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「スキル向上のために参加したけど、今は息子がモチベーション」。岡林典雄さんがプロボノに感じる「未来の働き方のヒント」とは

20年、いや10年後には、今ある職業の多くがなくなるかもしれない――そんなニュースを目にして、ちょっと心がざわついたことはありませんか? 自分自身のこと以上に、子どもたちの将来を心配しているお父さんやお母さんは少なくないと思います。

今回ご紹介する岡林典雄さんも、5歳の男の子と3歳の女の子を育てているお父さん。最初は「スキル向上の役に立つかも?」と参加したプロボノの現場に、あるときから息子さんを伴うようになりました。

プロボノのような活動が、未来の世の中ではごく普通のことになっている可能性もあります。僕が、仕事以外にもうひとつ別なことをしている背中を見せておきたいなと思ったんです。

連載「プロボノのはじめかた」第5回のテーマは「お父さんのプロボノ」

サービスグラント関西で5年間活動してきた岡林さんにインタビューをしました。まずは、岡林さんがプロボノを始めたきっかけから、お話を伺っていきたいと思います。

岡林典雄(おかばやし・のりお)
1977年大阪府生まれ、奈良市在住。京セラ株式会社に勤務し、プロジェクトマネジメント、ICTソリューション導入に関する社内向け技術支援を行う。プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP」を取得。PMI日本支部研究員。2013年8月、サービスグラントにプロボノ登録。2017年からパートナーとして活躍している。

プロボノは、集まった人の最大限を成果にする。

岡林さんは、プロジェクトマネジメントのプロフェッショナル。自らのスキル向上のために、PMI(Project Management Institute)日本支部で、研究会活動も行っていました。

プロボノという言葉に出会ったのもこの研究会活動のなかでのこと。会社以外でプロジェクトマネジメントを実践することに興味を持ち、サービスグラントの説明会に行ってみることにしました。

わりと軽い気持ちで説明会に行ったら、1週間後に「チームに入りませんか?」と連絡がきて。プロジェクトのテーマが自分には重たく感じて、最初は断ろうと思ったんですけど、「ぜひ!」という事務局に押されるかたちで参加しました。

「大阪ホームタウンプロボノ」は大阪で活躍するビジネスパーソンが、仕事で培った経験やスキルで、ジモト大阪の地域コミュニティづくりを応援するプロボノプロジェクト

岡林さんが初めて担当したのは、「大阪ホームタウンプロボノ」の一環で、地域活動協議会(近年各地で広がりつつある新しい地域コミュニティ組織)を応援するというプロジェクト。「独居老人が増えつつある地域で、孤独死を防ぐ見守りのサービス提供に向けて、高齢者ニーズのマーケティング調査を実施しました。

「やってみて感じたのは、プロジェクトマネジメントに求められることが、いつもの仕事とは違うということ」だったと岡林さんは話します。

仕事では、QCD(Quality品質、Cost費用、Delivery納期)をマネジメントしてプロジェクトを成功に導くことが重視されます。予算や納期をクリアしつつ、求められた品質を実現することは、ときに「制約との戦い」になることもあります。

何かをやりたいと思っても「予算がない」「納期に間に合わない」と切り捨てられていくうちに、自分として世の中に何かを提供している感覚が薄れていきます。そうすると、チームのなかに「やらされ仕事で面白くない」という空気が生まれてしまいます。

一方、プロボノプロジェクトに求められるのは、「成果物が利用可能であり持続可能であること」「関わった人が満足していること」「支援先の社会的インパクトの増大」など。プロジェクトの期間は決まっているものの、QCDは絶対的な必要条件ではありません。

プロボノは最初に明確なゴール設定は行いますが、その後のメンバーの動き方については自由度が高いんです。集まった人たちでより良い成果物を届けるためにできることを考えて、最大限の成果を納めることを目指すので、マネジメントのやり方も全然違っていました。

ビジネスの世界で培ってきたプロジェクトマネジメントのスキルが、NPO支援の現場では思いも寄らない力を発揮することに、岡林さんは面白さを感じはじめました。

プロボノは、知らない世界に近づく方法。

岡林さんは、もともとソフトウェア開発者としてキャリアをスタートしました。「20代のうちに主軸となるスキルを身につけよう」と、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP」を取得。PMI日本支部研究員として研究会活動にも参加しました。

