「47都道府県のご当地グリーンカレーレシピコンテスト」最終選考会にて
日本の地方全体をもっと元気にしたい。そして、タイが好き!
「え、このふたつ関係ある?」と思った人、いますよね(笑) これだけを見れば当然イコールではないのですが、ある人が心の中に抱え、問題解決のための行動を起こすきっかけになったふたつの思いなんです。
そのある人とは「NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN(以下、ヤムヤム)」代表の西田誠治さん。大好きなタイと生まれ育った日本という両国の課題解決のために何かできないかと考えた結果、“食”を通じた地域活性化と国際文化交流を促進する活動を始めました。
greenz.jpでは、ヤムヤムについては2012年11月に、ヤムヤムの活動がきっかけで始まった、雹害りんご(*)のイメージアップを目指す支援活動「雹kissりんごプロジェクト」については、2014年12月にご紹介させていただきました。
雹害(ひょうがい)。雹害りんごとは、雹(ひょう)が降ったことによって傷がついてしまい、売り物にならなくなってしまったりんごのこと。
2012年の取材時は、テーマとなった県のローカル食材を使ってタイ料理をつくるというフードイベントの開催が主な活動内容でした。ところが数年が経った今、「雹kissりんごプロジェクト」をはじめとして、活動はさまざまな方向に広がりを見せています。
西田さんの個人的な思いから生まれたタイ×日本の地域活性化の取り組みはどのように変化していったのでしょうか? 転換期に差しかかったというヤムヤムの今と、今後の展望を伺いました!
NPO法人Yum! Yam! SOUL SOUP KITCHEN代表の西田誠治さん
フードイベントは地域の課題解決を支援する“入口”に
前回の記事から大きく変わったことはふたつです。ひとつはフードイベントをきっかけに各地の課題を知って、その解決のための活動を始めたということ。そしてもうひとつは日本だけではなく、タイでもアクションを起こし始めたということです。
西田さんはイベントを開催する際、毎回必ず、テーマとなった県に足を運んで現地取材を行なっています。その中で、行政や企業、生産者さんなど、多くの人と知り合い、信頼関係を築きあげてきました。
現地に足を運んで直接話を伺うからこそ、課題はよりリアリティをもって見えてきます。たとえば「雹kissりんごプロジェクト」は、雹害で困っていた若手りんご農家さんと出会って、実際に畑を見せてもらったことから、支援の必要性を強く感じて始めたものでした。
「雹kissりんごプロジェクト」では、最初に知り合ったりんご農家さんの雹害りんご(総計17トン!)は完売。隣接する農家さんのりんごの販売まで手がけることができました。このプロジェクトに端を発した、継続支援のための新たな企画も持ち上がっています
ほかにも、熊本県八代市では、日本で唯一、食用いぐさをつくり続けてきた生産者さんと知り合いました。食物繊維が豊富で、さまざまな活用ができる食用いぐさの可能性を感じた西田さんは、行政や地元企業に声をかけ「ゆいのくさ(食用いぐさ)推進協議会」を設立しました。
ヤムヤムはパッケージデザインや商品開発、販路開拓などで協力しているほか、タイにもいぐさの産地があるため、関係者を連れて視察ツアーに出かけたり、バンコク市内の人気レストランでいぐさうどんを使ったフードイベントを企画したりと、ヤムヤムならではの支援も行なっています。
いぐさをきっかけに日タイの産地間の連携ができたり、姉妹都市的なことになれば嬉しいなと思います。お互いの技術を学び合ったり、一緒に商品開発をしてもいいですよね。
農薬不使用栽培のいぐさ粉末を練り込んだうどんやそうめん、クッキーなど、商品のラインナップも増えています。いぐさうどんは、保水性が高く、独特のモチモチ感やコシがあります。地元・熊本県では自然派レストランや病院、学校の給食などでも使われているそう
タイ・バンコクのイベントでは、いぐさうどんを使ったメニューを提供しました
今では、日本で開催しているフードイベントは、こういった支援の“入口”になっています。イベントを通じて地域を知り、ヤムヤムならではのノウハウや人脈を活かし、浮かび上がった課題の解決へとつなげているわけです。
タイでの活動も本格化!
