\仲間募集/街と人の未来を醸す食堂の調理・製造スタッフ@ヘルベチカデザイン株式会社

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日記とコーヒーをかけ合わせ、安定した経営でやりたいことに注力する。「日記屋 月日」から学ぶ、敷居を下げながら奥行きをもたせる店のつくりかた

経営する出版社「NUMABOOKS」で数々の日記本をつくり、自らも日記を付け続けている内沼晋太郎さんは、ある種“日記にとりつかれた男”といえるかもしれません。ついには「日記屋 月日(つきひ)」という店までつくってしまったのだから。

でもそこは、事業を多く手がけている内沼さんのこと。ビジネスとして成り立たせるための巧みな仕掛けがあちらこちらに組み立てられていました。

内沼さんと日記屋 月日の店長・栗本凌太郎さん、BONUS TRACKを運営する散歩社の共同代表であるグリーンズのビジネスアドバイザー・小野裕之、散歩社スタッフの桜木彩佳さんの4名で言葉が交わされた、今回の「ソーシャルな社会のつくりかた」企画。

日記屋 月日にまつわるビジネスの話をしながらも、日記への愛が至る所に感じられた時間でした。

日記っていいな。

日記屋にコーヒースタンドを併設した理由

小野 日記屋 月日は、日記の魅力を伝えるための店としてさまざまな取り組みをしていますが、コーヒースタンドを併設しているのが特徴的ですよね。

内沼さん 月日では、日記本といわれるジャンルの本や、市場に流通していない日記のリトルプレスなどの販売、インターネットを介して日記好きが集まる場所である月日会の運営などをとおして、日記の魅力を伝えています。

店の中からも外からもコーヒーが買えるつくり

内沼さん でも、「日記屋」として単独で運営した場合、店として成立しにくいと思ったんですよね。安定的に店を運営して自分たちがやりたいことをしていくために、ビジネスモデルとしてある程度展望が見えるコーヒースタンドという業態と、どうなるかわからないけどやってみたい日記屋という業態を併せることにしました。

もちろんコーヒースタンドと日記の接続もちゃんと考えています。毎日飲みたくなる、日常に寄り添うコーヒーとして捉えてみると、毎日の出来事を記録する日記のあり方とつながるんですよね。

月日のロゴは日付と曜日を書き込めるようになっており、コーヒーのスリーブにも印刷されている。毎日のコーヒーと日記がうまく合わさっていくように考えられたデザイン

小野 コーヒースタンドは、家賃や人件費を払って経済的に成り立たせていくための側面があるということなんですね。コーヒー以外の別の選択肢もあったんですか?

内沼さん そもそもBONUS TRACKをつくるときに、コーヒースタンドも一軒あるといいよねという話はしていて。自前でやるか店を誘致するかの話をしていたタイミングで、僕がやっていいかなという感じになったのかと(笑)

小野さん しばらく、その辺りの話はふわっとしてましたね(笑)

内沼さん そう、しばらくふわっとしていたんだけど、僕はそれとは別のタイミングで日記屋という事業を思いついて、「そうか、BONUS TRACKでコーヒースタンドと日記屋をやればいいんだ」とひらめいたわけです。

日記を書いてみると、自分の人生も悪くないなと思える

月日の壁面棚には日記本が並ぶ

小野 コーヒースタンドで経済活動を行いながら、ある意味儲からなさそうな日記屋をいまこのタイミングで内沼さんがやろうと思ったのはなぜですか?

内沼さん きっかけはいくつかあるのですが、日記のおもしろさを広めたい、そのための拠点をつくりたい、というのが大きな動機です。

いま、未来のために焦ったり、自己嫌悪に陥ったりしながら生きていている人がどんどん増えているなと強く感じています。たとえば、多くの本屋でどーんと積まれているような本の中には、誰かを出し抜いて儲けようとか、未来のトレンドを追い続けることで成長できる可能性があるぞと、煽ってくるようなものも多い。それに乗っからないと不幸になるぞと。

でも本当は人が毎日生きていて幸福であることって、そういう競争とはあまり関係がないんですよね。毎日同じルーティンで生活をしているなと感じている人や、全然成長がないなと思っている人も、日記をちゃんと付けてみると、日々何かしらの出来事があって、実は昨日とは違う毎日を送っていることがわかる。

日記をつけることで、自分の人生も悪くないな、と思える人が増えるのではないかと思ったんです。

小野 それは日記が持つ魅力のひとつですね。ほかにもきっかけがあるんですよね?

