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ここは日本のブータン!? 地域とつながり、お金に頼らない暮らしをつくる福祉施設「さんわーくかぐや」に見る、生きることの本質と個性とともにある未来

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

神奈川県藤沢市、JR藤沢駅から小田急線2駅の善行駅。そこから徒歩7分ほど、住宅街を通りぬけると、趣きのある小さな平屋にたどり着きます。

ここは、これからご紹介する「NPO法人さんわーく かぐや」の入り口。傾斜のある土地の高台に建てられた平屋、その裏手には突如竹林が広がり、さらに奥にはパーマカルチャーのデザインを取り入れたビオトープやにわとり小屋、畑などが広がります。

一見、住宅街の一角とは思えないほどの自然あふれるフィールドですが、ここは福祉施設。障がいのある人たちの活動の場です。太陽のもと、屋外でのびのびとした活動(さんわーく)から、個性をゆるやかに社会へとつなげることをミッションに活動する「さんわーく かぐや」。特筆すべきはその毎日の活動です。

米、味噌、塩などを自給したり、染色や陶芸などの技術を学び、アート作品を地域のマルシェに出店して自分で販売したり。障がいがある・ないは関係なく、「生きる力」を養い、だれもが幸せだと感じる毎日を送り、持続させる。そんな活動が日々、営まれています。

今回は徹底的に地域とつながりながら、個性をそのまま生かし、「幸福度」のある暮らしとはなにかを問い続ける、「さんわーく かぐや」副理事長兼事務局長・藤田靖正さんのインタビューをお届けします。藤田さんのお話から、ぜひ本当の幸せとは、豊かな暮らしとは何かを感じてみてください。
 
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藤田靖正(ふじた・やすまさ)
木彫家。NPO法人さんわーく かぐや副理事兼事務局長。 幼少より木彫を始め仏師へ弟子入り。28歳でさんわーく かぐやを立ち上げる。一方で、地元活性のアートイベント「まちあそ美」を開催。新潟「絵本と木の実の美術館」での、田んぼとビオトープをつなげた“鉢トープ“のプロジェクトや、岩手県飛ヶ森「音楽水車プロジェクト」、ルンタを使った「横浜復興支援祭り」でのアートワークなど協力多数。アートを通じて障害を持つ人との新しい社会づくりを行っている。

そこにあるものを生かし暮らす

まずは「さんわーく かぐや」(以下、「かぐや」)について少し詳しくお伝えしましょう。

NPO法人として立ち上げたのは、2008年4月のこと。理事長であり、藤田さんのお母様でもある藤田慶子さんの土地に、セルフビルドした作業所を構え、「かぐや」の活動の場としました。
 
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もともと自生していた竹はそのまま名前の由来である「かぐや姫」を連想するようなかぐやの裏庭。

食事をしたり、休憩したりする平屋に加え、作業場や畑など、その広さはなんと2000坪!(一部借地あり)春には筍が採れたり、山肌から出る土は陶芸に、薪ストーブの灰は釉薬になったりと、そこにあるものを採取し利用する活動が「かぐや」のライフワーク。創立から8年経った今もなお、発展しながら行われています。
 
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作業所の脇に今も掘っている味噌などの貯蔵庫という名の洞窟。ここからでた土は、陶芸や様々な場づくりのために利用しています。

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セルフビルドしたという作業場。水は井戸水を引き入れ、床は土間、自然光をめいっぱい取り入れるなど半オフグリッドな仕様になっています。

「かぐや」の活動コンセプトは至ってシンプル。通ってくる通所者を“メンバー”とし、通所者もスタッフもみな、この場所で過ごす時間を「暮らし」と捉える。ルールをつくらず、やりたいことをやり、その暮らし自体を楽しむことをモットーとしています。

活動の軸になっているのは農作業とアート。その二つはイコールで結ばれ活動の境界が無いのだとか。敷地内の畑の世話はもちろん、繁忙期には近隣農家さんのサポートに赴いたり、地域の飲食店の依頼でお皿を焼いたり。自分たちの活動に加え、地域のニーズや天候に柔軟に対応しながら、スタッフ、メンバー全員で活動しているそう。
 
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「かぐや」の活動の軸でもある農作業。毎年、メンバー全員での米づくりは欠かせません。

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敷地にある薪小屋。地域で不要になった材木だとか。大工さんや造園屋さんから提供してもらった丸太を斧で薪割りする仕事は一番人気だとか。暖をとる以外に、塩炊きなどの熱エネルギーも自給しています。

また、個性を生かした商品づくりも「かぐや」の大切な活動のひとつ。
 
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個性あふれる商品は、地域のマルシェなどで販売。売り先から梱包デザインまで、スタッフみんなでサポートします。

