7/4開催 ポスト資本主義のキャリア論|ゲスト:石山アンジュさん by WORK for GOOD

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会社を強くするのは、“サードプレイスでやりがいを持つ従業員”たち。Daigasグループには、一人ひとりの「マイプロジェクト」を応援する文化がある

あなたの周りで、普段の仕事とは別に“マイプロジェクト”を持ち、まちづくりや社会貢献などの活動している人はいますか?

マイプロジェクト(以下、マイプロ)とは、一人ひとりが社会課題に対し「こうありたい」を叶えるためにはたらきかけるアクションのこと。実は今、“大阪ガス”でおなじみの「Daigasグループ」(以下、DGG)では、会社の外でマイプロを持つ動きが活発になってきています。

DGGは毎年「ソーシャルデザインフォーラム」(以下、SDフォーラム)を開催し、さまざまな社会貢献活動やマイプロを紹介することで従業員の活動参加を促してきました。

2022年のテーマは「働く私たちが 幸せになるための サードプレイス」。従業員がマイプロを始めるための支援体制が整ってきたこともあり、一人ひとりが動き出すきっかけにしたいと考えました。

今回は、11月14日にオンラインで行われたSDフォーラムの内容を紹介するとともに、実際にマイプロを持ち活動するDGGの二人の従業員にインタビュー。サードプレイスとしてのマイプロを持つことは、本業での働き方や自分自身の人生をどう豊かにしていくのでしょうか。

幸福度を高めるためのサードプレイス

まずは、SDフォーラムの様子をレポート。フォーラムは全2部で構成されました。

第一部は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長の前野隆司(まえの・たかし)先生による基調講演。様々な学問分野をまたぎ、「幸せ」について長年研究をしてきた先生のテーマは、「サードプレイスと幸福学」というものでした。


前野先生の講演は、こちらの動画でも視聴いただけます

まず紹介があったのは、「Well-being」という言葉。社会的・身体的・精神的に“良好な状態”でいられることを指します。社員のWell-beingを保つのは会社にとっても大事だとわかる興味深いデータも見せてくれました。

幸福感の高い社員は創造性が3倍になり、生産性が31%、売上が37%向上。さらに、欠勤率が41%、離職率が59%低くなり、業務上の事故は70%も減少するというデータがあるそう

前野先生は、Well-beingを気にかけ働きつづけるには、一人ひとりがサードプレイスを持つことが効果的だと言います。

前野先生 他人と比べられる幸せ(=金、もの、社会的地位など)はいつまでも右上がりを求めてしまい、長続きしません。一方、社会的・身体的・精神的な幸せは長続きします。中でも、精神的に良好な状態を得られる心的要因として、私の研究結果「幸せの4つの因子」は、サードプレイスの活動のヒントになると思います。

①「やってみよう因子」:自己実現と成長、強み、主体性
成し遂げたいこと・新しいことにチャレンジする。仕事以外にもいろんなやりがいを持つことで幸せを感じる。

②「ありがとう因子」:つながりと感謝、利他、多様性
多様なつながりがある人ほど幸せを感じる。ありがとうと言う・言われる人は幸せ。利他的な活動はサードプレイスにおすすめ。

③「なんとかなる因子」:前向きと楽観、チャレンジ精神
将来を明るく思うと幸せを感じる。3つ目のコミュニティがあれば、仕事がうまくいかなくても「なんとかなる」感が高まり、仕事にも活力が出る。

④「ありのまま因子」:独立と自分らしさ、自分軸
人と自分を比べすぎず、自分らしさを発揮している人は幸せ。社員100人が100通りのサードプレイスで多様な人と接し個性を磨くことで、組織も強くなる。

また、「幸せはうつる」という研究結果もあるそう。4つの因子を満たすサードプレイスを持つことは、家庭や職場にも幸せの輪を広げていくことがよくわかりました。

趣味や好きなことから仕事が広がる

第二部は、「サードプレイスを持つことの楽しさ」をテーマに、2名の登壇者による活動紹介がありました。

一人目は、元大阪ガス株式会社社員で現在は株式会社マーチ代表取締役の伊賀真理(いが・まり)さん。伊賀さんは、自身が持つたくさんの居場所と、その価値を紹介してくれました。

大阪ガスでは広報部門や新規事業部門に関わったのち、34歳で関連会社の社長に就任。そんなキャリアの傍ら、26歳のときに社会人大学でマーケティングの勉強を始め、年上のクラスメイトと一緒に頑張ったことが最初のサードプレイスだったと振り返ります。お母さまの介護のため退職し独立してからも、博士課程へ進み学びを深めたそう。