内沼さん もともと僕は、日記の本を読むのが好きなんです。でもその反面、日記を読むことのおもしろさはすごくマニアックであまり広まらないだろうなとも感じていました。だけど、月日ができる2、3年くらい前から、ちょっとだけ変化の兆しが見えてきたと感じることがありました。写真家の植本一子さんのように、日記の本をきっかけに名前が広く知られるようになる人が出てきたりとか。

また、単純に好きだからというのもあって、僕の出版社(NUMABOOKS)でも、気がつくと阿久津隆さんの『読書の日記』、佐久間裕美子さんの『My Little New York Times』、滝口悠生さんの『やがて忘れる過程の途中』と、何冊もの日記の本をつくっていました。

植本一子さんの日記の本『かなわない』(タバブックス刊)も、もちろん月日で取り扱っている。

内沼さん それとは別のきっかけとして、文フリ(※)が好きでよく行くのですが、月日をオープンする1年前くらいに行ったときに、日記の本を出している人が年々増えているな、勢いがあるなと感じたんです。

同時に、文フリに出ている人は基本的にアマチュアが中心ですが、アマチュアが書く日記と小説が並んでいるとき、読む側としては日記のほうがハードルが低いのではないか、ということにも気づいたんです。

小説はやはり創作なのと、読むのに時間もかかるので、なるべく質や技術が高いものが読みたいという気持ちになりやすいというか。賞を取った作品や知人から勧められた作品、話題になっている作品がたくさん存在している中で、あえて知らないアマチュアの方の書いた作品を読む理由を見出すのは、難しいのではないかと。

けれど日記は、人それぞれ異なる固有の経験や出来事、考えがそのまま書いてあって、断片的に読める。書き手の人が有名でなくても、自分と近い境遇にあるとか、たまたま興味のある仕事をしているとか、それぞれの手に取るきっかけがあり得るのではないかと思いました。

(※)文学フリマ。全国各地で開かれているZINE、リトルプレスなどの同人誌をつくった個人が、自由にブースを出して販売するフリーマーケット形式のイベント。)

栗本さん 実際にうちで一番売れているカテゴリーになっていますよね。有名な方の日記や歴史的価値のある日記ではなく、一般の方が書いた日記のZINEが、本の中で一番大きなウェイトを占めている。これは相当特殊だと思いますし、書いた本人もびっくりしています(笑)

内沼さん そうしたさまざまなきっかけがあって、日記の楽しさを伝えるための店をつくるならと考えたときに、日記の本の専門店は世の中にまだないし、読む楽しさを伝えると同時に、書くことのおもしろさもいろんな方法で伝えることができると思いました。

月日で販売されている日記のZINEやリトルプレス。

小野 なるほど。たとえばTwitterやInstagramといったSNSで日記に近いことをしている人もいますが、それについてはどう捉えていますか?

内沼さん そうですね、黎明期のmixiの主な機能も日記でしたし、日記というものの定義がインターネットで広がったと思っています。もちろん、インターネット以前もZINEや小冊子にして発表していた人はいたし、日記の本もありましたが、SNSやブログによって自分の日常を伝える人が爆発的に増えたと思います。

でもそれと同時に、自分を公開したり、ジャッジされ続けたりすることに疲れてしまう現象が起こりがちでもある。いわゆる「SNS疲れ」ですね。そういう人に対して、個人的な、自分だけの日記を書くのもいいと思いますよ、と伝えたかったのも月日をやりたかった理由のひとつです。

Twitterに毎日投稿しているのも日記といえると思いますが、それはどうしても「見られる自分」の言葉になってしまいがちで。どれだけオープンにやっていても、SNSには書けないこと、書かないことというのが、誰しもある程度あるんじゃないかと思うんですが、頭に浮かんだそれを、どこにも書かないままにしてしまう人が実は多い。でも大半のことは、書いておかないといずれ忘れてしまう。だからクローズドな日記には、クローズドな日記のよさがあると思うんです。

スタッフも日記好き。でもその中身は人それぞれ

小野 月日の店長である栗本さんは、どこに興味をもって入社したんですか?

