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都市でも田舎でも地方都市でも、自己表現する人を応援したい。omusubi不動産が使い手の自由とオーナーへの社会的価値の還元を目指す理由。

下北沢のBONUS TRACKに店を構えるomusubi不動産。本店は千葉県松戸市にあり、お米づくりもしているという変わった不動産屋さんです。

代表の殿塚建吾さんは出身地の松戸市のまちづくり会社「まちづクリエイティブ」で不動産部門を3年担当したあと、2014年に同じ松戸市内の八柱(やばしら)地区(松戸市中心部から東へ3-4kmほどの距離にあるエリア)で「omusubi不動産」を起業。2020年、BONUS TRACKのオープン時に2店舗目となる下北沢店をオープンさせ、BONUS TRACKのコワーキングスペースやシェアキッチンの運営も担っています。

中古マンションのリノベーションの仕事をしていた経験をいかして、まちづクリエイティブ時代には、空き家をリノベーションしてアーティストに住んでもらう事業に携わり、不動産を通したまちづくりを現場で経験してきました。その経験をどう下北沢でいかし、その先に何を目指しているのか。BONUS TRACKのオープン時からともに歩んできた散歩社の共同代表・小野裕之(グリーンズビジネスアドバイザー)と、内沼晋太郎さん(NUMABOOKS代表)が話を聞きました。

自己表現したい人たちに場所を提供する

内沼さん omusubi不動産の、空き家をリノベーションしてアーティストに貸す事業は、どんな意図でやっているんですか?

殿塚さん 昔から古い建物が好きで、壊されるのはもったいないと思っていたんです。東京R不動産などが古民家再生を手掛けているのを見て、それをアーティストたちに使ってもらう事業を手掛けていたのが、まちづクリエイティブでした。

その場所をきっかけに世界に出て行く人を目の当たりにして、空き家をアーティストに提供するのはいいことだという確定的な価値観を得られた。だから独立してからもそういう場所をつくりたいなと。

内沼さん 独立したときに、同じ松戸でも少し違うエリアで始めたのは、競合しないように、という意図でしょうか?

殿塚さん それもありますし、アーティストじゃなくても自己表現をしたい人たちにも場所を提供したいと思っていて。それを考えたときに、農的なライフスタイルも選択肢に入れたくて、そういう自己表現がしやすい場所として、「CAMOO(カムー)」というオーガニックレストランと、フェアトレードとオーガニックにこだわる「SLOW COFFEE(スローコーヒー)」(現在は閉店)があった八柱地区で始めることにしました。

殿塚建吾さん

小野 生活感が出ましたよね。まちづクリエイティブではアーティスト支援が中心で、お店や住まいがあまり強調されていなかったから。

殿塚さん それはまちづクリエイティブにいた頃から考えていました。当時、結構有名なアーティストがたくさん来ていたのですが、のべ100人くらい来ても地域のほとんどの人は知らなくて。でもある時、僕らとは関係ないところでカフェができたんですよ。それが「個人のコーヒー屋さんがオープンするのが十年ぶりぐらいだ」って、それだけで話題になって。

いい店がひとつできることで明らかにまちが変わる感じがあったので、やっぱり両方必要だと思ったんです。まちに表出するものとその裏側で価値を蓄えている人と。いま足りないのはお店の方だから、そっちのほうを増やしたいなと。

小野 そのやり方で、軌道に乗ってきたと思えたのはいつ頃ですか?

殿塚さん いまでも軌道に乗っているかわからないんですけど(笑) ただ、始めてすぐに問い合わせが来たうちの1件が、「東京から地方に移住したいけど、いきなり田舎に行くんじゃなくて地方都市で畑もやれるようなところに住みたい」という女性でした。そもそもそういう人たちに物件を紹介したかったので、続けていれば大丈夫そうだなという感触をその時に得たのかもしれないですね。