“商品をつくる”というと、運営資金のための「生産」と捉えがちですが、「かぐや」ではいわゆる「工賃」は存在しません。ものづくりを作家であるメンバーのアート活動と位置づけ、つくった本人が積極的に地域に飛び出し、自分で売り、売り上げすべてを手にするという仕組みで活動しています。
 
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月に数回は外部の講師による臨床美術などを実施。目の前にあるものをそのまま描きとるボタニカルアートでも、個性は様々です。

“個性をゆるやかに社会につなげる場”とするも、毎日の活動は、その日、メンバーひとりひとりがやりたいことに合わせる。そこには、「なにもしない」という選択肢もありです。

現在、8名のスタッフに対し、10名の個性豊かなメンバーが集う「かぐや」。社会で生きづらさを感じる中、「かぐや」で体を動かすことが心地よいと感じたボランティアの人たちとも手を取り合いながら、ひとりひとり個別性を重視した活動・支援を実現しています。

お金を稼ぐために生きることは、豊かな暮らしではない

今年で8年目を迎えた「かぐや」ですが、現在、定員は満員。その場づくりや活動への注目度は高く、遠方からの視察も多く訪れるほどです。

また、物づくりを素材からつくり出すことへの挑戦や、商品の売り上げの考え方など、これまでの福祉施設とはまったく違うアプローチで活動する「かぐや」。そこにはどんな背景があるのでしょうか?
 
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さんわーく かぐや副理事兼事務局長の藤田さん

かぐやがお金を稼ぐことに重きを置かないのは、僕がお金が好きじゃないところからスタートしてるんですけど(笑)

この場所は、もともとは祖父母のもので、のちに母が継いだ土地です。僕は10代のころから木彫作家を目指していて、20代は画廊や百貨店などに木彫の作品を制作納品することで生計を立てていました。当時ここには僕のアトリエがあったんです。

藤田さんの木彫は数百万円で取引されるようなアート作品。納期を前に徹夜で作業する日々も当たり前だったといいます。

そこでふと湧き出た疑問、それは”お金を稼ぐこと”と”生きること”の矛盾でした。

どれだけ想いを込めて作品をつくっても、手元に残るのはお金という紙。そして、また木を削るという日々。命を消耗してお金を手に入れていることに、ことごとく虚しさを感じました。お金は道具であって、お金のために命を削るのは違うんじゃないかと気づいたんです。

お金を稼ぐために生きることは、本当の幸せや、豊かな暮らしではない。自分の人生をお金に換算せず、作業自体が生きている価値につながる暮らし方とは? さらにはアートの力とは、お金を稼ぐことだけではないはず。アートを通じて、自分だけではなく、生きづらさを感じている人にとって、力になれないだろうか。

そんな想いを抱いていたころ、偶然、アトリエに尋ねてきた人との出会いから、「かぐや」の構想が動き始めたと言います。

隣のマンションに住むおじさんで、障がいを持った方が働く会社を運営されていた方でした。

できるだけ資本に頼らない、ありのままの個性がそのまま生きる場所をつくりたいという話をしたところ、「アトリエを開放してここにつくろう」と意気投合し、「かぐや」のストーリーが始まったんです。

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自分のアートを、「お金」ではなく、「その人の個性を表現する」ために活かす場として。また、社会で生きづらさを感じていた妹さんの存在もあり、「さんわーく かぐや」は立ち上がりました。

受け入れ、受け止める関係から見えてくる「幸福度」

こうして誕生した「さんわーく かぐや」。地域の農家さんで作業したり、マルシェでアート作品を対面で販売したりと、意欲的に活動の幅を広げています。「個性をそのまま生かし、ゆるやかに社会につながること」を目的とし活動する、支援する。そこにはどんな意味があるのでしょうか。
 
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藤沢のオーガニックショップ「ecomo」で開催されている「エコモノ市」に、1日店長として出店するメンバーの原さん。売り上げは1万円を超えるほどの人気です。

今、生きづらい人が多いですよね。それは、大きな意味で“組織に当てはめ個性を平たくしようとする社会”だからかなと思います。

でも、人の数だけ個性はありますよね。社会に馴染めなかったちょっと強めの個性を受けとめ、ゆるやかに社会につなぐことが「かぐや」のミッションなのですが、そこに資本主義が絡むのはちょっと違うと思うんです。

その理由について、藤田さんはこう語ります。

日本はこんなに食べ物も暮らしも豊かだと言われているのに自殺率が高い。お金を稼ぐことが生きる大きな目的になってしまう従来の社会構造の中で生きづらさを感じて、心の病を患ったり、死んでしまったり。なんだか違う。その元凶に、行きすぎてしまった商業主義的な社会があると思うんです。

