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地方都市・小田原から世界を目指す。日本酒ブランド「HINEMOS」を展開する酒井優太さんの挑戦

東京でも田舎でもない。その間に位置する地方都市、小田原。「都心へガツガツでもなく、地方へターンでもない第3の創業スタイル」として、起業プログラム「第3新創業市」を開催し、続々と創業者を生み出しています。

そんな第3新創業市が今考えているのは、スモールビジネスにとどまらない、もう少し大きな規模まで成長する会社が増えればまちが活気づくのではないか、ということ。そんな仮説を元に、ローカル起業のリアルに切り込んでいく連載が「小田原創業ものがたり」です。

今回ご登場いただくのは、株式会社RiceWine代表取締役社長の酒井優太さん。世界を相手にビジネスをすることを目指し、日本酒ブランド「HINEMOS」を展開しています。

コンセプトやブランドの力で世界の人を魅了する。Appleのような世界観を、日本酒でつくりたいんです。

2018年8月に会社を立ち上げてから約1年。小田原から海外へ挑戦する酒井さんにお話を伺いました。

酒井優太(さかい・ゆうた)
株式会社RiceWine代表取締役社長。1984年生まれ。慶應義塾大学大学院修了後、2009年、リクルートに新卒入社。住宅領域、ネット広告領域を経て、M&A先の英国法人Quipperへ出向。フィリピン駐在にて、スタディサプリの海外版の事業を立ち上げ後、現職。

時間に合わせてお酒をたしなむ。
シンプルで新しいスタイルを提案する

大胆に数字をあしらったデザインとカラフルな色使いが印象的なボトル。こちらが酒井さんが展開する日本酒ブランド、「HINEMOS(ひねもす)」です。

洗練されたデザインで、贈り物や手土産に選ぶ人も多いそう。オンラインでも購入可能。(https://hinemos.tokyo/

「ひねもす(終日)」とは、「全ての時間」という意味。銘柄もSHICHIJI(7時)、HACHIJI(8時)、KUJI(9時)と、時間の名前がそのままお酒の名前になっています。

たとえば午後7時は大体パーティが始まる時間ですよね。だから「SHICHIJI」は乾杯にふさわしい、スパークリングの日本酒にしました。午後8時は食事が進む時間帯なので、「HACHIJI」は様々な料理と合わせることができるにごり酒。「KUJI」はメインディッシュと相性の良いプレミアムな純米大吟醸、「JUJI」はデザートワイン、というように時間帯で味を変えています。

ボトルキャップは時計をデザイン。現在展開しているのは6銘柄ですが、いずれは12の時間帯が揃うとのことなので、どんなお酒が出てくるのか楽しみです。

「時間」をコンセプトにしたのには理由があります。日本酒を世界へ発信しようと考えたときに、その日本酒を区別する「純米吟醸」「生もと造り」「山廃仕込み」などの専門用語が難しく、イメージしづらいと感じたから。もっとシンプルに海外の方に伝えることができないだろうか。そう考えたときに思いついたのが「時間」というコンセプトだったそう。

時間は世界共通ですし、「仕事を終えて職場をあとにして飲みに行く」ということが大体共通の行動としてあります。だから「時間帯でおすすめの日本酒を飲む」ということが、シンプルで新しいスタイルとして提案できるんじゃないかと思ったんです。

酒蔵とのめぐり合わせ

お酒を醸造しているのは、小田原の隣町、大井町にある「井上酒造」。1789年創業の老舗の酒蔵(さかぐら)です。酒井さんから井上酒造に委託してオリジナルの酒をつくる、「委託醸造」というかたちで、製造しています。

酒井さんが住まいのある小田原の近くで酒蔵を探したところ、なんと町を流れる酒匂川沿いに4軒もの酒蔵がみつかったのだそう。この4軒のうちのいずれかで、と思っていたところ、商工会の橋渡しで委託醸造に積極的な酒蔵として、井上酒造と出合うことができたのです。

2018年8月に会社を立ち上げた後、10月頃までは試飲会を巡り、酒質を検討。

そして10月末から翌年3月までの約半年間、「HINEMOS」として最初の酒づくりには酒井さん自身も蔵人として酒蔵に入り、酒づくりを実践します。

僕はお酒に関しては全くの素人だったんです。なので、手取り足取り酒づくりを教えてもらっていました。酒造は朝6時から始まるので、毎日早起きをして。肉体労働なので、体力的にはしんどい時期でしたね。でもつくり方を知らないと、これからお酒のことを語れないと思ったので、これは避けられない大切な工程だと思っていましたね。

