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私の仕事は、社会にどんな意味を持つのだろう。社会貢献活動を社員育成に取り入れる「プロボノ価値共創プログラム」が目指す、会社人ではなく社会人としてのキャリア形成。

プロボノというと、「個人でボランティアとしてNPOをはじめとする社会貢献団体をスキルで支援する」というイメージが強いと思いますが、このプロボノを社員の研修として行なっているプログラムがあります。

プロボノと社員研修、一見結びつきにくいこの二つを結びつけ、企業のためにも社会のためにも、参加する個人のためにもなるという「三方良し」を実現しようとしているのです。

今回紹介する「プロボノ価値共創プログラム」は、サービスグラント富国生命保険相互会社などと約2年前から実施しています。プログラムの導入を決めた富国生命保険の吉本剛(よしもと・つよし)さん、フコクしんらい生命保険株式会社の矢崎斉(やざき・ひとし)さんに加え、実際に参加した鈴木直史(すずき・ただし)さん三浦洋平(みうら・ようへい)さんの4人に、プロボノが社員研修に本当のところ役立ったのかをうかがいました。

プロボノと社員研修が共創する価値って?

プロボノ価値共創プログラムは簡単に言うと、複数の企業から参加した社員がチームを組んで特定のNPOの課題解決を支援するというものです。4、5人のチームをつくり、NPOやステークホルダーへのヒアリングから始めて、課題を把握し、解決するための成果物をつくり上げ、それを提案としてNPOにフィードバックします。期間は約1ヶ月で、その間に3、4日間の集合型プログラムとチームごとの活動を行ないます。

現在は、中堅社員向け(30〜40代前半対象)とシニア社員向け(50〜60代対象)を展開していて、それぞれ問題意識として中堅社員向けは「イノベーションを起こせる社員になってほしい」、シニア社員向けは「ビジネス以外のキャリアも視野に入れて、雇用を延長するならスキルアップを」というものを上げています。

このプログラムが個人で参加するプロボノと異なるのは、社員研修という特質上、社員が問題意識を持ち、それを解決することを目的の一つとしていることです。もちろん、それはNPOの課題を解決するという第一義的な目的を達することで達成されるものではあるのですが。

このプログラムが生まれたのは、当時、富国生命で研修・人材開発を担当していた矢崎さんが抱えた危機意識からでした。

矢崎さん 現場の営業の人たちを集めて研修したことがあったんですが、彼らの会話が完全に社内用語だけで成り立っていて、それを飛び越えるようなワークをやろうとしても全然飛び越えられなかったんです。クリエイティビティから、かけ離れたところで彼らは仕事をしているなと感じました。でも、それはずっと現場に縛り付けて閉鎖的な空間で働かせてきた企業側の責任でもあると思ったんです。

矢崎さん

矢崎さん 私は企画部門にいた時に、異業種の人たちと一緒に課題解決をしたり考察をするということを、企業変革をテーマにやったことがありました。それはすごく勉強になったし、緊張感の中ですごくいい体験ができたんです。なので、異業種が集まってやる研修をやりたいというのがかなり前から自分の中にありました。

加えて、富士ゼロックスの総合教育研究所で社会起業家を集めるトークセッションに呼ばれたことがあって、それがきっかけで知り合った人たちと話す中で、社会課題の解決を通じて社員の育成につなげることができるんじゃないかとも思っていたんです。

そんな時に、サービスグラントさんを紹介されて、プロボノの提案を受けて、自分の中ではつながっていなかった社会課題とか異業種とか社外というものがつながって、このプログラムを始めたんです。

矢崎さんの話からは、人材育成と社会課題の解決という両方の問題に対する強い意識を感じます。そしてそもそもは、企業にとっての人材育成の課題を解決する方法を探っていったらプロボノに行き着いたということのようです。

そのようにして生まれたプログラムなので、社員も自らプロボノに飛び込んでいく人ばかりではなく、会社の研修として、いわゆる個人でプロボノに参加する人とは異なる思いで臨む社員も多いかと思います。実際にどのような思いで参加し、どんな気づきを得たのか、参加した三浦さんと鈴木さんに聞きました。

プロボノの目的を達すれば研修の目的も達せられる

有価証券管理室調査役の三浦さんは中堅社員向けに参加し、小さい子どもの教育をアートを通じて手助けをしていく「NPO法人 子ども教育立国プラットフォーム」の課題解決に取り組みました。なぜ、プログラムに参加したのでしょう?