だからできるだけ生産効率から離れ、個人の暮らし自体の幸福な時間をつくりながら、“心”と“生きるための力”を持続可能にすることが大事だと思うんです。

経済成長から離れ、幸福度の高い時間をつくること。それは徹底的に地域とつながり、受け止めてもらうことで実現すると、藤田さんは続けます。

障がいがあるとかないとかではなく、“自分が自分のままである”ことが、本来の楽な生き方ですよね。

そのために、まずは人を知ることです。そしてお互いを認めあえば、自ずと自分のままでいい暮らし、本当の幸福感のある暮らしは実現するんです。

例えば福祉施設の現場は、統合失調症とか自閉症とか、わかりやすく人を説明するために医療的な用語を用いて立場を分けるけど、実際彼らと会うと自分となんら変わりないことに気づく。それは多様性であって、例えば、外国の人や海外の文化を理解することと一緒です。知ることが大事だから、地域に開いた活動ほど意味があるんです。

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毎年恒例の餅つきにはご近所の方から、さんわーく かぐやに縁を持つ多くの人で賑わいます。

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地域のアートフェスティバルにスタッフとしてメンバーも参加。思い思いに地域に飛び込んでいます。

地域の中にはいろんな人がいて、ひとりひとりに説明書なんてつけませんよね。その人を理解していればいい。「福祉施設」「障がい」という言葉を使った時点で壁ができているのが現状です。

福祉を行う側が福祉の世界をつくりすぎていたら、地域に彼らは入っていきづらい。たとえば福祉施設では利用者の方を「◯◯ちゃん」と呼ぶことを禁止していたりもしますが、それをルールにすること自体が不自然だと感じます。

「かぐや」では、メンバーもスタッフもみんなそれぞれの関係性の中で呼び合っていて、そうすると、地域の人が入ってきても違和感を感じないんですよね。“地域の言葉”で話すことが結果的に、地域に壁をつくらないことにつながっていると思います。だから、かぐやはみんなと一緒に楽しいことをする、ただそれだけなんです。

「かぐや」では、地元の商店街の協力のもと、メンバーが職業体験できる活動にも力を入れています。パン屋さんをはじめ、美容院や飲食店など、これまで6店舗が参加。地域の中でメンバー自身がたくさんの経験値を積むことが、専門学校へ行く、職人になるなど、「かぐや」卒業後のチャレンジにつながっています。

一方、こうして地域の人々が「かぐや」という場所を知ることで、地域全体に個性を受け止める雰囲気が生まれつつあるのだとか。制度やお金での結びつきに頼るのではなく、ただ「みんなと一緒に楽しいことをする」ことで生まれるこのあたたかな雰囲気は、これからも広がっていくことでしょう。

それでも生きていくために、最低限のお金は必要です。障がいのある彼らの中には、障害年金という基礎収入がある方もいます。だからひょっとしたら、労働から自由に生きることを最初にできるのは彼らかもしれない。

生きる本質に近い、そんな彼らとの活動の中に「未来」をつくっていけるのではないでしょうか。

お金から自由になって、自分が自分のままで生きるために。個性ととも暮らす「かぐや」の挑戦は、これからも続いていきます。
 
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様々なアーティストや出店者、近隣住民など、400名以上が来場する「かぐやまつり」(毎年10月開催)。出演者へのギャランティは、かぐやのメンバーがつくった、米、味噌、梅干しなど唯一無二なもの。金銭を介さないお祭りが実現しています。(撮影: Hifumi Film Project)

個性とともにあることが未来

そこにあるものを生かし、つくり暮らす。徹底的に地域とつながり、ご縁の中で暮らすことで、お金のつながりに頼り過ぎない暮らしを実現する「さんわーく かぐや」。それは、小さなコミュニティが支えあいの中で成り立っていた、かつての村の姿と似ているのかもしれません。
 
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休憩所の柱に貼られた身長の記録。彼らがまさに“家族”であり、ここが“暮らしの場”であることを象徴する光景です。

命を削り、お金を稼ぐことへの違和感をはじめ、たくさんの”受け止める”と”受け入れる”が存在し、“共に生きる”を実践するこの場所には、幸福感があふれていました。

「善行のブータン」なんて自称していますが(笑)、自分で畑を耕して収穫して食べる、自分で作品をつくって自分でマルシェで売る。自分たちのつくったお皿で自分たちのつくったお米を笑いながら食べる。こういうことが、本当に豊かなんじゃないかって思います。

手間暇かけた暮らしを個性豊かな彼らと一緒に楽しみながら日々つくっていける、それは、未来だと思います。僕はこれからも共に暮らし寄り添うだけです。

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いつでも笑い声が絶えない、「さんわーく かぐや」

自分にとって、本当に豊かな暮らしとはなにか、自分の個性をそのままに生きることとは。ちょっと気になったあなたに、昨年の「かぐやまつり」の動画を贈ります。

いつでも扉は開けている、それが「さんわーく かぐや」です。あなたも、その扉を覗いてみませんか。
 

(動画提供: Hifumi Film Project)