日本人である強みを生かして、世界に勝負を挑む

「お酒に関して全くの素人」。そう話す通り、酒井さんは日本酒とは異なる、インターネット業界の出身。住宅や広告、インターネット教育などの分野で仕事をしてきました。

2年間はフィリピンに駐在。単身赴任で家族と離れて暮らす中で、「いつか独立したい」と温めていた思いが実現に向かって動き始めます。

大学院生の頃から、企業で数年働いたら独立するつもりでいたんです。子どもが生まれてからは、どうせやるなら子どもが関わるだろう日本のために何かやりたいなと思って。

自身も海外に駐在していたことから、起業するならば海外のマーケットに挑戦したいと思ってきた酒井さん。一方でアメリカや中国出身の優秀で語学も堪能な人たちと接するほどに、海外で戦うならば「日本人であることを武器にするしかない」と感じます。

フィリピンにいるときに、海外でも和食が産業として伸びていることは感じていたので、日本のものや食を外に持っていくことに可能性があるなと思いました。日本への経済的な貢献も大きいですよね。その中で、日本酒に一番可能性を感じたんです。

実際に、日本酒は国内の需要が落ち込む一方で、輸出総額は9年連続で過去最高を更新しています。(参照: 国税庁酒レポート) 海外では、フランス料理に日本酒を合わせることがトレンドにもなっているのだとか。

実は酒井さん、それほどお酒が得意な方ではないそう。日本酒は、パック酒などの安いお酒の印象から酔うために飲むものというイメージがあり、それまであまり手を伸ばしたことはなかったといいます。好きではないものをビジネスにすることに、ハードルは感じなかったのでしょうか。

日本酒は飲んでみたらおいしかった。これまで手が伸びなかったからこそ、もっとかっこよくできるんじゃないかと思ったんです。新鮮な視点で挑戦できるから、余計なバイアスがかかっていないのがいいんじゃないかとポジティブに捉えましたね。

とはいえ、独立を決断をするまでには4年間かかりました。「最終的に起業をしたいというのは決まっていたんですが、何で起業しようか、その前に海外に留学しようか、など迷っていたんですよ」と酒井さんはその頃を振り返ります。最後の後押しになったのは、お子さんの誕生でした。

これまで攻めの人生だったけれど、子どもが生まれて急に守るものが増えたんです。そのときに気持ちがキュッと守りに入ったのを感じて。これから冒険できなくなるかもしれない、もうこれが最後だと思いました。もしもこれから二人目の子どもができたとしたら、いよいよ腰が重くなる。そういう人生は嫌だなと思ったんです。

小田原でないといけないわけではなかった。

小田原は酒井さんの奥様のご実家の隣町。酒井さんのフィリピン駐在中、奥様が小田原に居住していたことから、帰国後に家族で小田原に住むことになりました。

単身赴任を経験して、今後は子どもの顔が見える場所で働きたいと思っていた酒井さん。小田原で起業したのは「たまたまご縁があったから」と話しますが、この立地はビジネスにもちょうど良いのだとか。

東京にも新幹線を使えばすぐだし、一方で熱海と箱根も近いんですよね。「HINEMOS」は東京のレストランにも、箱根の旅館にも卸しているので、この距離感は良いです。

さらに小田原は外国の人にとって、熱海や箱根への中継地点なので、たとえば酒蔵見学をしてもらうとか、インバウンドのビジネスチャンスもありますよね。

ビジネスの拠点としてちょうど良いばかりでなく、小田原はプライベートを過ごすのにも居心地の良い場所でもあります。

海が近いんですよね。2年住んでるんですけど、この前こんなにすぐそばに海があったんだってはじめて知りました(笑) 僕は宮崎生まれの沖縄育ちなので、海が好きなんですよ。

それから小田原の人ってなんとなく都内の人と比べてのんびりしているような気がして、それが心地よいですね。

小田原にある旧三福不動産の軒先で。酒井さんは旧三福不動産のコワーキングスペースの会員でもあります。左は旧三福不動産 代表の山居是文さん。

そんな酒井さんに、「一方で小田原のまちで課題に感じていることはありますか?」と伺うと、「まだ起業している人がそんなに多くはないから、同じアングルで話せる人が少ないかな」と話しながらも、少し答えに困った様子。こう言葉をつないでくださいました。

