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いいものなのになぜ広まらない? 断熱エコハウスを日本中にばらまく「エネルギーまちづくり社」竹内昌義さん、内山章さんに聞く、社会を動かすために必要な仕掛けとは

冬って家の中にいても寒いですよね。私もエネルギーのことやら何やら考えて家の中でダウンを着るような生活をしていますが、とにかく日本の冬は寒い!

でも、実はしっかり断熱をすれば家は冬でも暖かくなるし、そうすれば環境にいいだけでなく、健康にもいいらしいのです。それなら断熱のしっかりした家を建てればいいじゃないか!と思うのですが、なかなかそうはいきません。

建築家の竹内昌義さん(みかんぐみ)内山章さん(スタジオA建築設計事務所)が立ち上げた「エネルギーまちづくり社(以下、エネまち社)」はそのような現状に鑑みて、暖かい家、エコハウスを広める活動をしています。

エコハウスを広めることとビジネスとは結びつきにくい気もしますが、なぜ会社をつくってやろうと思ったのか、どのようなステップを踏んでエコハウスがあふれる未来をつくっていくのか、グリーンズのビジネスアドバイザー・小野裕之が、竹内さんと内山さんに話を聞きました。

体験してもらえれば良さはわかるはずだからエコハウスをばらまきたい

小野 まずは創業の経緯を教えていただけますか?

竹内さん HEAD研究会(建築にかかわる専門家と若者が新たな産業のあり方を探求する研究会)のエネルギータスクフォースで、エネルギーをもう少し身近に考えながら建築のことも考えましょうという活動をやってきて、そのメンバー5人が集って会社をつくりました。

内山さんがよく「エコハウスを日本中にばらまこうぜ」と言っているんですが、創業のモチベーションは純粋にそれです。エコハウスはいいものなのに広まらない。どうしたら広まるか考えたときに、設計事務所では依頼が来ないとできないから、こちらから広げていく手段が必要だと思うようになったんです。

内山さん 建築業界に“エコハウス”という概念が登場したのはもう40年以上前のことです。

例えばダイワハウスは1977年に「省エネ住宅」というのを発売しています。エコハウスは体感すればいいものだとわかるし、いいものだったら普及するはずなのに、40年以上経っても広まっていないのは普及のさせ方がまずいと考えました。であれば、全国になるべく早くたくさん建てて体感してもらうことで広まっていくんじゃないかというシンプルな発想です。

竹内さん エネまち社が主にやっているのは3つで、1つはエコハウスを建てる工務店のコンサルティング、2つ目はエコタウンをつくる際のコンサルティングと設計。3つ目は断熱改修のワークショップです。その他、個人邸などの設計をやることもあります。

小野 今年3年目だそうですが、広まらない原因など見えてきたことはありますか? ボトムアップ的にユーザーの意識を変えていくのか、それとも建築家や工務店や建築業界の流れを変えていくのがいいのか、どちらが近道だとお考えなんでしょう?

竹内さん ユーザーの視点からいうと、体験しないとわからないものなんだということはわかりました。一回住んでしまえば暖かく快適なので抜け出せないんですが、頭で理解しただけではわからない。だから断熱ワークショップは地味だけど大事だと感じています。

内山さん 全体的に少しずつ上って行くしかないと思います。ハウスメーカーがエコハウスをつくってもユーザーの意識が追いついてなければ売れないし、ユーザーの意識が高まっても業界が供給できなければ普及しません。

竹内さん 現状は、動かす歯車が錆びついている感じですね。家は大きくて高いので、社会にいいからという動機ではユーザーは簡単には動きません。売る側も売れないなら動かない。だから全体の動きが鈍くなる。歯車がうまく回り始めたら全部スムーズに動いていく気はするんですが。

内山さん そのためにも、僕らは環境にいいという主張ではなく、快適だったり健康にいいという切り口を出していっているんです。エコハウスに住むライフスタイルのほうが人生楽しめるよねって。実際、国交省がエコハウスと健康に関する調査をしていて(※)、エビデンスも上がってきているので、そっちの方向に動き出していると感じています。

(※)*国土交通省は2007年から2012年にかけて健康維持増進住宅研究委員会を設置、『健康に暮らすための住まいと住まい方エビデンス集』などの書籍も発行しています。

全体が変わっていくきっかけはエコタウン?

小野 つまり、ぽつぽつと関心が高い人が出てきていて、それぞれが現場現場で変えていこうというステータスでしょうか。

竹内さん そうですね。工務店はこれから建設の需要が減ってくると戦々恐々としていて、意識のある人は考えていますが、新しいことにキャッチアップできていないところも多いです。

建築設計事務所界隈は、温熱環境に関して勉強不足が否めないし、まだまだ世の中の変化に対して意識を向けられていない。でも若い人の中には勉強して、情報を工務店とシェアしながらビジネスとして動かし始める人も出てきたので、これから変わっていくとは思います。

小野 ユーザーの意識として、田舎では戸建てが当たり前で住宅に関心が高そうですが、都会ではほとんど関わりがないと思う人が多い。そのような意識の違いは感じますか?

