ローカルで成長し長く続く企業が増えると、まちが安定する。だから“5人・10人の壁”を越えていこう。小田原発・一部上場企業「Hamee株式会社」樋口敦士さん × 事業戦略家・山口豪志さん対談

「ローカル起業」が、「小商い」や「自由な生き方」という側面で話題となっている昨今。「小商い」や「スモールビジネス」もいい。でも、その先に実現する「年商1億円規模の創業事例がまちにいくつかあるような状況をつくる」ことが、まちが本当の意味で再興していく局面において重要なのではないか。

そんな仮説の元、ローカル起業について一歩踏み込んだ視点で探求する連載「小田原創業ものがたり」。前回は”5人の壁”を乗り越えた創業者の声をお届けしました。

今回は小田原のローカル起業事例として真っ先に名前があがる、東証一部上場企業の「Hamee株式会社」代表取締役社長・樋口敦士さんと、起業や事業拡大についての書籍も出版されている事業戦略家・山口豪志さんの対談をお届けします。

果たして5人、10人の壁を越え、更に事業を拡大していくときにぶつかる壁とは? そして年商1億円規模を超える企業が増えると、まちはどう変わるのでしょうか?

「5人、10人の壁」という問いに対して、「そもそもその段階では壁を感じていなかった」との答えから始まった対談。2人が見据えていたのは、ひとつの会社が起こることによって生まれる、更にその先の変化でした。

樋口敦士(ひぐち・あつし)
Hamee株式会社 代表取締役社長。1977年生まれ、地元高校卒業、大学3年時に創業。その後、モバイルアクセサリーのEコマース、メーカー、卸売から、ECのマネジメントシステム、海外展開へと事業領域を拡張しつつ、2015年4月に東証マザーズへ上場、2016年7月東証一部へと市場変更し、プロダクト×データ×テクノロジー分野での更なる進化を目指している。

山口豪志(やまぐち・ごうし)
株式会社54 代表取締役社長。1984年岡山市生まれ。2006年からクックパッド株式会社にて、創成期の広告・マーケティング事業に参加。2009年の同社IPOにトップセールスで貢献。2012年より3人目の社員としてランサーズ株式会社に参画。ビジネス開発部長として大手企業との事業提携・協業、広告企画の販売開始など初期の立ち上げに尽力。その後、2015年5月に株式会社54を創業。常時約30社のスタートアップ企業のアドバイザーとして事業戦略策定、BtoBアライアンス支援、広報部門立ち上げ等のコンサルティングを行っている。2017年8月プロトスター株式会社に共同代表COOとして参画。

文化祭みたいで楽しくがむしゃら!
“5人、10人”で乗り越える、ビジネスモデルの壁

対談は2017年に移転した、Hamee本社オフィスの新社屋にて行いました。

樋口さん 今日のテーマは“壁”ですよね。僕は大学生のときに友人と2人で起業して、今20年経って社員数は350人(小田原本社に200人)ほどですが、いつも壁だらけではあります(笑) でも正直に言うと、特に5人、10人と人を増やすことに壁を感じることはなかったですね。

10人ぐらいの頃はマンションの1室で、パソコンに向かっている人も、出荷の作業をしている人もみんな見える範囲にいて、何かあったらすぐ話せる距離感でした。その頃は食べるのに必死で、朝早く来て夜遅くまでやってて。昼飯も夕飯も会社で、という感じでしたね。

山口さん 5人や10人の段階って、まだビジネスモデルもなければ売り物もなかったりするから、とにかく売り物をつくらなきゃみたいなところが一番重要で。その頃って組織としては結構楽しいんですよね、文化祭みたいで(笑)クックパッドも僕が入った当時は9人ぐらいでしたけど楽しかったですし、ランサーズも3人でしたけど楽しかったし。

樋口さん でもクックパッドって、IT系でイケてる系じゃないですか。僕らはその頃ストラップ売ってて、イケてない系ですよ(笑) でもそれで食ってけるだろうと信じてがむしゃらにやってたんですけど。

山口さん いや、僕らもがむしゃらでしたよ。でも、クックパッドって役員や社員の6,7割は女性なんですよ。女性が働きやすいような組織体だったので、かなりホワイト。僕と僕の上司はワーカホリックだったんでめちゃくちゃ働いてましたけど(笑)

