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最先端のメディア・アートセンターが目指すのは“寄り合い”と“遊び場”!山口のYCAMに学ぶ「イノベーティブな地域社会のつくり方」

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「MEDIA/ART KITCHEN YAMAGUCHI—地域に潜るアジア:参加するオープン・ラボラトリー」の様子(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

みなさんは“メディア・アート“という言葉を聞いたことがありますか?

メディア・アートとは、ビデオや映像、あるいは電子音楽などを使ったアートのカテゴリーをさします。もしメディア・アートという言葉をきいたことがなくても、スマートフォンやiPhone、あるいは電子音楽になじみがある人はきっと多いはず。

インターネットやテクノロジーの急速な発展にともなって、私たちを取り巻く暮らしが変化するのと平行するように、メディア・アートも常に加速度的に進化しています。こんな新しい時代の道具を使って地域のことを考えたら、どんな新しい表現がうまれるのでしょうか?

今日は日本で有数のメディア・アートのためのアートセンターである「山口情報芸術センター(以下、YCAM)」で開催中の展覧会、「MEDIA/ART KITCHEN YAMAGUCHI—地域に潜るアジア:参加するオープン・ラボラトリー」から、市民とアーティストが恊働で生み出す“コトのはじまり”をお伝えしたいと思います。

地域のお悩み“竹”で会場に対話の場ができました

通常のアート展では、美術館が持つコレクション作品などをベースに作品を観賞するスタイルが一般的です。ところが今回は、アジア出身の若手アーティスト5組が山口市内に滞在してリサーチを重ね、“地域性”を発見するところからスタートしました。

そして、アーティストがそれぞれに見つけた地域の課題や特性から、地域の人や観客も共に考え、対話するようなプロジェクトが生まれました。
 
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(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

1.「竹のラボラトリー」/ HONF Foundation <ヴェンザ・クリスト、ユディ・アスモロ>(インドネシア)

「HONF Foundation」はインドネシア出身のヴェンザ・クリストをはじめとしたアーティストらによるテクノロジー×アートのラボラトリー。本展では中心メンバーのヴェンザ氏が来日し、限界集落化しつつある山口市北東部の阿東地区を訪れました。

そして、阿東地区で地域おこし協力隊として活躍する平山徹さんや、岡山県西粟倉村を拠点に再生エネルギーの普及に努める「村楽エナジー」の井筒耕平さんらにも取材を行い、中山間地域が抱える問題を調査。

そこで浮上したのが、放置竹林の問題です。山口県は竹林保有面積が全国3位。竹は成長が早く、定期的に伐採しないと森林や田畑を浸食しますが、高齢化した過疎地の住民だけでは対応しきれません。

「インドネシアでは竹は建材として利用されているのに」というヴェンザの意見から、会場デザインを担当している建築家グループ「dot architects」が会場の空間構成を構想、地元の人と協力して阿東地区の竹を切り出し、会場の設営に活用することになりました。会場には約250本もの竹を使用。この他ヴェンザ自身も竹でスピーカーをつくり、インスタレーション作品を展示しています。

 
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(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

2.「音のラボラトリー」/バニ・ハイカル(シンガポール)

“音”という切り口から、地域性を再考するプロジェクト。サウンド・アーティストのバニ氏は山口市の民謡収集家、伊藤武さんのもとを訪れ、地域に伝わる“作業歌”に着目しました。

“作業歌”とは労働の現場で人々が口ずさんでいた歌。山口県には古くから製塩や石材、林業や農業などの産業があり、それぞれ異なる作業歌が歌い継がれてきました。今ではほとんど歌い継がれることのなくなった歌を聞くことで、地域の人々の生業や暮らしを知ることができます。会場のラボラトリー内では、伊藤さんが収集した800曲の中から20曲を紹介。その他、地域固有の音として、YCAMが2012年に行ったワークショップにて、市内各所の小学生たちが録音した音源を展示しています。