さらには学生時代から続けているソフトテニスや、地域の小学校でのスクールボランティア、旅行添乗員の資格取得など、本当にたくさんの場所を持つ伊賀さん。「私は趣味や好きなことから仕事が広がっている」と、それらの活動が仕事にもつながっていることを教えてくれました。

伊賀さん 大学院の研究が講師につながったり、テニスクラブから事業計画書の依頼が来たり、旅行好きが高じて旅行添乗員になったり。仕事しながら勉強しながらテニスしながら地域活動をする、という生活が幸せで、優先順位はつけられません。

また印象的だったのは、「何より時間を大切にする」というお話。時間はすべての人に等しく与えられているからこそ、「自分が得意なこと・好きなことを今一度見直し、そのことを始めてみては?」とアドバイスがありました。

無害のコミュニティから仕事が生まれる

そして二人目は、一般社団法人キャリアブレイク研究所代表理事の北野貴大(きたの・たかひろ)さん。JR西日本SC開発株式会社の元社員でもある北野さんは「マイプロというサードプレイス」と題し、マイプロが本業の働き方を変えた実体験を紹介してくれました。

8年間の会社員生活のはじめのうちは、自分が役立っている実感が薄く、何度か辞めたいと思ったという北野さん。その転機となったのが、社会人4年目で参加した大阪港のまちイベントだったそう。運営にも関わるようになり、社外での人間関係がどんどん広がり、そのネットワークを自身の仕事である「ルクア大阪」の企画にいかし、小さなプロジェクト「妄想ショップ」を立ち上げました。

自分を表すアイコンを描いてくれる「アイコンショップ」など、消費者の「あったらいいな」を形にした妄想ショップ。北野さんの社外のネットワークがいきています

このプロジェクトはメディアでも話題になり、やがて事業部化。北野さんは「蓋を開けてみれば、“無害”の社外のコミュニティがキャリアをつくり、自分が役に立つ仕事ができた」と振り返ります。

そうした働き方の必要性を実感し、いろんな会社の“ウェルビーイング経営”を支えるため独立した北野さん。多くの企業の課題「主体的な社員から辞める」ことに注目し、モチベーションの高い社員に社内外でマイプロを持ってもらうことで、会社と社員がつながり直す環境づくりをサポートしています。

北野さん これからは、一人ひとりが自分を守るためのキャリアを自分で企画する時代。会社はそれを後押ししていく必要があると思います。その一歩目が、個人の興味関心によるサードプレイスではないでしょうか。

この後、登壇者のみなさん宛に多くの質問が寄せられ、SDフォーラム2022は熱気冷めやらぬまま幕を閉じました。

なぜ今、「サードプレイス」なのか?

後日、SDフォーラムの企画にも携わる大阪ガスネットワーク株式会社の山納洋(やまのう・ひろし)さんと、大阪ガス株式会社電力事業推進部の畠山光夫(はたけやま・みつお)さんにお話を伺いました。お二人は10年以上、会社の外でマイプロの活動を続けています。

山納洋(やまのう・ひろし)<写真右>
大阪ガスネットワーク株式会社事業基盤部コミュニティ企画チーム所属。
25歳の時に社内チャレンジ制度で大阪の複合文化施設「扇町ミュージアムスクエア」で劇場マネジャーに。閉館後、マイプロとして大阪市・中崎町に日替わり店主の店「common cafe」を開店。
畠山光夫(はたけやま・みつお)<写真左>
大阪ガス株式会社 ガス製造・発電・エンジニアリング事業部 電力事業推進部次世代事業チームマネジャー。約15年前より地元・大阪府貝塚市の歴史的建造物を活用したまちづくりのプロジェクトを開始。

はじめに、今回のテーマに「サードプレイス」を選んだ理由を山納さんに伺いました。家庭、職場(あるいは学校など)とは違う「第3の場所」としてすでに知られている言葉ですが、なぜ今、これがテーマになるのでしょうか。

山納さん 「社業に専念せよ」という時代が長く続いてきましたが、どうも生産性を上げていくには、目先を変え、いろんな人脈を社外に持っていた方がいい。社内でこれまでなかったものや仕組みをつくっていくときに、社外でマイプロのような領域を一人ひとりがしっかりと持っていた方がいいのではないかと。「自宅と職場の往復だけでは行き詰まってしまうから、第3の場所を持ちましょう」という意味を込めています。

このことは、かねてからDGGの経営者が口にしてきた「よき企業人である前に、よき社会人であれ」という言葉、すなわちDGGの考え方の延長線上にあると言います。

山納さん 従業員一人ひとりが社会や地域に「こうあってほしい」と思うことに対してアクションを起こすマイプロこそ、従業員一人ひとりのWell-beingにつながるサードプレイスであり、“よき社会人たるため”に必要なのではないかと。