樋口さん 当時はビジネスモデルの未熟さを気合でカバーしてたってことですよね。そういう意味では、この頃は、組織づくりよりも、ビジネスモデルやプロダクトづくりの構築に“壁”があるのかもしれません。

山口さん 最初は売り物づくりをして、売り先をみつけてくる。それで実際に売って、喜んでもらう、みたいなところが重要なアクションで。それがうまくいけばあとは同じことの繰り返しなので、勝手に伸びていくんですよね。

クックパッドで僕がやったのは、メールマガジンやバナー広告という純広告を売ることだったんですけど、ほとんど利益率95パーセント以上の商材で。会社はめちゃめちゃ潤いましたし、当然業績は伸びました。

だから5人、10人ぐらいの組織のときの課題感は、どうやって売上を上げるか、利益を上げるか、っていうところに尽きると思うんです。

樋口さん 僕らが10人ぐらいのときはネット通販が主で、僕が仕入れやマーチャンダイジング、戦略ビジョンを考えていて、みんなはネット上にそれぞれ自分の店舗を持っていたんですよ。その下に人がついていなくて、全部自分でやっていたので、やはり組織づくりよりも売上や収益性を上げることに必死でしたね。

2018年、Hameeの創業20周年を記念してつくられたボトルウォーター「クリ魂水」。「クリエイティブ魂に火をつける」はHameeが掲げるビジョン。

社員から不満も…
“30人、50人”でぶつかる、組織づくりの壁

樋口さん 組織づくりと言えば、10人くらいの頃に、もともと知り合いだった、年上の経験値の高い人に入ってもらったんですよね。会社の経営や仕組みのことも知っていたので、引っ越して、徐々に人を増やして、部署をつくって、と。彼のおかげで会社らしい体制を整えることができて、それでしばらく組織づくりの壁にぶつからなかったところはあるかな。

山口さん 人数の絶対数で言うと、30人や50人ぐらいから組織っぽくしていかないといけなくなりますよね。中間管理職を置いて、マネージメントや採用の権限も与えて、ってなると変わるんですよ。それまでは社長だろうがなんだろうが一緒にやってるから、そんなに意識統一しようとしなくても勝手に統一されるんです。機能が分化するみたいなところからが、結構大変になってくるフェーズですよね。

樋口さん そうですね。実際50人ぐらいになったとき最初に組織としての壁を感じました。ちょうどその頃採用の仕方も変えて。それまで知り合いの知り合いに来てもらったり、折込チラシで人を募集していたりしたんですが、新卒採用を始めて、中途採用も媒体に出し始めて。

そうして多様な人材が集まるようになっていたこともあるかもしれないんですが、「みんな同じ方向向いて頑張るぞ!」みたいな意識だと思ってたら、そうでもなかったということに初めて気付いて。今考えたらそんなの当たり前でね。会社の中には色んな人がいて、文句言ったり、仕事サボっちゃう人もいたりするんですよ。

でもそのときは焦って、外部の人事コンサルに相談しながらなんとか初めて感じた壁を乗り越えましたね。最初にあった組織的な試練はそこだったかな。

山口さん 組織になっていくときに一番重要なのは評価制度ですよね。どうやって給料を決めるか、家賃補助や産休はどうするかとかいろいろと考えることがあるんですけど。そういう制度がないと社員から不満が出てきますよね。

樋口さん そうなんです。最初はそんなのなくて当たり前。僕は就職をしたことがなくて外の会社を知らないから、なんで急にそんなこと言うんだろうってびっくりしちゃって。

山口さん 会社が小さいときは、社員も会社の懐事情もわかりますもんね。会社全体の売上が今月300万で、あいつがこれぐらいもらってて、自分はこんなものか、みたいなね(笑)

樋口さん 実は10人ぐらいのときはお給料もオーダーメイド制でした(笑) この人は歩合制がいいなとか、この人はコツコツ上げていこうとか、この人は最初からある程度、とかその人の気質やバックグラウンドを見ながら、決めていたんですよ。

ただ、「みんなで事業をつくっている」っていう形から、組織になって分業化されて「一機能を担っている」という形になっていくと、当然会社として当たり前にあるものがないといけない。だからそこは整備していかないといけなかったですね。

山口さん 世の中、経営者よりもサラリーマンの方が“当たり前”ですからね。給与もらっている人のマインドからすると、会社が給料を払うのは当たり前と思うけど、経営者からすると、毎月売上がコンスタントに上がっていくなんて普通はありえない。その意識の乖離がひとつの“壁”にもなってくるんだと思います。

