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編集長・増村江利子が『グリーンズ号外』で伝えたい、能登半島のいま。ゆっくりでも前に進む能登が、私たちの未来に教えてくれること

タブロイド誌『グリーンズ号外 vol.01』を置いてくださる方を募集しています。10部単位、着払いでの発送となります。ご協力いただける方は記事末のフォームよりお申し込みください。

2024年の始まりの日、能登半島で発生した大規模地震。その後、能登は9月にも豪雨災害に見舞われました。「復興が進んでいない」と耳にすることも多い能登ですが、実際はどうなのでしょうか。グリーンズの視点から、能登半島のいまを伝えよう――。そんな想いから、タブロイド誌『グリーンズ号外 vol.01』を発行することにしました。第一号となる特集「能登半島のいま」では、編集長の増村江利子が能登を訪ね、復興に向けて活動を続ける6人に話を聞きました。

能登は、歩みを止めてはいない

輪島市白米町にある世界農業遺産の白米千枚田。地震と豪雨により被害を受けた。写真は豪雨災害が発生する前に撮影した(写真:蒲沼明)

――能登半島地震が発生してもうすぐ1年です。このタイミングで号外を発行し、能登を特集する背景にはどのような想いがありましたか?

能登は復興が進んでいない、という声をよく聞きます。確かに、何ヶ月経っても、瓦礫の山がそのままだったり、崩れた家がそのままだったりします。でも、それは外から見たらそう見えるのであって、能登のみなさんは復興に向けて前を向き、歩みを進めているのではないか。ゆっくりでも歩みを止めてはいないこと、まだまだ復興の途中にあること、たくさんの人にボランティアに入ってほしいことを伝えたかったです。

これは実際に能登にインタビューに行って、お話を聞いてわかってきたことですが、例えば、建物が倒れたままで何も変わっていないように見えても、家の中の荷物は運び終わった状態かもしれない。半壊なのか、準半壊なのかの判定をうけて、その判定に不服申し立てをしていたり、建て直すか、解体するか、そういった選択に悩んでいたりするところかもしれない……。

ここに住み続けるのか、どこかへ移住をするのか、建て直すのか、建て直さないのか。それって人生の、あるいは家族の大きな選択ですよね。だから難しい。一つひとつの判断がすごく重たくて、すべてに時間がかかっているのだろうと思いました。

――『greenz.jp』では、これまでも能登半島地震に関する記事をいくつか出していますね。

そうですね。1月1日に地震が起きてすぐ、グリーンズ内でも能登について記事を出してはどうか、という声が上がりました。そこでひとまず、1月7日に「“寄付=みんなの想い”で支えられているメディアだからこそ、その想いを被災地の仲間へ届けたい。令和6年石川県能登半島地震の寄付先、ボランティア募集情報」を掲載しました。でも、これで終わりにしたくないと思っていたんです。復興に向けて立ち上がる人や、そうした人の想いをいつか取り上げられたらと思っていました。

きっかけは、珠洲・あみだ湯での出会い

――グリーンズのメンバーでもボランティア活動をするために能登を訪れていますね。

2024年5月に、奥能登と言われる、石川県珠洲(すず)市へ行きました。共同代表の植原正太郎の「能登のボランティアに行きませんか」という呼びかけがきっかけでした。

珠洲市で「公衆浴場 海浜あみだ湯」を震災後わりとすぐに再開した新谷健太(しんや・けんた、通称しんけん)さんに会いに行き、営業時間外に風呂場の掃除をするボランティアをしました。そのことはgreenz.jpで記事(「震災後、人々を支えたのは「銭湯」だった。能登半島「あみだ湯」でのボランティアで出会った“生きる力の循環”」)にしています。

それでご縁を得たんです。私は再び能登に来るべきだ、一度のボランティアで終わりにしてはいけないという気持ちもあって、しんけんさんに「絶対また来ます!」と言ってお別れしました。それで、能登とどのような関わりをもったらいいのか、メディアとしてできることは何か、あらためて考えたんです。

――しんけんさんとの出会いから号外の構想が湧き上がってきたんですね。

号外でもインタビューさせていただいたしんけんさん(写真:蒲沼明)

これまで、本当にたくさんの人にお会いしてお話を聞いてきました。インタビュー後には、本心から「また来たい」とお伝えするのですが、約束できないことを約束して帰るのは無責任だという気もしていて、「来たい」とは言うけれど、「来ます」とは言わないようにしているところがあります。

でも、しんけんさんには「絶対また来ます」って意思をもって伝えました。その後、グリーンズからタブロイド誌として号外を出そうと思い立ち、能登で頑張る何人かにインタビューしたいことを、最初にしんけんさんに伝えました。

復興が進んでいないように見える、本当の理由を探しに、再び能登へ

――号外の制作は、ボランティアに行った後、すぐに取りかかったんですか?