あとは2016年になって、社宅だった建物1棟を借り上げて「せんぱく工舎」というクリエイティブスペースの運営を手掛けたり、「One Table」というシェアカフェを始めたりしたんですが、そのあたりで、まちににじみ出せる物件をつくれるようになってきたという実感はありました。

omusubi不動産が運営するシェアカフェ「One Table」

殿塚さん 2018年ぐらいになると、古本屋さんやパン屋さんといった、それまで松戸になかったようなお店の方たちが物件を探して声をかけてくれるようになって、潮目が変わってきた感じがしました。

同じ頃にまち全体で「科学と芸術の丘」というアートフェスが始まったんですが、それはお神輿の代わりにアートがあるようなフラットなお祭りで、新しく入居してきた人も、もともと住んいでる人たちも、一緒に何かをするベースができてきたと感じるようになりました。

一方で、松戸のまちのことを考えると、松戸だけでやっているとインパクトが出せないかもしれないと思うようにもなっていて、そのときに下北沢の話をもらって。どこか違うまちに行くなら偶然声をかけてもらったところにしようと決めていたので、受けてみようと思いました。

使う人には自由を、オーナーにはやりがいを

内沼さん 2拠点目として下北沢へ来て2年ですが、今どうですか?

殿塚さん まず、東京では地方都市のモデルのままでは全然うまくいかないことを実感しています。

地方では、低コストである程度のレベルを担保する方法が効果的だったりしますが、東京だとちゃんとお金をかけてクオリティを上げないとうまくいかなくて、そのやり方を僕らは持っていないのでしんどかったです。それに地方では、負債になってしまっている物件がたくさんあるので、それを任せてもらって価値にすれば事業として成り立つんですが、東京では土地にそもそも価値があるから、そこに金銭的な価値をつけるのは僕らには難しくて。

ただ、その中で、オーナーさんの中に「もうお金はいいからやりがいがほしいんだ」という方がいて、お金以外のものにモチベーションがあるオーナーさんも一定の割合いるなとわかりました。やりがいという付加価値をつくっていくのが、東京のとくに西側では意味があるんじゃないかと思って、どうしたらそれができるかをいま考えているところです。

小野 そういう家賃収入以外の社会関係資本的な目線のオーナーさんの満足度を高めるような考え方は、今までの不動産業界にはなかったんですか?

殿塚さん 不動産屋さん側がそれを意図してデザインしているのは見たことがないですね。

内沼さん 働き方の文脈では「お金より社会関係資本だ」という価値観があるわけですから、大家という仕事におけるそれを生み出せればチャンスなんじゃないでしょうか。

殿塚さん そうですね。生み出してあげたいし、それを生まないと、まちという目線で見たときに全体が沈んでいく構造が変わらないとも思います。

よく思うんですけど、不動産って本来は共有物なのに、いまは個人の個別最適で意思決定されてしまっていて、全体最適化されないという構造上の問題があるんですよね。それを是正するためにはお金だけでは難しいので、社会関係資本みたいなもので還元できる方法を考えるしかないなって。

内沼さん 面白いですね。ちょっと話がずれちゃいますが、知識も公共財とされているので、僕が扱っている本も公共財的な性格を持っていて、でも本が商品として広く流通するようになって以降、経済合理性の中に入ってしまった。そうすると「本は商品なのになんで図書館って無料で貸してるんだ」って、話が逆転してしまったんですよね。いまは商品としての本もどんどん厳しくなっているのでフェーズは違うかもしれませんが、「本来は公共財的なもの」であるところは不動産と似ているかもしれないですね。

殿塚さん 内沼さんは本屋さんというビジネスモデル上そんなに強くないものに対していろいろな手を使って価値づけしているじゃないですか。僕ら不動産業は逆で、ビジネスモデル上は本来は強いと思うんですよ。だからちょっとずるい商売だと思っていて、そのずるさの部分をどう還元していくかという視点を持たないといけないんじゃないか、と強く思っていますね。

小野 その価値を社会に還元するのがomusubi不動産的なのだとすると、具体的な方法論としてほかの不動産屋とはどう違うんでしょうか?

