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みんなの「ほんのちょっと」が続々集まる!これからの「ええまち」をつくるためにプロボノの可能性を考えた

プロボノに参加する人ってどんな人なんだろう、と思ったことはありませんか?

私がイメージしていた「プロボノやってる人」というのは、「世の中にもっと貢献したい!」とか、「自分のスキルをもっと活用していろんな人を助けたい」と思うような、充分なキャリアを重ねたスペシャリストであり、実際そういう人が求められているんだろう、と思っていました。

そしてもちろん時間的にも経済的にも余裕があって、無報酬でもぜんぜん大丈夫な人なんだろうなぁ、と。

そう考えると、自分はあまり役に立たないだろうな、自分ができることなんてすでにいくらでも同じことができる人はいるだろう、とも思っていました。

「それ、めっちゃ言われます」と、「認定NPO法人サービスグラント」の事務局で働く河井靖子さんは言います。「自分が役に立てることはあるんだろうか」と、だいたいの人は言うんだそうです。

河井さん プロボノって“知恵と技術の結集”ですけど、そこに至るまでって、ほんのちょっとの力が集まってできているんです。それってみなさんが思ってる以上に“ほんのちょっと”でいいということを分かってもらいたいですね。

今回、お話を伺った3名は全員、サービスグラントが展開する、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年に向けて、住民主体の介護予防や生活支援の取り組みを大阪じゅうに広げる「大阪ええまちプロジェクト」に出会ったことで初めてプロボノを経験したという方たち。

最初はなにもわからなかったとか、こんなちょっとのことでいいの? と驚いたなど、関わり始めのエピソードを聞かせてくれました。そのエピソードは、プロボノをきっかけにご自身の立場や役割を代えて、ある意味で人生を転換させた人たちのストーリーでもありました。

3名のストーリーをそれぞれお聞きしながら、プロボノへの関わり方って実際どうなの? というところを深掘りしたいと思います。

1人目 小泉大吾さんープロボノを通じて、行政職員ではない立場からものごとを見たかった

小泉大吾(こいずみ・だいご) 
大阪府の太子町役場に勤務する公務員。健康福祉部子育て支援課。
業務において、サービスグラントの展開する大阪ええまちプロジェクトでの支援を受けたことをきっかけに、自らもプロボノワーカーとして活躍するように。

まずお一人目は小泉大吾さん。大阪府南河内地域にある太子町役場の一般行政職員です。2015年に高齢介護課で介護保険の担当になった際、高齢化の進む地域での対策として、住民同士の支え合いを推進するため、住民を集めて協議体をつくるというミッションを任されることに。

しかし、この協議体は他の自治体において前例がなく、モデルケースやベンチマークがないところからのスタートでした。協議体の必要性や住民同士で支え合う重要性を、地道に700人以上に説明し、理解を示してくれた約30人が集まって、2017年度になんとか協議体「SASAE 愛 太子」の立ち上げに至りました。

そして、住民にもっと「SASAE 愛 太子」の存在を周知し、集まりに参加してもらうための情報発信として、Facebookページをつくることに。このFacebookページの立ち上げを「大阪ええまちプロジェクト」で支援してもらったことが、プロボノとの出会いでした。

小泉さん そのときはプロボノというもの自体を知りませんでした。でも「大阪ええまちプロジェクト」のプロボノで、協議体のFacebookページをつくるために、その開設以前の課題や情報発信の目的なんかをグループワークで整理してもらったんです。

協議体に参加してくださってる住民の人は、出身もいろいろで肩書きもなにもない普通の人たちですけど、「SASAE 愛 太子」という名前も自分たちでつけて、結果的には今も住民主体でFacebookページの運用を回せています。

現在、小泉さんは子育て支援課に異動し、業務として「SASAE 愛 太子」に関わることはなくなりました。

しかし、業務外でNPOの活動や地域づくりに参加している職員はいるという点に目をつけ、担当が異動しても協議体運営が続きやすくなるように、職員のために「意欲のある職員枠」をつくり、いまでも個人として「SASAE 愛 太子」に関わっています。