少し時間が経ってからでした。友人や知人も能登のボランティアに行っていましたが、SNSでその様子を見ていると、震災から7カ月、8カ月経っても「建物が倒れたままです」という投稿ばかりで、何も変わってないように見えるんです。さすがに、一体これはどういうことなんだろうって思っていました。

国や県はどうしているのか、なぜ能登を助けようとしないのか、といった情報が溢れてはいたけれども、本当のところがわからなかった。いろいろ調べてみましたが、能登までの距離が遠いことや道路の問題、制度上の課題などもありそうでしたが、それでもまだ、なぜ復興が進まないのかという疑問が拭いきれませんでした。

それで、自分自身でもう一度能登へ行こうと思いました。黙々と立ち上がるような気持ちで、ちゃんと能登を取り上げよう、能登で頑張る人たちの声をしっかり届けよう、Webマガジン「greenz.jp」だからこそやるべきだ、という使命感を持ちました。

――9月に号外のインタビューで能登を再訪しています。まちの様子はいかがでしたか?

私が行ったのは豪雨災害(9月21〜23日)が発生する少し前でした。建物は倒れたままで、その脇を人が歩いているし、車が行き交っている。倒壊した家屋とともに暮らすことが日常になっていました。食品が販売されているスーパーに立ち寄ると、地元の方が「どこから来たの?」「お土産を買っていくならこれこれがいいよ」って明るく声をかけてくれました。暮らしが瓦礫の山の上にのっていると感じました。

(写真:蒲沼明)

――号外では、復興に向けてさまざまな役割を果たしている6人のプレイヤーにインタビューしています。読んでみると、大人や子ども、地元の人、移住してきた人、動物など、いろいろな視点から能登のいまに触れることができます。インタビューされた方の言葉で特に印象に残っているものはありますか?

今回は、株式会社御祓川の森山奈美(もりやま・なみ)さん、株式会社百笑の暮らしの山本亮(やまもと・りょう)さん、みんなの馬株式会社の足袋抜豪(たびぬき・ごう)さん、海浜あみだ湯の新谷健太(しんや・けんた)さん、特定非営利活動法人じっくらあと事務局の小浦明生(こうら・あきお)さん、株式会社雨風太陽の高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんにお話を伺いました。

印象に残っているのは、号外の表紙にも書いた、森山さんが話されていた家の修繕にかかるお金の話です。

能登半島中央部の七尾市出身で、1999年から同市で民間のまちづくり会社を運営する森山さん(写真:蒲沼明)

例えば、建物が壊れてしまって建て直しに約600万円かかるとします。そのうち200万円ほどは支援で賄えそうですが、残りの400万円は自費で捻出しないといけません。でも、自分が75歳だと想像してみてください。ポンと出せる人もいるかもしれませんが、結構な金額ですよね。そのお金を借りるのか。そして、解体を考えて見積りをとると400万円ほどかかると言われてしまう……。

だから、家をどうするかという意思決定には、とても時間がかかる。これが判断が難しい、歩みがゆっくりである理由なんだとよくわかりましたね。

そして、もうひとつ印象的だったのが、雨風太陽の高橋さんのお話です。

『東北食べる通信』や「ポケットマルシェ」を立ち上げてきた高橋さんは震災直後に単身で能登に入り、復興支援を続けてきた(写真:廣川慶明)

2週間ぐらい孤立していた集落があって、自衛隊の方がヘリで水や食料、救援物資を持っていくわけです。何人が生存しているのか、緊迫した状況だったと想像しますが、降り立ってみると、おじいちゃんたちはサザエを獲って焼いていて、「お前らも座って食っていけ」と言う。他にも、水の復旧が一番早かった地域は、自分たちで水源から簡易水道をひいている集落だったそうです。自分たちで管理をしているから、直し方もわかる。

greenz.jpのタグライン(合言葉)でもある「生きる、を耕す。」ってまさにそういうことなんです。そして、これは本当の意味での自治であると感じました。社会システムが老朽化するなかで、どう社会をデザインしなおすかという観点で、あらためて自治はこれから大きなテーマになるだろうと思っています。