三浦さん 入社前からNPO自体には興味を持っていましたし、昨年、地方支社から本社に異動してきて、本社では面白そうなことをやってるなとは思っていました。それで同期や上司にも「面白いからやってみたら?」と勧められたのでやってみることにしました。

初日にプログラムの運営スタッフの方から「今の中堅の世代は小利口なやつが多い」という話があって、自分が小利口だという認識もあったので強く印象に残りました。

三浦さん

「小利口」というのは、このプログラムの中堅社員向けの問題意識の一つとしてあげられているもので、内向きになってしまったり、新しいことに挑戦できない理由と考えられています。なぜそれが問題になったのでしょうか。

三浦さん 上司と部下の世代がそれなりに人数がいる中で、年次的に人数が少ない私の年次はうまく立ち回ってバランスを取らないといけないという意識がどこかにあって、なかなか私たちから何かを変えていこうと考えることができていなかったのかなとは思います。

実際プログラムに参加してみて、その問題に対する答えは見つかったのでしょうか?

三浦さん 同世代で集まっての研修だったので、小利口の集まりではあったと思うんですが、そのことはあまり意識せずにNPOに成果をフィードバックすることに夢中になってカリキュラムに参加していました。プロボノの第一義的な目的はNPOを手助けすることだと思うので。

研修として参加していて、その課題の一つは小利口からの脱却ではあるけれど、プロボノ自体の第一義的な目的はNPOを手助けし、社会に貢献することであるというのは非常に印象的な話でした。

私が思ったのは、このプログラムではプロボノとしての目的を達成する過程で、研修としての課題も解決されるというのが理想形だということです。そして、プログラムの設計も、そのような過程を体験できるようにつくられています。実際、三浦さんはこのプログラムに参加した後、自ら企画してイベントを行なったのだそうです。

三浦さん このプログラムの成果の発表の日が、ちょうど「ファミリーデープロジェクト」というイベントの開催日で、関わったNPOもファミリーや子どもに関する活動をしていたので、NPOの方とイベントを行なっているダイバーシティ推進室と会ってもらうことを思いつきました。

その結果、NPOの方と一緒に小さい子どもを持つ社員を対象にしたイベントを開催することができました。研修が終わってもつながりを持てたし、会社の中に広めることもできたので、やってよかったと感じています。

三浦さん自身は大したことではないような言い方をしますが、実際に会社の外と内の両方に目を向けて新しいことを始めたわけなので、研修の目的とされていた「イノベーションを起こす」ための一歩は踏み出したと言えるのではないでしょうか。

三浦さん ガラッと変わるわけではないんですが、社会にこういう課題があるんだとか、こういうことを熱意を持ってやっている人がいるんだとか、そういうことに気づくことができて。自分の仕事だけではなくて生き方においても影響を受けたとは感じました。

研修でプロボノをやることで企業に生まれる価値とは

関連事業部長(現 フコクしんらい生命)の鈴木さんはシニア社員向けに参加し、子どもの貧困に取り組む「NPO法人PIECES」の課題に取り組みました。どのようなきっかけで参加することになったのでしょうか。

鈴木さん 参加する前年に老後の問題について考えるライフプランセミナーを受けて、その中でこのプロボノの取り組みについて紹介がありました。それが記憶に残っていて、そんな時に声をかけられて、定年を迎える先輩方が身近にいたこともあって参加してもいいかなと思ったんです。

鈴木さん

シニア社員向けということで、自分自身や周りの人たちの定年後について考えるという問題意識を持ってプロボノに臨まれたということですが、実際やってみるといろいろな気づきがあったそうです。

鈴木さん 子どもの貧困という今まであまり考えたことがなかったテーマに関心をもつことになりましたし、社外の人とコミュニケーションを取りながらチームで一つの成果を出すことに大きな意味もありました。そして、自分が組織を離れた後にどうするかということをリアルに考えるきっかけにもなりました。

この中の「社外の人とコミュニケーションを取る」という部分は、中堅社員向けの「小利口」のようにシニア社員向けの狙いの一つとしてプログラムに設定されているものでもあるそうです。