この関わり方がすでにプロボノ。加えてサービスグラントからのプロジェクトにも参加していて、すっかりプロボノ活動が生活の一部になっているようです。

小泉さん 僕は太子町をすごく愛していて、太子町を日本で一番住みやすい町にしたいとずっと思っているんです。それは具体的にどうしたらいいのかわからなかったけど、正しい判断をしたいなとは思っていた。だからプロボノを通じていろんなものを見たかったんです。

行政職員ではない立場から行政に求められているものを知って、結果的にそれを糧にして、太子町に持って帰りたいんですよね。

2人目 金山佳子さんープロボノに参加したことですべてが動き出した

金山佳子(かなやま・かこ)
新大阪NPO法人「ここから100」代表。2017年度の大阪ええまちプロジェクトに参加したことをきっかけに、空き家活用としてコミュニティスペース「ここから100」を運営する。また、整理収納アドバイザーとして生前整理や遺品整理など、高齢者へ寄り添う活動も行なっている。

お二人目は金山佳子さん。2017年の夏に「大阪ええまちプロジェクト」をたまたま見つけ、「なんかいいネーミングやなぁ」と思ったことがきっかけで、説明会に参加されたそう。

その年の3月までは会社員をされていましたが、車椅子生活で要介護の義理の父母、そして80歳を過ぎたご自身の両親のケアもするために退職。「大阪ええまちプロジェクト」で課題としている超高齢化社会に向けての取り組みは、金山さんにとってはとても“自分ごと”でした。

そこで、「やってみたい!」と参加した、中長期と1Dayの2つのプロジェクトを通じて「プロボノってすごい仕組み!」と思ったそう。

金山さん それまでは「社会貢献」なんて意識したこともなくて、ただ自分の仕事をこなすだけでした。知らないこともたくさんあったし、プロボノに参加しなかったら行政と関わることも全くなかったと思います。

それに、いろんな会社の方も参加されてたので、そういう方といっしょに一つの目的を目指すっていうことも初めてだったので、それは私にとってはすごく新しい刺激。プロボノという仕組みには惹かれるものがありました。

プロボノを通じて多くの気付きを得た金山さん。「元気な高齢者だっていっぱいるのに、行くところがない、やることもない」という問題と、大阪でも増えている「空き家」問題、これらを解決すべく「私、やるわ!」と立ち上げたのが今回インタビューの場所としてもお借りした「ここから100」というコミュニティスペース。2階は自宅となっており、1階のスペースではいろいろなイベントを開催したり、貸しスペースとして、地域住民の憩いの場となっています。

「やる!」と決めてから中小企業診断士に相談して事業計画をつくり、公金を借りる手配をし、空き家だった物件のリフォームを開始したのが2018年2月、そして同年4月には
オープンという驚きのスピードでした。

これが「ここから100」。とてもおしゃれでホッとする空間です。

金山さん 私は想いだけで突っ走るタイプやから……。でも、大阪ええまちプロジェクトに出会ってなかったら、この場所はできてなかったと思います。

それまでも、自分が歳を取っても周りの人と交流できたらいいなとは思ってたんですけど、プロボノで参加した茨木市のプロジェクト「シニアカレッジ」は「高齢者のための大人の学び」というもので、そこで関わった高齢者の人がみんなすっごい楽しそうだったんですよ。「この歳で友達できるなんて思わんかった!」という方がいっぱいで。

それを見ていて「こういう人生っていいな、私ができることないかな」と思って、行きついたのがこの「ここから100」なんですよね。だからきっかけって本当に大事です。

3人目 河井靖子さんー自分の将来を考えたときに「つくる側」でいたかった

河井靖子(かわい・やすこ)
認定NPO法人サービスグラントの事務局スタッフ。2017年度の大阪ええまちプロジェクトのプロボノワーカーとして参加した後、事務局スタッフへと転身した。