そして、その集落の方たちが持っている「生きていくためのリテラシー」は、80代、90代の方々でなければ持っていないスキルになろうとしている。農村集落であっても、暮らしと仕事が一体になっていない世代、言い換えると自然と暮らしが離れてしまってからは、残念ながら、もうそのスキルを持っていないと思います。そのスキルがなければ、震災時には、外からの救援物資をただ待つことしかできないかもしれません。

これも、社会を初期設定しなおすときに、そうしたリテラシーがある前提で社会をデザインするのか、ない前提で社会をデザインするのか、そこには大きな違いが生じると思います。最近、1次産業、2次産業の手前に、「0次産業」をつくることが必要なのではないか、と考え始めています。まだうまく言語化できていないところもありますが、自然資本や文化資本を再生することを「0次産業」だと見立てたときに、「生きていくためのリテラシー」をサービスで享受しているいまの状態では、本当の意味で「0次産業」に向き合うことは難しいと思っているんです。

『グリーンズ号外 vol.01』 株式会社百笑の暮らし・山本亮さんインタビュー

『グリーンズ号外 vol.01』 特定非営利活動法人じっくらあと・小浦明生さんインタビュー

能登に学ぶ、「生きていくためのリテラシー」を身につける大切さ

――グリーンズにとって号外『能登半島のいま』を発行する意義はどんなところにありますか?

グリーンズが発信している「生きる、を耕す。」の「耕す」は、こうでもない、ああでもないと自分の身体や頭をつかって、試行錯誤を繰り返すこと。震災からの復興は、まさに「生きる、を耕す。」を実践することです。だからこそ、能登半島のいまを伝えることに意義があると思いました。

号外の最後のメッセージで「半島」について私の見解を書きました。能登の人々に見た「生きる、を耕す。」ためのスキルは、能登半島の地理性とも関係しているように思います。

私はこれまで、さまざまな取材で離島や半島に行きました。半島でいうと、今年は、能登半島のほかに青森県の下北半島にも行きました。

離島は、物理的に本島と離れているのでいろいろな危機感を持って自立し、自走しているように思います。食もエネルギーも、万が一のことを考えて、自分たちが生きられるようにしていかないといけないという、どこか強さを感じるんですよね。

半島も少し似ているように思うんです。奥能登は金沢市から車で2時間ぐらい、下北半島も青森市から車で2時間ぐらいかかります。どちらも本島にあって、地続きではありますが、距離が離れているがゆえに昔ながらの慣習や風習、私たちの世代がもう忘れてしまっている「生きていくためのリテラシー」がたくさん残っているような気がするんです。

足袋抜豪さんが運営する、人と馬が共生する森の放牧場「珠洲ホースパーク」では、かつて競走馬だった馬たちがのんびり暮らす(写真:蒲沼明)

――先ほどから出てくる「生きていくためのリテラシー」は、号外でも大事なキーワードになっています。

東日本大震災の時にも思いましたが、広い視点で見ると、今回の能登半島地震は日本の農山村が抱えている課題を、いわば表面化したということだと思うんです。コロナ禍である意味、地域課題は顕在化した部分もあると思います。地域活動の担い手の減少や、インバウンド観光頼みの地方再生のリスクなど。飲食店では配膳ロボットが導入されて、コロナ禍は社会を進めた、とも言われていますよね。震災によって、残念ではありますが、地域の過疎化という現象が、一気に進んでしまっていると思います。その課題をどう捉え、どう道筋を描き直すのかは、とても大事なことだと思っているんです。だから私たちは、能登の復興をしっかりと見届ける必要があると思います。

集落から人がいなくなり、閉じる集落も出てきています。けれども、その閉じ方もすごく大事だと思います。集落で暮らす人が少なくなってきた段階で、どういう未来を描くのか。集落の子どもの人数が減って、通学する児童が少なくなってきたときに、学校というものをどう地域で位置付けるのか。

そうした集落を、市の中心的な場所に集約するのは、さほど難しくないと思います。子どもたちが少なくなった学校を廃校にして統合していくのも、さほど難しくないと思います。でも、本当にそれでいいのか、ということです。誰のための集約、統合なのか。そのほうが効率がいい、無駄なコストがかからない、そういう視点で判断していいのか、大きな疑問があります。そもそも少人数のデメリットとは何なのか。