会社を飛び出さなくても、今この会社にいながら、自分が目指すものを見つけていける。それは社業でなくても、土日休日にやるようなことでもいい。それを見つけ、外の世界と関わって得られた経験を会社に持ち帰ることで、会社をより強く回していける人材になってほしいと考えています。

「こういうことが通る世の中になってきたのがすごく大きい」と山納さん

山納さんは実際にフォーラムを聴講し、北野さんの「主体的な社員から会社を辞める」という話を重く受け止めたそう。

山納さん 会社が存続するためにやらなければならないことと、自分がやるべきだと思うことが一致するところを探すというのはとても大事だと思いました。

だから、従業員には自身の心の呟きに背かず生きていける道、Well-beingの道を探していってほしいし、会社としても従業員の心の声に耳を傾けていきたい。その一つとして、自分のミッションを純粋に追いかけられるマイプロを応援できるような会社でありたい、と改めて思いました。

マイプロと仕事、それぞれをいかしあう

畠山さんは、地元・大阪府貝塚市で歴史的建造物を活用したまちづくりの活動をしています。

畠山さんの本業は電気を売る仕事。競争の波に揉まれる最前線のチームのマネジャーです

通勤の途中、昔ながらの古い町屋や古民家が空き家になったり、新しい建物に変わったりしていくのを見て「寂しいな」と思ったのをきっかけに、同じ想いを持った地元の仲間と一緒に15年ほど前から活動をスタート。現在は7名のメンバーと一緒に、古くて価値のある建物を有形登録文化財に登録し、カフェやサロンなどを開業したい人と所有者との出会いの場を設けるボランティア活動を行い、まちににぎわいをもたらしています。

古民家を活用したテナントで2012年5月に開業し、大人気店となった貝塚市のカフェ「古民家そらcafe」<画像提供:古民家そらcafe>

畠山さんがSDフォーラムを視聴し特に印象に残ったのは、前野先生の「幸せになる4つの因子」。自身も当てはまることばかりだったといいます。

畠山さん 実はまちづくりをしていて、自分が幸せなのかどうかを意識したことはなかったんですね。前野先生のお話は「これって幸せなんだ」と気づくきっかけになりました。

「暮らしをサービスでよくしていくというゴールは会社もまちづくりも同じ」と語る畠山さん。まちづくりの活動がきっかけで不動産系の資格を取り、本業の名刺にも記載しています。それを見た取引先から、「遊休地があるから発電所をつくれないか?」と土地の紹介を受けることもあるとか。逆にまちづくりの活動では「古民家でガス/電気を使いたい」というエネルギーの相談は畠山さんのところにまずやってくるなど、双方での知識やネットワークがいかされています。

そうした実益以外の面でも、まちづくりでの経験が本業にいかされているそうです。

畠山さん まちづくりの活動って、いろんな人と会うんですね。仕事では商売柄、銀行さんや商社さんには会うけれど、まちのおじいちゃんおばあちゃんとはあまり接点がないんです。利害関係では成立しない話が多いので、すごく面白いですね。それが、仕事のコミュニケーションや対人関係の構築にすごく生きています。

貝塚にて。畠山さんと山納さんは、お互いの活動に遊びに行くことも<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

マイプロは「全くぶれない場所」

一方、山納さんのマイプロは、大阪市中崎町で2004年から続けている「common cafe」という日替わり店主のお店の運営です。

1,000万円を借りてスタートしたcommon cafe。日替わり店主カフェの先駆け的存在に<画像提供:common cafe>

24歳のときに社内チャレンジ制度に応募し、大阪の複合文化施設で劇場マネジャーとして働いていた山納さん。当時は仕事と自分のやりたいことが合致していたため、2003年の閉館に伴い会社内でのミッションが変わったとき、心の切り替えが難しかったそう。「会社がやめると決断した施設を自分でつくろう」と一念発起してつくったマイプロが、このカフェでした。

common cafeの店内。イベントが開かれることも<画像提供:common cafe>

毎日違う人が店主となるため、日々通うだけで「ものすごく人脈が広がった」そう。この場所は、山納さんにとってまさしくサードプレイスでした。

山納さん 「全くぶれない場所」といいますか、このお店では僕が決めたことが全て。会社の仕事では「これをやったらうまくいきます」と言っても通らないことが多いけど、「ここでなら実現できる」っていう場所を持っていると、心の平安のような感じがしたし、会社で辛いことがあるとお店でお茶を飲みながら「幸せだな」って思いましたね。

