まなぶ × つくる × かんがえる、グリーンズの学校

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「やりたいことをやるためのハードルはお金じゃない」。「numabooks」内沼晋太郎さんのビジネスの育て方は、企画を磨き、経験と知識を積み重ねること。

「社会活動は無償で行うべきだ」。
そのように考える人は今でも少なくありません。

しかし実際には、社会活動はもちろんどんな活動であっても、全力を注ぎ、最優先で行っていくためにはそれに見合った事業性が必要だといえます。そうでなければ、どれだけまわりに必要とされていても安定的に続けていくことができないからです。

連載「ソーシャルな会社のつくりかた」では、自らの思いから始めた活動をしっかりと継続的な事業に育てていった方々に、対談形式でお話をうかがっています。

今回ご登場いただくのは、「本を読む人が増えれば世の中がさらに豊かになる」という思いを胸に、本屋「B&B」の運営や、本のある空間づくりなどを行い、業界の底上げに尽力するnumabooks代表・内沼晋太郎さんです。

内沼さんを迎えるのは、グリーンズのビジネスアドバイザー、小野裕之。「内沼さんの活動をずっと昔から注目していた」という小野と内沼さんの対談は、仕事のつくりかたに関するヒントに満ちたものとなりました。

内沼晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。numabooks代表。2012年に東京・下北沢に新刊書店「本屋B&B」を博報堂ケトルと協業でオープン。2017年より出版事業も開始。ほか、株式会社バリューブックス社外取締役、青森県八戸市「八戸ブックセンター」ディレクターなどをつとめる。著書に『本の未来を探す旅 ソウル』(共著/朝日出版社)、『本の逆襲』(朝日出版社)などがある。

ビジネスを生み出そうとしたことも、営業をしたことも無い

小野 内沼さんこんにちは。ごぶさたしてます。ぼくはこれまでグリーンズで曲がりなりにも8年やってきていて、自分のやりたいプロジェクトを始めた人なんかからそれをどう事業化していったらいいか? って聞かれることも結構多いんですよ。

それで、先を走っている方に、これまでの道のりや、事業化のコツなどを教えてもらおうっていうのがこの連載なんです。内沼さんって、本に関わる事業を多岐にわたって手掛けていると思うんですけど、いつもご自分の仕事をどんな風に説明してるんですか?

内沼さん 伝えにくいですよね。ひとことで言うときは「人と本との出会いをつくる仕事」。けれど実際は、本と関係あるかないか、お金になるかならないかにかかわらず、自分がやっていることのすべてを仕事と思っていて。だから、なにかやりたい事業があってそのために会社を立ち上げました、という感じではないんです。

大学を出て入った会社を2ヶ月で辞めて、最初はフリーターとフリーランスの間のような感じで、個人事業としてやっていましたが、しばらくしてクライアントから法人との取引を求められたので、たまたま父が昔やっていて数年休眠させていた会社があったのでそれを引き継いで、それから数年前までずっと、ひとり会社としてやってきました。

今はぼくの他に正社員が4人いて、numabooks部門とB&B部門のふたつに分かれていて、それぞれ2人ずつです。B&B部門は、博報堂ケトルと一緒に「B&B」という下北沢の本屋を運営する仕事で、numabooksの仕事は基本的にそれ以外、本のセレクトや、本のある空間をつくる仕事、最近はじめた出版社の仕事などです。

小野 ‟本のセレクトや、本のある空間をつくる仕事”というのは具体的には?

内沼さん いろいろあるんですけど、どこかに小さな本の売り場なりライブラリーなりをつくりたいという相談を受けて、そのつくりかた、選書、その後の運用までのどこかのフェーズを手伝ったりですかね。

レギュラーでやっている仕事には、BIBLIOPHILICという読書用品ブランドの商品開発のディレクションとか、書店のコンサルみたいなものもあります。あとは社内ライブラリーをつくったりだとか。

小野 本を起点に様々なコミュニケーションを生んだり、そこで付加価値を生むようなことを網羅的に行っている感じですね。グリーンズも初期の頃は、ビジネス的にどこからお金をもらって何をアウトプットしていけばいいか分からない状態で、何か稼ぎかたの幅を出せないかなと思っていたので、ぼくは昔から内沼さんの活動をチェックしてました。

内沼さんは今やっているようなことがメインの仕事になっていくのを、いつくらいから予想してました? それとも別に予想していなかったのか。

内沼さん そうですね。予想は何もしていなかったですけど、イメージだけはあったというか。でも、結局、ぼくは本っていうものをもっとたくさんの人が読むようになったり、もっといろんな面白がられかたをするようになったりするための仕事であれば、別に何でもよかったんですよね。