成功の秘訣は、この上なくシンプル。
ビジネスは「信用の雪だるまゲーム」

山口さん 今5人、10人ぐらいの組織で奮闘している経営者の人にアドバイスできることがあるとしたら、「ちゃんと利益があがるような商品をつくる」それだけですね。

樋口さん それがひとつあることは大事ですね。売り方やブランディングも大事ですが、ひとつそうした商品を持てばあとはそんなに難しくない。

ただ、商品力を上げずにいろんなことをやっちゃう人って多いんじゃないかな。そうすると順番間違っちゃう感じで。何よりもやはり、ひとつ入魂のプロダクトやサービスをつくることですね。もちろん会社や人としてやるべきことをちゃんとやる。信用第一で。

山口さん ビジネスってめっちゃシンプルなんですよ。信用をどう勝ち得て、どう伸ばすかってだけ。「信用の雪だるまゲーム」なんです。

要は「あいつの言っていることは現実化するぞ」って思われるかどうかっていうこと。僕はそうなりたかったから、クックパッドにしてもランサーズにしても、自分がコミットした会社は絶対成功させるっていう約束を社会として、そうしてきたから多少なりとも信用はついてきました。

それは人の会社にコミットするだけじゃなくて、自分が立ち上げた会社でも同じことで。取引先や関係している会社に対して、信用を築いていくんです。会社の中で信用を得るにしたって、収益性を守るとか、朝ちゃんと来るとか、挨拶するとか、できないことはできないって言うとかね。実際小学校1年生ぐらいで習うことをちゃんとすれば信用って得られると僕は思ってます。

10人の雇用で1,000万円の経済効果も!
まちに会社が増えるとどうなる?

山口さん Hameeさんの本社が移転してきて、このあたりに若い人が増えたと聞きました。20代や30代の人たちを10人雇用するだけでも、その人たちが買い物をしてくれることを考えたら、経済効果はすごい。年間でひとりが100万円ぐらい使ってくれたら、10人いるだけで1千万ぐらいまちに経済効果があるわけじゃないですか。Hameeさんは今、小田原の本社に社員は何人いるんですか?

樋口さん 200人ぐらいですね。

山口さん 200人って、すごいですよね。平均年齢30歳ぐらいでしょ?

樋口さん そうですね、そのぐらいかな。もともとこの周辺に住んでいる人が半分とそれ以外の人が半分ぐらい。7割ぐらいが小田原周辺に住んでいて、あとは藤沢や町田から東海道線や小田急線で。東京から新幹線で通ってきてる人もいますね。

2017年に移転した、Hamee本社オフィスの新社屋。小田原の古いお店が並ぶ商店街を抜けると、ぽっかりと真っ白で近代的なビルが現れます。設計段階から社員が関わったというオフィスの内部は「遊ぶようにはたらこう」と公園をテーマにしていて、とても居心地が良さそうです。

山口さん 若い世代がいると子どもも増えますからね。やっぱり子どもとか学生が多いまちって栄えますよ。雇用があり、いわゆる子育て世代が集まるまち、「学び場」「遊び場」「仕事場」があるまちっていうのは自ずと元気になるので。その意味で仕事があるっていうのは大事ですよね。

長く続く会社があると、地域や社会が安定する。
老舗もベンチャーも受け入れる小田原のポテンシャル

山口さん 僕は小田原に本気で移住を検討したことあるんです。新幹線で東京まですぐだし、その割にローカルサイドも残っている。文化や歴史もある。100年以上続く企業もあれば、新しいビジネスもちゃんと生まれている。

老舗が根付いている場所に新しい会社が入ってくるっていうのは、他の地域ではあんまりないんですよ。そういう意味では小田原っていうのはビジネスの層が厚いんだなと思いましたね。

樋口さん 老舗の会社は視点が長期的なんですよね。信用ということもすごく大事にしていて。その上で自分たちのような新興企業も応援してくれて、うまく融合していますよね。ちゃんと長い目で見た経営をしている年上の人たちもいますし、その2代目や3代目など若い人たちもそういう視点を持っている人が多いんです。

