12/12(木)green drinks Shibuya「心と向き合い、働く。」

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ユニークな協業の補助線を引き、戦略的にバリューチェーンをつくろう。赤池学さんと考える、エコシステムにもとづく木のまちづくり

木のまちをつくろう。

そんなビジョンを掲げて、株式会社竹中工務店とともに進めている連載企画「キノマチ会議」では、木のまちをつくるために、さまざまな領域の実践者にお話を伺っていきます。

第三弾となる今回は、木材利用を促進する顕彰制度「ウッドデザイン賞」の審査委員長でもあり、「ユニバーサルデザイン総合研究所」・所長の赤池学さんのインタビューです。また、CSV開発機構(*)の理事長も務めていて、会員企業と新しいバリューチェーンや新しいビジネスモデル創出に力も注いでいます。

ちなみに生命地域主義、千年持続学、自然に学ぶものづくりなど、さまざまな概念を提唱してきた赤池さんには、取材陣それぞれ、お聞きしたいことが満載。

そんな私たちに「課題を団子にして、鳥瞰的に見ることが大切ですよ」と繰り返しアドバイスする赤池さん。その言葉の真意を探りながら、木のまちをつくる新しいヒントにせまります。

(*)さまざまな社会・環境課題を抱える現代社会において、企業がCSRやISO26000を踏まえつつ、本来の事業展開力を活かした新しいビジネスモデルによって、公益と事業益を両立させながらよりよい社会、持続可能な未来を創造していこうというCSVを事業化することを目的としてつくられた。

赤池学(あかいけ・まなぶ)
ユニバーサルデザイン総合研究所所長、科学技術ジャーナリスト
1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営し、ソーシャルイノベーションを促す、環境・福祉対応の商品・施設・地域開発を手がける。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブ、(社)CSV開発機構の代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

グリーンズ代表・鈴木菜央、竹中工務店のみなさんとお話をお聞きしました。

「ウッドデザイン賞」で新ビジネスが生まれる

「ウッドデザイン賞」は、木のよさや価値を再発見させる製品や取り組みについて、特に優れたものを消費者目線で表彰し、木材利用を促進する顕彰制度です。建築、木製品、取り組み、技術・研究など木材利用促進につながるすべてのモノ・コトを対象としています。

実はこの賞の創設には、赤池さんが深く関わっていました。

今まで農林水産省に、検討会や審議会の委員の立場から様々な提案を行ってきた赤池さん。森林環境譲与税(*)の発案時、農林水産省より「同税を活用したまち・家づくりを推進する運動体をやってほしい」と相談を受け、理事長を務めることに。CSV開発機構の異業種企業が、そのプレーヤーとして活動しています。

また、木材のどういう使いかたがよいかを考え、その“模範演技”を選定して周知させる必要性を農林水産省に提案。そして2015年より「ウッドデザイン賞」がはじまったのです。

(*)間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充てられる国民の税金

今年で5年目を迎える「ウッドデザイン賞」。受賞者には、エコプロダクツ展での展示など、さまざまなPRの場が与えられる。審査委員は、隈研吾氏、日比野克彦氏、益田文和氏、山崎亮氏などそうそうたるメンバー。

さて、「ウッドデザイン賞」では、赤池さんの期待通り新しいビジネスの芽がどんどん出てきています。現場をのぞいてみましょう。

たとえば、VUILD株式会社の「Shopbot」(下写真参照)。

簡単にいえば、「Shopbot」という機械をもっている材木店が、お客さんが注文した家具や建材のデータをオンラインで受け取り、工房で材料をセットし「Shopbot」のスタートボタンを押すだけで、素早くオーダーメイドの家具や建築物のパーツを出力し、お客さんへ製品を届けるようなことができます。

写真左: 「Shopbot」で部材を切り出す様子。写真右:ワークショップで笹塚駅前にベンチを作成。

これにより、小規模の材木店などの六次産業化をも推進し、生産リードタイムの大幅な短縮や生産で発生する無駄な流通コストを削減することができます。

バリューチェーンの大改革ですよね。天竜材(*)のトップシェアを誇る鈴三材木店さんや、昨年寺院の建築で賞をとった菊池建設さんも「Shopbot」の導入を検討されている。従来、宮大工しかできなかった建築が、全部の部材を三次元の精密加工をして現地組み立てをすると、お寺もつくれてしまう。

さらにいうと、竹中工務店さんの先進的な技術を組み込めば、理論的には中高層の建築もつくれる可能性もあると思っています。

(*)静岡県浜松市の天竜地区で育った木材。天竜の森は、日本三大人工美林のひとつ。

続いて、このカブトムシ。
これは何でできていると思いますか?

