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みんなで考え、みんなで育てる。世界も注目、これが鶴見川の「川づくり」だ!

人々の憩いの場となっている鶴見川の河口干潟

人々の憩いの場となっている鶴見川の河口干潟

以前greenz.jpで紹介し、話題となった世界の「川づくり」。私たちの生活に欠かせない水循環系を形作っている「川」を活かした、新たなまちづくりの形として注目が集まっています。

そして日本の「川づくり」の事例として世界からも注目されているのが、鶴見川。町田市を源流として横浜市・鶴見まで流れる典型的な都市河川で今、どんな取り組みが行われているのでしょうか? 今回はその全容をご紹介します!


世界が注目!『鶴見川流域 水マスタープラン』とは?

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世界初の「水マスタープラン」

鶴見川の「川づくり」の構想をまとめたのが、2004年、世界に先駆けて策定された『鶴見川流域 水マスタープラン』(通称「水マス」)です。私たちが暮らす大地には限られた量の水が絶えず循環し、豊かな自然と社会が形成されています。この「水マス」は、健全な水循環系の将来ビジョンを描いたもの。そこには、緑あふれる保水の森や谷戸があり、川の水量・水質が保全・改善され、災害への備えも万全な未来の鶴見川流域が描かれています。

では、そのビジョンに向けて、どのような取り組みが行われているのでしょうか? ここから具体的にご紹介していきましょう。

水マス1:日産スタジアムが池に?先進的な治水対策

まず注目すべきは、洪水時に流域を守る治水対策。かつて「暴れ川」と呼ばれるほど洪水に悩まされた歴史を持つ鶴見川では、地域と自治体、国が一体となり、様々な対策を進めてきました。

例えば、雨水が川に流れ込み水位が上昇するのを防ぐために行われている「遊水地」の整備。鶴見川流域でもっとも大きなスケールを誇るのが鶴見川多目的遊水地ですが、その中にある日産スタジアムは、洪水時は地下に大量の水が貯まる「二層構造」になっています。

また、ユニークなのが、約4,300箇所もある「防災調整池」。普段は見慣れている校庭、オフィスやマンションの駐車場、ゴルフ練習場やテニスコートなどが、非常時には一時的なダムの役割を果たし、鶴見川多目的遊水地とほぼ同じ容量の、雨水を貯留します。これらの「遊水地」や「防災調整池」に貯まった雨水は、洪水の危険が去ってからゆっくり川に流し、水害を防ぐ大きな役割を果たしているのです。

洪水時は地下に大量の水が貯まるようになっている「日産スタジアム」 Some rights reserved by kktryj

洪水時は地下に大量の水が貯まるようになっている「日産スタジアム」 Some rights reserved by kktryj

水マス2:清らかで豊かな川を取り戻そう!緑と水を守る取り組み

そして「川づくり」において欠かすことができないのが、美しい水と流域の自然環境の保全。昭和50年代前半まで、鶴見川は水面に石けんの泡が舞い悪臭を放つほど汚れていました。この状況を改善するため、行政では下水道の整備を強力に推進すると共に、「高度処理」などの水質改善策にも積極的に取り組んできました。さらに流域の市民一人ひとりが家庭や事業所から汚れた水を流さないように心がけ、また、流域の自然環境保護に向けた努力を積み重ねてきた結果、水質は徐々に改善。現在では、鮎が遡上し、産卵や仔魚(しぎょ)が確認されるまでに回復しました。

これらの緑と水を守る取り組みにおいて、忘れてはならないのは100を超える団体・企業が参加する「水マス推進サポーター」の存在。学生サークルからNPO法人、地元ラジオ局も名を連ね、“鶴見川の応援団”とも言える彼らは、市民を巻き込んだクリーンナップ活動や植林ツアーを頻繁に開催しており、鶴見川の環境保全に大いに貢献しています。“行政にお任せ”ではなく、市民が自ら参加する。これが、鶴見川の「水マス」の大きな特徴です。

