ISSUE まちづくり

3 years ago - 2013.07.09

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地域で仕事をしたい人の生業づくりのきっかけに。町全体を市(いち)にする『大磯市』から始まるまちづくり[コミュニティデザインの現場から]

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「まちに仕事がある」ということ。これは、「まちづくり」を考える上で欠かせないポイントです。当たり前のことですが、仕事がなければ、人は働くためにまちから外へ流出していき、まち自体の活気が失われるだけではなく、経済もまわらなくなってしまいます。

では、仕事をつくるには? 今回は、「地域で仕事をしたい人のための生業づくりのきっかけをつくる」という視点から、ユニークな方法でまちに仕事を生み出し、まちづくりにつなげている『大磯市(おおいそいち)』の取り組みをご紹介します。

神奈川県大磯町。人口3万人ほど、かつては別荘地として栄えた湘南の小さな町に、今、ちょっとした変化が起こり始めています。

大磯市とは?

「大磯全体を市(いち)にしよう」をコンセプトに、2010年9月から毎月第三日曜日に開催されている『大磯市』。毎月この日は、メイン会場のミナト(大磯港)にて開催されるマーケットと、マチナカ(町内各地)の店舗・ギャラリー・個人邸によるイベント・ワークショップなどが連携し、大磯の町全体がお祭りムードになります。

『大磯市』メイン会場のミナトの様子 『大磯市』メイン会場のミナトの様子

メイン会場は、マーケットが開かれるミナト(大磯港)。魚介類をはじめとする新鮮な地産品はもちろん、地域の飲食店による屋台、地元で活動するアーティストによる工芸品・雑貨類の販売、ワークショップ、マッサージ、似顔絵、英会話などなど、100を超える出店者がずらりと軒を構え、心地よい海の風を感じながら食事やショッピングを楽しむことができます。

その日に穫れた新鮮な魚介類は、大磯市の目玉商品。 その日に穫れた新鮮な魚介類は、大磯市の目玉商品

地元飲食店のワゴン販売に、会話も弾みます。 地元飲食店のワゴン販売に、会話も弾みます。

その場で参加できるワークショップも多数出店。 その場で参加できるワークショップも多数出店

また、地元住民によるダンスショーや大道芸など、お楽しみイベントも多数開催。のんびりと過ごすことのできる芝生の広場もあり、親子連れで1日中いても飽きずに楽しめるマーケットとなっています。

マーケットで買った飲食物を芝生の上でのんびり楽しむことも可能。

『大磯市』の大きな特徴は、メイン会場のマーケットに留まらず、町全体で連携を取っていること。地元の商店や飲食店が、この日は「限定商品販売」や「コーヒー1杯無料」といったサービスを用意する他、「おおいそオープンガーデン」「まちなか図書室」「大磯うつわの日」といった町の各地で行われるイベントも同時開催。メイン会場のミナトを訪れた人が、そのままマチナカを楽しみ、大磯町全体の魅力を存分に味わうことができる仕組みとなっているのです。

「大磯うつわの日」(2012年10月開催)では、マチナカ5ヶ所で開催されている“うつわ”の展示会と大磯市が連携。約500人が会場を訪れました。 「大磯うつわの日」(2012年10月開催)では、マチナカ5ヶ所で開催されている“うつわ”の展示会と大磯市が連携。約500人がマチナカの会場を訪れました。

2010年9月の初開催から約2年半経った今では、県内外から毎回3,000〜5,000人ものお客さんを集めるほどにまで成長。『大磯市』の日は道路が渋滞し、駐車場も満車になるなど、主催者のうれしい悲鳴が聞こえてくるほどの盛況ぶりとなっています。

『大磯市』プロデューサー・原大祐さんインタビュー

『大磯市』を主催しているのは、大磯町漁業協同組合、湘南農業協同組合大磯支所、大磯町観光協会などが手を組んだ「大磯市実行委員会」。その中心で人と人をつなぎ、開催までの道筋をつくってきたのが、原大祐さんです。原さんは、東京での建築会社勤務を経て、約3年前に地元である大磯町に移住。現在では、NPO法人「西湘をあそぶ会」で各種まちづくりプロジェクトを手掛ける他、シェアオフィス、イベントスペース、レストランが入居する“ソーシャル雑居ビル”「OISO1668」を運営するなど、大磯町を拠点に様々な活動を展開しています。

かつては主に漁協関係者しか出入りすることなかった大磯港や、休日はお店を閉めていた大磯の町を、人が集まる活気ある場所に変えつつある『大磯市』。開催に至った経緯や目的、まちづくりへの想いなど、様々な視点から原さんにお話を聞きました。

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「人が集まらない」と言われた町に定期的に人を呼び込むには?