なんと木に含まれる「リグニン」由来のバイオプラスチックを三次元加工してできたものなのです。

改質リグニンと生分解性材料を組み合わせた3Dプリンター用機材と造形物。ネオマテリア株式会社と京都工芸繊維大学の協業の「改質リグニンを利用した3Dプリンター用機材の開発と造形試作への展開」プロジェクトとして、こちらも2018年ウッドデザイン賞の優秀賞(林野庁長官賞)を受賞している。

「リグニン」といえば、製紙会社で紙をつくる過程での「黒液」と呼ばれるいわば“廃液”。そんな捨てられていたものが、木質バイオマスとして3Dプリンター用樹脂材料へと生まれ変わった。

仮にこのような先進技術と製紙会社が組み、再利用をはじめたりしたら、新産業の創出にもつながっていくと思うんです。3Dプリンターに木の素材活用を組み合わせた、異業種協業の注目すべき事例ですよね。

ちなみに製紙会社は木材利用のシェアを大きく占める分野です。リグニンを流通させるにはもちろん課題も出てきますが、木材が“新しい石油”のように、いろいろなプロダクトを生み出していく時代がくるかもしれません。

2018年ウッドデザイン賞の最優秀賞(農林水産大臣賞)「江東区有明西学園」(竹中工務店、江東区、久米設計の協業)。現在、材木関連業が衰退しつつある東京・新木場の木材をふんだんに使って、地域貢献している点が高く評価された。

いかに協業の構造をつくっていくかが鍵

このように「ウッドデザイン賞」では、木材活用をした、いろんなモノ・コトがどんどん生まれてきています。しかし赤池さんが審査で一番重視しているのは「バリューチェーンの形成」だと断言します。つまり、“いかに協業の構造をつくっていくか”です。

では、林業や材木店といった山側が、消費者のいる都市とどうつながっていけばよいのか。赤池さんは語ります。

川上から川中で、角材だけをつくり続けたり、間伐材を地元施設にちょっと使ったりといった従来の線形のバリューチェーンだけでは、木材活用を推進できずにサステナブルではないのでは、と問題意識を抱いた人たちは、先ほどの「Shopbot」を導入される材木店のように、自分で動いてネットワークづくりを模索していますよ。 

また、仮に材木店とビルダーが地元で中規模以上の木造施設をいきなりつくろうとしても、強度設計などのノウハウがあるわけではない。だから山側が、新しいサステナブルなバリューチェーンをつくるためには、いろんな方法はあるにせよ、首都圏の大手の異業種の企業と協業をしていくことが近道だと思うんですね。

たとえば小さな材木店が大手家具メーカーと協業で家具の製品開発をすると、メーカーの商流を通じてその家具が売れていきます。実際、家具メーカーの「ワイス・ワイス」は、地方の木材店と協業した数々のヒット作を、国内のみならず海外にも売り出しています。林業地域からすれば、プロのビジネスモデルやデザイン力をも習得できるのです。

「ウッドデザイン賞」の受賞者の交流の場では、異業種間の社長同士がつながって新しい協業を画策している様子も多く目にしますよ。このように共栄関係をどんどん築いていってほしいですね。

これまでになかった新しいバリューチェーンの創出を誘発していく。なるほど、「ウッドデザイン賞」の大きな意義が見えてきました。

戦略的にバリューチェーンを生み出す

一方で木材活用に関し、企業に求められることは何でしょう。農林水産省をサポートする企業である農林中央金庫も、現在木材建築を促すパンフレットなどを使って、地域の森林のオーナーに提案をしていますが、それでも建築施工に踏み切ることに消極的なオーナーが多いのだとか。