谷戸山や保水の森など、流域の豊かな自然は市民の手で守られています。

谷戸山や保水の森など、流域の豊かな自然は市民の手で守られています。

水マス3:川でもっと遊ぼう!市民のための憩いの場づくり

「川づくり」のためには、まずは市民が川に親しみ、自分ごととして感じることが大事。たとえばこの写真は、鶴見川の最下流で水害の常習地帯だった場所に、原風景も保存しながら堤防整備を行った「貝殻浜」と呼ばれる河口干潟です。今では市民が日常的に散歩や生き物観察に訪れる他、カヌーやいかだ遊びも楽しめる憩いの場になっています。

市民の憩いの場となっている河口干潟

市民の憩いの場となっている河口干潟

その他にも、鶴見川流域では、経験豊富な「水マス推進サポーター」によって企画された川遊びイベントが多数開催されています。上流から河口まで、カヌーやいかだの他にも、デイキャンプやウォーキング、バードウォッチングなど、親子で楽しめる様々なイベントが各地で行われています。

そして今、greenz.jp でも、「green drinks river!」を開催しようと企み中。川飲み、川ヨガ、川ライブなど、まだまだ川をフィールドにした遊びはたくさん考えられそうですよね。川を楽しむことから始まる「川づくり」、みなさんも一緒に考えてみませんか?

「green drinks river」も近日開催!? Some rights reserved by Dushan and Miae

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30年後はこうしたい!みんなで描く鶴見川の未来

このような「水マス」の取り組みによって変化しつつある鶴見川。「水マス」の前身である鶴見川の「総合治水対策」の取り組みは、一昨年でちょうど30年目を迎えました。そして、次の30年をつくるのは流域に住む市民一人ひとりです。子どもたちが大人になったとき、その目にどんな鶴見川が映るのでしょうか?

「水マス」の大きな特徴は、市民、市民団体、企業、行政が一帯となって流域貢献に取り組んでいること。greenz.jpでは、「水マス」実現に向けて、それぞれの立場でユニークな活動を行っている人々にインタビューを行い、「30年後に向けたメッセージ」をいただきました。

「もう一度、テナガエビの釣れる川に」

市民代表:鶴見区駒岡地区連合会会長 小山和雄さん
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私は鶴見川沿いで生まれ、鶴見川で捕った魚を食べ、鶴見川で泳いで育ちました。昭和13年、昭和16年の大きな台風をはじめ、洪水も何度も経験しました。でも、昔の人の知恵なんでしょうね、先祖代々受け継いだ我が家が建っていた場所には、堤防が切れてすぐ下まで水が来ても、家の中までは絶対入って来なかったんです。だから洪水が来ても、今みたいに慌ててなかった。怖がっていたら住めないからね、うまく共存していたんですよね。

でも最近は、貯留管やポンプ場が整備されて、すっかり川の流れが穏やかになった。鶴見川流域も人口が増えて、水もきれいになったけど、「危ないから行くな」と親が子どもを川に近づけなくなって、昔の知恵が失われてしまっている。日頃から川に親しんでいれば、何が危ないか分かるようになるのに……。

そんな思いもあって、ゴミだらけになっていた河川敷を整備するように行政に働きかけて、平成21年に、防災拠点の船着場に隣接した大曲広場をつくりました。今、大曲広場は、掃除したり花を植えたり、私たち町民の手で管理しています。子どもから年寄りまでたくさんの人が川に親しむようになってきました。

30年後は、やっぱり昔みたいに釣りをしたいですね。僕が子どもの頃はいっぱい釣れたテナガエビを、もう一度釣りたい。これだけきれいになってきたから、必ずそうなるでしょう。それに、限られた人だけじゃなくて、誰でも使えるような川になれば、川の危険も分かるようになるし、マナーも守るようになるし。そんな鶴見川が見たいですね。

「鶴見川よ、劇場となれ!」

企業代表:「ファンタジースパ おふろの国」店長 林和俊さん(水マス推進サポーター)

店内にある「熱波神社」でお参りをする林さん。「治水」のご利益があるのだとか。

店内にある「熱波神社」でお参りをする林さん。「治水」のご利益があるのだとか。

鶴見川の目の前にある、この店ができて11年になります。当初は鶴見川の活動は知りませんでしたが、ウォーキングイベントなど、市民の方が活発に活動されていて、その度にお手洗いを貸したり、イベント会場として貸したりしていたご縁で、「水マス推進サポーター」に参加することになりました。