栗本さん もともと僕の中に、未来だけを重要視してもどうにもならないんじゃないかという感覚があったんですよね。でも新卒で入った会社は、未来だけを見てスピード感をすごく求めるようなところだった。そんなときに、内沼さんが月日ができる前に書いた日記についての文章を読み、会社でも早さを求めない価値観でやれるんだと思って魅力を感じました。

あと単純に、日記にそのとき自分が惹かれていたのもあります。人ってすごく嫌だったことや楽しかったことは、結構覚えていられると思うのですが、窓際でひなたぼっこして気持ちよかったというなんでもないことはすぐ忘れてしまう。でも生きている時間の中で実際にそういう時間のほうが多いと思うんです。

そんな“凪”の時間を自分でも思い出したいというか、そういう時間がたくさんあることを知っておきたくて、そのためのツールとして日記っていいなと思っていました。

「日記屋 月日」店長の栗本さん。

小野 ほかのスタッフの方も日記が好きな人が多そうですよね。どういう方がいますか? 

栗本さん 7人のスタッフがいて全員日記が好きですが、その「好き」にいろんなかたちがありますね。昔からいろんな日記の本を読んでいて読むのが好きな人もいれば、日記を十数年書いていて、その魅力を知っていた人も。それぞれ違うから話していて楽しいです。日記が好きな人たちと日記についていろいろ話せる。それも、自分が月日で働きたいと思った理由のひとつですね。

日記を読み合える日記好きの集まり「月日会」

小野 たしかに、あまり日記について人と話す機会は、これまでになかったかもしれないですね。月日会は大きなレイヤーとしてその役割を果たす場所だと思うのですが、具体的にどういう活動をしているんですか?

内沼さん 月日ができる前から、自分が日記を書いているだけじゃなくて、そこから「日記とは?」ということを考えたり、ちょっと俯瞰して日記っていいよねって思ったりしている人が、一定数いるんじゃないかと思っていました。僕もその人たちと話したい。でも、これまでそういう人たちが集まるような拠点やメディアがなかった。そこで会員制の月日会をつくろうと思いました。

本当はもうちょっとお店が認知されてからじゃないと、人が集まらないと思っていたんです。だけど、コロナの影響でオープンのときからいきなり店が開けられなくなってしまった。じゃあ、もう月日会をやるしかないなと覚悟してすぐに始めました。

結果的に、月日をはじめる前から日記屋をやることはB&Bや僕のSNSなどで伝えていたので、その情報をキャッチして興味を持った人が入ってくれました。

月日会の会員数は約80名。2022年4月現在、11期生(20名)を募集している

内沼さん メインの活動は、Slackチャンネルでのやりとりと「月日会報」と名づけたメールマガジンの投稿が基本です。会員が書いた1週間分の日記をSlackで投稿してもらい、それをまとめた月日会報を毎週会員に送っています。ようは、月日会の中でおたがいの日記を読み合ったり、感想を言い合ったりする仕組みです。

また、会員は匿名(ペンネーム)でやりとりしています。日記って自分だけが読むものから、出版されて読まれるものまで、公開範囲にグラデーションがあるんです。月日会をやってみてわかったのですが、家族になら読まれてもいいという人もいれば、家族にだけは読まれたくないという人もいる。

自分の周りの身近な人には読まれたくないんだけど、でも誰かには読まれたい。せっかく書いているから、クローズドな中であればむしろ読まれたい、という人はいるはずだと思い、それが月日会のアイデアの核になっています。

また月日会は、日記を書き続けるためのちょっとしたエンジンにもなっています。誰かには見られたいけれど、自分が誰かはわかられたくないニーズと、誰かに見られることで続けたいニーズの2つが、叶えられていると思っています。

内沼晋太郎さん

小野 いまは月日会では、11期目を募集しているところですよね。これまでを振り返って、なにか想定と違ったことってありますか?

内沼さん 意外に「読む専」の人が多いんだなと思いました。会員は全員投稿する権利があるし、それがメインにあるものの、毎週投稿しているのは80人ほどいる会員のうち4分の1くらい。

それ以外は、「月日会報」やSlackに投稿している日記にまつわるニュースや考えを読んでいる人、あとはなんとなく日記好きの集まりに参加していたい人もいると思います。

Slackではほかにも、月日会で書いてきた日記を本にしたい人に向けたチャンネルもつくっています。印刷とか製本とかデザインとか、どうしたらいいかわからないことを書き込むと、誰かがアドバイスをしてくれたり、本づくりのプロセスをみんなで応援したりもしています。

日記を書きたい人を中心とした集まりをつくったつもりだったのですが、いろんなニーズがあることに気がつきましたね。

ワークショップで日記の新たな見方を提供する

小野 月日会とはまた別にワークショップも開いてますよね。そこでは、どういうことをしているんですか?

