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グリーンズはこれからも“灯台”であり続けたい。導くのは、新旧編集長・鈴木菜央と増村江利子が共に探究して見つけた「暮らしを自分でつくると楽しい」という生き方

「これまで、僕の知らないグリーンズってなかった。“新しいグリーンズ”を見たいなっていう気持ち」

「メディアをつくる以上に組織もつくり直そうと思っているし、その覚悟もある」

そう言葉を交わす、前編集長・鈴木菜央(以下、菜央さん)と新編集長・増村江利子(以下、江利子さん)。

この「編集長交代」という大きな変化は突然起きたことではなく、実はずっと前から始まっていたと菜央さんは言います。ふたりは「わたしたちエネルギー」「暮らしのものさし」といった連載だけでも200本以上の記事を一緒につくりながら、それぞれの生き方を深めてきました。

今回は、そんなふたりの対談を実施。2つの連載について振り返るとき、ふたりの表情がひときわパッと輝いたのが印象的でした。

この連載は、当時のふたりの人生の探究そのものだったわけで、なるほど、そのときからバトンタッチが始まっていたのかもしれません。そして、連載を通して見つけていった生き方はもちろん、そこに至るまでのそれぞれの人生をうかがってみると、もっともっと前からそのストーリーは始まっている気がするのです。

鈴木菜央(すずき・なお)

鈴木菜央(すずき・なお)

NPOグリーンズ共同代表/greenz.jp編集長/武蔵野大学工学部サステナビリティ学科准教授。バンコク生まれ東京育ち。ソトコトで編集などを経て2006年にウェブマガジン「greenz.jp」を創刊。千葉県いすみ市と東京都調布市の二拠点生活中。いすみローカル起業プロジェクト、いすみ発の地域通貨「米(まい)」、パーマカルチャーと平和道場、トランジションタウンいすみなどを共同で立ち上げ、いすみ市での持続可能なまちづくりに取り組む。関係性のデザインを通じた持続可能な生き方、社会のつくりかたを鋭意実験・模索中。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』など。

増村江利子(ますむら・えりこ)

増村江利子(ますむら・えりこ)

国立音楽大学卒業後、Web制作、広告制作、編集を経てフリーランスエディターとして活動。2017年に東京から長野県富士見町に移住。3児の母。家族5人、犬2匹、猫3匹とともに、あらゆる生活家電を手放して約9坪の小屋で暮らすミニマリスト。2020年に竹でつくったトイレットペーパーの定期便「BambooRoll」の販売を手掛ける、おかえり株式会社の共同創業者として取締役に就任。2023年4月、WEBマガジン『greenz.jp』編集長に就任。

春になると、どんな山野草が芽を出すか、庭を観察するのが日課。ミニヤギを飼いたいと考えている。

※「新編集長就任のお知らせ」はこちらをご覧ください。

3.11、グリーンズはみんなの灯台になった

菜央 江利子さんとは、「暮らしのものさし」や「わたしたちエネルギー」の2つの連載を一緒にたくさんつくって。自分が一番やりたくて、興味のある分野だったから、めちゃくちゃ楽しい連載だったよね。「どこ行こう?」「誰に会いに行こう?」みたいな。毎回毎回、深まっていったしね。

江利子 うん、うん。本当に、自分がまさに会いたい人、話を聞きたい人に会いに行くわけだから、自分自身にアップデートが確実にあって楽しかったし、さらにそれを読者に届けることに、とても意義を感じていました。

菜央 その中で「自分で暮らしをつくる」ということについて、本当にたくさん話したよね。自分でつくるとは、責任を持つこと。水道を自分で引いて水漏れしたら、自分で直せるし、直す責任を持つべきなんだよね。全てお任せにしてしまった結果が2011年の原発の大事故につながって、日本の一部に人が長い期間住めないような悲劇が起きてしまった。もちろんできないことはプロに任せるけれど、最初から100%任せきりにして無関心なんじゃなくて、自分の暮らしは自分でつくるという、そういう価値観。

江利子 3.11のとき、生産と消費があまりにも離れているシステムが当たり前のように成り立っているけれど、当たり前ではないということに気づいたし、その当たり前ではないシステムに自分が知らず知らずのうちに支配されているのではないか、と思うと怖くもなった。このままの暮らしでいいんだろうかと捉え直すきっかけになりました。

当時私は、ベンチャー企業でメディアのタイアップ広告を制作していたんです。少しずつ、不必要なものを手放して自分がミニマリストに向かっていく中で、「本当に必要なんだろうか?」というものや、自分がそれほどいいと思っていないものでも、読者には「いいですよ」って言うわけですよね。本心との矛盾が大きくなったことをきっかけに、ちょうど出産も重なって、「これからは会社という組織のためではなく、自分のため、ダイレクトに社会のためになることを仕事にしよう」と思って会社を辞めて、グリーンズのライターになる選択をしました。