「プロボノとの出会いは研究会活動のなかで一番大きな収穫」と岡林さんは振り返ります。

ソフト開発のプロジェクトはバージョンアップが多いので、ある程度は繰り返しになります。ところがプロボノは、プロジェクトごとに扱うテーマが違う。全然知らない分野のことを調べることを、自分はけっこう楽しむタイプだということにも初めて気づきました。

支援先団体・STS GALLERYとの打ち合わせのようす

NPOが取り組む社会課題のなかには、認知が行き届いていないものもあります。岡林さんは、自分にとって未知の領域の社会課題にも、管轄する行政機関があり、ガイドラインが出ていることを知って興味を感じたそう。「プロボノをしていると、仕事とは違うチャネルから新しい知識が入ってくる」ことを、非常にポジティブに受けとめてもいます。

たとえば、昨年支援した団体さんは精神障害者の支援施設を運営されていました。精神疾患について調べていると、初めて「自分も精神を病む可能性があるんだな」と思いました。今まで、なんとなく避けて通りたいと思う世界だったけれど、知ることによって「自分もこの世界とつながっているんだな」と思えます。世界がどんどん身近になるので「無償でやっているけれど得をしている」と感じています。

プロボノはあくまでもボランティア。どんなにがんばっても金銭的な対価はありません。それでも「得をしている」と岡林さんが言えるのは、プロボノで得られる知識や経験を通して、新しい世界の扉が開くことを、自分の喜びとできているからではないでしょうか。

プロボノは、職場ではできないことを実験できる。

プロボノプロジェクトは一期一会。基本的に、支援先とも、プロジェクトメンバーとも初対面の状態から始まり、3〜6ヶ月をかけて成果物を完成させていきます。

岡林さんは、仕事で使ってきた「ビジネスモデルキャンバス」を持ち込み、支援先の活動内容を可視化して共有しているそう。言葉や目線を合わせることにより、プロジェクトを円滑に進められるようにするためです。

これがビジネスモデルキャンバス。9つの要素に分類し要素間の関わりを明らかにする

プロジェクト立ち上げ時には、ビジネスの手法を活用する岡林さんですが、チームビルディングは「スキル」よりも「自然であること」を意識するようにしています。

カナダの経営学者 ヘンリー・ミンツバーグは、「人間にはコミュニティの一員として協力し合う“自然な性質”がある」と考えました。僕もそういう風に考えようと思っていますし、とりわけプロボノでは「あくまで自分は一員」という意識でいます。コミュニケーションが途絶えないように働きかけ続けていれば、チームは動いていきますから。

2015年、ADとして担当した「里山倶楽部」のウェブサイト制作プロジェクトの成果

また、プロボノを始めた頃に持っていた「プロボノと会社の仕事に融合させたい」という狙いも、いつしか意識しなくなったそう。

当初は、やはりプロジェクトマネジメントのスキルアップを期待していたんです。でも、だんだん、仕事とプロボノではマネジメントのスタイルも別物だと気がついて。プロボノでは、参加している一人ひとりのメンバーと一緒に、仕事ではできないことを実験できますから。今は、自分にとってプロボノは、仕事の息抜きになる“仕事”というか、毎年一件参加して成果を出して楽しむ場になっています。

しかし、年に一度とはいえ、半年間のプロジェクトにかける時間と労力は、決して少なくはありません。今の岡林さんにとって、プロボノを続けるモチベーションはどこにあるのでしょう?