竹内さん 確かに都会の人はお金持ってるけど、土地が狭い。田舎の人は若いからお金がなくて、高い家を提案してもそこまで気持ちがいかないというのはあると思います。ただ、社会全体の意識はすごく上がってきているので、全体をうまくつなぎ合わせることができれば、エコハウスを選択する動きは生まれると思います。それにはユーザーと建築業界に加えて行政も動くことが必要だと思います。

内山さん ドイツに行って感じたのは、行政が政策で動かしている部分が大きいことでしたね。

小野 家は高いので、ユーザーとしては制度的なアプローチがないと動きにくいですよね。日本の自治体でやろうとしてるところはあるんですか?

竹内さん 長野県は地球温暖化対策に知事がものすごく熱心で、住宅の性能表示を義務付ける条例をつくったり、エネルギーを変えていこうっていう意識がすごく強いですね。

岩手県紫波町は、町長の意識がすごく高くて、循環型社会を目指してエコタウンと町の施設をあわせた「オガール紫波」を民間と共同のプロジェクトとして実現させました。山形県飯豊町の「エコタウン椿」は、住人が近くの都市に出ていってしまうので、その対策としてエコタウンをつくったといいます。実際、売れてるみたいですね。

岩手県紫波町のエコタウン「オガール紫波」

小野 循環型の地域をつくるエコタウン事業は行政や政治の力で先進事例をつくるという意味もありますよね。意識の高い人たちが買って、それが評判を生んでほかのユーザーにも波及すれば、ハウスメーカーもそれに反応して、そこから変わっていく可能性もありますし。

竹内さん オガールは住宅には補助金は入っていないんです。工務店は高くて売れないと言いがちですが、ちゃんと売れました。最初はすぐ近くに公共施設や病院なんかもあって便利だということで買った人が多かったようですが、入ってみたら家自体もいいという評判が広がって。それもあって売れたんだと思います。

買う人の意識はそんなにすぐに変わらないので、家を建てるだけじゃなく、まちの賑わいをつくるなどして人が住みたくなる場所にすることも大事だと思いました。そういう住みたい場所にエコハウスを建てれば、「いい」という情報はきちんと広まっていくんですよ。

小野 今取り組まれている山形エコタウン前明石はどのような取り組みなんですか?

竹内さん (アウトドアブランドの)スノーピークと東北芸術工科大学、それと地元のデベロッパーの荒正と一緒に20戸のエコハウスが集まる分譲地を売り出しています。場所が駅から近い場所でもないので、自然豊かな場所をつくりたいなと思っていたんですが、スノーピークが「アーバンアウトドア」というコンセプトで家づくりをしているのを知っていて、話をして組むことになりました。スノーピークがフックになってアウトドア好きの人が興味を持ってくれるだろうとも思いましたし。

山形市のエコタウン「山形エコタウン前明石」

内山さん エコハウスは建売より高いが注文住宅より安いという微妙な価格帯で、地方の工務店は「売れない」ということがよくあります。確かにエコハウスのターゲットはベーシックな層ではないですし、すぐにベーシックになるわけでもないと思います。でも実際に紫波でも山形でも売れてますし、売れないわけではない。

その地域の意識を変えるために重要なのは地元のデベロッパーで、山形エコタウンでは林業もやっているような地元のデベロッパーが動いたというのはすごく良かったと思います。彼らは地元を背負っているという意識で事業を展開していて、そこから地域の意識が変わっていくんじゃないかと期待しています。

竹内さん エコタウンという形でまとまって家を建てると、地元の工務店にとってはインパクトが大きいし、自治体にも利益があるのであちこちで動きがあります。例えば、岩手県花巻市では地域の工務店や設計事務所が組合をつくってやろうとしていて、市としてもやらなきゃいけないという話になったりしている。ただ、健康の話と建設の話と環境の話が市役所内で別の部署の担当になっているので、一緒に動くまでのハードルは高いですね。

小野 行政の縦割りは阻害要因になると。

竹内さん そういう部分も含めて、いろいろなものを結びつけることがこれからやっていかなきゃいけないことなんだと思ってます。事業云々の話を別にしても。

入りやすい入口としてのホテル、賃貸、リノベーション

小野 エコタウンも含め、家を買うとなるとハードルが高いですけど、それ以外の入口として、例えばパッシブハウスホテルみたいなものも手掛けたりしているんですか?