大切なのは、そのときに、行政に頼るのではなく、自分たちで立ち上がれるかどうかだとも思います。そこで必要なのが、「生きていくためのリテラシー」であり、そのリテラシーを前提とする自治なんです。行政にお任せしてきたことに、向き合う時期にきている。すべてのグランドルールを、住民自らが編み直して、住民自身が、その担い手である必要がある。それはこの号外だけで描ききれることではありませんが、号外を発行しようと思った根底には、そうした農村集落への課題感もありました。

タブロイド誌にすることで、グリーンズを知らない人にも届けたい

御祓川のオフィスが入る建物の掲示板。「やわやわ」とは能登の方言で「ゆっくり、無理せず」の意味(写真:蒲沼明)

――確かに、能登の復興の過程から学べることは多そうです。タブロイド誌にこだわったのはなぜでしょう?

今回の号外を紙媒体にすることで、例えばまちのカフェやゲストハウス、コワーキングオフィスや書店、文房具店など、いろいろな場で手に取ることができるようになります。誰かが誰かに手渡すことも含めて、greenz.jpをいつも読んでくださっている方々だけでなく、グリーンズのことを知らない人も含めて、もっと広くみなさんに能登の現状や、能登で頑張る人たちのことを知ってほしいという気持ちがあったからです。

いろいろな立場や世代の方に読んでいただき、その人にとって能登が自分ごとになったらいいなと思います。能登を応援したい、能登を忘れない気持ちを持ってほしいんです。

――号外はグリーンズの会員(greenz people)のみなさんの寄付金を活用させていただき、無料で配布するのですね。

これまでは会員のみなさんに、特典として書籍やツールをお返ししていましたが、今回はその寄付を原資に、多くの人に広めるために使わせてもらうことにしました。寄付いただいたお金を“よりよい未来”をつくるために使わせてもらう、恩送りのような新しいチャレンジをさせてもらえたらと考えました。

送料のみ、着払いでご負担いただきますが、申し込みいただければタブロイド誌を配送します。PDF版はWeb上でダウンロードできます。もともとは2,000部を印刷するつもりでしたが、配布申し込みを開始してすぐに申し込みが殺到し、最終的には5,000部刷りました。ぜひ多くの人に読んでもらいたいです。

――グリーンズでは今後、能登の復興をどんなふうに伝えていきますか?

号外を通じて、能登の方々との接点をつくることができました。具体的な企画はこれからですが、このままではやっぱり終われないという気持ちがあります。本当にありがたいことに、まだ完成も配布もしていない段階で、ライターさんをはじめ知人や友人から、「能登のために自分は何ができるのかをずっと考えていた。号外の第2号を出すなら、手伝わせてほしい」とメッセージをもらったりしています。いずれにしても引き続き能登を、能登で頑張る人たちを追いかけていきたいです。

――グリーンズの編集長として、今回の号外の制作など、メディアを通じて「生きる、を耕す。」を実践しようとしているのですね。何が原動力なのでしょうか?

今の時代に共感を得られることって「本気度」なんじゃないかと思います。本気だからこそ、伝わる何かがある。

まずは私自身が、本気で耕し続けないと、って思います。

「本気度」って言葉にするとものすごくチープですが、たった一人の真剣な眼差しや、たった一人の言葉に救われることがある。勇気づけられたり、お守りみたいに大切にしたいと思えたり。それは1行の文章や行間に、あるいは1枚の写真にも、現れるような気がするんです。情報が溢れている社会だからこそ、誰かの人生を変えてしまうくらいの記事を、1本1本、気持ちを込めてつくりたいと思っています。

– INFORMATION –

『グリーンズ号外 vol.01』の配布にご協力いただける方を募集しています!


このタブロイド誌『グリーンズ号外 vol.01』を置いてくださる方を、以下のGoogleフォームにて募集します。10部単位で、着払いで発送させていただきます。配布できるよ、置いてもいいよ、という方はぜひ、以下のボタンからお申し込みください。印刷部数には限りがあるため、早いもの勝ちになってしまいますが、ぜひみなさんのご協力をお願いできたらと思います!

※印刷部数には限りがあるため、先着順となります。
11/30(土)23:59 までにお申し込みの方には、12月中旬頃にお送りします。それ以降のお申し込みは1月下旬配送の予定です。
※今回の号外の制作費用(編集・執筆・デザイン・印刷等)は、グリーンズの寄付会員「greenz people」のみなさんからの寄付でまかなっています。号外自体には費用はかかりません。「送料分のみ着払い」でご負担いただきますので、予めご了承ください。

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(編集:廣畑七絵)