当時のグリーンズって「マイプロジェクト」っていう言葉がたくさん出てきていて、「小さくていいから、自分ごとから発信したプロジェクトをどんどんつくることで、社会はもっと明るくなる」というメッセージを発信していた時期だったと思います。自分だったらなんだろうって思えたし、これを世の中の人に届けたいってすごく思いましたね。それがグリーンズに入った頃の気分でした。

江利子さんのグリーンズデビュー記事は、連載「消費されない生き方」で書いた『大量生産の時代に必要なのは”捨て方のデザイン”!素材として廃棄物にいのちを吹き込む「モノ:ファクトリー」

菜央 3.11の後、グリーンズの記事はストーリーを重視したり、個人の体験を体感できたりする形に大きく変わっていった気がするね。「社会ってつくれるんじゃないか」みたいなことを言い始めた時期でもある。green drinks Japanの問い合わせも爆増して、月2〜3回やるようになっていった。みんなが心から、「こういうときにコミュニティが必要なんだ」「つながりが必要なんだ」って実感したんじゃないかな

2011年8月、「green drinks BOSO 自然エネルギー」の様子。「green drinks」とは、「環境」や「持続可能性」をテーマに、世界500都市以上で開催されているイベント。グリーンズは「green drinks Japan」というムーヴメントを立ち上げ、日本全国に新しい対話の場づくりとして広めてきましたが、3.11以降、green drinksが一気に日本中に広がりました

3.11の後、地下鉄フリーペーパー「メトロミニッツ」で一冊まるまるgreenz.jpの特集をしたところ、思いもよらぬ大反響に。震災を機に多くの人の価値観が変わり、グリーンズが広く知られるきっかけにもなりました

菜央 不思議なんだけど、greenz.jpって危機が起きるとアクセス数が伸びるんですよ。「グリーンズは灯台みたいな感じ」と言ってくれる人がいるんだけど、3.11の直後は、たぶん今見ても、最高アクセスに近い1ヶ月だったんじゃないかな。記事本数は少なかったのにね。

グリーンズのあり方は、菜央さん自身だった

菜央 元をたどれば、僕がgreenz.jpを始めるまでの流れには、いくつかの要素があると思っています。

1つは、僕がバンコクで生まれて、経済格差の中で育ったこと。不公平な世の中とか、経済的な差はどこから来るんだろう? と思っていました。2つめは、僕がぜん息だったこと。なんでこんなに辛いのか、この病気はどこから来るんだろうってね。3つめは東京に家族で引っ越してきて感じた、いい成績をとっていい大学に入って、大きな会社に入らないと、いい暮らしはできないという価値観に対する反発。「正しいレールがあって、そこから外れたらだめ」みたいな世界観にすごく腹が立っていたんです。

その後、高校生のときにインターネットの存在を知って衝撃を覚えた。国とか大企業がコントロールできない領域で、個人の創造性を発揮できる。「ここだったら、僕たちが暴れられるじゃん」って、めちゃくちゃ興奮したんだよね。

そんなのが全部合わさって、なんとなくgreenz.jpを始めることにつながっていった気がします。

江利子 社会に対する憤りみたいなものが根底とかバネになっているんですね。そういった小さな声を拾っていくのが、グリーンズらしいことだと思うんです。それは菜央さん自身だった。そんな感じがしました。

菜央 あとは「デザイン」っていう流れもあるかな。僕はもともとデザインに興味があって、美術系の大学に行きたかったんだけど、絵がまったく描けなくて、学科試験だけで入れるデザインの学校に進んだ。デザインやりたかったのにまた挫折して、「相手にしてくれないなら、違う領域をデザインするからいいよ!」みたいな感じで数年かけて、「社会のデザイン」に近づいていった。それを言語化できるのはずっと後なんだけど。

立ち上げ当初のgreenz.jp

菜央 グリーンズのタグラインの変遷にも僕が表れている気がしていて。2006年にグリーンズを立ち上げたときの「エコすごい未来がやってくる」というのは、インターネットにはじめて出会ったときのワクワクした感覚と同じだったと思う。

2000年代の「エコロジー」って、一部の人たちが公民館でやる勉強会のイメージだったけれど、そういうダサいイメージをぶち壊したかった。エコロジーは超かっこいいし、最先端で、一番クリエイティブな領域なんだよ、と。中でも僕はエコヴィレッジに興味があって、グリーンズでもコミュニティについて考えるような記事が多かったように思う。