カフェのプロデューサーというマイプロを通じ “経営者目線”を培ってきた山納さんは、今やどのお店に入っても店主の意図や苦労が手にとるようにわかり、改善案まで浮かんでくるといいます。この目線は、地域や自治体との関係性を築き、先方の課題解決によりそうことが多かった本業にも、大いに役立ててきました。

2013年から山納さんが任されている、大阪ガスネットワークの「都市魅力研究室」は、各自治体が抱える地域課題の解決事例がストックされている情報発信の拠点。地域で活躍する人を招き、意見交換をするサロン「うめきたTalkin’about」なども開催<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

マイプロが会社の文化をつくっていく

山納さんは、「マイプロ的思考を持つことで、社内の常識や枠組みをほぐしていくことが大事」だと話します。会社が進化し続けていくためにも、社内でマイプロを推進していくことには価値がありそうです。お二人はそれぞれ、周囲の従業員にどのようにはたらきかけているのでしょうか。

「マイプロには考え方ひとつで物事が楽しくなるというヒントがある」と畠山さん。自身のチームに山納さんを招き、出張版「Talkin’about」を開くなど、管理職としてメンバーのコミュニケーション強化に利用しています

畠山さん チームの若い社員には、考え方のひとつとしてマイプロがワークライフバランスの充実につながることや、マイプロで得た思考が本業にもいかせることを伝えると、すっと受け入れてくれますね。例えば、経営に関する知識やファイナンスを理解することはもう当たり前で、これからはそうじゃないスキルを持つことが重要になってくる。スキルアップとしてのマイプロが結果的にサードプレイスになり、自分の人生が豊かになっていくのだと僕は思っています。

山納さん 外の世界に出ていろんなことに気づく、問題に対する解像度を上げる、ソリューションに関して主体的に責任を持つ、というスキルでしょうね。「こんな仕事つまんないな」って思っていても、徹底的に調べたり話し合ったりして「これを提案したら採用されるかも!」というものが見つかると楽しいし、それが実現したらやりがいを感じますよね。解像度を上げて「この仕事は面白い!」と想像力を発揮することを、僕はマイプロを通じて培ってきた気がします。

そして何より二人とも、「こんなプロジェクトをやっている人がこの会社にいる」と知ってもらうことの重要性を感じているといいます。

山納さんのチームは、今年度からDGG従業員向けに「わたしプロジェクト会議」を始めました。マイプロをやっている・やりたいと思っている従業員が業務時間外に集まり、「そんなことってできるんだ」「こういう人がいるんだ」という気づきを得たり、思考をほぐしたりする場をつくっています。

「わたしプロジェクト会議」の様子。さまざまな年代の従業員が集まり、参加者の「やってみたい」を引き出したり、後押ししたりします<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

「わたしプロジェクト会議」参加者のみんなで、ゲスト講師のマイプロを訪問することも<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

山納さん 体操競技なんかと同じで、「こんなことができる」とわかったら、直接教えてもらわなくてもそれを超えるものをつくる人が現れるんです。この会社の優秀な人たちだったらやるだろうな、と。もしかしたら今後、会社の文化はそんなふうにつくられていくのかもしれない、とさえ思っています。

DGG従業員向けの社会貢献ポータルサイトも新設。従業員のマイプロを紹介したり、ボランティア募集を掲載したりしています<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

近年、大企業であっても「次へのステップ」という意識で入社する若者が多いと言われています。若い世代は、仕事と“やりたいこと”のバランスをより重視するのではないでしょうか。「わたしプロジェクト会議」には、自身のミッションを追求する20〜30代の参加者もいるそうです。

山納さん それぞれが最終的に選ぶ道はわかりませんが、うちの会社の文化が「主体的な社員から辞める」であってはいけない。だから、本業の中で主体的になるか、サードプレイスで主体的な自分を保ち続けイノベーションを起こし、それを会社に持って帰ってきてほしいと思っています。

<画像提供:大阪ガスネットワーク株式会社>

今回のSDフォーラムやお二人の話からは、マイプロがサードプレイスになり得ること、そこで培ったスキルや視点は仕事にいかせるだけでなく、なんとなくやっている仕事を面白くしてしまうほど価値があることがうかがえました。仕事をも充実させていくサードプレイスは、まさにWell-beingへの手がかりになると感じます。

もちろん、誰もが最初からはっきりとミッションを持っているわけではありません。マイプロを始めるきっかけは人それぞれ。まずは気軽に社外の活動に参加してみると、何か見えてくるものがあるかもしれません。今の仕事にモヤモヤを抱く人ほど、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。

(インタビュー撮影:村崎恭子)
(編集:スズキコウタ)