写真は会期中に「大友良英FENオーケストラ」のライブコンサートに参加したときの様子。

 
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(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

3.「食物のラボラトリー」/オペラシ・キャッサバ <リム・コクヨン、ヤップ・ソービン>(マレーシア)

タピオカの原料である芋の一種“キャッサバ”は、旧日本軍が第二次大戦中に東南アジアの主食の米を独占してしまったことから、現地で重要な食糧として定着したという歴史があります。

展示ではYCAM内に畑をつくりキャッサバを栽培。収穫後はみんなで料理し、食べることを通してキャッサバの歴史的な記憶をシェアするとともに、新しい記憶と体験をつくろうというプロジェクト。

キャッサバにはYCAMの研究チームYCAM InterLabが開発した生体電位を取得するためのセンサーをつけ、栽培管理に役立てたり、測定したデータを言語化し、ツイッターでキャッサバが発言する新しい試みも。

 
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(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

4.「穴のラボラトリー」/田村友一郎(日本)

伝統芸能の狂言には、大蔵、鷺、和泉流の3つの流派がありました。幕藩体制の崩壊で、能や狂言の庇護者を失ったことから中央では鷺流狂言が途絶えてしまいました。ところが萩藩のお抱え狂言方が素人衆に教えたことから、現在でも、山口鷺流狂言は民間の中で受け継がれています。

「穴のラボラトリー」では、数奇な運命を辿った鷺流狂言の物語を入り口にして、アーティストの田村氏が「Y市の出来事」と称するツアーを公開しています。ツアーでは、訪れた参加者の個人的な物語や、巷にある噂話を語ってもらい、ツアーの案内人がテキストとして集めた山口市や地域の人々の新たな側面を紡ぎ出そうという試みです。

写真は、狂言方の元を訪れ取材する田村氏(写真右奥)。

地域×YCAMで山口の新しい知恵をつくりだす「YCAM地域開発ラボ」

駆け足で展示をご紹介しましたが、どの作品もグローバリゼーションの中で途絶えてしまいそうな地域の記憶を、触覚、知覚、聴覚のアプローチから再びつなぎ直そうとする内容です。

また会場の一角には、誰でも地域のお悩みを投稿できる「YCAM知恵袋」ポストが設けられました。ここには地域の人が抱える問題や、自分の好きなこと、あるいは日常の知恵などを自由に投函することができ、ワークショップを通してみんなでシェアし、ともに考える場になっています。

今回の展示はどうして“地域性”をフォーカスし、積極的に地域の人々の声を反映したのでしょうか?YCAMの菅沼聖さんにお話を伺いました。
 
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YCAM菅沼聖さん。手は「山口」をあらわすハンドサイン。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

近年のYCAMでは、作品制作を通じて蓄積した技術やノウハウをオープン化する試みを行なっています。

例えば視線解析ツールやモーションキャプチャーシステム、植物の生体電位取得システム、プロジェクションマッピングツール、アーティストと共同開発する際の契約書のひな形など、研究開発の成果を世界にシェアすることで、アートから福祉やまちづくりまで多方面の方が、僕たちの想像もしなかった使い方で技術応用して発展していく事例が増えてきました。

これは公共文化施設における地域還元の新しい可能性を指し示していると思います。

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目の動きだけで絵を描く装置「The EyeWriter(ジ・アイライター)」(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

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2010年よりダンスの創作と教育のためのツールを研究開発するプロジェクト「Reactor for Awareness in Motion(RAM=ラム)」のために開発された、ローコストのモーションキャプチャーシステム「MOTIONER(モーショナー)」(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

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坂本龍一+YCAM InterLab による「Forest Symphony(フォレスト・シンフォニー)」の為に開発された樹木の生体電位を取得するオリジナル機器「アンプシールド」(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

