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瀬戸内の海ごみを、陸のアクションで減らしていく。「オーシャンズX」とグリーンズが瀬戸内4県で仕掛ける“シチズンサイエンス”の可能性

海のごみって、どこからやってくるのだろう?
拾っても拾っても、ごみは増え続けていくけれど、どうしたら根本的に解決できるんだろう?

近年、海洋プラスチック問題が話題になり、ビーチクリーン活動もさかんになっています。でも、実はそれらの海ごみがどこからやってきたのかはよくわかっていないのが現状です。ニュースを見て、なんとなく「海外から漂流してきた」と認識していたり、そうした現実に無力感を感じたりする人も多いのではないでしょうか。

実際、日本海や太平洋のゴミは外洋からやってきたものも多いのですが、実は内海である瀬戸内海では、沿岸地域からのごみの流入が大部分を占めているといわれています。

つまり、瀬戸内海においては、自分たちでゴミの流入を防ぐことができれば、本当に、確かな実感を持って、海ごみを減らしていくことができるはず!

そんなビジョンのもと2021年に始まったのが、日本財団と瀬戸内海に面する4つの県(岡山、広島、愛媛、香川)のコラボレーションによる「瀬戸内オーシャンズX」です。そしてグリーンズもその一環として、岡山県で市民参加型の海ごみ対策を考えることに。

今回は、そのキックオフ記事として、グリーンズがいま企んでいることをご紹介したいと思います!

「世界の海を、瀬戸内から変えていく」

海ごみは増えつづける一方ですが、その多くは国境や市町村を越えて移動していくため、誰が回収するべきなのか、責任や役割分担が曖昧であることも、海ごみ問題のややこしいところです。

自分たちが住むまちの環境や景観を守るために、目の前のごみを拾う、言ってみれば対症療法的な活動はたくさんありますが、そもそも「ごみがない状況をつくる」という根本解決のためには、よりスケールの大きなアプローチが必要となります。

そこで「オーシャンズX」では、外からの海洋ごみの流入が少ないからこそ、自分たちごとになりやすい、そして、ごみが減少したときの成果を実感しやすい瀬戸内海を舞台に、行政、企業、地域、研究機関などさまざまなセクターを横断的につなぎ、海ごみゼロのための“瀬戸内モデル”を世界に拡げていくことを目指しています。

「オーシャンズX」の活動の柱となるのが、次の4つです。

AIや人工衛星など、最先端の研究機関による川ごみや海底ごみの「①調査研究」、企業と地域がつながり新たな価値を創造する「②企業・地域連携」、市民が主体となって海ごみについて学び、アクションを起こす「③啓発・教育・行動」、そして、実践事例の集約とガイドラインの作成を目指す「④政策形成」。

そのなかで、今回グリーンズが担当するのは「③啓発・教育・行動」の部分。キーワードとなるのが、記事のタイトルにもあった「シチズンサイエンス」です。

シチズンサイエンスって何だろう?

「シチズンサイエンス」とは、科学者と市民が協力して、プロジェクトを進めていく研究手法のこと。

銀河の写真を分類して新しい銀河を発見したり、絶滅危惧種のカエルを調査したり、数百年前の古い文献をテキスト化したり……天文学や生物学はもちろん、気象観測や考古学、人文学からアートまで、さまざまな分野で活用されています。

海外での広がりと比べて、日本ではあまり知られていませんが、NHKで「シチズンラボ」という番組がスタートするなど、これからますます注目が集まりそうな、何とも面白そうな分野なのです。

グリーンズでは、昨年度、「シチズンサイエンスの教室」と題して、「シチズンサイエンスを推進する社会システムの構築を目指して」という提言づくりに関わった大阪大学の中村征樹(なかむら・まさき)さんや、日本全国のナメクジの目撃情報を市民から募って研究している京都大学の宇高寛子(うだか・ひろこ)さんなど、さまざまな実践者にお話を伺ってきました。

「シチズンサイエンスの教室」の様子

それでは、どうして海ごみ対策のために、シチズンサイエンスが鍵となるのでしょうか? このプロジェクトに関わるNPOグリーンズ理事の兼松佳宏(かねまつ・よしひろ)は、次のように言います。

兼松 専門家の研究はとても有益ですが、どうしても難易度が高かったり、自分の暮らしと距離があったりしますよね。一方で、自分たちの興味・関心から問いを立てて、データを集めたり、その結果を専門家と一緒に分析したり、そうしたシチズンサイエンスを通じた学び合いでは、より社会的な課題を自分ごととして捉えやすくなるのではと考えているんです。