そして三人目は河井靖子さん。「大阪ええまちプロジェクト」をFacebook広告で知り、説明会に参加したのが金山さんと同じタイミングの2017年の夏でした。

当時サービスグラントではない別の会社で企画職についていた河井さんは、プロボノとしてプロジェクトに参加しました。その後、サービスグラントからのメルマガに求人募集を見つけ、そこから転職して事務局スタッフとなり、今に至ります。

河井さん もともとサービスグラントのことは知っていました。金山さんと同じで「大阪ええまちプロジェクト」ってネーミングがいいなぁと思って参加して、プロボノを体験したんですけど、そのときは「ちょっとしたことですごい喜んでくれはったな、良かったな」で終わったんです。

でも求人情報を見たとき、サービスグラントのビジネスモデル自体がすごく良くできてるなと思っていたのもあって、事務局側に行ってみようかと。

そしてこれからのキャリアを考えたときに、このまま同じ職種でいると、歳をとったとき自分は過ごし方の選択肢が少なくなってしまうような気がして。

そこで大阪ええまちプロジェクトで高齢介護に関わったときに、じゃあ、選ぶんじゃなくてつくる方の立場になったら、何か工夫して過ごせるんじゃないかなあっと思って、サービスグラントに転職しました。

プロボノは元気玉

河井さんは、プロボノワーカーから事務局へ視点を移し、サービスグラントで行なっているプロボノについてこう説明します。

河井さん プロボノでできることって、たった1日のプロジェクトもたくさんあります。

その場ですぐに、支援先の組織の課題が全て解決することってなかなかなくて、その1歩を踏み出すための0.5歩分くらいをめっちゃ助けるっていうことなんですよね。でも、その0.5歩がきっかけになって、その後3歩くらい自分たちで進まれたりするんです。そういう、1歩、2歩という歩みを飛び超えるような変数の違いが生まれたりするところが「すごいー!」って思ってるとこなんです。

もちろん、0.5歩から0.7歩にしかならないときもありますけど、みんなのちょっとずつの力が集まってできることなので、イメージとしては「元気玉」だと思ってるんですよ。

この河井さんの言葉に、一同「おお〜!」と納得の声。漫画「ドラゴンボール」で、主人公である孫悟空が、生きとし生けるものから少しずつ元気を分けてもらってつくる「元気玉」は、まさにプロボノによる支援のありかたを象徴していると言えるかもしれません。

最初は「プロボノ」という言葉すら知らなかったと言う小泉さんや金山さんは、「プロボノに参加するために必要なスキルってなんでしょう?」という質問にこう答えます。

小泉さん 僕自身は特別なスキルや能力というのはないんですよ。だから、逆にプロボノに参加しながらスキルを磨いてる、修行させてもらってるみたいな感じです。

ただ目的意識だけは必要かもしれない。いろいろ課題もありますが、そういうときはプロジェクトメンバーみんなが助けてくれる。まさに元気玉!

モチベーションだけで参加するのでも、僕はいいんじゃないかと思いますね。

金山さん 私も、想いだけかな……。最初は、サービスグラントのホームページからプロボノワーカー登録をしたとき、その登録フォームに書いてあるスキル名称の意味もわからなくて、Googleで調べながら入力しました(笑) レベルが高すぎて、私なんにもできないけど、って思いながら。

小泉さんも金山さんも、そんなハテナだらけのスタートから、いまや自分発信でいろんなプロジェクトを推し進めるまでに変化。堅苦しく「社会貢献を!」とお題目を掲げるわけではなく、ごく自然に楽しみながら周りを明るく照らしている、という印象です。

そして事務局スタッフとしてお二人をサポートしている河井さんも、プロボノワーカーたちやご自身の未来を見据えながらお話くださる姿にはブレがありませんでした。

「プロボノ」はただのボランティアではない?