でもそこに留まっていてはだめだと思うのです。発信力や集客力のある高いデザインクオリティの施設をつくるためには、クリエイターなどが協業しないと難しい。

あるいは、大手の資材会社がミッションを感じて、日本中の林業自治体と都心を結ぶために材の調達供給を行う。そういう木材活用を先導する企業の活躍も期待しています。

また、横浜市はいち早くすべての森林環境税を小中学校の建て替えのための国産木材にあてる考えを示しました。縦割り行政組織が特長の日本の地方自治体と、木材活用をともに進めていくならば、個々の課へのアプローチよりも、そんな“木材活用に意気のある首長”を巻き込んでいくことも有効だと思いますね。

このように企業が戦略的にバリューチェーンを生み出すことは、まさにCSV(*)そのもの、という赤池さん。その必要性を訴え続けます。

(*)企業が社会課題等に主体的に取り組み、価値を創造することで、経済的な価値がともに創造されること。Creating Shared Value(共通価値の創造)。米国のマイケル・ポーター氏によって提唱された。

冒頭でお話ししたように、私の牽引するCSV開発機構も森林環境譲与税の運動体を担っていて、会員企業と自治体で、協業モデル構築のための勉強会も積極的に行っています。これから“キノマチ”の模範演技になる新ビジネスをつくっていきたいですね。

エコシステムのなかで、みんなのためのデザインを考える

さらに、「異業種・異分野組織がエコシステム(*)をつくれば、CSVでSDGsにも立ち向かえるはずなんですよ」という赤池さん。そのような確信の源泉に水を向けたところ…。ここで赤池さんの視界を垣間みる機会を得ました。

(*)ある領域の生き物や植物が、食物連鎖等でお互いに依存しながら生態を維持する関係。ビジネスでは、連携やつながりによって成り立つ全体の大きなシステムを指す。

赤池さんは、自身の研究所で「ユニバーサルデザイン(*)」の考え方をもとに、さまざまな商品、施設、地域開発を手がけてきました。そのユニバーサルデザイン、つまり “みんなのためのデザイン”とは。

(*)文化・言語・国籍や年齢・性別などの違い、障害の有無や能力差などを問わずに利用できることを目指したデザイン。米国のロナルド・メイス氏によって提唱された。

私なりに解釈したのは、ユニバーサルデザインとは、

1. 70億人の今を生きる多様な市民
2. まだ見ぬ未来の子孫たち
3. 今は亡き先人たち
4. 人間を含めたすべての生物

に向けたデザインだと考えています。つまり私たちを育む自然環境すべてを“みんな”と捉える感性が大切です。

山をどうしよう、川は、海はと分けて考えるのはナンセンスで、すべてはエコシステムのなかで連鎖的につながっている。

たとえば、熊は自分の必要量の20倍もの鮭を採って、食べきれない分を山にまきます。それが樹木の栄養へとつながっているんです。魚付き林(*)を保安するのも、エコシステムから考えれば当たり前のことなんですね。そういう自然界の根底から健全な森づくりを見直していくべきではないでしょうか。

(*)魚類の繁殖と保護を目的に、伐採を制限または禁止している岸近くの森林。

また、子どもや未来の子孫たちを意識したものづくりは、サステナブルなデザインへも発展します。一方、「私たちに継承するものを生み出した先人たちの考えかたにも、そのようなヒントがたくさんある」のだそう。

たとえば島根の奥出雲に残る「たたら製鉄」で行われている鉄づくり。山から砂鉄を採取し、それを開削した水路に流してたたら場まで運び、その砂鉄を釜の中で三日三晩炊きあげる。その後、砂鉄を流していた水路を、農業用水路として再利用し、丸裸の山を棚田に変えて稲作をしてきた。山林を永続的に利用するという、すごいエコシステムを日本は持っています。

このお話を通じて、赤池さんの生態系や時間軸を包括した、そんな無限の世界観を感じとることができました。

課題を団子にして産業のエコシステムを考える

さらに話題は、赤池さんが最近注目しているという「森林サービス産業」へと広がります。

場所は、徳島県海陽町を源流とし、高知県の東洋町に流れる野根川。里山清流の原風景を残した国内屈指のこの名川で、天然アユの生息環境を蘇らせるほか、流域に景観ポイントを整備し観光客を呼び込むといった地域再生計画が進められています。