だから、ビジネスを生み出そうと考えたこともほぼ無いし、営業らしい営業をしたことも一回も無い。来る話に乗っかっているうちにここまで来たっていう感じなんです。波に乗っている感覚というか。

新刊書店「B&B」ができた時もそうで、あるとき嶋浩一郎さんに「内沼君、本屋やろう」って言われて、ぼくは二つ返事で「やります」と答えて、2012年7月にオープン(「B&B」は内沼さんと嶋さんの共同経営)。だからぼくは、これまで明確なターニングポイントも無く、いただく仕事を目の前のクイズとして、それをひとつずつ解いてきたような感覚に近いです。

ビジョンさえ明確なら、そこに入るあらゆることがビジネスになる

小野 「目の前のクイズを解く」と今言われたように、内沼さんは面白がれる仕事の幅が広いんだろうなと感じます。

内沼さん そうですね。相当、幅は広いですよね。だから、いただく依頼が予想外であればあるほど嬉しいし、楽しい。

内沼さんが博報堂ケトルと協業で開業した下北沢の本屋「B&B」

小野 その依頼の幅広さって、「本」というテーマが生み出している要素が強いのか、内沼さんという存在の要素が強いのか、どちらだと思います?

内沼さん たぶん、どっちもでしょうね。本とぼくがハマったんだと思います。

というのも、本はテーマとしてすごくいいんですよ。なぜかと言うと、本という器には何でも入る。あらゆることについて書かれている本があるから。だから、どんな業界とでも一緒に仕事ができるし、かつぼく自身、メディアとしての本とかコミュニケーションツールとしての本とか、本にまつわること全般に関心がある。だからいろんなことを面白がれるわけです。

小野 ぼくはよく仕事についての相談を人から受けるんですけど、やりたいことがなかなか仕事として成立していかない人の傾向として、幅が狭いというか、いろいろなことを面白がれないタイプが多い気はします。

仕事ってそもそも自分ができることと相手がしてほしいことの間にしか生まれないので、どうしても仕事にしたいなら、自分のやりたいことの純度を少し下げて、相手の要望とすり合わせてみる感覚も大切なのかなって。

内沼さん そうですね。だからもし「子どもたちに自然に触れてほしいから、自然体験事業をしたい」という人がいたとして、それをお金にするのが難しければ、少し手前のビジョンに戻ればいい。

端材でおもちゃつくって売る仕事だって、自然環境のある場所とお客さんをつなぐ旅行代理店みたいな仕事だって、あるかもしれない。

ビジョンさえ明確なら、そのビジョンの中に入れられるあらゆることがビジネスになるわけで。

身の回りのビジネスをしっかり観察

内沼さん 結局どんな仕事だって、自分のところに入ってくるお金って「単価×売れた数」でしかないですよね。ゲストハウスだって「一人一泊いくら×人数」だし、なにかの体験教室だって「一回何千円×何人」とか。だから何をビジネスにしたかったとしても、単価がいくらで、何人集まれば食えるかってことでしかない。

小野 そのサービスの提供価値みたいなものは、どうやったら上がるもんですか?

内沼さん ぼくだったら仮にその人が1,000円で500個売れなくて悩んでるとしたら「2,000円とか5,000円とかにする方法か、500人集めるとか1,000人集める方法のどっちかを発明するしかない」っていう話をやっぱりしちゃいますね。あとは共感しているものとか他人のビジネスをよく観察するとか。

小野 よく観察っていうのはどの辺を?

内沼さん 小野さんは、さっき「昔から内沼さんの活動をチェックしてました」って言ってくださったじゃないですか。つまりそういうことだと思うんですよ。

この人はどうやって稼いでいるんだろうとか、このお店はどうして儲かっているんだろうとか、そもそもこの商品はどういう原価構造でここに売られているんだろうみたいなことを想像する癖がないとやっぱり難しいですよね。

たとえば、さっきの自然体験とか幼児教育とかそういう分野でやりたいとしたら、全然違う宇宙開発でも自転車でも植物でも何でもいいんですけど、他の業界の体験ビジネスのモデルをよく観察するのが良いでしょうね。自分のやりたい業界の他人のものを見ると、ただ後追いするだけになってしまうから。