縁あってここで起業したんですが、僕は土地にこだわりがないので、小田原でなければいけないということもないんですよね。

僕は海外を見ていたいと思っているので、小田原が海外の都市と比べてどうかという視点があってもいいんじゃないかと思うんです。気持ちが小田原に閉じていなくて、たまたま小田原にいるだけなので、この質問には答えるのが難しいのかな。

「小田原が海外の都市と比べてどうかという視点があってもいいんじゃないか」。その言葉には、小田原が地方都市だからどうということや、東京と比べてどうかということを超えた視点があるように感じました。

その土地の素材を生かしてつくる日本酒というビジネスの特性もあるかもしれません。だけど海外を目指すなら、都市でなくてもいい。地方からも世界を臨むことはできる。酒井さんの言葉からは、そんなメッセージを感じます。

世界中で飲まれるお酒へ

今後は社員を増やし、事業拡大を考えている「RiceWine」。生産量を増やすために、自社の酒蔵を持つことも視野に入れています。

今年の冬は出荷量を倍以上に増やし、来年の冬は酒蔵を建てようと思っています。今は井上酒造さんに委託しているんですが、そうするとつくれる量の限界があるんですよね。銘柄も増やしていきたいと思っているので、今後は酒蔵を持ちたいんです。

そうして目指すのは海外への展開。海外には現在単品で商品を送ることははじめていますが、千本単位などの量で輸出するのはこれから。国内の基盤が安定した後は、海外へ販売拠点を移し、移住することも考えているのだとか。

「海外移住」という言葉が酒井さんのお話の中からさらっと飛び出し、驚きます。なぜ移住を考えているのでしょう。

日本のマーケットは人口が減っていくなかで経済が縮小していくので、海外に目が向いていないとビジネス的に難しくなっていくと思っていて。そこで、マーケットが大きい東南アジアか中国へ拠点を移すことを考えています。

日本で生産をして、販売拠点は海外に持っていくのが目標です。でも一番は、子どもが小さい頃に語学を身に着けられるように、ということが大きいです。

ビジネスとして海外を舞台に戦おうとしていることはもちろん、「僕も妻も、外に出ていきたいんですよ。いろんな世界に触れたい。そういう二人なので、海外に行くのは必然かな」と話す酒井さん。ビジネスと家族との理想の暮らしは、バランスを取りながら両輪で進んでいきます。

海外に拠点を移動した後は、現地で従業員を採用し、社内には海外の人の割合を増やしたい、と具体的な今後のプランを淀みなく語ってくれました。事業を拡大していく先には、どんな未来を描いているのでしょうか。

この前FUJI ROCK FESTIVALに行ったんですけど、そのときに提供されているドリンクってジーマとかハイネケンとか海外のブランドばっかりなんですよね。HINEMOSをあれぐらいのブランドにしたいという野望があります。

海外の方のファーストチョイスとして飲んでもらう。そうしたら生産地は小田原なので日本へも経済効果があるし、グローバルに展開しているってロマンもある。ロマンとそろばんが成り立つのか、夢見たりはします。

「そういう夢はありますが、きれいなことばっかり言っていても進まないので、まずは足元ですね」と笑いました。

酒井さんのお話で印象的だったのは「僕は海外を見ていたいと思っているので、小田原が海外の都市と比べてどうかという視点があってもいいんじゃないかと思う」という言葉。その土地にある資源を活かしながら、新しい価値を打ち出していく。そうした世界を舞台にしたビジネスができるのは、東京だけじゃない。小田原からも世界を臨むことができるというメッセージに感じました。

今年10月から始まる「みんなのビジネススクール」では、メンタルヘルスから組織論、ママの起業まで、様々な先輩起業家たちの実体験に基づいた講義を受けることができます。もちろん酒井さんも登壇予定。

小田原に限らずローカルで起業を考えている方、世界に挑んでみたい方も、ビジネスのヒントを得るために、足を運んでみませんか。

(Photo by Photo Office Wacca: Kouki Otsuka)

– INFORMATION –

酒井さんも登壇! 第3新創業市「みんなのビジネススクール」10/12(土)スタート
詳細・お申し込みはこちら http://dai3sogyo.net/2019bizschool/