「アースデイ東京」にて、100%ソーラー電源でつくった「速報ステーション」

共通の価値観は「自分でつくる」「小さく暮らす」

江利子 菜央さんは美術だったけど、私は音楽で。ずっとやってきた電子オルガンで入学できる学部が、伝統ある音大に新設されて「ここしかない」という思いで選びました。

私のやっていた電子オルガンや音づくりに必要な機材って、全部電気で動かすんですよね。元をたどれば、「電気がないと私は音楽ができないんだっけ」とか、「暮らしの中でこんなに配線コードがあるのは一体なぜ?」っていうのは、大学生の頃から強い意識として持っていたんです。

だけど、解決する手段も哲学も持たないままに3.11を迎えて、パッと思い出したんです。配線の奥に、福島の原発というエネルギーがあることに。知っていたはずなのに無関心で、知ろうともしなかった自分に驚愕して、苦しかったですね。

そうしたらある日、菜央さんが「今度いすみで、藤野電力の人が太陽光パネルをつなぐワークショップをするから、参加してみない?」って声をかけてくれて。そのワークショップで人生が変わっちゃったんです。「なんだ、電気って自分でつくれるんだ」って。

江利子 グリーンズはそのときすでに「社会は自分でつくれる」と言っていたし、そういう風潮もあったけれど、私にとってはその一歩目がすごく大きかった。つくれると思っていなかったものが自分の手でつくれた喜びが大きくって。それがおそらく、今の全ての原動力になっていると思っています。

それをきっかけに、「暮らしを自分の手でつくるところに取り戻さなきゃいけない」と気づいたんですね。ごみを出したら運んでいってもらえるような、見えないシステムに依存しているけれど、全てのことに責任を取らないともう地球がもたないなという感覚があって。

「暮らし」という言葉でまとめると掃除とか料理とか、家事の部分をイメージしがちですが、もうちょっとその根幹にある「生きるリテラシー」に近いような部分を見ている感じです。私は、暮らしをつくるために必要なリテラシーを持ちたい。そこをやるんだってある種の覚悟を持ったんです。

菜央 「自分でつくる」っていうところは、僕と江利子さんの共通の価値観なんじゃないかな。僕は3.11の後に小屋ブームがきて。2014年頃かな、アメリカでちょうどタイニーハウスのムーブメントが始まった頃で、それを見ていたら「これは本当に僕がやりたいことだ」って思ったんですよ。

リーマンショックの引き金になった「サブプライムローン問題」で、家のためにローンを組んだ、たくさんの中流階級や労働者階級の人たちが、苦労して買った家を失ったんですよね。そのときに、「大きな家を買うよりもクオリティが高い小屋を自分でつくって住めば、家賃の高騰にもローンにも苦しまなくて済むし、そっちの方がよっぽど人生楽しいよね」っていう具合に、社会の大きな流れへのカウンターの動きを自分たちでつくっちゃうのがめちゃくちゃかっこよかったし、素晴らしいなと思った。

「小屋を建てたい」ってTwitterでつぶやいたら、「じゃあ一緒に建てましょう」って言ってくれる企業があって。理想の小屋を「小屋展示場」というイベントで建てさせてもらった。その小屋を、のちにいすみに移築したんです。

小屋をいすみに移設する様子。右側の赤い家は、菜央さんが4年間暮らしたトレーラーハウス

江利子 「小さく暮らす」というのも、同じように大切な価値観として自分の中にもありますね。私の場合は、小屋より先にものの持ち方にすごく興味がありました。

1個ずつ減らしていくのが楽しくてしょうがなくて。毎日洗濯をすれば下着は2枚でいいじゃんという発見や、自分の洋服は引き出し1段分だけで、手の届く範囲でものとちゃんと向き合えることがうれしくて。洋服も家電も、一つひとつ整理していったんですよね。その結果、私もやっぱり小屋でした。八ヶ岳の麓に移住して、トレーラーハウスに住んでいましたが、さらに小さくなって、今9坪の家にいるのは、菜央さんと同じムーブメントに乗ってきているのだと思います。

菜央 「暮らしのものさし」や「わたしたちエネルギー」の2つの連載は、ふたりでそんな経験を通じてつくっていったよね。江利子さんが発電システムをつくったのがすごい体験だったように、僕も小屋をつくってみて、感動したんだよね。自分たちで暮らしをつくることの楽しさとか素晴らしさとか、そこから広がる世界はこんなに面白いんだって。僕にとってはそういう体験だったかな。