小野 誰がどんな理由でどこにお金払ってるのかっていうのを。

内沼さん そうそう。そういうことを想像する練習をやらずして、ビジネスモデルのアイデアの表面だけ見ていてもいきなり浮かばないだろうなぁと思いますね。

ぼくは飲食店に行ったら、ここは何でこんなにいい店なのか、なぜこんなに美味しいものがこんな安いんだろうみたいなこととかを、スタッフの数とか数えながら考えます。それもかけ合わせでしかないんですよね。そのかけ合わせがどんどんうまくなっていくためにぼくはいろいろやっていて、基本的には自社事業をちゃんとうまく回していくことと、クライアントワークに対して良い答えを返すためにやっているわけです。

小野 他のケースのこともモデル化して捉え続けたからこそ何となく仮説が当たるにようになるという話ですよね。でも、アウトプットの部分だけ見てると、その構造が分かんないし、自分でつくれるようにならない。

内沼さん 一番良いのはまず自分がやることですよね。ぼくのことで言うと、numabooksとして2017年から出版事業を始めて、今、何冊か本をつくってるんですよ。やりながら、ぼくが今までいかに分かってなかったかっていうことを痛感してるところです。

こんなに本のことをずっとやってきたのに、やってみて初めて分かることってまだまだたくさんあるんだということに日々直面しています。印刷の見積もりとか見ても、「そうだったのか!」みたいな。

ぼくは本のことについて総合的に分かりたいし、総合的にいろいろアイデアを出していきたいんですけど、やっぱり経験したことが多ければ多いほど、アイデアの精度が高まっていきます。知識として印刷物の原価構造なんかを知っていたつもりでも、自分の会社からお金出してやると全然、分かることの解像度が違うんですよね。

小さくても面白いと思えることを、まずやってみる

見えているのは中身の本からの一節の引用文だけ。 切手を貼ってポストに投函すれば、サプライズのあるプレゼントにもなる「文庫本葉書」。

小野 内沼さんも昔は当然、今よりもそうした考える筋肉は無かったと思うんですけど、その少ない筋肉でもやれたことってありますか?

内沼さん そうですね。何もなかった時は、古本の文庫本を買ってきて包んで中身を見えなくして、それに中の引用文を書いて売ったりしていました。これはその時の自分の筋肉でできることだったんですよね。

小野 それはもうジャストアイデアっていう感じ?

内沼さん そうです。でも、これはビジネスにならないってことはぼくは分かってるわけです。これで食っていこうとか思ってないわけ。これを考えた時は23歳だったんですけど。

小野 それだけだとちょっと変わった古本屋さんみたいな感じですよね。

内沼さん うんうん。そのちょっと変わった古本屋さんに、ちょっと変わった洋服屋さんから本を選んでくれないかっていう依頼が来たんですよ。それに「あっ、やります」って乗っかって。でも、そのやりますって言った瞬間は、依頼に対してどんな風にやったらいいかとかは全く分かってない状態なんです。でも「やる」って言ってやる。そういうことの積み重ねです。

小野 ひとつ思うのは、お金の面を含めて仕事としてしっかり成立させることを考えるよりも、小さくても面白いことをまずやってみることが大事なんじゃないかなって。

内沼さん 絶対そうですよ。よく言われることですけど、ネットニュースとかになる時にタイトルがつくかどうかをまず考える。「あなたのやってることはgreenz.jpの記事になると思ってますか?」と。それはプロジェクトの大小と関係ないから。

小野 実際、そこに驚きやオリジナリティがあるとやっぱり記事にしやすいですもんね。

種をまかなければ仕事は来ない

内沼さん ほかにもその頃、「文庫本セット」っていう文庫本とドリンクをセットで注文するカフェメニューを考えたんですけど、それはどこに持ち込むかすごく考えたんですよ。

当時ぼくは飲食店の友人が多くて、彼らの苦労を少し知ってたから、このアイデアはまず、お客さんの回転率が下がる点を突っ込まれることが分かっているわけです。本をゆっくり読んでくださいというのは、少なくとも低単価のカフェの考えかたからすると、あんまり喜ばれない商品なんですよ。

小野 長居され過ぎてもね。

内沼さん そう。だからこれはドトールコーヒーに持って行ってもだめな企画なんですよ、多分。少なくともマクドナルドには絶対持って行っちゃいけない。彼らの指標には必ず回転率があるから。

筆者(磯木) 商品は、すぐ冷めるものか、すぐ溶けるものとかの方がいいみたいな。

内沼さん 椅子も少し硬いほうがいいとかね(笑)

今はまた少し変わってきてますけど、でもそういう想像力も飲食業のことを知らないと出てこないじゃないですか。ぼくは結局青山にある「Spiral Cafe」に企画を持って行ったんですけど、それは、まずそもそもスパイラル自体がワコールアートセンターという企業の文化芸術活動であるというという前提があった。で、あんな青山の一等地の一階にありながら、当時はそこまで常にお客さんで満員ということはなかったんです。客単価も高い。

そこでぼくが考えたのは、スパイラルなら企画についても理解されそうだし、「Spiral Cafe」は打合せとかにも使われる場所なので、メディア関係の人にも見られるだろうと。そうすると新聞とかにも取り上げられやすいかもしれない。小さなことだけど、日々の筋トレがなければ、当時のぼくもこういうふうには考えられなかったと思うんです。

筆者(磯木) その企画では、内沼さんはどこかからお金はもらってたんですか?

