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札幌にポジティブな自転車文化を根付かせたい! 2週間で限定100台が完売となった、街にピッタリのご当地自転車「SAPPORO BIKE PROJECT」

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みなさんは会社や学校に行くとき、あるいは街に買い物に行くとき、どんな交通手段を使っていますか?

最近では、満員電車のわずらわしさや健康指向から、自転車が気になっている方も多いのではないでしょうか。この記事を書いている私も、そんな自転車愛好家の一人です。

でも、ママチャリではかっこよくないし、かといってクロスバイクやロードバイクは値段が…と、意外と難しいのが自転車選び。せっかくなら、快適でおしゃれに自転車ライフを楽しみたいですよね。

今回ご紹介するのは、かっこよくて、しかもお手頃な“ご当地自転車”を開発・販売している「SAPPORO BIKE PROJECT(サッポロバイクプロジェクト)」。

代表の太田明子さんに、限定100台が2週間で完売するほど話題となったプロジェクトの成功の秘訣、そして自転車のある暮らしの魅力を聞きました。
 
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太田明子(おおた・あきこ)
大阪市生まれ。1983年伊藤萬株式会社へ入社し、経理部へ配属。結婚を機に1993年に北海道に移住。1994年NPO法人私設北海道開拓使の会移住支援事務局長、2000年札幌BizCafe起業支援事務局長担当。2002年太田明子ビジネス工房を設立し独立。現在、SAPPORO BIKE PROJECT代表、札幌女性起業家コミュニティEzona代表を務める。

「SAPPORO BIKE PROJECT」って?

「SAPPORO BIKE PROJECT」は、代表の太田さんをはじめ、札幌の自転車愛好家が集まってスタートした“ご当地自転車”開発プロジェクトです。

市内でベロタクシーを走らせるNPOの代表、北海道サイクリングツアー協会の理事、大学教授、環境団体のスタッフ、弁護士、税理士など多様な分野で活躍する専門家からなるチームで、自転車の企画・開発からサイクリングツアーなどのイベント開催まで、様々な活動を展開しています。

ご当地自転車「サッポロバイク」のコンセプトは「スーツに似合う自転車」。札幌のフィールドとライフスタイルから発想し、札幌の暮らしを楽しむ人たちのための自転車として開発されました。
 
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限定100台で開発されたサッポロバイク(ブルー、39,800円)

平坦で碁盤の目に区切られている札幌の街で走りやすいように、Stop&Goがしやすく、人の多い街中で小回りが効く20インチの小径車。北海道・札幌で走るためにつくられた自転車らしく、ロゴデザインにはアイヌ模様が使われています。
 
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サッポロバイクのロゴデザインとキャッチコピー

「札幌の街に似合うカッコいいバイクをつくりたい」という、太田さんの想いからスタートした本プロジェクト。2014年9月13日から限定100台で生産販売をスタートしたところ、たった2週間で完売となりました。

開発当初、多くの専門家からは「うまくいかない」と言われ、何度も諦めそうになりながらもヒット商品となったサッポロバイクの開発ストーリーを聞きました。

闘病生活の中、唯一の希望が自転車だった

太田さんと自転車の出会いは、約10年前。当時、仕事のストレスから体重が増加してしまった太田さんは、厳しいカロリー制限を課した食生活をつづけていました。

しかし楽しめないダイエット方法では長続きせず、なかなか結果が出ませんでした。そんな時、ふと思いついたのが自転車だったそうです。

よく「自転車に乗って痩せた」とか、「いい運動になる」って言うじゃないですか。それで、「よし乗ってみよう!」と思ったのがきっかけです。楽しくて色んなところへ出かけているうちに、6ヶ月で10kgも体重が落ちました。

大阪弁で軽やかに語る太田さん。自転車で道内を駆け巡り、とても健康的な印象を受けますが、実は自転車でのダイエットに成功した後も、何度も入院を経験しているそうです。

臼蓋形成不全股関節症で、2年の間に3回、全身麻酔が必要な大手術をして、車いすで療養が必要な時期がありました。

とくに入院が本当につらかった。もちろん病院にもよると思いますが、私が入院しているときは、人間の尊厳を殺してしまうところだと思いました。看護師さんには“弱いもの扱い”をされるし、ご老人が多く療養する病院での生活は、まるで老人ホームに来たように感じて。

車いすで自由に動けない情けなさもあり、仕事のお話を頂いてもお断りするしかなく、「もうダメだ、人生終わってしまう」と思いました。

そんな太田さんを救ってくれたのが、自転車の存在でした。

2度目の自宅療養のとき、松葉杖で生活をしながらも、主治医に「絶対自転車に乗りたい」と主張。予想外にも、「負荷がかかりにくいから乗っても良い」と言われたことで、太田さんは元気を取り戻します。