吉本さん 生命保険はすごく長い期間を扱うので、新しいことにチャレンジせずに今までのやり方を守っていく傾向が強く、目の前の仕事ばかりに目が行くことが多いんです。

でも、世の中は加速度的に変化していて、生命保険会社だけ変化しないで生き残れるわけもないので、そのような変化を見るためにも外に向いてほしいというのはあります。

特にシニアの場合、いずれ定年は来るわけで、その前に会社の外の世界のことを知っておいてもらうというのは一つの狙いになっています。

実際に鈴木さんが他社のメンバーとチームで取り組むことによってどのような意味を感じたのでしょうか。

鈴木さん 社内だと価値観も似ていて連携もしやすいんですが、意思疎通から始めて手探りの中でいろいろな意見を出し合っていく必要がありました。

チームの中に一人「私は自分の意思で来たわけではない」といった発言をされる方がいて、内心「これは難しいことになった」と思いましたが、活動が進む中で、その方が積極的に意見を出したり、チームへの気遣いをして下さったり、そうやってコミュニケーションを取って議論を深めながら最終成果物を出すというプロセスが楽しかったですね。

この価値観の異なる人と共同で成果を出すというプロセスを経験することは、会社を離れる時に非常にいい経験になるのだろうという気がしました。また、会社の外に目を向けさせることを、リタイアをそう遠くない将来に迎える世代に対して行うことは、企業の責務でもあると矢崎さんは言います。

矢崎さん 社員は働いてる間は地域に何の貢献もしていません。それは逆に言えば会社が時間で縛ることで、地域から労働力を搾取しているのに等しいんです。それって企業側の罪なんじゃないかと。だから外に目を向けてもらうことは、地域社会に企業として貢献する意味もあるんです。

NPOの課題を解決するとか、小利口から脱却するというのは、主に社会にとっての価値や個人にとっての価値を生み出すものです。しかし、この外に目を向けさせることというのは、その2つに加えて企業にとっての価値も生み出す、あるいは企業の社会的な価値を高めるものだということなのではないでしょうか。

そして、鈴木さんが得たもう1つの気づきは、さらに企業にとって意味のあるものでした。

鈴木さん 社会課題に向かって若い人たちが本当に一生懸命ボランティアをしてることにすごく驚きました。

今の若い子たちをわれわれの世代から見ると、なんとなく冷めてるんじゃないかとかエネルギーが少ないんじゃないかという偏見を持っていたんですが、そうではなくて自分たちで自主的に色々なことをやってる若い子たちがこんなにいるんだということに、私だけでなく同じチームのみんながちょっと驚きまして、それに動かされて「じゃあ、なんとか助けられるものなら頑張ろう」という気持ちになった部分もありました。

若い子たちも、自主的にやろうと思ったらエネルギーを持ってできるんだということがわかりましたし、そういう若い人たちの価値観にふれて刺激も受けました。どうしても「若い子は冷めてるからね」と、それ以上の議論をしない傾向があったと思うんですが、彼らが熱を持って働ける環境が無いというのは企業が直さなければいけない部分だと思いますし、それを考えるいいきっかけになりました。

この世代間の無理解とかギャップというのは、いま企業が抱える大きな課題の一つです。そしてそのギャップが生まれる原因というのは、先入観であったということが往々にしてあります。鈴木さんはそのことに気づいたのです。

鈴木さん 同じ会社でも世代によって価値観に違いがあるということを、僕らももっと認識しなければいけません。たとえば、僕らの世代は根性論で行けるけど今の若い子たちにはそんなの通じないし、小さいときからメールや携帯がある世代と無い世代ではコミュニケーションのとり方もまったく違う。それなのに、つい同じように付き合ってしまう。

吉本さんもこの世代間のギャップは問題だと感じているそうです。

吉本さん 彼らに合わせたり迎合する必要はないと思うんですが、自分たちとは違うんだという認識を持って接するのと、俺たちの時代はこうだったっていう認識で接するのってやっぱり違うと思うんです。

異なる世代間で理解が深まり、円滑なコミュニケーションが取れるようになることは、企業のためにも社会のためにもいいことなのは間違いありません。

現在のプログラムでは目的にしていませんでしたが、課題に取り組む中で結果的にそのような気づきが自然と生まれてきたというのは、このプログラムに社会性があったからこそではないでしょうか。今後は、この多世代の相互理解を課題ととらえ参加対象者を若手からシニアまでとした「多世代」のプログラムも展開していく予定だそうです。

参加したお二人の感想からこのプログラムの意味を参加者が感じていることはわかりました。ただ、これは個人でプロボノに参加した場合でも生み出される価値でもあるような気もします。それを広げていくことはもちろん必要なのですが、企業が主体となってプロボノを行なうというこのプログラム独自の価値とは一体何なのでしょうか。