民間企業との協働事業へつながる事例も
日本での地域課題へのコミットが深まる一方、タイでの動きもいよいよ本格的になってきました。
「タイでの活動はまだまだ不定期」とは言いつつも、視察ツアーの実施、フードイベントの開催、バンコクでの大規模展示会「ジャパンエキスポ」への出展など、徐々に、現地に足を運ぶ機会が増えています。
たとえば「ヤムヤムvol.16 大阪府版」の現地取材で知り合った農家グループを、来年1月にタイの農産地視察ツアーに案内する予定です。
生産している農産物の参考になる産地やタイの最先端をいく農家を訪ね、ヤムヤムらしく両国の産地の交流を生み出すものにしていきたいと思っています。
タイでの出会いが仕事へとつながった事例もあります。「ジャパンエキスポ」では、タイのサッカークラブと提携を結んでいる横浜F・マリノスの関係者と知り合いました。
横浜F・マリノスでは、日産スタジアムでのホームゲームの際、スタジアム前の広場で、縁のある世界各国のフェアを実施しています。そして8月16日、甲府戦で開かれたタイ・フェアは、ヤムヤムのプロデュースで実施されました。
日産スタジアムのタイフェアの様子
ナイフ一本で野菜や果物に模様を彫りこむタイカービングの実演も行われました!
このタイ・フェアは、いわゆるタイフェスとは異なります。ご当地食材を使ったタイ料理を提供するというヤムヤムのコンセプトに賛同したタイ料理店が、神奈川県と山梨県の食材を使い、この日だけの特別メニューを考案して参加したのです。
ただのお祭りで終わらず、地域活性化を念頭に置いて企画をつくりあげることで、活動は自然と広がりを見せます。今回は、神奈川県内のタイ料理店や生産者などと、新たなつながりを育むことができました。
「ジャパンエキスポ2015」にはゆいのくさ推進協議会も参加。食用いぐさや日本製の畳の魅力をタイのみなさんにPRしました
活動をさらに発展させていくために
さらには、これらの活動を通じて、タイ政府機関とのネットワークが築かれ始めています。
直近では、タイ大使館の招待で、タイ国内の産地取材に行きました。タイ政府が日本へ輸出を希望する農産物を視察し、ヤムヤムの活動を通じて日本への展開の支援ができるかどうかを模索するためだそうです。
タイフェアのように民間企業との協働事業を実施したり、タイ政府とのネットワークから活動が発展したりと、次々と新たな展開が生まれています。活動を始めた頃には、この状況は考えられなかったことです。
これまでの枠では収まりきらないことも、増えてきました。そろそろ、以前から考えていた事業化を、ちゃんと考えていきたいなと思っています。
ヤムヤムの活動には可能性があり、事業化することでさらにしっかりと支援ができるのではないか。西田さんは、そんな思いで今後を見据えています。
クラウドファンディングに挑戦!
そして、事業化を目指す上で第1歩と位置づけるのが「READY FOR?」で現在挑戦中のクラウドファンディングです。ここでは「タイ77県の食材で寿司をつくる」プロジェクトへの支援を呼びかけています。タイの食材で寿司をつくる、このプロジェクトの狙いは何なのでしょうか?