プロボノは、子どもの未来のヒントになるかもしれない。

岡林さんは年一度ほど、プロボノプロジェクトの打ち合わせに、5歳の息子さん・亮汰くんを伴います。インタビューの日も、亮汰くんはお父さんの隣に座って、私たちの話にそれとなく耳を傾けているようすでした。

プロボノチームの打ち合わせに同席する亮汰くん

プロボノで社会に貢献したいとか、人に認められたいとか、そういう気持ちはないんです。僕のなかで唯一のモチベーションは、子どもから見て「父親がこういうことをやっている」というのをちょっとだけ意識してほしいと思うんです。いつもこうやって隣に座って、なんとなく雰囲気を感じてもらっています。この子にとっては、僕がプロボノの現場に連れていくことが、すごく特別なことだと感じているみたいですね。

子どものときに見た、両親が働く姿をよく記憶している人は少なくないと思います。亮汰くんもまた、お父さんが家とは違う話し方で他の大人と真剣に会話していた姿を、大人になったときに思い出すのかもしれません。

でも、本当にモチベーションって「子どものため」だけ? 岡林さんは、プロボノ活動においても、プロジェクトマネージャー(PM)を経て、プロジェクトの設計、チーム編成、成果物の納品までをコーディネートをする、「アカウントディレクター(AD)」の役割まで担っています。

「やはり、高い向上心をお持ちだと思うのですが」と水を向けると、岡林さん、すっかり照れてしまいました。

子どもには、自分のしていることを見ていてほしいとは思うけれど、他人から「向上心がありますね」とか言われるとちょっと……(笑)。年に一件くらいのプロボノは、生活の一部としてやれる範囲なんです。プロボノで新しい世界を知って感化されて満足しているだけなので。

プロボノに向いているのはどんな人?

最後に、ADとしてプロジェクトメンバーと接して来た岡林さんに、「プロボノはどんな人に向いていると思いますか?」と聞いていました。

僕がチームを編成するときは、「成果にコミットできる人」と募集要項に書くようにしています。プロボノは誰かに何かを与えてもらう場ではありません。自分が何にコミットするのかは自分で決めていいし、それが僕が決めたスコープ(プロジェクト範囲)から外れていてもいい。「ミーティングに毎回出る」「支援先との信頼関係をつくる」でもかまわない。プロボノには対価もありませんし、参加した意味があるかどうかは自分が省みるだけですから。

成功するプロジェクトの一番の条件は、「時間を大事にする人が集まっていること」だと岡林さんは言います。

仕事であれば、明日も同じ会社に同じ社員が出勤するので、今日決めなくても明日決めればいいかもしれません。でも、プロボノは違います。次にみんなが揃うのは、一ヶ月後、二ヶ月後になるし、「次回に持ち越し」なんて言っていたら何もできません。プロボノは時間と向き合う部分がありますね。

2017年、サービスグラントは、プロボノプロジェクトの立ち上げを担う「アカウントディレクター(AD)」の役割を拡張し、プロボノワーカー経験者が支援先の採択にも関わり、プロジェクト立ち上げから完了までのプロセス全般をプロデュースする役割を担う「パートナー制度」をスタートしました。岡林さんは、関西第一期のパートナーとしてプロジェクトを立ち上げました。

去年はパートナーたちが5つのプロジェクトを採択。5月にプロボノワーカーを集めて新プロジェクト発表会をしました。自分で採択したプロジェクトについて自分で説明をしてメンバーを集めると、やはり思い入れが深くなりますね。これから、サービスグラント関西の活動は面白くなっていきそうだなと思います。

岡林さんのお話を伺いながら、「職業」と「はたらき」の関係について考えさせられました。

テクノロジーが発達すれば、たしかに今ある職業の多くは消えていくのかもしれません。私もまたすごく優秀なライターAIに仕事を奪われるのかも? でも、そもそも職業とは「その人らしいはたらき」のひとつの現れではないかと思うのです。

私は今、「人の話を聴く」「書いて伝える」というはたらきを「ライター」という職業で表現しています。もしもライターという職業が必要とされなくなったら、自分のはたらきを生かす別の職業を求めるだろうと思います。

プロボノは、「職業」の枠組みをいったん外して、自分自身の「はたらき」を見つめなおす良い機会にもなりそうです。そして、子どもたちに見てほしいのは、「はたらき」を自由に発揮する大人の背中なのではないでしょうか。

サービスグラントでは、本番1日の「プロボノ1DAYチャレンジ」や産・育休中のママや復職を希望するママ向けの「ママボノ」など、ライフステージに合わせたプロボノのかたちを用意しています。「ちょっと行ってみようかな?」から、自分の仕事と働き方を見つめなおしてみませんか?
 

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