今回設置した「YCAM知恵袋」は、「Yahoo!知恵袋」の地域版パロディで、土地や人に宿る知恵や地域にうごめくささいな欲望を収集して掲示します。このような土着の情報は、別視点から見れば非常に良質なアイデアの種になりえる。

農家や漁師の知恵が子どもの悩みを解決したり、主婦とバイオアートが出会う場所であったり、異なるものが混ざり合う場づくりがYCAMなら可能な気がします。

YCAMでは、3Dプリンターやレーザーカッターを使ったワークショップを行っています。参加者は「魔法の機械がきた」と言って意気揚々と来るものの、「で、何がつくりたいの?」という根本的な問いに窮する人も多いそう。

3Dプリンターもレーザーカッターも、紙やペンと同じただの道具。むしろ、その道具でなにができるのかを考える想像力やつくる動機の持ち方を育むワークショップが多いです。

工作機材が小型化、パーソナル化していく中で「自分の家の庭をなんとかしたい」みたいな極度にローカライズした欲望の実現が、世界規模の地域課題を解決するなんてこともあるかもしれません。

今、地域の知恵や個人の欲望といった小さなスケールが持つ大きな可能性に興味があります。

これからはYCAMが地域の問題を拾い上げて、製品開発や産業につなげていくということなのでしょうか?

YCAMがスーパーマンのように現れて、すべてをテクノロジーで解決!というモデルは期待はされますが、長続きしないですね(笑)。

あくまでみんなの知恵の種をまく畑のような、プラットフォーム的な働きが基本になると思います。それがラボ(人と場所と機材)を有するYCAMのふるまいとして最適なのではないでしょうか。

ここがコラボレーションの場になって、住民自らが原動力を持って自分の思いを形にしていくことが、これからの地域づくりにとって大切なことだと思います。

「YCAM知恵袋」も、まず課題をみんなで共有するところから始めようという思いから始まりました。今後も定期的に“寄り合い”の場を持ち、地域のさまざまな方などに、地域の人たちが抱える問題点を見てもらいたいと思っています。

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山口市の形をモチーフにした竹筒の大きなポスト。投函者は居住区にあたる竹筒の中に自分の知恵をポスティングします。問題や知恵が多い地域や少ない地域など一目瞭然。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

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寄せられたお悩みには「雨の日に遊べる公園が欲しい」「市の中心部には自然を日常的に感じられる場が少ない」など、子供からお年寄りまでさまざまな意見が寄せられました。「今後も知恵袋のような意見収集システムは続けていきたい」とのこと。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

核家族という形態が常識となり、地域の人々とのつながりが薄れる今日、個人が抱えている悩みを地域の人同士でシェアする場所は少なくなりました。かつて“寄り合い”と呼ばれていた自治的な役割の場をアートセンターが担うというのは、とても斬新な試みです。

子どもがつくる、自分たちの遊び場

YCAMはこれまで映像・ダンス・音楽などの“メディア・アート”の分野で国内外からアーティストを招き、YCAMのスタッフが持つ最先端の技術を駆使しながら、新作をつくり発表してきました。

その一方で、地域の未来を担う子供たちを対象に教育プログラムを積極的に展開しています。

中でも好評だったのが、同時開催中の「コロガルパビリオン」。木製の不定形な床面の内部にLED照明や音響、ネットワークなどの仕掛けを埋め込んでいる、ちょっと不思議な公園です。

ここには決まったルールも、決まった遊びもありません。自分のアイデア次第で環境や遊び方が”コロガル”ように変わっていく公園です。
 
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コロガルパビリオン外観。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

子供たちの遊びをフォーカスするのはどうしてでしょう?

