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“たった一人”の熱が伝播し、現実が動き出す。「小布施若者会議」が描いた“新しい地方”の姿とは?

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地方の大きな課題のひとつに、若年人口の減少が挙げられます。そのため最近では、若者を対象とした地域おこしのイベントや、Uターン・Iターンを促進する取り組みも各地で多く見られるようになってきました。

ですが、若者に関心を寄せてもらうための発信や場づくりに苦戦したり、魅力を伝えることができても、事業や移住といった具体的なアクションにつながらなかったり…

地域と若者の距離をどうすれば近づけられるのか、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな悩みへのヒントとなるようなイベントをご紹介したいと思います。それが、長野県小布施町で開催されている「小布施若者会議」。

地方の未来をつくるために、一人ひとりが“本気でやりたいこと”に向き合える場づくりを大切にした会議の様子と、その舞台裏をレポートします。

地方と自分の未来を、現場で考える3日間

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小布施大元神社「御柱祭」の様子 Some rights reserved by Nobuyuki Hayashi

東京から2時間半ほど新幹線に揺られ、長野駅で私鉄へ乗り継ぎ、田畑が広がる山村地帯を走った先にある小布施町。「栗と北斎と花の町」としても知られ、人口11,000人、面積19.07km2という県内最小の町です。

古くから市場が立ち、町外との交流に親しんできたこの町には、昔ながらの文化と町並みを守りながらも、“よそもの”を積極的に受け入れる風土が根付いているのだとか。

そんな小布施町で、18歳から35歳の全国の若者を対象に、2012年から始まったのが小布施若者会議です。毎年一回、町内外から集まった100名を超える若者が3日間を共に過ごし、これからの地方や日本の未来について語り合いながら、新しい実践に向けたアイデアや方法論を考えています。

そして昨年、すでに紅葉も落ち、冬の到来を感じる11月後半に第3回目が開催されました。
 
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今年は、100名の募集定員に対し180名以上の応募がありました。

今回のテーマは「新しい地方をつくる」。少子高齢化や人口減少、産業衰退といった課題に直面する地方において、新しいスタンダードとなるような“これからの地方”の姿と価値観を、小布施町の取り組みやゲストの講演などを元にイメージし、そこから自身がどんなアクションを起こすのか、発表するというプログラムです。

若者もゲストも小布施町民も、全員が当事者に

“若者”や“まちづくり”を切り口にしたイベントは数多くありますが、小布施若者会議には、他ではなかなか見られない特徴があります。

ひとつ目は、若者中心の実行委員会と小布施町の行政が、がっちりと手を取り合っている運営体制。

小布施に移住したり、何らかの関わりのある若者たちで結成した実行委員会が会議のテーマやコンテンツを企画し、宿泊や会場などの運営事務は、小布施町役場の方々が全面的にバックアップ。まちぐるみでイベントをつくり上げるための理想的な体制ができているのです。

ふたつ目は、“町全体が会議場”というコンセプト。小さな会議室で議論するのではなく、図書館・畑・ワイナリーといった現場に繰り出して、地方の暮らしを五感で感じながら意見を交換するのです。
 
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図書館・畑・ワイナリーなど、 町中のあらゆる場所が会議場!

会議中は、地方の“仕事づくり”、“行政改革”、“教育”を議題に、多彩な講演やディスカッションが展開されたのですが、ゲストの方々の熱気がとても印象的でした。

中でもイタリアン料理店「アル・ケッチァーノ」の奥田政行さんやクルミドコーヒー店主の影山知明さんなど、「フロントランナー」と呼ばれる地域活動の実践者の方々は、講演するだけでなく、若者たちの輪に混ざり、アイデアを実行に移すための方法について、夜通し真剣に語り合ってくれていました。
 
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全国各地で活躍するフロントランナー(実践者)が、地方の仕事・教育・コミュニティについて熱く語ります。

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感じたこと、考えたことを書きとめ、シェアする参加者たち。表情は真剣そのもの。

そして、特に濃密な時間を過ごせるのが、2日目の晩に行われる「オールナイトセッション」です。100人の参加者が18のチームに分かれ、5時間かけて未来に向けたアクションの提案をつくります。

全体を通して強調されていたのは、自分の“根っこ”がどこにあるのかを探り、それを相手とシェアするということ。小布施町をモデルとしながらも、最後は自分自身がつくりたい未来を描き、具体的なアクションに落とし込んでいきます。
 
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若者会議名物「オールナイトセッション」。一人ひとりの”根っこ”を掘り下げ、つくりたい未来を描きます。

最終日の、描いた未来とアクションを発表するプレゼンテーションでは、参加者のほぼ全員が徹夜にも関わらず、熱のこもった発表と質疑応答が飛び交いました。

地域産業の担い手と継承者のマッチング、一人ひとりの得意を活かした小商いのネットワーク、自分でつくる新しいお葬式などなど…。これからの地方をおもしろくしてくれそうなアイデアがたくさん生まれた瞬間でした。
 