何度も言いますが、異国の料理をフィルターにしてご当地の食材を発信したり、新たな活用方法を見出していくのがヤムヤムの面白さであり、本質です。
今まではそれを日本でやってきたわけですけど、本当はこれをタイでも同時に動かしたいんです。もともと考えていた“双方向でつなぐ”ということをきちんと実践していきたいんですね。クラウドファンディングの寿司プロジェクトはそのきっかけだと考えています。
具体的には、タイを5つのブロックに分け、現地取材を行ないます。そこで発見したローカル食材を使って日本の伝統食である寿司をつくるのです。寿司は海外でも人気があり、見た目にも楽しくエンターテインメント性の高い飾り巻き寿司を予定しています。
最終的なゴールは 2016年2月の「JAPAN EXPO in Thailand 2016」。その会場に、日本から寿司職人の方々を連れていき、参加者と一緒に寿司をつくる体験型ワークショップを開催します。
外国人に和食を教えることで大人気の「ブッダベリーズ・クッキングスクール東京」の秋山亜裕子さんをはじめ、飾り巻き寿司のプロの方々の協力も取り付けました。
多くの人に参加してもらうために、タイ語のホームページも鋭意制作中。プロジェクトに参加したい生産者を募集したり、興味をもった生産者や企業に向けての説明会を開催することも検討しています。
タイの地域課題を拾い上げるための種まき
日本側から見れば、現地の食材を使用することで日本の伝統食を身近に感じてもらい、伝えることができます。そしてタイ側から見れば、日本文化を楽しんだり、生産物の新たな利用価値を見出すことにつながるのです。まさに寿司を通じた国際文化交流の場づくりです。
表向きはただ、寿司を通じてタイの農産物を紹介するプロジェクトに見えると思います。でも、そこにいろいろなレイヤーを重ねて、種を蒔いていくんです。たとえば、いぐさやりんごのときみたいに、タイの地域課題も拾えるのではないかと思っています。
支援者への特典としては、来年の春に、ヤムヤムオリジナルの寿司が食べられるプロジェクト報告会を開催予定。異国の食材とお寿司がどのようなコラボレーションを生み出すのか、今からとっても気になります!
マッチングギフト・サービス対象プロジェクトに選出!
また、今回のクラウドファンディングは、アサヒグループの「マッチングギフト・サービス」対象プロジェクトに選出されています。
これは、「READY FOR?」で過去に成功経験があるプロジェクトの2回目以降の目標金額のうち、半分を一般の支援者から、残り半分を企業が支援するという仕組みです。
ヤムヤムは昨年、100万円を集めた「47都道府県のご当地グリーンカレーレシピコンテスト」に続いて2度目の挑戦となりますが、今回の目標額300万円のうち150万円を集めることができれば、残りの150万円はアサヒグループから支援されることになります。
2015年4月19日に開催された「47都道府県のご当地グリーンカレーレシピコンテスト」最終選考会では、一次選考を通過した9つのレシピ考案者やクラウドファンディングの支援者らが、全国から駆けつけました
これまでの活動が身を結んで、収益につながっていきそうなプロジェクトがどんどん生まれています。事業化を手伝いたいと言ってくださる方もいます。
アサヒグループからの支援が得られる今回のクラウドファンディングを達成することは、僕が事業化に向けて覚悟を決める第1歩になると思っています。
理想論をしつこくぶつけることで、道を開く
冒頭でも書いたように、ヤムヤムの活動は、一見するとわかりづらいところがあります。けれども、フードイベントは毎回満席。前回のクラウドファンディングの8割は、イベントのファンや関係者からの支援でした。西田さんが動くたびに、たくさんの協力者が現れます。
行政や企業、生産者、はたまた日本とタイなど、立場の違う人々をうまく巻き込んでつなげてしまうのが西田さんのすごいところ。これは西田さんのお人柄の為せる技ではないのかと思ったのですが、そうではないと言います。
ただ、しつこいだけだと思います(笑) それぞれ立場が違いますけど、みなさん自分の暮らす地域のことが大好きだし、地域をPRしたいっていう思いは、行政の方だろうと企業の方だろうと同じなんです。やっぱり好きなんだなぁっていうことが話しているとわかるんですよね。気持ちいいぐらいに。
ただ、仕事となると、これは組織としては進められないとか、これは協力できないといったことも出てきます。僕はそういうことをあまり気にせず「それもわかるけれど、こことここをこうしたらもっと効果が上がりますよね」とか、理想論だけで全部ぶつけていくんです(笑)
でもそうやってしつこく話していると折衝案的なことが出てきたり、ときにはそれぞれの立場を超えて動いてくれることが起きるんです。そのうちにいい関係が築けたりして、ただ、それを積み重ねてきたんじゃないですかね。
だからこそ、今後は活動にフルコミットできる環境を整え、多くの人の思いにきっちり応えたい。地域の課題を解決し、国という境界を越えて、各地の盛り上がりを支えたい。
本質は揺るぎなく、見えるカタチは変幻自在。そこに中心人物である西田さんの覚悟が加わって、ヤムヤムの活動は、この先いったいどこまで広がっていくのでしょうか。
クラウドファンディングの締切は10月17日。どんな展開が待っているのか、今後の動きに、要注目です!