なるほど。学び合うコミュニティをつくり、一緒に調べていくプロセスそのものが、課題意識やビジョンの共有につながっていくのですね。

兼松 「シチズンサイエンスの教室」のなかで中村先生はシチズンサイエンスの可能性として、①科学研究の加速②社会との関連性の強化といった科学者目線に加えて、③市民のエンパワーメントを挙げていて。市民にとっても大きなメリットがあるんだな、と目からウロコでした。例えば、新しいルールを決めようとするときに、その進め方に違和感があったとすれば、対案を示すために根拠を自分たちで調査して、示していく“エビデンスベースの政策立案”にも、シチズンサイエンスを応用できます。

今回のテーマは海ごみ対策ですが、きっとまちづくりなどさまざまな分野に応用できるはず。僕たち自身も専門家ではないので、関わっていただく皆さんと一緒に、シチズンサイエンスを楽しんでいけるとうれしいです。

まずは、用水路のまち・岡山から

シチズンサイエンスの可能性は感じつつも、瀬戸内海の海ごみを減らすために何から始めたらよいのでしょう。

そのとっかかりとなるのが、日本財団による「瀬戸内4県(岡山・広島・香川・愛媛)の河川流域における海洋ごみの大規模発生源調査」です。

瀬戸内海沿いから流出するゴミの種別まで把握できるダッシュボード

この調査の目的は、「どこに(場所)/どのような(種類)/どれくらいの(量)」海洋ごみがあるのかだけでなく、「どこから(流入源)/なぜ(背景)」発生しているかを把握すること。その結果、瀬戸内4県といえども、それぞれに要因が異なることがわかってきました。

このなかでグリーンズが注目したのは、岡山県です。

岡山県には全国平均5倍以上の水路があるとされていますが、途中にある水門に多くのごみが溜まり、やがて海へと流出していることがわかってきました。

しかし農地の都市化や農家の高齢化によって、農業用水路の管理が手薄になっている現状もあり、「水路・水門の清掃管理を支える地域の仕組み」が求められているというのです。

水路・水門というユニークな特徴があり、課題も具体的。

そこでグリーンズが仕掛ける「海ごみ×シチズンサイエンス」プロジェクトの第一弾は、用水路のまち・岡山からはじめることにしました。

岡山の水路を見て、ヒントを見つけよう

実際に現場を見てみないことには、ということで、9月初旬、岡山県庁にグリーンズのメンバーが集まりました。

迎えてくれたのは、日本財団海洋事業部海洋環境チーム塩入同(しおいり・とも)さん。海洋ごみの研究者でありながら、オーシャンズXでは全体的なコーディネートを担当しています。

「ハレの国」をうたう岡山ですが、この日は朝から曇り時々大雨。そのおかげもあって、多くの水門が開かれていたことで、用水路の観察にはもってこいのお天気となりました。

塩入同(しおいり・とも)<写真中央>
笹川平和財団海洋政策研究所主任研究員。日本財団海洋事業部シニアオフィサー。
水産庁水産大学校(機関学科・船舶コース)卒業後、佐賀大学大学院農学研究科(有明海干潟専攻)修士課程修了。2000年より神奈川県庁にて技師として、砂浜保全・沿岸域管理・国有財産法務等を担当。2014年に日本大学大学院理工学研究科(海洋建築工学専攻)博士課程を修了。2018年G7環境・海洋・エネルギー大臣会合(カナダ・ハリファックス)政府派遣専門家。2011年より海洋政策研究財団(現笹川平和財団海洋政策研究所)研究員。

塩入さん 岡山市内の用水路は、岡山城や県庁のそばを流れる旭川から取水し、昔話『桃太郎』で”どんぶらこ”と桃が流れてきた川のモデルとされる笹ヶ瀬川に合流して、海側、児島湾へと流れていきます。

“上流”にあたるこのあたりにはごみはほとんどありませんが、少しずつ”下流”へと向かいながら、ごみがどのように増えていくのか見ていきましょう。

岡山県庁から見る岡山城と旭川

今回のルート

旭川から、西川緑道公園へ

繁華街を通る西川の途中にある取水口

旭川に架かる相生橋を出て、繁華街にある西川緑道公園の薬研堀橋という橋へ。ここには市内に流れていく最初の取水口のひとつがあります。

用水路の要所要所には水門があり、田植えの時期や大雨の時に開けられ、水量を調整しています。雨の影響か、まだ上流にあたるここの水門にも、すでに牛乳パックやペットボトルなど、これから“海ごみ”になっていくだろうごみが留まっていました。