内沼さん いや、まったくもらってないです。

それどころか、経費も全部自分で出してやったんです。在庫リスクもぼくが完全に持っていたので、よっぽど本が売れない限りプラスはありえないっていう状態。ただ、ぼくとしてはやりたいことがやれたわけですよね。かつ、テレビ局も2つぐらい来て少し話題になったので、みんな良かったっていう。そうやってやったことで、ずっとこうやって人に喋れるじゃないですか。

小野 それがまた次の仕事につながっていく。

内沼さん そう。

小野 今の話って、numabooksのフラッグシップになるような作品をつくったみたいな感覚に近いですよね。

つまり、これを「ちょっとでもいいのでお金下さい」と言っていたら、絶対実現しなかった。でも、自分のやりたいことを仕事にしたいという人って、結構そこで渋ってしまう人が多いように思う。

内沼さん 分かります。きっと、自分というものの価値をあまり高いと思っちゃダメなんですよね。

小野 「前例がないからできません」みたいな話がよくありますけど、やれる形に整えられなかっただけでしょ? みたいな。ひとつめのアイデアの段階から、しっかり仕事として成り立つ状態をつくるのは結構大変。だから、最初からお互いに儲けようとするんじゃなくて、ふたつめみっつめの仕事で儲けられたらいいというくらいの余裕って大事なんですよね。

内沼さん いや、ほんとにそうですね。だから、お金をもらってしまう方がリスクだということがある。最初はタダであげる方が、立場的にはいいんですよね、絶対。もらっちゃって、それに見合う結果が出ない方が、長い目で見るとリスクだから。

この話、まるで仕事を道楽でやっているように聞こえたり、あるいはビジネス感覚抜きでやってるように聞こえるかもしれないですけど、実は真逆で、後で回収できると直感的に分かっているからやるんですよね。

筆者(磯木) つまり内沼さんのやってきたことって、そうした種まきによって「あの人こういうアイデアを持ってるらしいよ」とか「面白い人だよ」みたいな噂になって、いろんなところから依頼が来るようになり、やがてそれを収益化してきたってことですね。

内沼さん 文字通り、種まきですよね。種もまいてないのに、どこかから仕事が生えて出て来るわけないですから。とくに今はSNSもあるし、無名だからとか田舎だからとか、そういうことも何の言い訳にもならなくなりましたしね。

人と違う面白いことをやっていて、それをきちんと言葉とか写真にして見せられれば、話題になるチャンスが、整った土壌として開かれているわけだから。

小野 本当にそうですね。内沼さんの活動で、金銭的にブレイクスルーしたタイミングってありました?

内沼さん うーん…、どうだろう。でも、ぼくはずっとバイトしてましたからね。ただ、後半になってくると自分の仕事と関係のあるバイトしかしてないんですよ。だから最後までやってたのは本屋のバイトで、27歳頃まで。

でも今でも、「どうしてもこれはバイトしないと分かんないな」と思ったら絶対やりますよ。ただ、今どの苦労を買うのが一番いいかっていうのは、戦略的に考えた方が良いですよね。時間は限られてるから。

一冊も本を売ったことのない人が、いきなり本屋なんて始められない

内沼さん ぼく、バリューブックスという会社の社外取締役もやっているんですけど、その社長に「内沼さんはひとりで勝手に出版業界のR&D部門をやってくれているんだ」って言われたんですよ。自分でも意識していなかったけど、そのとき、「なるほど、確かにそうかもしれない」って思って。

小野 出版流通業界で、小さい規模ながらも新しいものをつくって回す、という。

内沼さん そうです。ぼくは「リサーチ&デベロップメントしたら終わり」という感じも楽しめるほうで、開発したら一番気に入っているものだけ自分でやって、あとの残りを事業として拡大していくのは別の誰かが勝手に真似してやってくれればいいと思ってるんです。そのほうは本の世界が豊かになって、ぼくも楽しいから。

あと、できるだけ小さいチームでやっていきたいとも思っていて。なぜならやっぱりチームが大きくなると、そのチームを食べさせるための仕事をしなきゃいけなくて、効率を求めて同じような仕事をいくつもこなさなきゃいけなくなるから。今は数人なので、いくつかレギュラーの仕事を抱えれば、あとはR&D部門のまんまで生きていけるサイズなんですよね、それは維持したいなと。

小野 そうなんですね。お金がたくさんあったら、何かにドン!と投資して大きいことができるっていう考えかたもあるじゃないですか。そういうのは内沼さんにはないですか?

