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「あなたのお食事は、前に来たお客様によって支払われています」”恩送り”を体験できる優しいレストラン「カルマキッチン」

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

「あなたのお食事は、あなたの前に来たお客様によって支払われています。」

「カルマキッチン」というレストランへ行くと、こんな風に伝えられます。ここでの食事は、誰かからの贈り物。だから返す必要はありません。その代わり、あなたも次に来る人の分を贈ることができるのです。

このペイ・フォワード=恩送りの仕組みで運営される「カルマキッチン」を日本で始めた、西園寺由佳さんにお話を伺いました。

優しさの実験「カルマキッチン」

もともとカルマキッチンは、アメリカで始まりました。ペイ・フォワードは直訳すると「先払い」ですが、「次へ渡す」「善意を他人へ回す」といった意味で使われます。日本語でも”恩送り”という言い方があり、グリーンズでも「The Corner Perk」の事例などを紹介してきました。

アメリカでカルマキッチンを主催する団体「Service Space(サービス・スペース)」の創始者Nipun Mehta(以下ニップンさん)と西園寺さんが出会ったのは、今から3年前のこと。ある国際会議で一緒になり、親しくなったそうです。

3日間の会議でしたが、二人でゆっくり話したのは5分だけ。それでも互いに通じ合うものを感じ、「いつか日本に来て!」と頼んだら、数カ月後に本当に来日してくれることになったんです。

そこで初めてニップンさんの活動についてじっくり聞き、すっかり「サービス・スペース」の取り組みに魅了されたようです。

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例えば「Smile Card」は、誰かに親切なことをしたときに、そっと渡すカード。「あなたは匿名の優しさを受けました。今度はあなたの番です。」というメッセージが書かれています。

高速道路の料金を払おうとしたら「前の車の人があなたの分も払ってくれました」とスマイルカードを渡されたり、誰かの代わりにゴミ捨てに行き、ゴミ箱の上にカードを置いてみたり…。「いたずらをいいことにできないか」という発想から生まれたSmile Cardは世界90カ国に広まっています。

参加者もつながる場

この優しさの連鎖をレストランで実現したのが「カルマキッチン」です。2007年にアメリカ・バークレーで第1回が開催されました。

ニップンさんの話を聞いて、「日本でもカルマキッチンをやりたい!」と思った西園寺さんですが、友人に相談してもあまりいい反応が返ってきませんでした。その状況が変わったのは、3.11の後。

カルマキッチンの話をすると、「これからはお金よりつながりだよね」って共感してくれる人が増えてきました。震災前とまったく同じ言い方をしていたのに、反応が全然違ったんですね。それまではきっと、変わる必要はないという意識がみんな強かったのかもしれません。でも今は、つながりを求めている人が本当に多いんだなと肌で感じています。

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こうして震災後に出会った仲間8人と、カルマキッチンを実行に移します。記念すべき第1回目は2012年5月、恵比寿のレストランにて。西園寺さんは「初回はとても特別なものでした」と振り返ります。

最初は趣旨を分かっている人に来てほしかったので、予約制にしたんです。ほとんどはメンバーの知り合いだったんですが、中には全く知らない人もいました。それでも、こういうコンセプトを理解している人たちなので、同じテーブルについたとたん仲良くなっていましたね。温かい空気感があって、「この場にいられることが幸せ!」って思いました。

参加者からも「初対面の人とこんなに仲良くなれると思わなかった」という声がたくさん届いているようです。

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カルマキッチンの様子

これまでに5回開催され、毎回50人以上が参加。ウェブサイトでは収入・支出を提示していますが、「お金についてはまだまだ試行錯誤の途中」と西園寺さん。

1回目は茶封筒を渡して「支払わなくても、支払う金額もどうぞご自由に」と伝えていたのですが、それだとお金を払わないといけないような気にさせてしまう。それで2回目に入口に封筒を置いてみたら、気づかない人もいた。そこで3回目は場所を移動して「今日、自分は何とつながったのか?」を振り返ることができる時間を持ってもらうようにしたんです。

じっくり考えてもらって、それで0円でもOK。それはそれで大切なことで、会場では「素直になってください」と伝えました。特に日本人は「払わなきゃ」とか、友達と「いくらにする?」と悩む方が多いですが、そのときの自分の気持ちを大切にしてほしいなと今は思っています。

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もちろん料理もおいしい!