殿塚さん モチベーションが自由度を提供することにあるのか、管理することにあるかの違いだと思っています。

不動産って基本的にトラブルの集積みたいなもので、オーナーさんも不動産屋も嫌な思いをしている人が結構多いんですね。それに巻き込まれたくないというバイアスが強いから、「しっかり管理しよう」という発想になる。でも僕らはそれではつまらないから、面倒でも使う人に自由を提供しながら、オーナーが価値を感じられるようなものを提供したいと思っている。そこが違いですかね。

小野 使い手の自由を尊重した不動産屋は増えてきているんですか?

殿塚さん その価値観を訴求する不動産屋さんはすごく増えているんですが、使い手の自由を成立させるためには、常に使い手とオーナーさんの間でコミュニケーションを取らないといけなくて、そこまでやっている不動産屋さんはほぼいないですね。

内沼さん それは並走し続けるコストが高いからみんなはやらないってことですよね。それをomusubi不動産ではどうやっているんでしょうか?

殿塚さん 面倒臭い気持ちもありながら、好きだからここまでやれてきたというのが正直なところですね。だから、僕が現場を離れたときにスタッフさんがめちゃくちゃ大変ということが起きて、これをいかに楽しい仕事に変えていくか、面白く改善できるかということを今話し合っているところです。

任せざるを得ない状況が変えた、組織のかたち

小野 拠点も2つに増えて、人も増えて、会社の変化についてはどう感じていますか?

殿塚さん 準備なしで突然マネジメントに向き合うことになってしまったので、下北に出して最初の1年くらいは、マネジメントをどうするかずっと考えていましたね。1年間かけて組織の体制が徐々にできてきたので、僕が先頭に立って営業もPM(プロジェクトマネジメント)も全部やるみたいなのはやめて、一番得意じゃない言語化に向き合うようになりました。

何が大事で、なぜこれをやっているのかという考え方の部分や、普通の不動産屋さんの原則のスキルがこれで、それを僕らはアレンジしてこういう風にやるんだよという価値の部分を整理してちょっとずつ言語化している途中です。

内沼さん それに向き合わなきゃいけなくなったのは、人が増えたからですか?

殿塚さん 拠点が増えたということのほうが大きいかもしれないですね。物理的に任せざるを得ない状況が増えていったので。

内沼さん 組織が大きくなってくると誰もが向き合う壁ですよね。いまは任せられるようになりましたか?

殿塚さん 任せられた側の人も悩むわけですが、ありがたいのは任された人が「なんとかしたい」という意思を持ってくれていることですね。会社の目線で話せる人が増えました。

内沼さん 殿塚さんが決めなくても、解決してくれることが増えてきたってことですよね。

殿塚さん 増えてきたんですけどまだ整理されていないので、今は権限表を部門ごとにつくってあなたはここまでやっていんだよっていうことを整理しています。口伝では認識がずれることがありますが、権限表があると当人だけではなく周りも動きやすくなる。これからもっと組織を大きくしていくなら、今やっておかないといけないことでもありますので。

小野 それによってみんなが権限や責任に前向きに取り組むもうという姿勢になっていますか?

殿塚さん 「楽になります」と言われることもあるし、「そんなに責任持たされるとプレッシャーになります」というケースもあります。だから練習する期間を設けたり、「あなたの責任は重たく見えるかもしれないけど金額換算すると年間何万だから大したことありません」といったことをちゃんと伝えたりして、「いい意味でそんなに期待してないから」というメッセージを伝えることも大事なんだとわかりました。

東京でチャレンジする人にはコワーキングが必要だ

内沼さん BONUS TRACKでは、本業の不動産屋のほかにコワーキングスペースやシェアキッチンの運営もしていますが、やってみてどうですか?

殿塚さん omusubi不動産がやってきたことの要素を抽出すると、チャレンジできる場所を運営すること、イベントなどの機会を提供すること、その中にコミュニティを生むことで、それってコワーキングスペースそのものだなと。それと不動産の部分への連動もイメージできるので、結果的にBONUS TRACKが染み出すようなことにつながるかなと思っています。

BONUS TRACK内にあるコワーキングスペース

内沼さん 「染み出す」というのは、コワーキングの利用者から不動産を借りる人が出てくるということですか?