栗本さん 「日記をつける三ヶ月」という全5回のワークショップで、BONUS TRACKのラウンジを使って物理的に集まって行っています。だいたい10人〜15人を定員として、日記にまつわる活動をしている人をファシリテーターに招いて、その方と一緒に3ヶ月間日記を書いていきます。この4月からは小説家の滝口悠生さんのワークショップが始まります。

内沼さん 「講師」と僕らが呼ばないのは、日記を書くことは教えるものではないからです。ファシリテーターの方には、日記を書くことに3ヶ月伴走してもらう感じですね。ファシリテーターによって日記への関心が異なるので、内容はその人ごとに変わります。3ヶ月日記をつけ続けることで、そのあとずっと書き続けるための助走になればという思いもあります。

小野 日記の新たな見方を提供するということですね。この日記の書き方は、自分には合ってるなとか。

小野裕之

栗本さん 僕はその人に合った公開範囲で見られ続けることが大事だと思っています。ワークショップでは、いま10人程度の小さな公開範囲でおたがいの日記を読み合っていて、月日会とは規模が違います。自分に合った公開範囲を見つけてもらえるように、いろんなバリエーションをこちらでも提供していけたらいいなと思っています。

桜木さん 私も月日会の会員なのですが、日々の出来事や感じたことを忘れるのが怖いというのが日記を書く動機になっています。月日と関わっている方たちが日記に興味を持ったきっかけはどういうものがあるのですか?

散歩社スタッフの桜木彩佳さん

栗本さん ワークショップを開いて気づいたのは、「なぜ日記を書くのか」という理由がみんな違うことです。文章をうまく書く練習をしたい人もいるし、桜木さんのように忘れたくない気持ちを持っている人ももちろんいる。作業日誌として書いている人や、数字で記録したいという人もいますね。

内沼さん 映画日記、読書日記といった、特定の趣味に入りこんでいるときの感動や思ったこと全部を書いておきたい人もいますよね。日記のいいところは、そうやってフォーマットが自由な点もあると思います。書き方も自由だし、書いてる中で変化していってもいい。

僕の場合は日記の中にいろんなことを詰め込んでいます。1週間単位でNotionを使って書いているのですが、ミーティングの議事録のリンクや、観たYouTubeのリンクを張ることもありますね。それは紙の日記でいうと、観た映画の半券を貼る感覚に近いものだと思います。

「日記を読む」という、もうひとつの楽しみ

桜木さん 私は月日会のメンバーのZINEを買ったのですが、会ったことがない人の日記なのに、すごく楽しく読めてびっくりしたんです。友達のブログやSNSは読んだりチェックしたりしていたけれど、初めて知らない人の日記を読むことができました。そういう読む側の楽しみについてはどう考えていますか?

桜木さんが知らない人の日記でも楽しく読めると初めて感じた一冊『晴れたら庭の木を切って-2021/04/01-2021/0930の記録』

栗本さん 同じ物事を見たり、体験したりしたとしても、自分とほかの人が感じたことの違いは絶対あります。それを知る機会にまずなると思います。日記は日ごとに分かれているから、比較もしやすい。たとえば、その日は雨で自分はすごく嫌だと思っていても、別の人は雨でも楽しいと感じていたり。あとは、日記だとその人が本当に思っていたことがわかりやすいですよね。

内沼さん 本当にそうですよね。同じニュースが全国的に話題になったときにも、SNSに出てくるものの多くは、あくまで見られようとしている人の言葉であり、声が大きい人、強い意見の人の投稿ばかりが流れてくることが多い。

だけど、日記の中に書かれていることは、誰かに向けて発表したい意見ではなくて、あくまで自分の今日の出来事として書いているから、テンションがフラットだと感じます。深刻なニュースが続いたとしても、個人が毎回重く受け止められるとは限らないし、そうあるべきだとも言い切れないですしね。この世界に生きている個人のリアルが言葉になっている場所は、やはり日記の中だなと感じます。

ほかの業態も参考になる「内沼マジック」

小野 現時点で、日記というカルチャーがもともと好きな人同士の接点や、楽しみ方を増やす視点を重視しているのか、もう少し裾野を広げようとしているのか。そのあたりはどう考えていますか?