これまで大磯の人々には、「大磯には人は集まらない」という論調がありました。でも僕は、それはやり方次第だし、大磯を活性化させようと思ったら港がカギになると思っていました。

と、原さん。水産資源が豊富にあること、県営の大きな駐車場があること、駅からも徒歩圏内であることなど、好条件を兼ね備えた大磯港にポテンシャルを見いだし、まずは2010年4月、この場所に大磯漁協直営の食堂『めしや大磯港』を立ち上げました。

僕は当時、漁港で開かれていた朝市でボランティアをしていたのですが、あるときサバが大量に余っている現状を目にして、もったいないな、これを活かすことはできないだろうか、と考えていました。

ちょうどその頃、町長は「海の駅構想」をビジョンとして掲げていて、漁協の組合長も「食堂をやりたい」と言っていたので、観光協会や商工会も巻き込んで実行委員会をつくり、新鮮な魚介類が味わえる『めしや大磯港』をオープンさせました。メディアが取り上げてくれたこともあり、オープン直後から連日行列ができるほど人が集まってくれたんです。

でもその時、原さんの頭をよぎったのは、この行列が一過性であるということ。

確かに港に人は来ました。でも一過性ではなく、定期的に人を呼ぶ仕組みを考えなければ、本当の活性化にはつながらないと思いました。

本当の活性化を実現するために原さんが考えた施策、それが『大磯市』の仕組みへとつながります。

僕がボランティアをしていた水産物の朝市は、毎月第3日曜日に開かれていて、朝早くからそれなりに人が集まっていました。この基礎集客を利用しない手はない、と思い、同じ日にマーケットを開くことを考えたんです。港で魚を買って、パンを買って、コーヒーを飲んで、小物を買って帰ってもらえばいいかな、と。当初はそのくらいの考えでした。

でも、大磯町には、朝市の日に営業を休んでいる商店がたくさんあることを知りました。通常、観光事業をやるときに、商業とどう絡むか、という視点はないのですが、よく考えると、観光と商業が合致していないって変ですよね。マーケットに人を集めて、それが必ず地域の商店に流れるような、町全体を市(いち)にする仕組みをつくろう、と考えました。

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原さんの知り合いなどを通じて声をかけたところ、マーケットには19の出店者が集まり、2010年9月、「町全体を市(いち)にする」コンセプトにした『大磯市』はスタートしました。

集客力アップにより、地元の商店・人に変化も。

今でこそ多くの人で賑わう『大磯市』ですが、もちろん最初からうまくいったわけではありませんでした。

ツイッターもウェブサイトも直前に公開しましたし、そこに載っている情報も出展者の紹介程度だったので、初回はお客さんが全く来ませんでした。

「町全体を市(いち)にする」というコンセプトの通り、マチナカにまで広げたかったのですが、まずはミナトに集客力をつけることが先決。最初の2年間は、マーケットの出店者を増やすことと、来場者を増やすこと、この両輪を必死になってやっていましたね。

会場や駐車場の調整などにも追われながら、とにかく集客力をつけることに奔走したと原さんは言います。その努力の甲斐もあり、また、ツイッターやホームページ、出店者同士の口コミでの広がりやメディアの露出も後押しして、出店者・来場者ともに徐々に増え始め、2012年5月には、ついに来場者数が1万人を突破。湘南から西湘地域にかけて幅広く、また都内など遠方からも、人の集まるイベントへと成長していきました。

『大磯市』ウェブサイト http://www.oisoichi.info/ 『大磯市』ウェブサイト http://www.oisoichi.info/

そしてこの集客力が、地元の人々の反応も変えていきます。

当初は地元の商店に「マチナカ」としての参加を呼びかけてもあまり反応がなかったのですが、徐々に老舗のお店も応援してくれるようになったり、旗を立ててくれたり、様々な形で積極的に関わってくれるようになってきました。

また、町民の方々も、開催が天候で中止になると「高架下でできないか」と声をかけてくれたりして。大磯市を楽しみにしている人が増えてきているのを実感しています。

今では『大磯市』の日に営業する店舗も増え、「マチナカ」として参加する店舗数は30以上に。商店街や商工会が主催するイベントも、『大磯市』の日に同時開催されるものが多くなってきました。ミナトとマチナカの連携は、こうして少しずつ強まってきている様子。原さんはまだまだだと言いますが、「町全体を市(いち)にする」というコンセプトは、確実に現実のものとなってきているようです。

もうひとつの大きな目的「生業づくりのきっかけにする」こと

『大磯市』開催にあたり、実は原さんの中にはもうひとつ、大きな目的がありました。それは、「港をチャレンジの場にする」こと。

「チャレンジの場」、つまり、『大磯市』を通じて、地元で商売になるきっかけをつくりたい、と思ったんです。やっぱり面白いやつがいないと町は面白くないし、僕もそうなのですが、地元で仕事をしたいと思っている人はいっぱいいる。でも今は仕事がないために、東京まで“出稼ぎ”に行っている人が多いのが現状です。

と言っても、いきなりお店や事務所を構えるのはリスクですよね。大磯は意外と家賃が高いので、イニシャルもランニングも費用がかかる。だったら、まずは『大磯市』で出店することをきっかけに人々と有機的につながって、地元で仕事をするための販路と認知を広げられるような場所になればいいな、と思いました。

