greenz.jpでは新しい合言葉「生きる、を耕す。」のもと、一人ひとりの暮らしを通じた行動が社会を変えていくことを目指して、日本で、世界で、「生きる、を耕す。」を実践している事例を取材し、新しい時代に必要な“ものさし”を探究しています。
では、「生きる、を耕す。」とは具体的にどういうことなのでしょう?
これを説明することは、実はとても難しいと感じています。なぜなら、何をどう耕すかは一人ひとり違っていて、答えはその人自身の暮らしの中にしかないから。greenz.jpでも、まだまだ探究のなかにいます。
今回はその答えに近づくために、「生きる、を耕す。」を体現している人たちをご紹介します。
これからのあたり前は、いまの変。
新しい世界を見せてくれる「暮らしの変人」
働いて、お金を得て、生活する。それが当たり前とされる世の中で、積極的に無一文になって生活している工藤シンクさん。2011年に開村した熊本県の三角エコビレッジの発起人であり、現在はエコビレッジという「自律型のムラ」を全国につくるべく、各地を転々としています。
あるときは漫画家、あるときはフリースタイルラッパーと、常に自分のスタイルを固定しない工藤さんは、子どものころから「社会で疲弊しているおとな」への疑問を持っていたそう。「お金を稼ぐ」ことをはじめ、世の中の「普通」から感じる違和感と常に向き合い、「こっちもあるよ」と新しい世界を見せてくれます。
お金とは、ラーメンである。日本各地でエコビレッジづくりに奔走している工藤シンクさんが、無一文で生きる理由(by 草刈朋子さん)
工藤 もし、今ある経済が破綻したら、流通も止まって食料もなくなるかもしれない。そうなってくると、お金はもはやババ抜きの「ババ」で、お金を貯め込んでいる人が負けのゲームになってくるんだと思う。だから、僕が無一文で日本中を動き始めたのは、そのババをたくさん集めて、各地にエコビレッジをつくっていこうという作戦でもあるんです。だって、僕自身が欲にまみれていたら、誰も信用して出資しようとは思わないでしょう? だから、無一文で行動することは、僕がお金のためにやっているわけではないことをブランディングした1年です。あざといでしょ(笑) でも、やりたいことを実現するためには、むしろみんなにそういうことをしてほしいなとも思う。
リジェネラティブな暮らしを軸に、
地域を耕し、子どもの未来をつくる
震災後のまちに花や緑を植えつづけることで、「人の営み」を感じられる場を再生しようと取り組む徳水利枝さん。廃校をリノベーションして、子どもが生きる力を育む複合体験施設「モリウミアス」を運営している油井元太郎さん。ふたりの活動が交わり、新しいチャレンジが生まれています。
徳水さんの呼びかけで立ち上がった「雄勝ガーデンパーク」で、モリウミアスは、まちと子どもたちとともに、リジェネラティブな農業を始めています。地域を耕し、豊かな未来をつくろうとしているふたりからは、大地と人の力を信じる想いが感じられます。
津波被害の大地を、人の営みにあふれる場所に。石巻市雄勝町で子どもたちとまちの未来をつくるモリウミアスがいま、リジェネラティブ農業に取り組む理由(by 池田美砂子さん)
徳水さん 私には、この土地が嫌だって言わないものは、続くだろうという確信みたいなものがあります。人が来るだろうというのと同時に、花であったり木であったり緑であったり、それをめぐって人が来るのは、この土地が受け入れたがっている、嫌がらないだろうなって。
土地が許す限りは、失敗はないかな、いけるかなって思いました。
油井さん リジェネラティブ農業は(中略)新しいように見えますが、実はそれってモリウミアスでは当たり前にやっていたことなんです。人間が出した生ごみを堆肥にして鶏とか豚の糞とか微生物の力を借りながら堆肥にして、自分たちで野菜や米を育てて、それを子どもたちが収穫して食べる。ここでは本当にいろいろなものが循環しているんです。
より良く働き、生きるためのキャリアブレイク
一時的な離職や休職を肯定的に捉える「キャリアブレイク」。この考え方を日本でも広めていくために「一般社団法人キャリアブレイク研究所」を立ち上げ、「無職酒場」「むしょく大学」といった事業に取り組んでいる北野貴大さん。活動をはじめた根っこは、自身のパートナーが離職期間中に自分自身を見つめ直し、次に向かって活動する姿を見て、「無職」というイメージが変わったことにあるようです。
北野さんは事業を設計するうえで、その場にいる誰もが主体的に動くような状態をつくることを意識しているそうです。心から何かしたいという思いを軸にキャリアを描くことは、「生きる、を耕す。」うえで切り離せないポイントではないでしょうか。