部屋の中を移動するにも一苦労な身体でしたが、ロードバイクのシートポスト(サドルを取り付ける支柱)に折りたたみの杖をつけて乗っていました。

風を浴びることで鬱病にならず、ストレス発散にもなりました。体力もついて、主治医も驚くほどの回復を見せました。

病院ですごく惨めな思いをしている私でも、自転車に乗って街を走れば、道行く人から「かっこいい」「がんばれ」と声をかけられるんです。すごく元気をもらいましたね。

「自転車に乗ったら元気になれる」。「楽しく健康になれる人を増やしたい」。太田さんは、ますます自転車の魅力に惹き込まれていきました。

自転車が大好きな自分が欲しい自転車をつくった

もともとシンクタンクでマーケティングやコンサルティング、起業支援の仕事をしていた太田さん。自転車生活をする中で、ブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)に気づきます。

自転車と言えば、1万円以下のママチャリか、もしくは10万円以上するマウンテンバイクやロードバイクに2分化されています。

ロードバイクのように走りやすくて、かっこ良い、でも値段はお手頃。そんな自転車があったら喜ぶ人はいるんじゃないか、もっと自転車を気軽な乗り物にしたい、と思っていました。

プロジェクトを相談した専門家の人には「売れない」と言われたけど、ホームセンターの自転車売り場で、ロードバイクをうらめしそうに見ているお父さん世代の様子を見ていましたし、根拠はないけれど直感で売れると信じていました。

2013年11月には、北海道大学大学院工学研究院の研究室やスローロード研究会(事務局:一般社団法人北海道開発技術センター)、札幌のサイクルシェアサービス「ポロクル」を運営するNPO法人ezorockとともに、札幌の自転車好きを集めたイベント「Urban Ride Meeting」を開催。

その中で開発する自転車のコンセプト、ターゲット、色、ギア、価格を調査し、札幌に合う自転車のイメージを固めていきました。

さらに、太田さんがお世話になってきたビジネスの先輩方のアドバイスを受け、一緒にイベントを開催した仲間の協力を得ながら試行錯誤を重ねた末、ついに「サッポロバイク」が完成しました。
 
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札幌の街を軽快に走る自転車に仕上がりました

札幌の人がサッポロバイクに乗って、新しい目で街を見てほしいと思ってつくりました。

とにかくかっこいいと思えるものをつくりたいと、ハンドルはブルホーンバー。バーに腰をかけて座るとかっこよく見えるので、ホリゾンタルという地面に水平なものを採用しました。

さらに素材は、できるかぎり北海道産にこだわったといいます。

最初は100%北海道産の素材で、道内で組み立てまでしようと考えましたが、「1台100万円かかる」と言われました。

現在、世界中の自転車生産の多くは中国・台湾で行われているんですよね。

個人輸入も考えましたが、「GIS規格を通したい」、「自転車整備士がきちんと組み立てたものを売りたいと」考えたら、検査だけでけっこうなお金がかかってしまい、“お手頃な価格”というコンセプトとはズレてしまう。

そこで100%北海道産にこだわるのは辞めて、最終的な組み立てを北海道の石狩で行いました。クオリティにもこだわり、パーツを変えたら、一生乗っていただける自転車ができました。

当初予定していた春からは遅れましたが、2014年9月13日から3日間、東急ハンズ札幌店で初の頒布会をスタート。サッポロバイクのお披露目となりました。
 
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東急ハンズ札幌店に並ぶサッポロバイク

販売した時は増税もあり個人消費が減り、市内の百貨店の売上も下がっている時期でした。

嗜好商品で新商品、3万円以上、ワンサイズ、ワンスタイル、小径車の自転車ということもあり、開発当初、「完売に2~3年かかる」と言われていました。

でも、2週間で完売しました。自転車の市場拡大はさまざまなデータで証明されています。今回のプロジェクトで、「かっこいいものは売れる」ということを証明したと思っています。

太田さんによると、購入者の多くは自転車好きな男性。学生からスーツを着たサラリーマンまで、幅広い世代や札幌の実業団チームが買い求めてくれたのだそうです。

お客様が目の前で笑顔になってくれる喜び

「売れる」という自分の直感を信じて行動し、予想以上の反響を残してカタチになった太田さんの夢。今、どんな想いを抱いているのでしょうか。

私の実家は眼鏡屋さんを営んでいて、小さい頃から「お客様がうちの眼鏡を買ってくれるから生活できる」という実業の考えが染み付いています。

ご縁があってはじめたシンクタンクの仕事ですが、見えないものを売り買いするものなので空虚感もありました。

幼い頃から両親の働く姿を見ていたこともあり、本当は体を動かして汗水流して、お客様に商品を渡してその対価としてお金をもらうということをいつかならなきゃ、と思っていました。それが今だったのかな。

