者のみなさんの自己肯定感の高まりを感じています。

デニム生地のエプロンは、sitteに関わっている利用者に支給されます

利用者が得た対価が地域循環する仕組みも

働いた分の対価は、金券という形で利用者に還元されています。まな板やカッティングボードを一枚磨き上げたら、500円分の金券が一枚もらえる仕組みです。

田端さん プロジェクトを立ち上げた頃、施設内での「はたらく」活動への謝礼を現金でお渡ししてもよいと法律が変わりました。ただ、私たちとしては地域に貢献したい気持ちが強くあって。金券にして地域にお金が循環する仕組みをつくろうと考えたんです。

そこで提携を相談したのが、徒歩15分ほどの場所にある京都三条会商店街。全長800メートルのアーケードを誇る、京都を代表する商店街です。飲食店、洋品店、生花店、米屋など約180店舗あるうちのほとんどで金券を使うことができます。

田端さん コロナ感染拡大前は数ヶ月に一度、みんなで買い物にいきました。自分のほしいものを購入する方もいれば、ご家族にお土産を買う方もいます。そもそもみんなでお出かけして、買い物したりご飯を食べたりすること自体を楽しまれているみたいです。

洋服屋さんでショッピング(画像提供:西院デイサービス)

飲食店で食事を楽しむ利用者。とても美味しそうに食べていますね。(画像提供:西院デイサービス)

定期的に通ううちに、商店街のお店にも変化が生まれているそう。

田端さん 商店街のみなさんも、僕らを通じて認知症を知ったり関わりを持ったりする機会になっているようです。そもそも認知症がどんなものかわからなかったところから、今では利用者の方にわかりやすい言葉がけをしてくれるお店や、ゆっくり買い物するのを気長に待ってくれるようになったお店もあります。

こうした一連の流れを受け、職員のモチベーションも向上。また、「面白いことをしている施設」であることを魅力に感じて、2022年春には施設に新入社員が2名配属されるなど、人材不足の課題を解決する手助けにもなっています。

商品バリエーションがあった方がさまざまな利用者さんの参加につながると考え、「西院デイサービス」ではオリジナルのツボ押し棒をつくったり、洗車の仕事を受けたりもしています。また、そもそも高齢者施設で「はたらく」活動が介護業界ではあまり認知されていないことから、簡単な仕事から導入できないか他施設に提案しています。(画像提供:西院デイサービス)

「sitte」の輪を、少しずつ広げていきたい

プロジェクト開始から数年間、「sitte」のまな板とカッティングボードは、mumokutekiのみで取り扱っていましたが、2021年度からは京都市のふるさと納税の返礼品に採択され、需要が高まっています。しかし、生産量には限りがあるため、納品は「準備でき次第、順次発送」。最長で半年ほど待ってもらうこともあるといいます。

田端さん 仕事には、厳しい納期が定められているのが通常ですが、高齢者施設が企業と共同で商品制作を行なうにあたっては、独自の制作ペースを創造する必要があります。そのため、mumokutekiさんが、理解を持って一緒に取り組み見守ってくださる姿勢はありがたいですね。

でも、量を増やしていくのであれば、生産体制を整え納期問題もクリアしなければなりません。僕たち以外にも多くの施設が関わり、作業を分散させることでうまくいくのではないかと考えているので、横のつながりを広げていきたいですね。

プロジェクトを立ち上げた当時は、「クオリティが心配だった」と語る吉村さん。しかし、いざ活動を始めると、長年生きていた利用者さんの手がいいことに気づき、丁寧で、質のいいものづくりができると身をもって感じたそうです

生産量を増やす体制づくりに力を入れていきたい一方、企業と高齢者施設との連携には、一筋縄ではいかない難しさがあるといいます。

吉村さん 田端さんのように現場でクオリティを確認しながら利用者さんに寄り添うスタッフさんが必要で、誰でもできるわけではありません。企業として商品クオリティを安心してお任せすることができ、企画から販売までの一連の流れを理解した上で、両者で役割分担をしてくださる方と進める必要があります。

田端さん 木を磨くと言っても、種類が異なれば力の入れ具合も変わります。柔らかい木は傷つきやすいので、力をコントロールしづらい重度の認知症の方には難しい面もあります。そうした作業分析もしながら、利用者と仕事内容をマッチングすることも大切になってきます。

こうした条件を考えると、いきなり他法人の施設に広げるには難易度が高いと考え、まずは「西院デイサービス」が所属する社会福祉法人京都福祉サービス協会の他事業へ広げていこうと考えています。

吉村さん 生産量を増やしながら、「sitte」の輪を少しずつ広げ、関わる企業さんを増やしていけるといいですよね。量や納期の感覚が通常の仕入れとは異なることを理解した上で、顧客と調整していく努力ができれば、どんな企業さんも高齢者施設さんと連携できるのではないかと思っています。

プロジェクトを進めながら、認知症の方と一緒に生きていく上で大切なことが見出せるのではないかと思うようになりました。今は、最期まで誰かの役に立つ生き方を一緒にクリエイティブにつくっていく関係性になれるのではないかと期待しています。それは、高齢者施設だけではなく企業もできることだと、「sitte」プロジェクトを通して教えてもらいました。

私たちもいずれ歳をとります。今から企業と高齢者施設が連携し、共に生きる社会をつくっていく一員として、「sitte」プロジェクトを大切に育てていきたいです。

プロジェクト立ち上げ時に、「現在の姿を思い描けていたわけではない」と吉村さんは話します。しかし振り返ってみると、商品を通して消費者の暮らしを豊かにするだけではなく、施設や利用者のみなさんの仕事をつくり、人生の最期を彩るプロジェクトになりました。まさにmumokutekiのコンセプト「いきるをつくる」を体現するものと言えるでしょう。

「認知症になったり、要介護状態になったりしたら、何もできないのではないか?」と、誤解されることがあります。しかし、認知症であっても、できる環境を整えればやれることがあり、最期を迎えるときまで「誰かの役に立ちたい」と多くの人は願っています。そうしたことに気づけるかどうかは、当事者に関わり、声を聞く機会があるかどうか。「sitte」はその入口づくりと、認知症の方々の仕事づくりを両輪で進めることができる取り組みです。

「sitte」の商品を購入すること、企業として高齢者施設との連携を考えることなど、一人ひとりができることを積み重ねた先に、認知症の人もそうでない人も、みなが共生できる社会は訪れるのだと思います。老いは誰にでもやってくるもの。正しく理解することは、将来老いた自分を生きやすくする一助になるのです。

(編集:村崎恭子、スズキコウタ)
(取材時撮影:北川由依)