職業を聞かれて「ライターです」と答える度に、実は心の中で「果たしてこの言葉はわたしの何を表しているのだろうか?」と思っています。
と、突然の吐露で失礼しました。やなぎさわまどかと申します。greenz.jpでは、連載「いかしあうつながりのレシピ」や「グリーンズの本棚(レビュー)」を書いたり、編集として記事制作に関わったりしています。また、十数年に渡るgreenz.jpのいちファンであることは今も同じです。
2017年、グリーンズ「作文の学校」第2期を受講し、書くことへの意識を新たにする機会や出会いを経験させてもらったわたしが、今回は僭越ながら「作文の教室」第8期にゲスト講師としてお邪魔いたします。そこで、自己紹介を兼ねたエッセイの機会をいただきましたので、どうぞ少しだけお付き合いください。
ライターとして
はじまりのとき
フリーランスライターとなって間もなく丸6年。自分の中で「食」と「環境」というの2つの軸をテーマにしながら、さまざまなプロジェクトで取材先、編集者さん、メディアの方々にお世話になっています。訪問先もまたさまざまですが、どの取材でも毎回新鮮な気持ちを心掛け、好奇心を前面に出しながらお話をうかがい、実際に書きだす時には秘かに、記事を届けたい人を具体的に思い浮かべながら書いています。
フリーランスとして独立する前は都内の会社に勤務していましたが、大きな転機は東日本大震災です。帰宅困難者となってハイヒールでアスファルトを歩き続けたことと、翌日の福島第一原発事故のショックが決め手となりました。生き方に対する価値観が一変し、そこから退職するまでの3年弱は、同じように勤めながらも「社会に対して自分は何ができるのか」「個人としてどう在りたいのか」と悩み、夫と一緒に考え話し合う日々が続きました。わたしの人生は、2011年3月11日の前と後に分かれる、と思っています。
震災ボランティアとして、活動レポート、お知らせ、イベント告知など、小さくても「どうか見て、読んで、知って!」と思いを込めて文章を書く機会が増え、それと同時進行でライフスタイルも少しずつ変わりました。余計なものは持たず、足るを知る範囲へとダウンサイジングし、自然のある所へ通い、食を学び直し、畑をはじめ、お話を聞きたい人に会いに行く。そうしたわたしの「もがき」を見守ってくれていた方々からいただいた出会いや機会の一つが、少人数で開催されたライター講座でした。
当時は全く意識していませんでしたが、振り返ってみるとこの頃が書き手としてもターニングポイントになります。私生活では食、農、自然、環境、サステナビリティといった実践をしつつ、現在の仕事に至る下積みのような経験をさせてもらっていた期間でした。
しっかりと生きて、
そして書く
「社会のために、わたしは自分が理想とする生活をする」と決めて以来、今もまだまだ理想に向かって努力中ではあるものの、良き生活者を目指す気持ちは、「食」と「環境」という自分の関心領域を明確にさせました。同時にそれがライターとして書きたい軸にもなり、いつの間にか取材にお邪魔する先では共感ばかり。いつも素敵な存在や価値観に出会えて、取材の度にこの世界に好きな人が増えています。
わたしが敬愛するひとりで、イラストレーターの高田ゲンキ氏は常々「個性はつくるものではなく『滲み出るもの』、消そうとしても残り続ける要素が自分のオリジナリティ」だと言っていますが、ライターも然りなのでしょう。個としての思想が、ライターとして書きたいことにつながっていくのかもしれません。
ここで、冒頭で吐露した思いに話を戻すと、職業を聞かれて「ライターです」と答えながら、つまりはこの言葉の概念の広さを感じているのでした。特にわたしの場合、気がつけば私生活と仕事の境界線は曖昧となり、でも、その曖昧さこそが、わたしを生きやすくしてくれています。
生きることは書くことで、書くことが生きることでもある。ライターという仕事の奥深さというか、懐の大きさというか、自由性の高さに惹かれて、救われてもいる。それがわたしの現在地だと感じています。
– INFORMATION –
greenz.jp副編集長のスズキコウタが主宰する、作文力=執筆力+編集観察力を伸ばすことができる実践的なクラス「作文の教室」(実践編)。2021年1月30日(土)スタートの第8期ゼミには、石村研二さん・村山幸さん・やなぎさわまどかさん・丸原孝紀さんがゲスト講師として参加! 前線でプロとして働くライター・編集者とともに、あなたの「伝えたい!」を形にします。オンラインクラスなので世界中からの参加歓迎!
https://school.greenz.jp/class/sakubun_2021_01/