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最終日には全チームが再び集まり、未来をつくるためのアクションを発表しました。

そうして、3回目の小布施若者会議は、つつがなく大盛況のうちに幕を閉じました。しかし、このプログラムが成立するまでには、これまでの紆余曲折のプロセスがあり、それこそが今年の会議の熱気を生み出していたのです。

たった一人のコミットメントから、現実が動き出す

プログラム中、ゲストファシリテーターの方が参加者に投げかけたこんな言葉がありました。

何かを成したいと思ったら、動き出す時は一人です。
だけど熱を持った、たった一人のコミットメントは伝播する。
その結果として、現実が動き出すんです。

この言葉通り、会議で一貫して強調されていたのが、「一人ひとりがコミットすれば、自ずと現実が動き出す」ということ。コアメッセージをここに設定したのは、どんな理由からだったのでしょうか。

今年の小布施若者会議の実行委員長である、長野県出身で慶応義塾大学2年生の藤原正賢さん、2012年の第一回会議から運営に関わり、現在は小布施町に移住して慶應SDM・ソーシャルデザインセンター研究員として活動している大宮透さんのお二人に、少しお話を伺いました。
 
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実行委員長の藤原正賢さん(右)と、小布施町の慶應SDM・ソーシャルデザインセンター研究員の大宮透さん(左)

大宮さん 1回目の若者会議は、小布施をおもしろくするプランを競うビジネスコンテスト形式だったので、良い提案であっても、「実際に小布施に来れるのか?」という点で、ハードルが高いと感じられてしまったところがありました。

2回目は、地域を小布施に限定せずに、地方の未来にとって重要なテーマをいくつか提示し、参加者に選んでもらった上で、じっくり議論を重ねる形をとりました。

ですが、間口が広がった分、その後の具体的なアクションに結びつけるという点では少し弱かった気がします。

そこで、3回目となる今年は、ゲストファシリテーターの方とも早くから議論を交わし、本当に「一人ひとりが現実を動かしていく」にはどうしたら良いのかを徹底的に追求し、プログラムをつくっていきました。

藤原さん 最終プレゼンテーションも、当初は1年目のようなビジコン形式をイメージしていたのですが、「勝敗を決めて実施の可否を決めるのはおかしいんじゃないか」「自分たちがやりたいこととは違うんじゃないか」という考えに至ったんです。

一人ひとりが覚悟を持ってやりたいことへの一歩を踏み出すような場にしようと、直前期に再び会議の目的を見つめ直しました。

そんな実行委員の方々の思いと、参加者の方々の思いが結集して形になったのが、最後に行われた「コミットメント宣言」でした。

プレゼン大会の後、ワールドカフェで対話を深め、それぞれが自身の内面へ立ち返り、最も成し遂げたい思いを言葉にするのです。

静まり返る会場で、100人全員で大きな円陣をつくり、順番に自分の“根っこ”から湧き出る言葉を発して、一歩前に踏み出す。そうして言葉のバトンをつないでいきました。
 
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一人ひとりの覚悟のこもった言葉が会場100人に共有されました。現実が動き出した瞬間です。

自分の故郷で生きることを決めた人、会議中に起業をした人、会社をやめて新しい挑戦をすると宣言した人…。一人ひとりのコミットメントは違っても、思いは伝播し、共振し、今まさにこの場で“現実が動き出している”ことを実感する時間でした。

藤原さん 最後の宣言は、本当にみんなの根っこからの思いを感じるものばかりで、それを開示し合えるぐらいに、このメンバー、この場所を信頼してくれていることが伝わってきました。一生で考えても、何度もない貴重な場面に立ち会うことができたという思いです。

会議が終わり、それぞれが暮らしている地域に帰ってからも、ここで生まれた参加者一人ひとりの熱は、周りの人に伝播していくことでしょう。

藤原さん 正直僕自身、これまで地方の未来を語るときに“新しい資本主義”だとか“地方の産業活性化”だとか、どうしても受け売りの、表面的な知識で話していたところがあります。

だけど、「これからの社会はこうあるべき」ではなく、一人ひとりが「本気でこれをやりたい」という思いで現実を動かした結果に見えてくるのが、新しい地方の姿なんじゃないか。少なくとも、僕はそんな未来がつくりたいんだということを、今回確信しました。

“べき論”ではなく、自分が本当に成し遂げたいことへ向かって具体的な一歩を踏み出すこと。

踏み出した一歩がまた次の一歩を生み、その無数の重なりが、いつしか“新しい地方”の姿を見せてくれるのかもしれません。

小布施若者会議の参加者100人の物語は、まだ始まったばかりです。