YCAM知恵袋同様、「コロガルパビリオン」を担当されている菅沼さんにお話を伺ってみました。

元々は、子どもたちの学び場環境について考えはじめたのがきっかけです。

子どもの”遊び”を通じてどういった”学び”が得られるか。開館以来、メディア教育に力を入れてきたYCAMにとっても「コロガル公園」シリーズは新しい挑戦のひとつです。

制作や実施の過程でたくさんの発見がありました。リサーチのために公園にいったら「ボール遊びをしてはいけません」「騒いではいけません」みたいな禁止の看板が目立ちました。公園なのに、ここは何をするところなんだ、って(笑)。

あと安心安全すぎて、子どもの創造力が入り込む余地がまったくないなど考えることが多かったです。

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会場全体が緩やかな螺旋状になっていて、自分の能力に応じて異なる高さの斜面をのぼったり滑ったり。どこまでひとりでいけるか、子どもたちが自らの判断力を養える絶好の遊び場。まだ立てない赤ちゃんも、ハイハイで坂を登っていました。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

誰かの苦情をもとに看板を立てると、結局は万人に居心地が良くない公園になる。確かに、近ごろの公園からは子供の姿が消えつつあります。みんなに居心地が良い空間にするにはどうすればいいのでしょう?「コロガルパビリオン」にはある“仕組み”がありました。

「コロガルパビリオン」の入り口には、「ここにはルールはありません。ここはみんなで考えてつくる公園です」というコンセプトが書いてあって、自身の立ち位置やこの場の性質を十分理解してもらい、中に入ってもらうんです。

そうすると「この場所は誰のものなのだろう?」という気持ちが自然とわいてくる。朝のスタート時は子供たちが自分たちで掃除をしたり、危険な場所があったら、他の子供たちに教えたりして、少しずつ自治の精神が芽生えてきます。

 
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「コロガルパビリオン」入り口。「じぶんのアイデアとせきにんで、自由にあそべるこうえんです」と、ただし書きがあります。自由と責任はいつもワンセットであることを、子供の頃から身体を通して遊びながら学ぶ空間です。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

子どもの自主性を育むには、もうひとつの工夫がありました。利用者の声を実際に反映する仕組みとしてYCAM InterLabと子どもたちによる「子どもあそびばミーティング」や新しいあそびを開発するワークショップです。

遊びには多かれ少なかれルールが伴います。子どもたちが遊びを開発するワークショップでは、「公園内の一カ所に突起をつけて歩きにくくしてみたい」といったように、自分本位のルールをつけがちです。自分より小さい子が来たときに危険だ、というところまでは、なかなか想像がつきません。

自分の思いつきが、誰にどんな影響を与えるのか、この公園やワークショップが小さなトライ&エラーを繰り返せる場になればと思います。

ワークショップで面白いアイデアが出ると、実際に採用するなどし、子どもたちの自主性を尊重してきた結果、思わぬ展開につながりました。

実は「コロガルパビリオン」は、2012年にはじめてYCAMに登場した「コロガル公園」を発展させたもの。絶大な人気を受けて2013年に開かれた「YCAM10周年記念祭」でも再び登場。こちらは約4ヶ月間で4万7千人ほどの人が訪れ大盛況を呈しました。

会期終了近くには、「公園をなくさないで欲しい」という子供たちの声が高まり、子供たちが自主的に署名運動をはじめ、約1000人の署名を集めたのです。
 
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自ら署名をはじめた子どもたち。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

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iPhoneとメッセージングアプリ「Yo」を使って新しい遊びを考えるワークショップの様子。みんなどんどん意見を出しあいます。(c) 山口情報芸術センター [YCAM]

自分たちの場所を、その手で変えたという成功体験は、子供たちに大きな自信になることでしょう。こうした小さな成功はやがて大きな花を咲かせるはず。

山口の人がよく口にする「『やりましょいね!』という言葉が好きです」と菅沼さん。

とにもかくにもやってみようという地域の人のイノベーター気質に、YCAMの技術が加われば、次はいったい何が生まれてくるのでしょうか。気になった人は、ぜひYCAMを訪れてみてください。

※コロガルパビリオンは2014年8月1日(金)〜8月31日(日)まで開催。