塩入さん 岡山県には水路が4,000〜5,000kmぐらいあると言われているんですけど、歴史的に所有権が複雑で、水路や水門がどこに何基あるのか、行政も町内会もすべてを把握できているわけではないんです。まずは水路や水門の現状を把握することが対策の第一歩になりますね。

水路の上に架かる橋はゴミの集積場になっていて、そこからの家庭ゴミの流入もありそうです

西川から幹線道路、住宅街へ

遠目に見ても、水門の手前に大きなごみが溜まっているのがわかります

次に訪れたのは、笹ヶ瀬川までの中盤あたり。大きな量販店が建ち並ぶ幹線道路から少し入ったところにある水門は、ごみが溜まりやすいホットスポットになっていました。

塩入さん ごみはどんどん流れていくので、目の前から消えたら気にならなくなるかもしれませんが、実際はこういう場所に溜まっていきます。そうしたホットスポットを把握できれば、近くに清掃用の拠点をつくるといった対策を考えることができます。実際に水路に入ってごみを拾うことはハードルが高いですが、ホットスポットを見つけたらアプリで写真と位置情報をシェアするというのも、シチズンサイエンスになりそうですね。

奥に見えるのが、狭い水路からの合流地点。次々とごみが流れてきます

さらに下流へ行くと、住宅街に入ります。そこには、いくつもの水路が合流する池のような場所が。ちょうど大雨が降ったので、各地の水門が開けられたのか、ここにもかなりのごみが流れこんでいました。

塩入さん 農地が住宅地に変わったことで、用水路に関わる機会が減ってきていますし、地域コミュニティの高齢化もあって、“藻引き”と呼ばれる水路の清掃活動も減少傾向にあるようです。

みなさんごみは気になっているでしょうし、水路清掃をしたいと思っていると思うのですが、それを実際にできない理由があるはず。「どこにごみがある」といった数量的なデータだけでなく、住民の皆さんの気持ちを聞くなど、もっと生活に寄り添ったアプローチも必要だと思います。そのために、地域の未来を担う中高生にインタビュアーとして協力してもらうのも面白いかもしれません。

笹ヶ瀬川から、海へ

笹ヶ瀬川につながる最後の巨大な水門。ここも門が開かれ、多くのゴミが流れ出ていました

海ごみと用水路をめぐる旅も大詰め。いよいよ旭川から笹ヶ瀬川へと合流します。桃太郎の舞台になるほど地元の人たちにとって大切な川ですが、橋から川岸を望むと、やはり多くのごみが溜まっているのが見えました。

笹ヶ瀬川の様子

塩入さん ここまでの川幅となると、陸からは近づきにくく、一般の人による回収は難しくなります。そこで、今年の3月には、海上災害の専門家たちと一緒にボートを出して、一掃作戦を実行し、一日で約10トンのゴミを回収することができました。ただ、本来は、そこまで大掛かりな対策をしなくてもよい状況をつくっていく方が大切だと思います。

そう、そこにあったごみのほとんどは上流のどこかで流出し、水路を経て流れてきたもの。

ここまでの塩入さんの丁寧な解説を聞き、膨大なごみの量を実際に目の当たりにしたことで、塵も積もれば山となる、ひとつひとつの水門を清掃していくことの大きなインパクトも改めて実感できました。

笹ヶ瀬川から児玉湾へ。ごみはやがて瀬戸内海へと流れていきます

いざ、作戦会議!

実りの多かったスタディツアーを終えて、一行は岡山市内のミーティングルームへ。ここから、今年度の計画を立てていきます。

改めて背景を整理すると、岡山では、水路・水門の清掃管理を支える地域の仕組みが求められていました。

そして、そのために、市民参加型のシチズンサイエンスによって、水路から海へとごみが流入するメカニズムを明らかにしようと考えていましたが、もう少し地元の人たちの暮らしに寄り添った、清掃管理を担う流域コミュニティをサポートしていくが、とても重要な要素となりそう。

それぞれの気づきをシェアしていくなかで立ち上がってきたのは、次の2つのキーワードでした。

ひとつめは「海と陸をつなぐ流域意識」です。

ごみは上流から下流へと、そして海へとどんどん流れていきます。上流域では「ごみが見えなくなる」という“受益”がある一方で、“負担”は下流域に。そうした受益と負担の乖離を減らすためには、用水路の上流と下流、さらに海までの関係性をつなぎ直すこと=流域意識が大切になるのではないでしょうか。