プロボノとの出会いで人生を開拓した三人は、口を揃えて「どんな人もプロボノしたほうがいい!」と言います。ただそのための認知がなかなか広まらないし、価値観や本来の意味を伝えるのが難しい、とも。

金山さん 世の中に「プロボノ」っていう言葉をもっと浸透させたいけど、知らない人に説明しても「は?」っていう反応をされることはあります。「社会貢献できてすごいで!」って言うんですけど、社会貢献っていうのにもピンとこない人もいますね。

でも私にとってプロボノとは「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」だと、いつも思うんですよ。

小泉さん 僕は、嫁さんにプロボノのことを「謎のボランティア」って言われてます(笑)
でもボランティアっていうと福祉的な、無償の施しみたいなイメージが強いので、ボランティアっていう言葉は使わないようにしてるんですよ。
僕にとっては社会貢献だし自分の学び、地域づくりへの参加と学びのミックスみたいな、いろんな意味があります。

河井さん 私もボランティアとは言わないようにしています。

メディアに取り上げられることもありますが、社会人が、“副業として稼ぐため”ではなくて、“社会に役に立つ力として自分のスキルを活かすため”っていうのが、一言では説明しにくくて。メディア的には「自分のスキルでもう一つ稼ぎ口を見つけました」のほうが説明が簡単じゃないですか。なぜそれを無償で? っていうのは、わからない人にはすごく不思議に思える。

プロボノには自分だけだと気づけない情報や社会課題があって、自分で参加するプロジェクトを選べるから、参加のきっかけは人の数だけあるんですよね。会社にいるだけではわからないことはいっぱいあるから、学びの選択肢のひとつ、社会科見学やと言ってます。

飛び込んでみてはじめて見えてくる景色が、プロボノにはある。そして、飛び込んだからこそ得られたつながりや新しい仲間、学べた知識など、たくさんの収穫があったと、みなさんは言います。

河井さん 私は、2018年の5月に転職してきたので、これからいろんなものを得ていくのかな、って思ってるんですけどね。事務局の立場としてみんなの「こんなことが変わってきた」っていうのをいっぱい聞けて、それで自分もやってよかったなと思えることがこれからもっと増えればいいなと思います。

プロボノって、ほんまに始まりは、“ほんのちょっと”なんですよ。ほんのちょっとのおせっかいやし、ほんのちょっとの関心、ほんのちょっと相手に寄り添う気持ち。ときにはほんのちょっとの我慢かもしれないし、ほんのちょっとの頑張りかもしれない。

でも、どれもがほんのちょっと。それが集まってできる元気玉なんで、元気玉たくさん見られたらうれしいですよね。

会社組織ではなく、そこに集う人は“同僚”でも“友達”でもない。そんな、いままでの価値観だと名前をつけにくいような集いの場にこそ、これからの社会が生きやすくなるヒントが詰まっているのかも…。今回の取材を通じてそんなことを思いました。

“ほんのちょっと”が集まったプロボノという場所は、ある意味でとても“優しい”場所です。時にはシビアな課題が立ちふさがることもあるかもしれませんが、それもプロボノなら緩やかなつながりのなかで出会った仲間と解決していくことができます。

そして生まれた“元気玉”が、私たち自身を大きく活かし、たくさんの人にとっても“優しい”未来をつくっていくのかもしれません。

– INFORMATION –

大阪ええまちプロジェクト「大交流会」

2019年2月26日(火)
大阪府内で活躍するさまざまな地域活動団体、各地の生活支援コーディネーター、行政担当者、アクティブシニア、企業人など多様な皆さまが一堂に集う大交流会。
大阪のええまちづくりにご関心のある方、全ての皆さまのご参加をお待ちしています。
https://eemachi.pref.osaka.lg.jp/2018/12/1262/

[sponsored by 認定NPO法人サービスグラント]