\新着求人/人事や組織づくりの経験を、地域でいかす@福岡県赤村

greenz people ロゴ

”物語”を共有しないと、人々の意識は変えられないんだ! 地球温暖化を訴え、極点からパリまで徒歩と自転車で旅をするプロジェクト「POLE TO PARIS」

pic1

みなさんは“旅”と聞いてどんなことを思い浮かべますか?

観光地巡り、食、趣味。旅の目的やテーマは人によって異なるものですが、今回は”温暖化にまつわる、人間の物語を探す旅”、そんな壮大なテーマのもと、過酷な旅に挑んだふたりの科学者の物語をご紹介します。

POLE TO PARIS」(極点からパリへ)と名付けられたこの旅は、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国条約会議)に先駆けて行われたデモンストレーションの一つ。

ふたりの学者が北極と南極という真反対の地点から、最大限二酸化炭素を排出しない手段を使いCOP21開催地のパリを目指しました。旅を通して、人々の温暖化に対する意識を向上したい、それがこの旅行の目的でした。
 
pic2
南極にたてられたPOLE TO PARISの旗

この過酷な旅に挑んだのは、ノルウェー人のErland Møster Knudsenさん(以下、アーランドさん)とイギリス人のDaniel Priceさん(以下、ダンさん)。ふたりはそれぞれ、温暖化がどこよりも早く進んでいるといわれている北極、南極圏の気候とその海氷に関する研究をしている科学者です。

学者であるふたりが、このような大掛かりな旅に挑んだ背景には、こんなストーリーがありました。

博士号取得のため、膨大な時間を費やして論文を書いてきたふたり。しかし、それに果たして意味があるのかわからなくなってしまったといいます。

自分の両親でさえCOP21すら分かっていないし、親友たちだって理解しようともしてくれない。研究者にしか読まれないような論文を、ただ座って書いているだけじゃ何にもならないって気づいてしまったんです。

と語るダンさん。

実際、温暖化は現実に起きているにもかかわらず、世界40カ国において温暖化を深刻な問題としてとらえているのはわずか54%、45,000人という統計結果も。(出典元

科学が人の意識を変えられないなら、何が人を変えるのだろう。たどり着いた答えは、”人々の心を揺さぶる物語”を自分たちの手でつくりだすこと。そこで、過酷な旅に出ることを決意したのです。
 
pic3
POLE TO PARISの旗を掲げるアーランドさん(左)とダンさん(右)

インターネットやSNSでは手に入らない、心の琴線に触れる物語を求めて

2015年4月、ふたりは11月末に開催されるCOP21での再会を誓い、旅のスタートを切ります。アーランドさんは「Northern route」(北ルート)としてノルウェー北部にあるトロムソから徒歩でパリを目指し、ダンさんは「Southern Route」(南ルート)としてニュージーランドから自転車でパリを目指しました。

トロムソからパリまではおよそ3,000km、ニュージーランドからはおよそ12,000kmと、総移動距離約15,000kmにわたる道のりを約7ヶ月で駆け抜けます。
 
pic4
出発当時のアーランドさん

pic5
ジャカルタにて現地の人々とともにサイクリングをするダンさん。

実際旅に出かけると、ふたりには様々な困難が待ち受けてました。特に徒歩で旅をしていたアーランドさんは、旅の途中で治療が必要になるほど足を痛めてしまいます。

もうこれ以上は絶対に歩けない、無理だと思った。孤独だったし、精神的にも肉体的にもギリギリのところまで追い詰められたよ。

と当時を振り返ります。
 
pic6
道なき道を行くアーランドさんの姿

そんなアーランドさんにとって、この旅で最も印象的だったのは、北欧に暮らす少数民族、サーミ族との出会いだったそう。

サーミ族の中にはトナカイの放牧を生業としている人々がいますが、温暖化によって雨が降らないはずの冬に雨が降るようになり、雨水が凍ってできる氷の層によってトナカイたちが餌を食べられなくなっているという深刻な被害が出ているのです。
 
pic7
少数ながら今でもトナカイの放牧を生業にしているサーミの人々

pic8
この分厚い氷の下にトナカイの餌となる植物がある

彼らは生活を守るため、高額な餌を自費で賄わざるを得ず、経済的に苦しんでいます。

サーミ族のように自然と隣り合わせで生きる人々は、都会に住んで食料はスーパーで買う生活をしているような僕とはまったく違う暮らしをしている。サーミ族には伝えるべき物語があります。

とアーランドさんは語ります。

一方、ニュージーランドからマレーシア、バングラデシュ、ロシアを旅したダンさんは、バングラデシュでのある“物語”が忘れられないと言います。

バングラデシュで出会ったある素敵な女性が、海が怖い、と言ったんだ。

事情があって、彼女はいま海岸からたった3mのところにある、壁一枚で覆われた家に子どもと暮らしています。いつ飲み込まれるかわからない。でもそんな恐怖があっても、彼女たちが他にいくところは無いのです。

バングラデシュは温暖化による海面上昇によって水没する可能性があり、その場合沿岸部に住む多くの人々が生活を失うといわれているのです。(出典元
 
pic9
この女性の住むまちは、このまま海面上昇が進行すれば水没する可能性があるという。

さまざまな困難を乗り越えて、2015年11月、無事に旅を終えパリで再会を果たした二人。
 
pic10
パリ、エッフェル塔前で再会したアーランドさん(左)とダンさん(右)

学者というポジションに立つ人間が、実際にアクションを起こし、それを達成しことで、活動は大きな注目を浴びました。しかしダンさんは、本当の挑戦はここからだ、と真摯に語ります。

旅の途中で、”どれくらい人に影響をあたえられたと思う?” と聞かれたんです。そんなのTwitterのフォロワー数やFacebookのいいねの数じゃ計れないし、誰にもわからない。でも間違いなく旅で出会った人・事実・ストーリーは、僕に大きな刺激を与えてくれました。

もしこのプロジェクトが少しでも誰かを感動させることができたのなら、僕らは変化を生み出せている。個々の態度の変化が理解を深めていく。ゆっくりと、でも確実にね。それが”変わる”ということです。

pic12
サモアの子どもたちによる作品。「未来はあなたの手の中にある」というメッセージが。

地球を変えてきたのが私たちであるならば、変えていけるのも私たち。それこそが温暖化問題におけるたったひとつの希望なのだとふたりは訴えます。

COP21パリ協定では”世界の平均気温上昇を2℃未満に抑えること“が全体で決まり、すべての国がそのための対策を実施していくことが義務付けられました。いまや「わからない」「関係ない」では済まされない温暖化問題。いまこそひとりひとりの意識の変化と社会全体で問題に取り組もうとする姿勢が求められます。

とはいえ温暖化に限らず、社会問題に関して「頭ではわかっているけれど、行動にはまだ移せていない…」という人は多いはず。

そんな個人の意識が積み重なれば、当然、社会全体の消極的な意識が形づくられてしまいます。そこから一歩先へ進むためには、誰かが問題の背景にある、困っている人や生き物の声に耳をすまして”物語”を紡ぎ、それを社会に届けて共有することが大事。それが、アーランドさんとダンさんが私たちに教えてくれることなのではないでしょうか?

(Text: 松沢美月)

[via:macpac,POLE TO PARIS,POLE TO PARIS FB page ,Upworthy,the guardian,the guardian,WWFジャパン, ARCTIC PHOTO,A More Vulnerable World]