そして、もうひとつは「コモンズとしての用水路復権」です。

江戸時代は庶民の暮らしを支え、明治時代以降は農業用に整備された用水路。言ってみれば”コモンズ”(共有資源)として欠かせない存在であった用水路も、宅地化が進んだ現在、暮らしと切り離されている実情があるのかもしれません。

とはいえ、ウェルビーイング×水路、学び×水路、観光×水路など、たくさんの資源があるはず。その価値を見直すことで、水路への関心が育まれ、美しく保つモチベーションも生まれるのではないでしょうか。

この場でも、いろんなアイデアが飛び交いました

ということで、こんなシチズンサイエンス決定

岡山の風景に欠かせない用水路こそ、海と陸をつなぐ象徴であり、21世紀の新たなコモンズだ! そんな仮説のもと、グリーンズとして仕掛けていこうと思っているのが、こちらの4つのプロジェクトです。

①上流と下流を把握する「桃型GPSフロート調査」

どこが上流で、どこが下流なの? 用水路の“流域”を把握するために、「岡山といえば桃!」ということで、アーティストや市民と一緒にデザインした桃型のフロートにGPSを搭載し、上流の1点から一斉に放流し、水が実際にどのように流れていくのかを調査します。

②上流と下流をバトンでつなぐ「プロギングリレー」

みなさんは、「プロギング」という言葉を聞いたことはありますか? スウェーデン語のゴミ拾い(PlockaUpp)とジョギング(Jogging)を組み合わせた話題のフィットネスです。この企画ではバトンやたすきを渡しながら、上流から下流の流域をつないでいくことで、ありそうでなかった用水路の流域意識を高めていくことを目指します。

③地元の中高生による「海と流域に関する人文地理学調査」

岡山市民の流域への意識、また、海への意識が、用水路のごみの分布とどのような相関関係にあるのか、人間と環境・地域との関係を考察する「人文地理学」の知見をいかして調査します。まちの未来を考えるには、未来を担う若者の力が必要! ということで、実際にアンケートを行う担い手として地元の中高生に協力いただき、地域について学ぶ機会にもできたらと考えています。

④“21世紀のコモンズ”を探す「用水路トレジャーハンティング」

21世紀に用水路が果たすべき役割とは? コモンズとしての用水路の価値を再発見するために、水路沿いのまちあるきやアイデアソンといったワークショップを開催。ウェルビーイング×水路、学び×水路、観光×水路など、新たな切り口から生まれたアイデアの実現をサポートしていきます。

雨の中おつかれさまでした!

はたして、シチズンサイエンスの力で海ごみを減らすことはできるのでしょうか。まちの人たちを巻き込む大きな実験は、はじまったばかり。

2022年10月29日(土)には、岡山市内でキックオフイベント「green drinks OKAYAMA」も開催する予定です。ぜひ遊びに来てください!

[partnered with 日本財団 海と日本プロジェクト]

(撮影:水本光)
(プロジェクト案イラスト:村崎由枝)
(撮影協力:TOGITOGI)
(共同執筆&編集:兼松佳宏)

– INFORMATION –

「環境」や「持続可能性」をテーマに、世界500都市以上で開催されている「green drinks」の岡山版「green drinks OKAYAMA」が、3年ぶりに復活!


第一回目のテーマは、「発掘!なんだかアートな岡山」。

実は、岡山には、アートな視点を持って活動している人がたくさんいて、気づけば暮らしのなかにアートが溶け込んでいたり、漂流物で制作された淀川テクニックの作品「宇野のチヌ」など、さまざまな社会課題と文化芸術をかけ合わせていたりします。

どんな人たちが、どんなことをしているの? そして、どんなことが起こってるの? まずは「なんだかアート」な岡山のいまを覗きつつ、アートの力で海の未来を守るヒントを探ってゆきたいと思います。

ゲストは、「文化芸術交流実験室」や、岡山県の文化芸術に関する人・コト・場所を紹介し化学反応を起こしていくサイト、「マイニングおかやま」を手掛ける大月ヒロ子さん(プログラムコーディネーター)と高田佳奈さん(岡山文化連盟主任)。

ゲストと来場者の距離が近いのもgreen drinksの魅力。飲み物を片手に、みんなでワイワイお話しましょう!

▼日時
10/29(土)19:00-21:30(18:30開場)

▼場所
蔭凉寺
岡山県岡山市北区中央町10−28
※駐車は近くのコインパーキングをご利用ください

お申し込みはこちら!