収入の1割を誰かのために使う

みなさんももしカルマキッチンに参加したら、金額を決めることに悩むかもしれません。それも、自分のためではなく誰かのためにとなると、なおさらです。しかし西園寺さんは、子どもの頃からあるルールを守っていました。

高校生のときにアルバイトを始めたんですが、そのとき母に「あなたのお金の1割は、誰かのために使いなさい」と教わったんです。「1割はあなたのお金ではない」ということが心の中にあったから、「何に使おうかな」といつも考えるようになって。それで自分は社会とひとつにつながっていると意識するようになったんです。子どもの頃からそうだったので、人に捧げる喜びが自然と身についていたんだと思います。

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西園寺由佳さん

いきなり収入の一部を誰かに寄付する習慣をつけることは難しいかもしれませんが、「たとえ100円でも、一年続ければ考え方が変わってくる」と西園寺さんは言います。

ギフトするということは、自分自身を豊かにしてくれるんです。相手にも「これは私のお金じゃなくて、預かっていたお金なんです」と伝えると、快く受け取ってくれます。もしそのとき使い道がなければ、“人のため貯金”をすればいい。それくらいの気持ちから始めてみてはいかがでしょうか。

一人ひとりの持つ素晴らしさを引き出す

そんな西園寺さんが「カルマキッチン」を続けている根底には、「一人ひとりの持つ素晴らしさを引き出すこと」というど思いがありました。

「これもニップンが言っていたんですけど」と教えてくれたのは、チャコールとダイヤモンドの話。この二つの鉱石は、同じ炭素でできています。その元素の構造が違うだけで、チャコールは黒くなり、ダイヤモンドは輝く。

人間関係も同じで、つながりがもろいと弱くなってしまう。逆に結びつきが強ければ一人ひとり輝くことができる。私たちは人間だから、本来の自分を隠してしまうこともある。それでも奥底に輝くものは決して侵されることはないと信じています。その本来持っている可能性や優しさに気づいて、一人ひとりの持つ素晴らしさを引き出すことができれば、と思っているんです。

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ニップンさんとは兄弟のような仲だそう。

「平和」と「対話」

西園寺さんはカルマキッチン以外にも、「宗教を超えた祈り」をテーマに国連や国際会議でスピーチをしたり、ワークショップのファシリテーションを務めたりと、その活動は多岐にわたります。そのなかで共通するキーワードは、「平和」と「対話」。

このキーワードに出会ったのは、12才のとき。ドイツのインターナショナルスクールに通っていた西園寺さんは、遠足でユダヤ人の収容所へ行くことに。そこは当時のままの状態で、平和を強く願うと同時に、対話の大切さも学ぶ機会がありました。

そのとき親友がイスラエル人だったので、彼女のことを思うと胸が痛みました。でも、遠足から帰って一人ずつ感想を話したときに、号泣した友達がいたんです。

それはイスラエル人ではなくてドイツ人の友達で、「自分の祖先がしたことに本当に申し訳ない」と謝っていました。私はイスラエル人の友達のことしか考えていなかったのですが、対話の場があったからこそ、みんなの思いに耳を傾けることができたんですね。これからのリーダーシップにおいて、そんな対話の場づくりはとても大切な役割を果たすと思います。

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場所もギフトされた「ギフトカフェ」

現在はカルマキッチンともう一つ、優しさでつながる場所を持とうと、「ギフトカフェ(仮)」をつくっています。

なんと、この場所そのものもギフトされたのだとか。飲食店などを運営する株式会社ニュートンがCSR活動の一環として、所有していた建物の1階を無償で貸してくれたそうです。物置に使われていた、クーラーもない倉庫のような部屋をみんなで片づけ、会議やワークショップができるコミュニティスペースにしたいと構想しています。

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6月にはギフトカフェで使う、椅子を手作りするワークショップを開催。20人ほどの参加者と一緒に12脚の椅子をつくりました。参加者は参加費と椅子の実費を払って、ギフトカフェのための椅子をつくったというのだから驚きです。

皆さん椅子を持ち帰りたかったと思うのですが、最後に椅子に自分の名前を入れたら、「ここに置いてよかった」という気持ちになったそうです。「ここに座ってくれる人がいると思うと嬉しい」と言ってくれた方もいて、みんな達成感に満ちてキラキラしていました。

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今、日本中のいろんなところで”恩送り”の動きが出てきていると思います。そういう取り組みをどんどん応援したいし、自分も関わっていきたい。そこに何より、希望を感じているんです。

と西園寺さん。

恩をもらったら返すのではなくて、次の人へ送っていく。そこでの不思議な体験、そこからはじまる優しさの循環は、新しい社会をつくる上で大切なヒントがあるような気がします。みなさんも小さなことから、恩を送ってみませんか?