“無職期間=小休止“という文化を、日本に根付かせたい。「キャリアブレイク研究所」がつくる、休・離職者が“感性を取り戻す“場とは?(by 小黒恵太朗さん)
北野さん (離職したパートナーのことを)最初は心配していましたが、「ケアしすぎないで大丈夫だよ」と言われて。信頼して見ていたら、畑を借りたり、学校に行って資格をとったり、どんどん新しい挑戦を始めたんですよ。もともと商社に勤めていましたが、無職期間を経て、ITプログラマーとしてまったく新しい道を歩み始めたんです。無職期間は彼女にとってブランク(空白)ではなく、ブレイク(小休止)だったんだと、改めて気づきました。その後、こうした状態を「キャリアブレイク」と呼ぶことを知ったんです。
縄文の感覚は取り戻せる。「ネオ縄文」な暮らし方
ダンサーとして活躍する傍ら、大阪府中崎町で自身が営むコミュニティカフェで ”縄文の意識で暮らす” シミュレーション実験をしている天人純さん(以下、JUN)。ダンサーとして身体の使いかたについて研究するうちに発見した、先住民の “中心をもたない” 精神性を現代にも落とし込むべく、地域を巻き込んで試行錯誤を続けています。
身体を通して学んだことから仮説を立て、実験し、追究をやめない。JUNさんの探究が、「生きる、を耕す。」姿勢そのものに見えてなりません。
「僕らの中の縄文を取り戻そう」舞踏家として世界中の先住民たちと一緒に踊った天人純さんが見つけた、幸せに生きる知恵とは? (by 三輪ひかりさん)
JUN (どうすれば縄文的な暮らしを取り戻せるのかというと)一番根本的なのは、身体の感覚というものを取り戻すことかなと思います。いま僕たちが自然としてしまっている「真ん中を中心にした運動」が、思考や身体の動き、すべてに影響をしているのですが、それを「移軸を意識した運動」(中心がなく、2本の軸を左右に移動して体を動かす)に切り替えるということです。
「いかしあうつながり」がもっと豊かになるように「生きる、を耕す。」
ここまではgreenz.jpが追いかけてきた「生きる、を耕す。」人たちを紹介してきました。では「生きる、を耕す。」を合言葉に掲げるメディアの編集長として、増村江利子はどのような問いをもち、何を実践してきたのでしょうか。グリーンズを通じて耕してきた自分自身の生き方や暮らしについて、前編集長・鈴木菜央とともに語ります。
グリーンズはこれからも“灯台“であり続けたい。導くのは、新旧編集長・鈴木菜央と増村江利子が共に探究して見つけた「暮らしを自分でつくると楽しい」という生き方(by 村崎恭子さん)
江利子 私のやっていた電子オルガンや音づくりに必要な機材って、全部電気で動かすんですよね。元をたどれば、「電気がないと私は音楽ができないんだっけ」とか、「暮らしの中でこんなに配線コードがあるのは一体なぜ?」っていうのは、大学生の頃から強い意識として持っていたんです。
だけど、解決する手段も哲学も持たないままに3.11を迎えて、パッと思い出したんです。配線の奥に、福島の原発というエネルギーがあることに。知っていたはずなのに無関心で、知ろうともしなかった自分に驚愕して、苦しかったですね。
そうしたらある日、菜央さんが「今度いすみで、藤野電力の人が太陽光パネルをつなぐワークショップをするから、参加してみない?」って声をかけてくれて。そのワークショップで人生が変わっちゃったんです。「なんだ、電気って自分でつくれるんだ」って。
「生きる、を耕す。」人たちを見てみると、一人ひとりがその人なりの“ものさし”を持っていることがわかります。そしてみなさんに共通しているのは、暮らしの中に問いや違和感をもち、それに向き合って試行錯誤を繰り返すという、問いと実践を続けることではないでしょうか。
みなさんも一緒に、「生きる、を耕す。」ために、小さな問いを探すことからはじめてみませんか?
– INFORMATION –
~自然環境を再生して、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す~
(2/15までのお申し込み、先着30名は早割!)
本カレッジは「環境再生」を学ぶ人のためのラーニングコミュニティ。第一線で挑戦する実践者から学びながら、自らのビジネスや暮らしを通じて「再生の担い手」になるための場です。グリーンズが考える「リジェネラティブデザイン」とは『自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻すような画期的な仕組みをつくること』です。プログラムを通じて様々なアプローチが生まれるように、共に学び、実践していきましょう。