赤池さんは、日本各地の川の清らかな水と生物たちの生態系を取り戻すための活動をしているNPO「ウォーターズ・リバイタルプロジェクト」と連携して、ここの地域振興を考えています。

ここがポイントなんですが、フランスのバスク地方と東洋町・海陽町は土地柄がすごく似ているんですよ。たとえば前者は巡礼の聖地、白ワインや生ハム・チーズの名産地。一方、後者はお遍路さんだし、川魚も海産物も美味。ともに有名なサーフスポットもあります。そんな好条件もあり、“姉妹河川”交流を結ばせたんですよ。

そこで私たちが企画しているのは、「日仏河川交流オーベルジュ(地域材をつかった農泊レストラン)」をつくること。

そしてバスク地方と東洋町・海陽町の地域食材とシナジーさせた六次産業化商品でもてなす、なんていうのも素敵でしょう?

海外と連携する農泊の第一号として、当然、補助金も期待大。株主の特典をつけてクラウドファンディングで資金を集める。それを使い山林の地主から地上げして、名産ワインを作る…と話は続きます。

ちなみにここは第三セクター鉄道が少ししか走っていない場所。そこに徳島県が来年、世界初のDMV(*)を走らせる予定だとか。

(*)デュアル・モード・ビークル。マイクロバスを改良した、線路と道路の両方を走ることができる車両

さらに新交通サービスとして、MaaS(*)を組みこんで、ゴルフカートのような車で観光客に景色を見ていただくとかね。低床でお年寄りにも優しい移動手段だし、発動機のトップシェアメーカーのヤマハ発動機さんもCSVメンバーなので、協創できるでしょう。

(*)情報通信技術を活用することにより自家用車以外の全ての交通手段による移動をひとつのサービスとして捉え、シームレスにつなぐ新たな移動の概念。

縦横無尽に広がる赤池さんのひらめきの連鎖を前にして、一同本気でわくわくせずにはいられないお話でした。

一方、前述のとおり行政では、林野庁中心に「木材活用」「森林環境譲与税」、農林水産省の別のセクションが「六次産業化」「農泊」を個々に縦割り管轄している現状。

その上で、「これらを鳥瞰的に捉え、課題を団子にして産業のエコシステムを考えると、とてもチャーミングな企画が見えてきます。そのために思いもよらないユニークな補助線を引く訓練が大切ですよ」と笑顔で結んでくれました。

最後に、すべての木に関わるサポーターに赤池さんの信条ともいえる、「経営戦略論の父」と呼ばれるマイケル・ポーター氏より受け継いだメッセージをいただきました。

ユニークになるために戦う企業になれ。それ以外に未来はない。
そのためには他社がやらない独自の事業構想をもつこと。
それを形にして顧客に届けるバリューチェーンをつくること。
そしてやらないことを決めることだ。(マイケル・ポーター)

「課題を団子にして、鳥瞰的に見ること」とは、個別に分けられた課題の垣根をいったん取り払い、全体像を把握しながら、本質的で持続的な働きかけをすることだと感じました。しかし、要素還元主義(*)的な思考を学んできた多くの現代人は、確かに多くの訓練が必要だと思います。さらに“これから先の時代”にアップデートした発想となると、なおさらです。

(*)大きな問題を小さな問題に分割して一つひとつ解決しようとする考え方

一方、いろんなものをつなぎ直して「いかしあうつながり」をつくることを、たたら製鉄の例から考えても、私たちのDNAはきっと知っているに違いない。そんな希望をもって、木のまちづくりを考えていきたいと思いました。

グリーンズでは引き続き、11月27〜28日に長野県で「キノマチ会議 リアル版」を開催します。ゲストに古材・廃材を利用した「Rebuilding Center Japan」の東野唯史さんを招き、みなさんと木材を通じた循環型経済の可能性を探ります。

また、「木のまち」をつくるためのヒントをみんなで学んでいくFacebookグループも参加者が増え続け、盛り上がっています。ぜひのぞいてみてください。

(写真: 廣川慶明)