このような原さんの思いから、『大磯市』では、プロの方のみならず、本業以外で何かに取り組んでいる方の出店も歓迎しています。例えば、普段は会社員をしながらデザインに取り組む方によるオリジナルグッズ販売、店舗を持っていない方による手作りパンの販売、外国人の方による英会話レッスンなど、実に多様な出店者が参加しており、それがまた『大磯市』の魅力にもつながっています。

今では、「お客さんの大半が『大磯市』で出会った方」というデザイナーもいますし、『大磯市』をきっかけに仕事が増え、バイトをやめて自立した木工作家もいます。無店舗販売だったパン屋さんが、今では『大磯市』で一番の行列店になっていますしね。

こんな風に、地元で働きたい人たちのチャレンジの場として、『大磯市』がどんどん機能していくといいですね。

出店者と客の距離が近く、何気ない会話の中から仕事が生まれていくことも。 出店者と客の距離が近く、何気ない会話の中から仕事が生まれていくことも。

「チャレンジの場をつくる」というもうひとつのコンセプトは、こうして様々な人が地元で生業をつくるきっかけを生み出しているのです。

人と人をつなぐ「まちづくり」の拠点へ

観光と商業の視点から町全体に人を集めること、町に仕事をつくること、その両面で機能し始めている『大磯市』。「まちづくり」という視点で見ると、さらにこんな波及効果も生まれている様子です。

大磯港は、かつては漁業関係者しか出入りしていなかった場所です。でも、『大磯市』の出店者は30代が多く、来場者も20代からの若い世代がたくさんいます。これまで大磯町でやるイベントでこれほど若い人を集めるものはありませんでした。

漁港のおじちゃんと出店者の女の子とかが普通に会話していたり、今まではありえなかった組み合わせが生まれているのも面白いですね。『大磯市』での交流を経て移住してきた出店者や来場者もいますし、様々な人々がつながり、町が変わり始めているのを感じています。

町の人々をつなぐハブとして機能し、まちづくりの拠点としての役割も果たし始めた『大磯市』。今後も大磯の町にどんな変化を生み出してくれるのか、とても楽しみです。

最後に原さん自身の考え方や町への想いについても、お話を伺いました。

僕はこういう低成長な時代に、地域経済にどういう形があるのか、ということに興味をもっているんです。大磯は昔の別荘地で、お金持ちがたくさん住んで、みんな潤っていて、すごくいい時代がずっと続いていました。今では傾いてしまったのですが、「昔は良かった」と、変われない人々がいて。

でも時代は変わった。じゃあ、今の時代の地域にどういう形があるのか、ひとつひとつ、地域のプロトタイプと言うのでしょうか、大磯で実験をしているんです。『大磯市』も、そのひとつです。

でも実は、ことの発端は単純で、要は「自分が快適に暮らしたい」わけです。僕が快適に暮らすために、魚屋さんがなくなっちゃ困るとか、お屋敷がなくなって町並みがなくなると困る、とかいろいろ思うところがあって。自分が困るから、自分が快適に暮らすために町を変える、という感じで動いていますね。本当は面倒臭がりで出不精なんですが。(笑)

原さんは、「面倒くさい」と言いながらも数々のプロジェクトを手掛け、「嫌だなー」と言いながらも毎回『大磯市』のメイン会場に足を運び、法被姿で現場を盛り上げています。本心は定かではありませんが(笑)、その根底には「自分が快適に暮らすために」という“自分ごと”から始まった強い想いがあることは間違いなさそうです。

大磯市の会場にいる原さん。いつも法被姿です。 大磯市の会場にいる原さん。いつも法被姿です。

そして何より原さんの言葉から感じるのは、数々の取り組みを「実験」と言ってしまう遊び心。それが『大磯市』の会場に足を踏み入れたときに感じる、活気溢れる楽しい雰囲気へとつながっているのでしょう。“自分ごと”の想いに楽しむ心が加われば、いつしか人々を巻き込み、町の課題をも解決していく力になる。原さんのインタビューを通して、改めてそんなことを感じました。

毎月第三日曜日は『大磯市』の日。ぜひ一度、少し海の方へと足を延ばして、この雰囲気を感じ取ってみてください。

『大磯市』に行ってみよう!
『大磯市』公式ホームページ

writer ライターリスト

池田 美砂子

池田 美砂子

greenz シニアエディター/シニアライター 神奈川県茅ヶ崎市在住、ひとりの娘のお母さん。 電機メーカーSE、気象コンテンツプロデュースなどを経て、2008年にグリーンズと出会いました。以来、人の話をありのままに聞くインタビューをライフワークとしています。 ビジョンは、「ありのまま、そのままの自分を肯定できる人を増やす」こと。多様な個があふれ、互いにそれを認め合い、一人ひとりが、大切にしたいものを大切にできる社会を実現するための土台となる“心の持続可能性”をテーマに、暮らしの中で、編集・執筆を通して、日々マイ・プロジェクトを実践中。一人ひとりの心が持続可能であることが、持続可能な社会をつくると信じています。 Facebook: http://www.facebook.com/ikedamisako

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