企業目線からNPOを見て気づく「なぜ働くのか」ということ

吉本さんは、2年間このプログラムを続ける中で気づいたことがあると言います。

吉本さん NPOの方からは「企業目線でどうですか」とか「企業にどうしたら刺さりますか」とか必ず聞かれるんですよ。企業に行けばお金をくれるかもしれないし、仕事もくれるかもしれない。それはわかってるんだけど、どうやったら企業に刺さるかがわからない。どの部署に行ったらいいかもわからないって。それはわれわれにとっては当たり前のことなのに、それを伝えるだけで喜ばれるんです。

吉本さん

鈴木さん、三浦さんも実際に参加してみてそのことを感じたと言います。

鈴木さん われわれが普段やってることでNPO法人の役に立つことなんかないよとみんな思って参加してるんですけど、意外とそうでもないのかなっていうことはあったと思いますね。

三浦さん その話はNPOの方から出ましたし、けっこう自分たちが普通だと思ってることを話すとすごく驚いてくれたりとかはありました。でも逆にNPOの方の課題を考えるときにはあまり企業目線で考えないほうがいいとも感じました。企業だとどうしても利益やお金に考えが行きがちなんですが、NPOの本当の存在価値を考えると、本当の課題はそこにはないんじゃないかと思ったんです。

NPOに企業目線を提供するというのはこのプログラムの大きな意味の一つだと思います。そして同時に、三浦さんのように参加者がその目線だけでNPOを見ることが「違う」と気づくことも大きな意味の一つなのだと思います。それは参加者に共通する気づきなのだと吉本さんは言います。

吉本さん  資金繰りが大変だからどうにかしてあげようっていうのは企業人として当たり前の方向性なので、最初はみなさんそう考えるんですが、議論を経て本質的な課題はそれではないということに気づくというのは、結構共通して起こる現象です。

実際に、鈴木さんのチームも最初は資金調達について考えていたのが、チームで議論を経る中で途中から考えを転換したそうです。この「気づき」というのは企業人にとって一体どのような意味を持つのでしょうか。

矢崎さんはこんなことを言います。

矢崎さん 以前、リーダーシップ研修に参加した時に、“内発的モチベーション”を学ぶにはNPOと付き合うのが一番いいという話を聞かされました。彼らは内発的モチベーションでしか動かない、そういう人と触れ合うことで内発的モチベーションを体感できると。

企業にいると、なかなか内発的モチベーションに気づくことができないんです。決して給料のためだけに働いてるわけではないのに、「なんで自分は働いてるんだろう」という、仕事に対する内発的モチベーションについて考えたことがないんです。だからプロボノでNPOと関わることが、なぜ働くのかというところに行き着くんじゃないかと思うんです。

確かにNPOでは何のために働いているかがはっきりとしています。しかし企業ではお金をもらうために働いているという面が強く出すぎて、それ以外の目的が見えにくくなってしまいます。でも、ほとんどの人はお金のために働いているわけではないはずで、その先には社会に対して何らかの貢献をしたいという気持ちがあるはずなのです。

矢崎さん 社会課題に直結してない仕事なんてないじゃないですか。そこを結びつけてないから気づけないだけで。特に保険なんて本当はものすごい社会に貢献してるはずなのに、それが日々の仕事で実感できないという不幸な世界が広がってるんですよ。それを見えるようにすることが重要。自分ごととして捉えるということですよね。

仕事をやらされていると考えるのではなく、自分ごととして捉えたときに、そこにどんな意味を見出すことができるのか。その地点に到達することが、実はこのプログラムの究極的な目的なのかもしれません。そうすれば、目の前の仕事をこなすだけの小利口からも脱却できるし、仕事の意味を考えるために外に目を向けることも必要になる、そして会社をリタイアしても別のやるべきことを見つけられるのです。

個人でプロボノに参加する人の多くはすでにそれができている人なのではないでしょうか。鈴木さんは個人でプロボノに参加することに対して「はじめの一歩を踏み出すのに、重たい扉みたいな部分があるのかなっていう感じを受けていた」とも言っていました。

その扉を「重い」と感じるのは、その先に何があるかがわからないし不安だからです。それはつまり、自分が個人でどんな仕事ができるのかわからない、自分の仕事を自分のものとして捉えるのではなく組織の一部として捉えているということなのではないでしょうか。

このプログラムはそんな組織人が、個人としても社会から必要とされうることを実感でき、それによって翻って組織の中での仕事も自分ごととして認識できるようになる、そんなきっかけになる場なのだと感じました。

そして、それによってNPOを助けることができ、社会を少しでもよくできるのならこんな素晴らしいことはない、そのように思いました。

プロボノへの入り口にはたしかに重い扉があるような気がします。それが少しでも軽くなるような取り組みをする企業がどんどん増えてくれれば嬉しいですね。

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