かねてからの思いに加え、太田さんの原動力となったのは、支えてくれた周囲の方々の言葉、そしてお客さんの笑顔でした。

シンクタンク時代からお世話になっているメンターの方から、「お客様に商品を渡す時の喜んでいる笑顔は社長しか味わえないから、味わっておいで」と言われたり。

もう無理だと思った時に東急ハンズの担当者から「太田さんの後ろには自転車を楽しみに待っている100人のお客様が待ってるから、がんばりましょう」と言われたりして。その時に、本当にがんばれたんです。

実業をされている方達、全ての会社の社長さんを尊敬したし、たとえ儲からなくても辞められない理由はここにあるんだな、と思いました。今でもお客様の笑顔を思い出すと救われます。

「本気だったら応援してくれる人はいる」と語る太田さん。このチャレンジは、太田さんの人生にとって大きな価値を生み出すものとなりました。

サッポロバイクプロジェクトをやらなかったら私は負けたままだったんです。自信がないまま情けない婆ちゃんになるのはいやだった。

自信をつけてかっこよく歳をとるきっかけが欲しかったので、夢を叶えなきゃと思っていました。

自転車市場に新しいマーケットがあるということを証明できたのはマーケターとして、快感もありましたね。開発中は、円形脱毛症になるほど頑張りすぎちゃったけど、夢が叶いました!

自転車のポジティブな文化を根付かせたい

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サッポロバイクのオーナーが集まる、サイクリングツアーも開催中

こうして華々しいスタートを遂げたサッポロバイクプロジェクト。

今後は、第2弾となる「サッポロバイク2」の販売や、札幌の街に笑顔を増やすプロジェクト「SAPPORO SMILE」と連携したリフレクターなどのグッズ販売を予定しているとのこと。

そして、一番力を入れていきたいことは自転車を使ったビジネスの展開だと太田さんは言います。

スマートフォン向けアプリの開発、メッセンジャー、観光振興。とくにアジア人向けに、スマホアプリで札幌の街を調べながら自転車を楽しめるサービスをリリースしていきたいです。

いつか、道内最大級のファッションイベント「サッポロコレクション」でモデルさんに自転車に乗りながらランウェイを歩いてくれたらいいなと思っています

さらにこのプロジェクトには、自転車に乗る人の運転マナーやモビリティ、放置自転車について普及・啓発していく役割を期待されることが多いのだとか。

しかし太田さんは、マナーよりもヨーロッパ各国のような自転車文化を札幌に根付かせることを目指しているそうです。

ヨーロッパでは、自転車を地下鉄に乗せて移動できたり、スタンドが各地にあったりと単なる移動手段としてのみではなく、文化して市民に受け入れられています。自転車には、さまざまな可能性があると感じてワクワクしますよね。

「運動しなさい」、「信号無視はダメ」と上から目線で言うのではなく、「楽しく乗っていたら健康になった」とか、「きちんとマナーを守るライダーはかっこいいよね」というポジティブな姿勢から街も人も変わっていってほしいと思います。“New Life from New Bike”。自転車に乗れば人生変わります。

お墓に「自転車が好きな人だった」と書かれる、そんな人生を送りたい

自転車のこととなると話が止まらなくなる太田さん。自転車のある人生を存分に楽しんでいる様子です。

札幌から1時間も自転車をこげば、田園風景が広がり、美味しいラーメン屋さんや、新鮮な野菜の直売所があります。

私の場合、自転車を乗ることが目的ではなく、美味しいものを食べることの方がメイン。気の合う仲間と自転車に乗って愉快に暮らしていきたいです。

ドラッカーではないですが「お墓になんて書かれたいですか?」という問いには、本気で「あの人は自転車が好きな人だった」と書かれたいと思っています。

雪が溶け暖かくなる4月から10月まで、春を心待ちにしていた自転車好きが姿を見せる北海道。全国から自転車で旅に来ているライダーとの出会いも、楽しみの一つなのだとか。
 
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太田さんがオススメする目的地は「小樽」!

近年、コミュニティサイクルの運営に取り組む自治体も増え、役割が見直されつつある自転車。単なる移動手段としてだけではなく、地元の商店街の活性化や観光客誘致の役割も期待されはじめています。

あなたの街に合うのはどんな自転車? 地域に根ざした“ご当地自転車”を想像してみるだけでも、ワクワク楽しめそうですね。

自分が暮らす街は、「街が大好き」という気持ちと、ちょっとしたアイデアで変わる。次に、“ご当地○○”が生まれるのはあなたの街かもしれません。

(Text: 北川由依)