内沼さん もちろん、両方関心があって運営しています。でもいまは日記好きな人がどうしても対象になってしまいますね。

その一方で、実は単にInstagramに写真を上げる目的の方々も、よく来るんですよ。外壁のロゴや内装、カフェラテなどを撮影していく。そのために訪れる人の流れが、ありがたいことに結構長くずっと続いています。そういう意味でも裾野が広がっているので、その人たちが日記に出会うきっかけを、少しずつ提供していけたらと思っています。

インスタグラマーが写真を撮っていくという月日の壁面にあるロゴ

小野 内沼マジックですよね。コーヒースタンドという業態で敷居を下げながら、日記屋としての奥行きみたいなものも見せていく。日記についてもともと興味関心がある人と、そうではない人、両方に対して月日は迎え入れることができる。そのほうが商売としてうまくいくんだろうなと思います。

いま人気があり、注目もされやすいコーヒースタンドにかける手間や労力を、単純に収入源としてはそこまでのインパクトはない月日会やワークショップに使い続けているハードルの下げ方と奥行きのつくり方は、ほかの業態でも参考になる部分があるんだろうなと思います。

内沼さん 日記だからうまく機能したというのはあると思います。日記は、たしかに本としてはマニアックなジャンルだし、日記屋という業態は世の中にこれまで存在しなかったものですが、日記というもの自体については、ほとんどの人が知っている。そこが大きいと感じています。

あとこれは、BONUS TRACKのいいところでもあるのですが、小さい店だからというのも大きいですね。5坪だからやりきれる。これが30坪なら、尖ったこともやりきれないし、コンセプトを最初から隅々まで行き渡らせることも難しかったと思います。5坪だから、内容にしてもデザインにしても、提供するものにしても、店主の構想の範囲でバキッとできちゃう。もちろん、店はそこで働く人によってどんどん変わっていきますが、それも見える範囲で起こっていきます。

小野 あくまで仮説ですが、東京の別の場所、日本の別の都市でも月日は成立すると思いますか?

内沼さん その可能性はあると僕は思います。正直に言うと、もうひとつ自分がやっている本屋B&Bは、横展開するのは難しい業態で。イベントに出演してくださる著者も、東京でないと毎日は呼びにくい。でも月日にはそういうハードルはないので、うまくいったら2店舗目、3店舗目もつくれる業態にしたいというのは、当初から思っていました。

東京にはいくつもいらないかもしれないですけどね。関西にもう一軒、九州にもう一軒とか。でもコーヒースタンドとしての需要があれば、意外に思えるような場所でもありかもしれない。どこかの村につくって、なぜかその村でだけものすごく日記が流行っているとか、日記で村おこしをするとか、そういうことになったらおもしろいですね。

新たな才能を生み出す場所になれる予感がしている

桜木さん いまが日記に日が当たっている黎明期だとしたら、もう一段階フェーズが上がったときにどんな世の中になると思いますか?

内沼さん 日記を書くことで、ちょっと生きてて楽しいかもという気持ちになる人が単純に増えると思っているので、少し大げさかもしれませんが、みんながもうちょっと幸せになるんじゃないかと思っています。

あと、もうひとつ起こるとおもしろいなと思っているのが、ここから有名になる書き手が出てくること。月日で最初10部売るところからスタートした人が、いずれは大手出版社からも本を出すような、たくさんの人に読まれる書き手になっていく。期待の気持ちもあるけれど、ここ5年、10年の間には起こりそうな気は、すでになんとなくしています。そういう新たな才能があつまる場所になるといいですね。

大事なのは、一過性のもので終わらせないこと。4月10日には日記祭という月日が主催する日記をたのしむイベントをBONUS TRACKで行います。個人の方の日記を広場で販売したり、ワークショップのファシリテーターの方を呼んでトークイベントをやったりする予定です。そうしたイベントも開きながら、日記の魅力を広めるためにできることをじっくりやっていきたいですね。

(インタビューここまで)

「日記屋 月日」の裏側にある、幾重にも重なった深い考察を知ることができた今回のインタビュー。「内沼マジック」でもっとも重要なのは、世の中に対する観察力と、しなやかな発想から生まれる強固なロジックなのかもしれないなと思いました。

そして、それは決して難しいことではなく、必要なところに足を運び、広く情報を集め、とことん考え抜くというシンプルなことを実直にしていった先で叶うんだろうなとも。

この記事を読んで、改めて日記のことが気になった方も多いのではないでしょうか。
ぜひ、4月10日に開かれる日記祭に足を運んでみてください。

さてさて、私もこれから今日の日記を書こうと思います。

(撮影:奈良岳)
(編集:池田美砂子)

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– INFORMATION –

4月10日(日)BONUS TRACKにて「日記祭」開催!

いま日記をつけていない方には「今日から日記をつけよう」と思っていただけるような一日に、元々日記をつけている方には日記の魅力をより感じていただけるような機会に。

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