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被災地のまちづくりに 「人のつながり」の力を。 山崎亮さんに聞く〝震災後〞のコミュニティデザイン [トム・ソーヤーのペンキ塗り]

yamazaki

この記事はフリーペーパー「metro min.(メトロミニッツ)」と井上英之さん、greenz.jpのコラボレーション企画『トム・ソーヤーのペンキ塗り』にて、メトロミニッツ誌面(1月20日発行)にも掲載中のものです。

東日本大震災後にクローズアップされ、よく耳にするようになった「コミュニティデザイン」という言葉。地域コミュニティが崩壊してしまった被災地において、「いかに『人のつながり』を取り戻していくか」という問題は、まちづくりの最優先課題とも言われています。この視点をいち早く提唱し、行動を起こしている山崎亮さんに、これからのコミュニティデザインについて、お話を聞きました。

「コミュニティデザイナー」という仕事

「コミュニティデザイナー」として、地域コミュニティにおける課題解決を手がける山崎亮さん。「デザイナー」というと、何か形あるものを生み出す仕事をイメージしますが、山崎さんの領域は、「もの」ではなく、「人のつながり」のデザイン。地域の自治会やNPO、サークルなどあらゆるコミュニティを対象に、住民とともに課題を見いだし、住民が主役となって解決するための手助けをしています。

例えば、鹿児島市で大手百貨店撤退後にオープンした商業施設「マルヤガーデンズ」には、店舗群と混じって地域コミュニティの活動場所を設置。人と物、地域が一体となり、相互にメリットが生まれる関係性を生み出しました。

中心市街地としての活気が失われてきた天文館地区に、2010年春にオープンした商業施設「マルヤガーデンズ」

中心市街地としての活気が失われてきた天文館地区に、2010年春にオープンした商業施設「マルヤガーデンズ」

「マルヤガーデンズ」では、各フロアに「ガーデン」と呼ばれるオープンスペースを設置し、地域のコミュニティが活動できる場所を提供している。

「マルヤガーデンズ」では、各フロアに「ガーデン」と呼ばれるオープンスペースを設置し、地域のコミュニティが活動できる場所を提供している。

島根県隠岐諸島の海士町では、町の「総合振興計画」を住民参加によって作り、実現するための仕組みを構築。計画策定には10代から70代まで総勢60名の住民が参加し、現在は住民チームによる複数のプロジェクトが、計画実現に向けた活動を続けています。この海士町での取り組みは、コミュニティデザインとして初めてグッドデザイン賞(2010年度)も受賞しました。

市民参加で策定した海士町の「総合振興計画」。コミュニティデザインとして初めてグッドデザイン賞(2010年度)を受賞。

市民参加で策定した海士町の「総合振興計画」。コミュニティデザインとして初めてグッドデザイン賞(2010年度)を受賞。

竹やぶを解消しながら竹細工や竹炭をつくる「鎮竹林プロジェクト」など、現在も住民チームによるプロジェクトが活動を続けている。

竹やぶを解消しながら竹細工や竹炭をつくる「鎮竹林プロジェクト」など、現在も住民チームによるプロジェクトが活動を続けている。

山崎さん率いる「studio-L」が手がけるこれらのプロジェクトの特徴は、どれも住民が自ら参加したくなるような仕組みづくりが行われていること。課題発見から解決までのすべての過程において、他人任せではなく、住民が「自分ごと」として責任を持ち、しかも楽しみながら進めていけるような環境を構築し、将来的に住民だけで運営していける状況をつくり出しています。

〝西高東低〞解消へ。被災集落におけるコミュニティ再生の動き

そして山崎さんは、今、このコミュニティデザインの手法を震災によって崩壊してしまった集落のコミュニティ再生に活用すべく、被災集落に入る若者のためのトレーニングや、東北の大学生たちと一緒に未来を考えるワークショップに取り組んでいます。

震災復興のプロセスを見ていると、これまでと同じように『まずはハード整備、その次に余裕があればソフトを充実』という手順になっていますが、これはもったいないことです。今のうちからハードとソフトを一体として考えておいた方がいいし、そのためには住民参加で計画を策定した方がいい。『自分たちが言ったからこそ自分たちで実行する』という気持ちになってもらえるかどうか。そこが重要だと思います。

