広大な砂浜でお洗濯!?
いえいえ、これはアート展のワンシーン。
ひらひら舞うTシャツは、すべてアート作品です。
太平洋に面する高知県黒潮町。
この街には美術館がありません。
でも、美しい砂浜という美術館が、人々の心を豊かにしてくれるのです。
想像してみよう。4キロに渡る砂浜を「美術館」に見立てると何が見えてくるだろう。普段は当たり前にある砂浜が美術館なら、空、海、いきもの、人々でさえ、そこにある全てのものが展示作品となる。時間によって、日によってその姿を変え、二度と同じ作品に出会えることはない……。
少しものの見方を変えるだけで、想像力が膨らみ、心が豊かになる。そんなことを教えてくれるのが、NPO「砂浜美術館」の活動だ。黒潮町の砂浜、町、花、産物、漂流物までも全てを“作品”に見立て、ユニークなイベントや活動を展開している。
中でも一年で最も賑わいを見せるのが、毎年5月上旬に開催され、今年で22回目を迎えるTシャツアート展だ。会場となるのは砂浜。このときばかりはこの広大な美術館に、Tシャツという作品がその名のとおり、“展示”される。日本中から応募で集まった、ひとつひとつ違う個性豊かなデザインのTシャツたち。洗濯物を干すように並べられたTシャツは人々の想いを乗せて、風の中でひらひらと踊り出す。
この光景だけでも圧巻。
今年も5月1日〜5日にかけて開催されるTシャツアート展だが、年々増え続ける応募総数は今年、1,339点にもなったのだとか。応募者全員のTシャツが会場でひらひらし、来場者の目を楽しませてくれる。また、「シーサイドはだしマラソン」「びーさん飛ばし大会」などの砂浜で開催される各種イベントに参加することで、自分自身もその作品のひとつになれるのも、このアート展ならではの楽しみ方だろう。
そして今年注目されるのが、こちらのフライヤーにあるとおり、モンゴルの草原でも“ひらひら”するという新たな試みだ。
昨年のTシャツアート展より始まったモンゴルとの交流。見方ひとつでどこでもできる“建物がない美術館”の考え方で世界をつなぐきっかけとして、昨年はモンゴルのウランバートルの街中にて、モンゴルの子供たちや芸術家の手によってデザインされたTシャツが展示された。
さらに今年は、念願だった草原での開催が決定。果てしなく続くモンゴルの草原の緑と地平線。見たことはないが、きっと“壮大”なんていう言葉では表せないほどの光景なのだろう。Tシャツがひらひらする風景を通じて、モンゴルの地平線と高知の水平線とつながるなんて、考えただけでもワクワクしてくる。高知からモンゴルへと旅立ち、思う存分はためいたTシャツは、潮と草原の香りをいっぱい吸い込んだまま、デザインした本人の手元に戻ることになっている。
砂浜美術館事務局長の村上さんによると、砂浜美術館の取り組みで、黒潮町に「ひらひらの文化」が生まれ、定着し、地域のブランドイメージが確立したとのこと。22年の歴史の中で、この取り組みが日本全国、世界に伝わり、住民の方も以前にも増して町を楽しむようになったという。
黒潮町を舞台としたこの取り組みは、何も特別な建物や造形物を作ったわけではなく、ただ、ものの見方を変えただけ。そのちょっとした提案が人々の心を豊かにし、新たな文化を生み出す結果となっているのだ。
「でも、砂浜の風景や、砂浜への想いは変わらず昔の自然のままなんです」(事務局長:村上さん)
変わらない景色を想像力で楽しむ砂浜美術館。ひらひら舞うTシャツは、”クリエイティブであれば人生はもっともっと豊かになる”、そんなことをゆっくり私たちに教えてくれているようだ。
ボランティアスタッフも募集中!Tシャツアート展詳細をチェック