内沼さん あんまり無いですね。だって、もしぼくがやりたいことにどうしても1億円かかるとしたら、1億円を持っている人のところにその企画を持っていけばいいだけじゃないですか。

小野 今の視点はすごく大事ですよね。人が何か新しいことできない理由って、大体がお金が無いとか、時間が無いとかだと思うんですけど、お金が無くてもやりたいことはできる。

内沼さん うん。自分が持っているお金でやるか、足りなければ誰かとやるかしかないですよね。ぼくは、本屋になりたい人のための講座もやっているんですけど、彼らに最初に言うのが「まずは一箱古本市(*)とかに出て、実際に本を売ってみるといいよ」ということなんですよね。

というのも、やっぱり一冊も本を売ったことのない人がいきなり本屋なんて始められないんですよ。やってみると意外と自分のやりたいのって本を売ることじゃないかもって気がつく人もいるし。

だから、「お金が無いからやりたいことができない」と思っている人は、意外にお金があってもできない。お金よりも知識や経験が足りてないことの方が多いと思いますね。勉強して知識を増やして、会うべき人がいれば会って、経験を重ねて少しずつ信頼を得て、その上に企画を立てる。それが面白ければ、お金を出したい人はいるでしょう。

もちろん誰にも理解できないこと、自分の意志だけで進めたいことは、自分のお金でやるしかないですが、少なくとも知識も経験もない人がそういうことを考えても、うまくいく確率は低い。いい企画であれば、お金は本来、そんなにハードルにならないはずだって思いますね。

(*)一箱古本市…地域のさまざまなお店の軒先をお借りして、それぞれの「店主さん」が段ボール箱ひとつ分の古本を販売するイベント。

小野 そうやって積み上げていくってことだけですよね。

内沼さん はい。最終的には、それをやり続けていれば、ぼくらのような小さい会社でも、やがては世界の本をめぐる環境を改善する存在になれるんじゃないかって思ってるんです。

何か本と関係のある悩みを投げ込むと、最高の答えになって返ってきて、とてもうまくいくみたいな、そういうブラックボックスになるのが理想ですね。「なんでそんなにいつも最高の答えが返ってくるんだ?」みたいな。

だからいろんなボールが飛んでくる自分になりたいし、いろんなボールが飛んで来た時に良い答えを返すためにはたくさんのことを経験していないといけない。今は、そのために足りないピースをひとつずつ経験して増やしているイメージです。

(対談ここまで)

おふたりの対談を聞いて率直に感じたのは、「ソーシャルな会社を経営している人は、自らの活動が事業として成り立つように真正面から努力をしてきた人なのだな」ということ。

内沼さんの生み出すアイデアの表面に気を取られると本質が見えなくなりますが、実際に事業を育てるのはお話のとおり「観察して、考えて、やってみる」を繰り返すということに尽きるのでしょう。

また、社会的な活動であっても、仕事の仕方とお金の稼ぎ方を分けてしまうと、活動自体に歪みが生じてきてしまうものですが、内沼さんの場合はそこがうまく一致しているため、まさに波に乗っているように活動もお金もうまく回っているという印象を受けました。

俯瞰の目線で、譲れるところと譲れないことのバランスをしっかり取ることが、ビジネス面を含めた事業の健全性と継続性につながるのだと思います。

この連載のタイトルは「ソーシャルな会社のつくりかた」ですが、思いから始める活動を仕事にしていく人にとっては、会社をつくるという事は、あくまでもビジョンに向かうためのひとつの過程なのだということも、今回改めて感じたことでした。

連載と連動して開講している「グリーンズの学校」の「ソーシャルな会社のつくりかた」クラスでは、第1期で内沼さんも講師として登壇してくださいました。6月開講の第2期は、現在参加者募集中。ご自身の志のある活動を事業として育てたいという方は、こちらもご覧ください。

【ソーシャルな会社DATA】
社名 株式会社レーベン(屋号:NUMABOOKS)
設立:1988年9月
代表者:内沼晋太郎
社員数:14人(正社員4人/2017年3月1日付)
事業内容: 書店事業、出版事業、企画制作・コンサルティング事業
グループ会社:なし