殿塚さん それもありますし、何かやりたいときに手伝ってくれる人が近くにいる状況をつくれると思うんです。スキルや興味関心が違う人がそれなりの距離感で集まっていることで、一人だけでは難しいことにもチャレンジできるようになる。それが不動産の部分でも次の展開につながっていくんじゃないかと。

内沼さん 地方都市では、何かやっている人同士が自然とつながりあって人間関係が見えるから必要ないけど、東京には顔が見えない人が大量にいて、あの人に頼めるんじゃないかということさえイメージがわかないから、こういう場所があることで何かが生まれて来るかもしれないと。

殿塚さん 確かに松戸ではまち全体がコワーキング的な要素を持っていて、助けてくれる仲間がすでに周りにいるので、あとは安くて自由に使える物件があればチャレンジが始まっていく感じはありますね。それを東京でやるとどうなんだろうっていうのを、いま内沼さんに言語化してもらった気がします。たしかに、あえて集まるコワーキングが必要になりますね。

「チャレンジを応援する不動産屋」のこれから

内沼さん 会社としての目標はありますか?

殿塚さん 最終目標は何もしないでぼーっとしていてもみんなが平和な状態ですね。でも僕が生きているうちには到来しなさそうなので、不動産屋に絞ると、空き家を活用することが地域の価値の保持につながって、さらにそれを継続していける仕組みをつくることですかね。僕らみたいな不動産屋がスタンダードになっていろいろなまちに増えていったらそうなっていくんじゃないかと。

そのためには、もう1拠点、田舎につくりたいと思っています。松戸でやったのは地方都市モデルで、下北沢は都市モデル、加えて田舎のモデルの3つのモデルができれば、その3パターンのどれかを真似することで各地に僕らみたいな不動産屋が増えていくんじゃないか。50歳か60歳くらいまでにそんなことが実現できればいいですね。

内沼さん フランチャイズのような形ですか?

殿塚さん 形式は違うかもしれませんが、並走できる仕組みはあったほうがいいと思うので、絶えず壁打ちできたり、各地の方法論がナレッジとして共有されていたりしたらいいなとは考えています。

小野 先ほどの「みんなが平和な未来」と、「チャレンジを応援する不動産屋」であることはつながっているんですか?

殿塚さん 僕は、お笑いのような一芸に秀でているけど能力はアンバランスみたいな方に幸せにしてもらったことが結構あるんです。お笑いの裏方をやっていたこともあるので、同時にそういう人たちの生きづらさも知っていて。だから、そういう偏りのある人たちが平穏にいられるように応援したい気持ちがベースにあります。

それに自然や古民家が好きで、そういうものが長くあるといいという思いを混ぜた時に、今のやり方になっている感じがします。古い物件を使って一芸に秀でた人たちがそのままでいられるための環境づくりをやっているのかもしれません。

内沼さん 3年後、5年後にこうなっているといいな、という具体的なイメージはありますか?

殿塚さん すごく田舎の方にも拠点を持って3つのまちで空き家を使ったまちづくりに取り組めていて、その上でそのやり方を他の地域でそれをやりたい人たちにお伝えして、似たようなスタイルの不動産屋さんが増えてきているといいですね。

あとは、千葉県の会社として認定されて千葉ロッテマリーンズと一緒に県内のまちづくりをしたいですね、ロッテファンなので(笑)

(鼎談ここまで)

殿塚さんが、不動産は本来公共財であるという出発点から、お金儲けの道具としてではなく、社会的価値のある財としてどう使うべきかを考えているところが印象的でした。

空き家がこれからもどんどん増えていく中で、お店などの表出するものと、裏で価値を生み出すアートを支えるものの両方に使う。しかもそれを不動産業というビジネスとして成立させる。話を聞くまでは結びつきづらかった不動産業とソーシャルがしっかりとつながった感覚がありました。

松戸も下北も楽しみですが、次は田舎でどんな価値を生み出していくのか注目したいと思います。

(撮影:奈良岳)
(編集:池田美砂子)

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