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“身体のなかの土壌”を改良!?『腸と森の「土」を育てる』から学ぶ、人も地球も健康になる方法

外で思いきり深呼吸すること。
蛇口からでる水をゴクゴク飲み干せること。
森を歩きながら陽の光を浴びること。

30歳を迎えてわたしはようやく、自分の人生にとって、優先度の高いことがわかってきました。そして、このどれかが満たされない日々がつづくと、心身を健康に保つことができないということも。

「自分だけ」で健康でいようとするには限界がある。環境が汚染されれば、心身をすこやかな状態に保つことは、途端にむずかしくなります。

新型コロナウイルスの流行は、日々の暮らしや健康が、環境変化の影響をじかに受けることを、わかりやすく人々に突きつけました。自分の身体だけ気づかっても、健康になることはできない。だとしたら、なにを、どうすればいいのでしょう。

これからご紹介する本には、その問いに対するひとつの答えが書かれています。

部分ではなく全体に目を向ける

内科医の桐村里紗(きりむら・りさ)さんによって書かれた『腸と森の「土」を育てる(光文社)』。桐村さんは本書で、人という「部分」だけにスポットをあてた従来のヘルスケアには限界があるとし、人を含めた地球全体で健康になるための「プラネタリーヘルス」(※1)という概念を提示します。

人と地球を切り分けず、多様な生物が生かし合う自然環境を維持し、この惑星全体の健康を実現することを「プラネタリーヘルス」といいます。(p236)

(※1)もともとは、2015年に医学雑誌『ランセット』に発表された概念。

プラネタリーヘルス実現のため、本書で提案されているのが「土」の回復

人を含めた地球の健康のために土を回復するって、いったいどういうこと……?

「人は森であり、腸に『土』を内包している」

じつは桐村さんがいう「土」とは、植物を育む土壌のことだけではありません。

土壌に暮らす微生物が、食べ物と共に腸内に移住したものが腸内細菌の起源であり、人は今でも「食べる」ことを通して、外的な環境と接続しているのだ。日々の食べ物が腸内の土作りの材料になり、消化や腸内細菌による発酵を通じ栄養豊かな土となる。(表紙カバー)

腸内環境という、多様な微生物が活動する「土」。腸内の土が腐敗すると、どんなに栄養素を摂っても、身体はそれらを有効につかうことができません。腸内環境の乱れは、便秘や下痢をはじめ、心身のさまざまな不調にも関連します。

人の健康の要ともいえる腸の土と、生態系を支える森の土。双方の肥沃な土壌づくりのため、大きな役割を果たすのが、野菜や果物、豆類といった植物性食品中心の食事です。

野菜や果物、豆類がメインの食事は、腸内環境をととのえ、常在細菌のはたらきをサポートします。また世界資源研究所(WRI)によると、豆の温室効果ガスの排出量は、タンパク質1gあたり、牛肉のおよそ20分の1。タンパク質1gをつくるために必要な土地も、牛肉の20分の1。食の選択は、腸内環境はもちろん、地球環境にも影響をおよぼすのです。

肉も魚も好き!そんなわたしが実践するフレキシタリアン生活

しかしいくら健康や環境にいいからといって、「ベジタリアンになるのは、無理……」と感じる方も多いのではないでしょうか? なにを隠そう、わたしがそのひとりです。

肉も魚も大好き。おいしい食事の時間は一日のなかでも、このうえなく幸せなひととき。そんなわたしでも実践しやすい食事方法を、桐村さんは紹介しています。

それが「フレキシタリアン」というスタイル。

基本的には植物性食品を中心とした食生活を送りつつ、外食時や記念日など、動物性食品を食べたいときはフレキシブルに肉や魚を食べる。明確なルールや決まりごとはなく、健康や環境のため「動物性食品の摂取をなるべく減らそう」と思った人なら、誰でもいますぐ実践できる食事スタイルです。

ある日の夕食のおかず。ナスと厚揚げの醤油麹炒め

とはいうものの。

「すぐに献立のネタが尽きそう……」
「お肉なしで満足感を得られるのかしら」

そんなことを思いながら、おそるおそるはじめたフレキシタリアン生活。
実践してみると、意外にも楽しく、日々小さな発見がありました。

豆腐や厚揚げは食べごたえがあり、ほかの食材ともあわせやすいので、これまで以上に大活躍。肉を買わない分、すこし高くても原材料が国産のものを選ぶようになりました。近隣のものであればカーボンフットプリントが小さくて済みますし、国内の農家さんを応援したい気持ちもあります。

生姜や大葉は料理のアクセントになるので、常備しておきたい薬味です。

調味料でハマっているのが、米と醤油を発酵させてつくる醤油麹。甘み、旨み、コクとまろやかさ。これひとつでどんな野菜とあわせてもおいしい一品ができる、まさに万能調味料です!

旨みたっぷりの万能発酵調味料。醤油麹

家での食事を、植物性食品メインに切り替えて数週間が経ちました。
もりもり食べても胃もたれせず、お通じも好調。そのうえ地球環境の負担も減らすことができるのなら、なんだかとっても得した気分です。

小さくつづける未来への意思表示

「なにを食べるか」が、じぶんの身体だけでなく、地球環境にまでつながっていることを、わたしはこの本から学びました。

腸を元気に、地球を健康にする、日々の食事。
それは、スーパーで買い物かごに入れる食材の種類をすこし変えてみる、そんな小さな一歩からはじめることができます。

つぎの世代にどんな風景を手渡していきたいか、今夜の食卓から考えてみませんか?

腸と森の「土」を育てる
桐村里紗(きりむら・りさ) 著
光文社新書(2021)

(Text: 赤錆菜々)
(編集: greenz challengers community、スズキコウタ)