「せっかくこんな大きな川の目の前だから何かできないかな」と思い、川が一望できるカウンター席をつくったり、鶴見川にいるザリガニなどの生き物を店内に「流域水族館」として展示したりしていますが、実はこのイベントのターゲットは大人だったりします。

僕らの子どもの頃は「川に入るな」と言われていたのですが、最近は川もきれいになって、行政側の考えも変わって、以前のように封鎖された川ではなくなってきています。でも、今も人々が川に下りるのは花火大会の時くらいなので、もう少し触れ合う機会があればいいなぁと。

今、やりたいのは「河川アイドル」です。お風呂業界では、うちの店のスタッフも参加する『OFR(おふろ)48』という温浴アイドルがいるのですが、その河川版をつくろう、と、流域のみなさんと一緒に盛り上がっています。

あとは、「河川芸人」とか(笑)。そうやってマジメなことばかりじゃなく、若い人も目を向けてくれるようなイベントを川でやって、もっと川に人が集まるきっかけづくりができればいいな、と思います。30年後は鶴見川が劇場になっている。間違いありません!

「子供たちが自由に魚を捕れるように」

市民団体代表:NPO法人鶴見川源流ネットワーク事務局長 小林美晴さん(水マス推進サポーター)
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私たちは、2004年にNPO法人になりましたが、前身となった団体は1988年から町田市にある源流域で自然保護活動をしていました。1989年に源流の泉が枯渇する事件があり、その保全に成功したことを機に本格的な活動が始まり、今では源流域の雑木林の植生管理や、谷戸山の再生など保全活動の他、市民が自然に親しむためのセミナーやイベントも開催しています。

2004年には、町田市が、最源流の森40haを「源流保水の森」として保全し、周遊も可能な散策路が整備されつつあります。私たちが管理を担当している保水の森も、市民、企業、学校などによる様々な形の応援が広がって順調に生態系の回復が進み、国蝶のオオムラサキも増えてきています。「自然はみんなのもの」という意識を持って、みんなで面倒を見る森になればいいですね。

そして、それがさらに大きな力となり、保水の森を中心とした源流域が、文字どおり鶴見川流域の中で一番豊かな生態系を誇れる森になればいいな、と思います。保水の森に守られて、鶴見川がさらに安全で豊かな流れになり、30年後には、子どもが思う存分川に入って魚を捕れるようになっているといいですね。

「これまでの30年の成果に負けない、すばらしい30年後に」

行政代表:京浜河川事務所流域調整課 課長 斎藤充則さん
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私が思い描く30年後の鶴見川は、今よりもっと洪水に対する安全性が上がり、水質もきれいになっていること。あちこちの水辺が市民でにぎわい、街の少しの空き地でも必ず緑が植えられ、小さな水路には、復活した湧水できれいな水が流れている。水と緑がいっぱいで災害にも強い都市河川流域です。

市民が洪水に苦しめられ、「暴れ川」と呼ばれるほど暗いイメージだった川は、この30年間で憩いの空間に変わりました。今、鶴見川は「水マス」で、水質、自然環境、防災などにも取り組んでいるところですが、地球温暖化により豪雨が増えると予測されており、既に国内のあちこちで記録更新の雨が観測され、鶴見川も、いつ未曾有の豪雨に見舞われてもおかしくない状況にあります。

これまでの30年と比べると、今、世の中は、景気を含めて非常に厳しい状況にあると思われますが、流域に暮らしてきた先輩方がこつこつと積み重ねてきた努力をお手本にして、みんなで協力して取り組んでいけば、きっとすばらしい30年後が迎えられると思います。30年後の人たちが、また「これまでの30年に負けない…」と言ってくれるような鶴見川にしたいですね。

それぞれの立場で描くユニークな未来像、なんだかワクワクしてきますよね。

「川」は、水の循環をつくり、私たちの暮らしや社会を豊かにしてくれる大切な存在です。「川づくり」を考えるときに大事なのは、公共空間である「川」との付き合い方を、流域のみんなで考え、みんなで育てていくこと。あなたなら、身近な川にどんな未来を思い浮かべますか? 今度川辺を訪れた際に、少しだけ考えてみてください。そんな小さな一歩から、「川づくり」は始まるのです。

鶴見川の「水マス」について、もっと詳しく調べてみよう。