山口さん いいですよね。うらやましいですよ。

樋口さん だからもっと丁寧にやらなきゃいけないなとか、磨き上げなきゃいけないなとか、小田原の人たちと話しているとそういう考えになって、勉強になりますね。

山口さん 長く続く会社があると、地域や社会が安定するんですよ。来月の給料を貰えると思う人たちがたくさんいれば、安心して「掛け」で物を買うじゃないですか。そうすると地域の経済が回るんです。基本的には安心して人々が生活できるために会社が必要で、その会社があることによって地域が安定して、みなさんが安心して暮らせる。だから人を雇用できるような会社は地域に必要なんですよね。

樋口さん 僕は小田原育ちなんですけど、だいたいみんないつの間にか外に出ていっちゃうんですよ。高校卒業とか大学卒業とか、地元で就職してもそのうち辞めて東京に行っちゃったり。小田原でもできるのに、東京で起業する人もたくさんいるんですよね。

5人でも10人でもいいんですけど、スタートアップみたいな、将来の夢に向けて一生懸命やっているような会社がいくつもあれば、そこに入ろうと思う人もいるし、そこから巣立って起業していく人も増えるだろうし、外から引っ越してきてくれる人もいるだろうし。小田原での起業が増えれば地元には、いいことしかないと思うんですけどね。

みんなもっと、ビジネスをやったらいい。
良い経営者が増えると、地域も国も変わる

山口さん 僕は2019年3月末を機に基本的にイベントの登壇などの表舞台に出るのをやめようと思っていて。それよりも、良い起業家を育てる方が社会にとって影響力が大きいんですよね。

樋口さんが20年経営をやってこられて素晴らしい起業家なのは言わずもがなですけど、樋口さんが生まれるのって奇跡的な確率なんですよ。多くの人は道半ばで潰れていってしまう。

でもそういう人がひとりいると、200人を小田原で雇用できたりするわけですよね。そういう起業家がひとりいるだけで地域が変わるし、国も変えられる。

そんな感じで「ビジネスはすごく楽しいゲームだから、みんなもっとやったらいいよ」という思いで本を書きました。僕はこれから自分が伝えたいことや社会に残していきたいことは本やメディアを通してやるつもりでいます。

山口さんの著書『0 to 100 会社を育てる戦略地図』。クックパッドやランサーズなどいくつかの全く異なる業態の会社を経験して培った、世の中の動きに合わせて組織がどういう変更点を加えていくべきか、会社の規模が変わると何を具体的に変えないといけないか、ということを著述した、他に類を見ない経営本。

樋口さん いい経営者がまちに増えるといいですよね。そのためにも自分たちが、世の中に必要とされるようなビジネスをしっかりつくりこみたいなと。それで「ああ小田原でもできるんだ」って思ってもらうことで、小田原の会社に就職しようとか、小田原で始めてみようとか、そんな人が増えたらいいなと思いますね。

(対談ここまで)

小田原のゆったりした町を歩いてみると、古い建物や老舗と見えるお店が多いことに驚かされます。一方でおしゃれで先進的なHameeのオフィスも違和感なく溶け込んでいるようです。小田原には、老舗もベンチャーも受け入れる風土がある、対談中に話していたそんな言葉が思い出されました。

一定の雇用ができる会社が増えると、安心して買い物ができる人が増え、地域の経済が安定していく。対談から導き出された結論は、この連載の仮説“年商1億円規模の創業事例がまちにいくつかあるような状況をつくることが、まちが本当の意味で再興していく局面において重要なのではないか”を後押ししてくれているようです。

お2人は2018年10月末に小田原で開催される「第3新創業市」の「みんなのビジネススクール」でも、「起業から成長、上場まで」というテーマで登壇されます。

対談中に紹介した山口さんの著書『0 to 100 会社を育てる戦略地図』をベースに、それぞれのフェーズでどのように歩まれてきたかをお話されるとのこと。ビジネスを成長させるためのヒントがたくさん詰まった講座に、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

次回は、「地方創生、ローカル起業はどこに向かうのか?」というテーマで、まちづくり専門家の木下斉さんと、第3新創業市プロデューサーの山居是文さんの対談をお送りします。どうぞお楽しみに!

(Photo by Photo Office Wacca: Kouki Otsuka)

– INFORMATION –

樋口さんと山口さんも登壇! 第3新創業市「みんなのビジネススクール」

10月31日(水)19:00-21:00「起業から成長、上場まで」
樋口敦士さん・山口豪志さん
詳細・お申込みはこちら https://dai3sogyo.net/2018bizschool/