竹内さん 富山で築30年くらいのホテル(ホテルアクア黒部)にYKKの一番新しい窓を入れるというので、リノベーションするときに断熱改修もきちんとしたという例はあります。

ホテルアクア黒部(設計:みかんぐみ)

内山さん ホテルはどんどんやりたいですね。利用客が一人でもフロア全体を温めなきゃいけなかったりする、本当にエネルギーを食うビルディングタイプだと思います。断熱改修で改善できる部分が多いです。

小野 あとは、賃貸の物件とか。

内山さん 賃貸は変えたいです。住宅すごろくで考えると入口の部分ですし、今賃貸と持ち家は6:4くらいなので、賃貸の断熱性能が上がれば、それが住まいとして当たり前になっていく気がします。賃貸で暖かい家に住んでしまえば次から寒い家には住みたくないと思うはずなので。

ただ、賃貸は事業性が重要なのでコストが上がる分をどう吸収するか。いま、木造2階建てで断熱性能がG2(断熱性能の指標で40%のエネルギー削減が見込まれる)のアパートを計画していて、そこでは「入れば出たくなくなるので空室率が下げられる」というところなどで攻めていっています。本当に一度経験したら、もうそこよりも寒いところには住めなくなるので。

小野 新築ではなくてリノベーションで高断熱にしていくという需要もありますか?

内山さん ぼつぼつ出てきてはいますね。マンションは左右上下の住戸みんなで冷暖房しているので、入口と窓を変えるだけで大きく変わります。なので、大規模修繕のときなどに断熱改修すると効果的ですし、実際そういう例はあります。

竹内さん モデルとしてあるのは、空いてるマンションを高断熱化して、周りに住んでる2階空き家(子供が出ていって1階だけで暮らしている家)の人たちに入ってもらって、今度はその戸建てを断熱改修して再販するという考え方です。エリアで主導してやる必要があるので、ハードルはものすごく高いんですが、モデルとしてはすごくいい。そうなってくるとかなり変わってきますよ。

あとは、個人でDIYで断熱をする。それこそグリーンズでも二宮団地で断熱WSやってましたよね。あれって実は汎用性がすごくあるので、動きとしてはすごくいいと思います。

小野 断熱改修ワークショップ(エコリノベプロフェッショナルスクール)もやられているわけですが、そこからの変化が生まれてきたりしているんですか?

内山さん ワークショップ参加者はのめり込み方が深くて、受講したあと自分たちで勝手に動き出すんですね。そもそも自分でやることが目的なので当たり前なんですが、ワークショップを通して仲間ができるのが大きくて、エリアで勝手につながって一緒になにかやりだしたりするんです。

南房総リパブリックのワークショップの受講生たちももともとはそれぞれで参加して出会い意気投合して徒党を組み、今では地元の工務店の手伝いに呼ばれるようになったりして、独自にリノベを手掛けている。そうやってコミュニティができると強いですよ。

山形エコタウンも、コミュニティが自然にできる仕掛けを入れ込んでいて、例えば外壁に天然の木を貼ることによって定期的に塗り直しが必要になるのですが、それを両隣などお互い手伝うっていう関係ができるんじゃないかとか。そうやってコミュニティをつくることって大事だと思うんです。

竹内さん ドイツで一番古いパッシブなマンションに行ったんですが、地下に天然ガスで回すエンジンがあって、それでお湯と床暖房も賄ってるんです。その場所はエンジンが動いているので温かくて洗濯物干し場にもなっているんですが、冷蔵庫室っていうのもあるんですよ。住人はみんなエネルギーを使いたくない人たちなのでそれぞれが冷蔵庫を持つのをやめて、共同の冷蔵庫を使ってるんです。

それで半年に一回冷凍庫の掃除があって、化石化したような食材を掘り出してみんなでバーベキューして食べてしまうというイベントをコミュニティでやってる。すごい豊かな生活だと思いませんか? エコハウスって一つのライフスタタイルをつくる道具でもあるんですよね。

内山さん 例えばサーファーとかヨガをする人とか自然を志向している人って何故か古民家みたいな寒い家に住みたがるんですよね。でも寒い家で体調を壊していたらパフォーマンスは上がりません。ライフスタイルを楽しむためには暖かい家に住んでコンディションを整えて外に出ていかないと。そういう家の性能も含めてライフスタイルだという認識が広まって欲しいですね。

小野 エコハウスを通じてより良いライフスタイルやコミュニティが広がっていくことが大事ということだと思いますが、それを実現するためにも直近で目標としていることはありますか?

内山さん 仲間が勝手に増えていって全国で同時多発的にエコタウンができていく状況になったらいいですね。全国に20くらいできてほしいです。

竹内さん ワークショップはお金にならないけどやめられないので、そこから同時多発的にエコハウスが増えていくようなことを目指したいですね。

(鼎談ここまで)

「いいものなのに広まらない、じゃあどうしようか」という課題意識は様々な局面に当てはまりそうな気がします。その時に一点突破ではなく、いろいろなところとつながって全体を底上げしていこうという考え方はすごくためになるなと思いました。

東京で暮らし一戸建てを買うことなどまず考えない私としては、まずは暖かい賃貸住宅をどんどん増やしてもらって、そこに住みたいですね。そのためには物件を探す時、不動産屋さんに「高断熱住宅はないか」としつこく聞くことからはじめたいと思います。