みんなでつくった灯台を、ともし続けていきたい

江利子 グリーンズとの関わりは大きい時期も小さい時期もあったけれど、「これはどうしても増村さんに」という依頼はずっと来ていて。

「これってどういう意味なんだろう?」と考えていたのだけど、自分の中のど真ん中にグリーンズがあり続けていたんですよね。やっぱりそれは、自分がグリーンズを通じてトランジションをしているから。それを教えてくれたのは菜央さんだし、グリーンズが方向性を示してくれたし、だからすごく大事なんです。愛があるってことかな。

菜央 僕が編集長をおりるっていうこと自体は、もう随分前からやりたいと思っていたんだけど、江利子さんが「greenz.jpにもっと関わりたい」って声をかけてくれて。編集長って、特殊なスキルというよりもその人のあり方があらわれると思うんだけど、江利子さんに編集長をお願いしたらすごくいいなっていうイメージがすぐに湧きましたね。

編集長って、エネルギーが必要なんですよ。江利子さんには「行くぞ!」っていうエネルギーがすごくあるし、自分の方向性がある。既存のものをぶっ壊すのはすごく大変な作業なので、方向性とエネルギーがある人にしかできないと思っていて。でもその2つを持っている人ってなかなかいないんですよ。

江利子 これからもグリーンズは灯台であり続けるんだろうなって思います。先日、正太郎くん(グリーンズ共同代表・植原正太郎)と「埠頭にある灯台というよりも、私たちはここで火を灯し続けて、みんなにこの火を持ち帰って、自分の地域で照らしてほしいよね、そういう存在でありたいよね」って話をしたんです。

かつて「Whole Earth Catalogue」が示してくれたような、時代が求めている哲学をまとめられたらと思っています。

「whole earth catalogue」は、1968年〜1972年まで刊行された、地球と人間を破壊する現代文明に対するカウンターカルチャー(対抗文化)として、地球を意識したサステナブルな生き方、自給自足な生き方を広げることを目的に、道具、情報、考え方、サービスなどをカタログ形式でまとめた本(photo by whole earth catalogue)

菜央 おそらく世の中はこれから、安定には向かわないと思うんですよ。自然災害は増えるし、戦争や紛争はおさまっていかないと思う。そのような状況が生まれる仕組みを、例えば日々の商品や、エネルギーを買うことを通じて、僕たちが支えているんだよね。だから、暮らしのあちこちがどういうふうに世界とつながっているのかを意識して、「私はこれはいらない」とか「買いたくない」って選んで、ないものがあればつくっていく必要がある。

きっと上の世代が教えてくれた生き方は通用しないし、学校で習うわけでもない。グリーンズがみんなで深めて考えて、こうじゃないかってことを出していって、それがみんなの灯台になっていく、みんなでつくる灯台みたいな感じ。

江利子 いいですね。今、原点回帰みたいなことも起こっていますよね。さっき菜央さんがエコヴィレッジの話をしていましたけれど、当時とは少し違った形で、いろんな場所でまたエコヴィレッジやコミュニティが生まれつつあるのを知っていて、勢いを感じています。

そのつくり方や考えるべき指標みたいなものを、グリーンズが出せるようにしたいと思っていて。それがあれば全てが解決するわけではないけれど、菜央さんみたいに「小屋ってこうやってつくればいいんだ」って思ってもらえたら。

菜央 自分の暮らしや、身の回りのまちをつくっていくことにアクティブに参加できれば楽しいし、幸福につながる。「あ、これ、グリーンズに書いてあることだ!」って、それをやってみるような、そういうものになっていくと予想しているし、それを見てみたい。これは僕もずっとやりたかったことなんですよ。

これまで、僕の知らないグリーンズってなかった。もちろん組織だから、予想していない方向に進むこともたくさんあったけど、「新しいグリーンズ」を見たいなっていう気持ちもあって。そうすると江利子さんはすごく適任だなって思うし、江利子さんが考えるグリーンズの進化っていうのを見てみたい。だから僕自身がやるよりも楽しみかな。

江利子 メディアをつくる以上に組織もつくり直そうと思っているし、その覚悟もあります。でも、自分が楽しいと思えることじゃないと、と思っていて。生きるリテラシーを取り戻して、ゆるやかな連帯のなかで暮らす。そうした価値を、自分自身が実践して気づいたこととして、届けたい。かつて小屋やエネルギーをつくって体験したあの楽しさみたいなものを、もっとたくさん自分で見つけながら、発信していきたいなと思っています。

(対談ここまで)

– INFORMATION –

4/26(水)開催!green drinks Tokyo「生きるリテラシーとゆるやかな連帯」
-新編集長・増村江利子さん就任記念-

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