山崎さんが語る「これまで」という言葉には、阪神・淡路大震災(1995年1月17日発生)以降に感じた、もどかしさが表れています。関西地方に拠点を置く山崎さんにとって、「震災後」と言えば、「3・11」ではなく「1・17」のこと。震災によって何もかも失った街で、建造物よりも、「人のつながり」が力になっていることに気付いた山崎さんは、コミュニティに関心を持つようになりました。

その後、関西ではコミュニティデザインに取り組む人が増え、書籍も多数出版されました。しかし、東日本など他の地域ではなかなかその機運が盛り上がらず、その先10年以上、コミュニティデザインの〝西高東低〞状態が続いていたのです。

だからこそ僕が期待したいのは、ポスト3・11の東日本におけるコミュニティデザインの高まり。これだけ大きな崩壊を目の当たりにした今、課題を乗り越えるための新しい動きが次々に出てくるだろうと思います。どのように人と人をつないでコミュニティをつくり、そのコミュニティが自分たち自身で東北の新しい課題を乗り越えていくのか、楽しみです。

昨年10月からは「震災復興+design」として、2020年の被災地のためのアイデアコンペを実施中。3月には審査結果が発表され、賞金としてアイデア実現のための資金が提供される予定となっている。

昨年10月からは「震災復興+design」として、2020年の被災地のためのアイデアコンペを実施中。3月には審査結果が発表され、賞金としてアイデア実現のための資金が提供される予定となっている。

コミュニティデザインの仕事は“ぼろ儲け”?

まちづくりから復興まで、幅広くプロジェクトを手がける山崎さんは、文字通り、全国各地を飛び回る日々を送っています。でも、コミュニティデザインの仕事は「ぼろ儲け」と楽しそうに語ります。それはもちろん、お金の話ではありません。

各地に行けば行くほど知り合いが増えて、明日、万が一仕事が全部なくなったとしても、『うちにおいで』と言ってくれそうな場所が、全国に50カ所くらいある。それに、知らなかったことをたくさん教えてもらえたり、時には各地の美味しいものを送ってもらえたり、これはものすごく大きな儲けですよね。たぶんこの仕事をやったら、誰でも辞められなくなると思いますよ。

どうやら、「人のつながり」の力を誰よりも実感しているのは山崎さん自身の様子。震災という大きな衝撃を経験した今、被災地に限らず日本のあらゆる地域でその価値が認められ、本領を発揮し始めていることは間違いなさそうです。

いのさんのここがポイント!

これから「誰かの力を引き出す仕事」が増えていく。そのためには、デザインの力が必要だ。

まずは、感じてみよう。鹿児島の百貨店、マルヤガーデンズには、各フロアの「ガーデン」からきこえる息づかい。デパートのスペースの使い方に、地域のいろんな人たちが、自分ごととして、オープン前から関わっているなんて、びっくりです。

島根県海士町の総合計画なんて、ぜひみなさんに見てほしい! こんな総合計画、あるんですよ。これを島の人の発想で、つくったなんて。まちづくりは、本当は誰にでもできる。だから、「ひとりでできること」(例:歩いて暮らそう)、「10人でできること」(例:ガキ大将を育てよう)、「100人でできること」( 例:欲しいものは島でつくる)、「1000人でできること」(例:魅力ある高校をつくろう)と続く、島の提案をみていると、リアルでそして島の可能性がみえてきます。

これから、ぼくらは、どんな仕事がつくれるだろうか。その大切なひとつが、誰かの力を引き出す仕事だ。魅力的な、職場も地域も、そして元気な社会もそこからはじまる。

山崎さんは、人を信じているとおもう。いろんなことがあっても、なお、人の明るい側面やもっている可能性を。粘り強く、いそがず、そのプロセスをデザインしている。人が伸びる環境をデザインしてみよう。ミーティングの仕方や場所、使う言葉や道具…まずは、何ができるかな?

編集長YOSHより

この連載「トム・ソーヤーのペンキ塗り」は、日本のあらゆるソーシャルイノベーションの中心で活躍し、たくさんの社会起業家を応援してきた井上英之さんと、日常の中の”Quality Time”をテーマに都内52駅で配布されているフリーペーパー「metro min.(メトロミニッツ)」とのコラボレーション企画です!

やる側も楽しく、社会も良くなり、ビジネスにだってなり得てしまう。そんな三方良しの「トム・ソーヤーのペンキ塗り」的FUN!が満載のソーシャル・デザインプロジェクトを紹介しています。東京の方はぜひ見つけたらお手にとってみてください。
hyoushi

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